極道恋浪漫

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
126 / 159
極道恋浪漫 第三章

124

しおりを挟む
 ロナルドの怪我がほぼ完治に向かい、新たに砦の皇帝・周焔ジォウ イェンを取り巻くブレーンとなって皆に紹介されたのは、香港の街がクリスマスの色で賑わい始めた初冬のことだった。
 イェンひょうの祝言の日取りも年明けの春節に合わせて執り行われることが決まった。
 九龍城砦地下街はイェン遼二りょうじらによって、今日も平穏で賑やかな時を送っている。ロナルドはリーらの下で真摯に仕事に専念し、周囲の側近仲間からもあたたかく迎え入れられているようだ。
 そんな中、イェンの邸では家令の真田さなだを筆頭に結婚式の準備が着々と進められていた。イェンは砦を治める立場であるが、ファミリーの次男坊ということもあって、式は地上にて行われることが決まった。その後、地下街でもお披露目を兼ねて宴が催されるそうだ。めでたい話に遼二りょうじ紫月ズィユエら友人たちもお祝いムードに包まれる幸せな日常に湧いていた。

 男遊郭街、紫月ズィユエ邸――。
「え? 俺と親父まで地上での式に呼んでもらえるのか?」
 招待状を届けた遼二りょうじを前に、紫月ズィユエが恐縮していた。
「当然だ。お前さんはひょうの兄様として面倒を見てくれていたこともあるんだ。イェンも今ではかけがえのねえ友人として、是非とも式を見守って欲しいと言っている」
 遼二りょうじにそう言われて飛燕ひえん紫月ズィユエの父子は光栄の極みといった顔つきで頬を紅潮させていた。
「本当に――めでたいことだな。式には日本から僚一りょういちも参加するのだろう?」
 紫月ズィユエの父である飛燕ひえんが問う。
「ええ、その予定です。親父も久しぶりの香港ですから、今から楽しみでいるようですよ」
「そうだな。羅辰ルオ チェンからこの遊郭街を解放して以来、僚一りょういちには会っていないからな。私も楽しみだよ」
 飛燕ひえんとしても旧友との再会を心待ちでいるようだ。イェンひょうの婚姻を祝うのはもちろんだが、集う皆も互いに顔を合わせられる喜びを噛み締め合うのだった。
「春節が待ち遠しいなぁ。皇帝様とひょう君に贈る祝いは何がいいだろう」
 どうせなら喜んでもらえる物を贈りたいという紫月ズィユエの気持ちが嬉しい。
「ああ、そうだな」
 祝いの品を選ぶのも楽しみのひとつである。
紫月ズィユエ、地下街ではなにかと限られていよう。祝いの品を選びがてら、久しぶりで地上の街に出てみねえか?」
 遼二りょうじに誘われて、紫月ズィユエは嬉しそうに瞳を輝かせた。
「そいつぁ楽しみだな! 香港の街中を歩くなんていつでもできそうでいて案外機会がねえってのも現実だもんなぁ」
「ついでにお前さんの好きな甘いモンでも堪能してこよう」
「いいね! そいつぁ最高だ!」
 紫月ズィユエは単純に外で味わう非日常のひと時に喜んでいるようだが、遼二りょうじにとっては二人で出掛けるデートさながらの方に心浮き立つ思いでいるようだ。はしゃぎ合う二人を横目に、飛燕ひえんもまた、自分と僚一のように息子にとって大切な友ができたことを嬉しく思うのだった。

 九龍城砦地下街は相変わらずの活気に包まれて、世界各国から訪れるセレブリティたちで賑わいを見せている。
 時に揉め事もあり、心悩まされる小競り合いなども皆無とはいえないが、それらを丸く治めるのもイェンをはじめとした遼二りょうじリーら仲間たちの役目であり、生きる意味でもあるのだ。
 喜怒哀楽を共にしてこそ生まれる絆を大切にして、これからも皆で力を合わせて精一杯生きていこう。そんな清々しい空気に包まれながら笑い声の絶えない――眠らない街の一日が今日もまた暮れ、そして明日もまた明けるのだった。



◇    ◇    ◇


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

万華の咲く郷 ~番外編集~

四葩
BL
『万華の咲く郷』番外編集。 現代まで続く吉原で、女性客相手の男役と、男性客相手の女役に別れて働く高級男娼たちのお話です。 各娼妓の過去話SS、番外編まとめ。 この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは一切、関係ございません。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...