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漆黒の人(香港マフィア頭領次男坊編)
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案の定か、他の席にいる客らの視線もチラホラとこちらの様子を気に掛けているようで、冰は何とも形容し難いむず痒いような気分にさせられてしまった。
若い女性はむろんのこと、年配の女性同士の客らの視線までが熱っぽく、ドキドキとしながら窺っているだろうことが聞かずとも分かる。今にも黄色いはしゃぎ声が聞こえてきそうである。皆、周の格好良さに見とれているのだろう。当の本人は気付いているのかいないのか、早くも半分ほどを食べ終えると、ごく当然のようにして自分の皿を差し出してよこした。
「ほら、約束通り半分こだ」
「あ、はい……! すぐにいただきます!」
冰は慌てて自らの白いケーキをすくった。
「慌てんでもいいさ。ゆっくり食えばいい」
周はコーヒーを口に含みながら、また笑う。
そんな仕草に、なんともソワソワとさせられてしまう。
周囲からすれば、自分たちはどんなふうな間柄に映るのだろうか。
女性客らが頬を染めながらチラチラと見つめる男前の周とケーキをシェアしているこの現状――。きっと羨ましいと思っていることだろう。
結局、冰はケーキの味も殆ど覚えていないくらい緊張しまくったまま、周とのティータイムを終えたのだった。
◇ ◇ ◇
ラウンジを出た頃には午後の四時を回っていた。今は秋も深まった師走間際だ、暮れるのも早い。もうあと三十分もすれば夜の闇が訪れるだろう。周と冰を乗せた車はそのまま汐留にある周の社屋へと戻った。
「お帰りなさいませ」
社長室に戻ると李が待っていた。
「手はずはどうだ」
周が訊くと、李はスマート且つ的確にその質問に答えた。
「はい、ホテルの方は滞りなく引き払って参りました。雪吹様のお住まいもご指示の通りのお部屋をご用意してあります。お荷物は既にお部屋の方に運び入れてございますので」
「そうか、ご苦労だったな。真田にも話は伝わっているな?」
「はい。お住まいの方でお待ちです」
「では行くか」
周に連れられて向かった先は、これから冰が住まわせてもらうという”社員寮”だった。
「まさか……寮って……ここが……ッ!?」
そこに案内された瞬間に、それこそ壊れた人形のように硬直したまま動けなくなってしまう。無理もない。そこはまさに先程の社長室と同様、豪華な造りとしか言いようがないような部屋だったからだ。
社長室を出てからここに来るまでの間、長い廊下をずっと歩いて来た。途中にはビルとビルとを繋ぐ連絡通路のようなところを通り、窓から見下ろす階下には大都会の街並みが広がっていた。夕暮れ時、街には灯が点灯し出した時間帯はまさに絶景である。
「どうぞ、こちらです」
連れだってきた李がドアを開けてくれたその室内を見た瞬間、冰はまさに絶句しそうになってしまったのだった。
若い女性はむろんのこと、年配の女性同士の客らの視線までが熱っぽく、ドキドキとしながら窺っているだろうことが聞かずとも分かる。今にも黄色いはしゃぎ声が聞こえてきそうである。皆、周の格好良さに見とれているのだろう。当の本人は気付いているのかいないのか、早くも半分ほどを食べ終えると、ごく当然のようにして自分の皿を差し出してよこした。
「ほら、約束通り半分こだ」
「あ、はい……! すぐにいただきます!」
冰は慌てて自らの白いケーキをすくった。
「慌てんでもいいさ。ゆっくり食えばいい」
周はコーヒーを口に含みながら、また笑う。
そんな仕草に、なんともソワソワとさせられてしまう。
周囲からすれば、自分たちはどんなふうな間柄に映るのだろうか。
女性客らが頬を染めながらチラチラと見つめる男前の周とケーキをシェアしているこの現状――。きっと羨ましいと思っていることだろう。
結局、冰はケーキの味も殆ど覚えていないくらい緊張しまくったまま、周とのティータイムを終えたのだった。
◇ ◇ ◇
ラウンジを出た頃には午後の四時を回っていた。今は秋も深まった師走間際だ、暮れるのも早い。もうあと三十分もすれば夜の闇が訪れるだろう。周と冰を乗せた車はそのまま汐留にある周の社屋へと戻った。
「お帰りなさいませ」
社長室に戻ると李が待っていた。
「手はずはどうだ」
周が訊くと、李はスマート且つ的確にその質問に答えた。
「はい、ホテルの方は滞りなく引き払って参りました。雪吹様のお住まいもご指示の通りのお部屋をご用意してあります。お荷物は既にお部屋の方に運び入れてございますので」
「そうか、ご苦労だったな。真田にも話は伝わっているな?」
「はい。お住まいの方でお待ちです」
「では行くか」
周に連れられて向かった先は、これから冰が住まわせてもらうという”社員寮”だった。
「まさか……寮って……ここが……ッ!?」
そこに案内された瞬間に、それこそ壊れた人形のように硬直したまま動けなくなってしまう。無理もない。そこはまさに先程の社長室と同様、豪華な造りとしか言いようがないような部屋だったからだ。
社長室を出てからここに来るまでの間、長い廊下をずっと歩いて来た。途中にはビルとビルとを繋ぐ連絡通路のようなところを通り、窓から見下ろす階下には大都会の街並みが広がっていた。夕暮れ時、街には灯が点灯し出した時間帯はまさに絶景である。
「どうぞ、こちらです」
連れだってきた李がドアを開けてくれたその室内を見た瞬間、冰はまさに絶句しそうになってしまったのだった。
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