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漆黒の人(香港マフィア頭領次男坊編)
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「俺の継母や兄貴は、妾腹の俺を実の家族のように扱ってくれた。本来なら恨まれて当然のこの俺を――だ。俺はそれが本当に有り難くてな。ファミリーの為に少しでも役に立ちたいと思って起業し、社を大きくすることだけを考えてきたんだが――」
「周……さん」
「初めてお前に会った時、俺は幼い頃の自分を見ているような気がしてならなかった。黄のじいさんは隣家に住んでいたというだけだったが、お前を本当の息子と思って大切にすると言った。異国の地で両親をいっぺんに亡くしたお前の姿が――自分と重って思えたんだ。幸い、俺は継母や兄貴に大事にしてもらえたが、もしも疎まれていたなら、きっと孤独を味わっただろうし、辛え思いをしたかも知れない。だからお前のことも絶対に幸せに育って欲しい、辛く苦しい思いなんかしてほしくねえって――それだけを願ってきた」
周は、万が一にも冰が路頭に迷うようなことがあってはいけないと強く思ってきたのだと言った。
「だが黄のじいさんはお前が成人するまで立派に育ててくれた。例え俺とは二度と会うことがなくても、お前がこの先も無事で幸せに生きていってくれたならそれでいいと思った。だが、お前の方からこうして俺を訪ねてくれた。――嬉しかったぜ、冰」
そう微笑まれた瞬間に、冰の双眸からボロりと大粒の涙が頬を伝った。と同時に、ドキドキと得も言われぬ熱い想いが身体中を巡るような心持ちに陥っていく。
『嬉しかったぜ、冰』
そう言った時の周のはにかんだような笑顔が心臓のど真ん中を射貫いたかのような衝撃が走った。
それは、嬉しい、有り難い、こんなにも気に掛けてもらえて幸せだという気持ちと同時に、それらとはまた違った感覚でうずき出すような例えようのない思い――この気持ちはいったい何なのだろう。
戸惑う冰がその答えを知ったのは、テーブルを挟んだ向こう側から身を乗り出した周の指先が、頬を伝う涙を拭ってくれた瞬間だった。
「泣くやつがあるか」
「……っすみません……、でも……俺……っ」
「お前は俺の家族も同然だ」
「……っ周……さ……」
「余計な気遣いや心配なんかする必要はねえ。じいさんの代わりにはなれねえかも知れねえが、俺にできることならどんなことでもしてやる。ずっと――俺の側にいればいい」
「……ッ、周……さん……!」
差し出された手を無意識に握り返した時にはっきりと悟った。この気持ちはきっと恋なのだ――と。
初めて助けられたあの幼い日からずっと心の奥底に息づいてきた想い。
それは憧れであり恩でもあり、だがそれだけでは括れない大きな運命を感じさせるような格別の思い――。
周の住む日本の同じ大地で生きていきたいと思ったのも、彼に対する特別な想いがあったからこそなのだ。
「周さん、俺……」
「ん――?」
「側に居たいです。ずっと……あなたの側に……」
「ああ。そうしろ」
立ち上がり、テーブルの向こうから回り込んで頭を撫でてくれる手は、冰にとって何ものにも代え難い温かなものだった。
◇ ◇ ◇
「周……さん」
「初めてお前に会った時、俺は幼い頃の自分を見ているような気がしてならなかった。黄のじいさんは隣家に住んでいたというだけだったが、お前を本当の息子と思って大切にすると言った。異国の地で両親をいっぺんに亡くしたお前の姿が――自分と重って思えたんだ。幸い、俺は継母や兄貴に大事にしてもらえたが、もしも疎まれていたなら、きっと孤独を味わっただろうし、辛え思いをしたかも知れない。だからお前のことも絶対に幸せに育って欲しい、辛く苦しい思いなんかしてほしくねえって――それだけを願ってきた」
周は、万が一にも冰が路頭に迷うようなことがあってはいけないと強く思ってきたのだと言った。
「だが黄のじいさんはお前が成人するまで立派に育ててくれた。例え俺とは二度と会うことがなくても、お前がこの先も無事で幸せに生きていってくれたならそれでいいと思った。だが、お前の方からこうして俺を訪ねてくれた。――嬉しかったぜ、冰」
そう微笑まれた瞬間に、冰の双眸からボロりと大粒の涙が頬を伝った。と同時に、ドキドキと得も言われぬ熱い想いが身体中を巡るような心持ちに陥っていく。
『嬉しかったぜ、冰』
そう言った時の周のはにかんだような笑顔が心臓のど真ん中を射貫いたかのような衝撃が走った。
それは、嬉しい、有り難い、こんなにも気に掛けてもらえて幸せだという気持ちと同時に、それらとはまた違った感覚でうずき出すような例えようのない思い――この気持ちはいったい何なのだろう。
戸惑う冰がその答えを知ったのは、テーブルを挟んだ向こう側から身を乗り出した周の指先が、頬を伝う涙を拭ってくれた瞬間だった。
「泣くやつがあるか」
「……っすみません……、でも……俺……っ」
「お前は俺の家族も同然だ」
「……っ周……さ……」
「余計な気遣いや心配なんかする必要はねえ。じいさんの代わりにはなれねえかも知れねえが、俺にできることならどんなことでもしてやる。ずっと――俺の側にいればいい」
「……ッ、周……さん……!」
差し出された手を無意識に握り返した時にはっきりと悟った。この気持ちはきっと恋なのだ――と。
初めて助けられたあの幼い日からずっと心の奥底に息づいてきた想い。
それは憧れであり恩でもあり、だがそれだけでは括れない大きな運命を感じさせるような格別の思い――。
周の住む日本の同じ大地で生きていきたいと思ったのも、彼に対する特別な想いがあったからこそなのだ。
「周さん、俺……」
「ん――?」
「側に居たいです。ずっと……あなたの側に……」
「ああ。そうしろ」
立ち上がり、テーブルの向こうから回り込んで頭を撫でてくれる手は、冰にとって何ものにも代え難い温かなものだった。
◇ ◇ ◇
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