極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
19 / 1,212
漆黒の人(香港マフィア頭領次男坊編)

19

しおりを挟む
「あの……ここ……は?」
「お前の部屋だ」
 答えたのは周だった。

「ええッ!?」

 冰は思わずすっとんきょうな声を上げて叫んでしまった。まるで高級ホテルのような広々とした部屋には重厚な造りの家具や調度品、カーテンに至るまでが別世界なのだ。

「あの……ここが寮……なんですか?」

 社員たちは皆がこんな豪勢な寮を与えられるのだろうかと、あまりの待遇に目眩がしそうになる。確かに社屋とこのビルとを繋ぐ連絡通路のような廊下を渡ってきたわけだし、二つのビルはどうやら双子のような建物のようにも思えた。いわゆるツインタワーというやつだ。もしかしたらこちら側のビル全体が社員寮になっているのかと思ってしまったのだ。
「あの……こんなすごい部屋……本当に住まわせていただけるんですか?」
 冰は別の意味で心配になってきた。先程のテーラーでのあつらえの制服といい、この――目の玉が飛び出そうな豪華な寮といい、いったい自分にそれだけの待遇を受けられるような仕事が務まるのだろうか――と。

「気に入ったか?」

 周がわずか不敵に微笑みながら訊く。

「や、その……気に入ったもなにも……凄すぎて……。俺、こんなすごいところに住まわせてもらって……ちゃんとそれに見合った仕事できるんだろうかって」
「なんだ、そんなことか。だったら心配はいらねえ。仕事は李が丁寧に教えるさ」

 なあ――といったふうに李を見やる周は楽しそうだ。

「社長のおっしゃる通りです。雪吹さんに手伝っていただくお仕事は出社後に私からご説明申し上げますので、どうぞご安心ください」
「は、はい……! よろしくお願いします!」
 冰は勢いよく頭を下げた。

「おい――今度はぶつけねえように気を付けろよ」

「え――?」

 昼間、周の社長室のテーブルに勢いよく頭をぶつけてしまったことを言われたのだろう。冰は恥ずかしそうにうつむいてしまった。そんな様子を見つめる周はえらく楽しそうだ。
「夕飯を一緒にと言いたいところだが――あいにく今日はこれから接待の予定が入っていてな。後のことは李が面倒を見るんで、メシを終えたら今夜は早めに休むといい」
 周は手元の時計を見やりながらそう言ってよこした。これから会社関係の接待があるようだ。
「あ、はい……! 今日は本当にありがとうございました! 俺、明日から一生懸命働きます!」
 冰は今度は慌てすぎないように気を配りながら、深々とお辞儀をしてみせた。
「俺もそんなに遅くはならねえと思うが――いい子でいるんだぜ?」
 周はニッと笑むと、ポンポンと頭を撫でてよこし、部屋を後にしていった。
 突然のスキンシップに冰の心臓は跳ね上がる。まるで子供に対する扱いだが、髪を撫でた周の掌は大きくて、そして温かい気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前後からの激しめ前立腺責め!

ミクリ21 (新)
BL
前立腺責め。

捜査員達は木馬の上で過敏な反応を見せる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

男子学園でエロい運動会!

ミクリ21 (新)
BL
エロい運動会の話。

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

処理中です...