極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
82 / 1,212
告げられないほどに深い愛(極道若頭編)

14

しおりを挟む
「食う為のもんだ。遠慮する必要はねえ」
 いつまで経っても眺めているだけの紫月の横から鐘崎がそう声を掛ける。
「あ、うん……。そんじゃ、せっかくだし戴くとするか」
 紫月は取り分け用の皿とナイフをケーキのすぐ側に持ってくると、『――っと、その前に!』と言ってスマートフォンのカメラを立ち上げた。記念に画像として残しておくつもりなのだろう。カシャカシャと数カット撮ったところで綾乃木が横から手を差し出した。
「ほら、カメラよこせ。お前らも一緒に撮ってやる」
 鐘崎と紫月にカメラを向けながら、もっとくっ付けという仕草で指示を出す。
「あー、うん。綾さん、ケーキもちゃんと入れてくれよな」
 照れ隠しの為か、モゾモゾと遠慮がちにしている紫月の肩をグイと引き寄せて、鐘崎はその大きな掌で頭ごと抱え込むように頬と頬とをぴったりとくっ付けた。
「ほら、笑え」
「え……ッ!? あ、ああ……うん。そんじゃ……チーズ」
 ピースサインを繰り出しておどける様は、まさに照れ隠しだ。
「な、綾さんと親父も入ろうよ!」
 自分たちだけでは部が悪いのか、紫月は忙しなくカメラを受け取って、今度は三人をシャッターに納めた。
「じゃ、記念撮影も済んだことだし――!」
 ナイフを手にしてケーキを切り分けようとした時だった。
「ちょっと待て」
 鐘崎は言うと同時に立ち上がると、紫月の隣へとやって来て、彼が手にしているナイフへと自らの手を重ねた。
「……ッ!? ンだよ、てめ……いきなし」
「お前一人じゃ上手く切れねえといけねえからな。手伝ってやる」
「はぁ!? ンなん……ダイジョブだって……のに」
 これではまるで結婚披露宴のケーキ入刀ではないか――。
「し……信用されてねえなぁ、俺」
 図らずも真っ赤に染まってしまった頬の熱をごまかすことに必死な紫月の手は、フルフルと震えて定まらない。
「ほら見ろ。お前だけじゃ危なっかしいじゃねえか」
 鐘崎は自慢げに笑うと、紫月の手を包み込んだままグイとケーキにナイフを入れてしまった。
「うわ……ッ! 勿体ねえ……」
「何が勿体ねえだ。切らなきゃいつまで経っても食えねえだろうが」
「そりゃま、そうだけどよぉ……」
「ほら、皿をよこせ」
「あ、うん。俺がやるって」
「落とすなよ?」
「ダイジョブだってー! ちっとは信用しろっての」
 何とも仲睦まじいことである。その様子をこっそりとカメラに納めた綾乃木は、やれやれといった表情で隣の飛燕と目配せし合ったのだった。
 二人の仲については綾乃木のみならず、父親の飛燕も薄々気が付いているのだ。男同士ということが気に掛かってどちらからとも言い出せないわけか、いつまでも想いを告げ合えずにいる二人を焦ったいと思いつつも、一方では自分たちさえ良ければと突っ走ることなく、常識や周囲の目を考えることができる人間に育ってくれたことが嬉しくもある。だが、やはり互いに好き合っているのなら周りに気を遣い過ぎずに本人たちの幸せを大切にして欲しいと望むのも本当のところなのだ。飛燕としても複雑な思いながら、いつかこの二人にとって本当に手助けが必要となった時が来たならば迷わずに背中を押してやりたい、今はそんな気持ちで温かく見守りたいと思っているのだった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

【完結】小学生に転生した元ヤン教師、犬猿の仲だった元同僚と恋をする。

めんつゆ
BL
嫌われていると思っていたのに。 「どうやらこいつは俺の前世が好きだったらしい」 真面目教師×生意気小学生(アラサー) ーーーーー 勤務態度最悪のアラサー教師、 木下 索也。 そんな彼の天敵は後輩の熱血真面目教師、 平原 桜太郎。 小言がうるさい後輩を鬱陶しく思う索也だったが……。 ある日、小学生に転生し 桜太郎学級の児童となる。 「……まさか、木下先生のこと好きだった?」 そこで桜太郎の秘めた想いを知り……。 真面目教師×生意気小学生(中身アラサー)の 痛快ピュアラブコメディー。 最初はぶつかり合っていた2人が、様々なトラブルを乗り越えてゆっくりと心通わせる経過をお楽しみいただけると幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...