123 / 159
極道恋浪漫 第三章
121
しおりを挟む
「理由は何でも良かったんです。女を煽って腹を立てさせればいい。そう思って俺は女を訪ねました」
そこで彼女を罵り、苛立たせて自分を刺すように仕向けた――ということだ。
「場所をこの九龍城砦の近くにしたのは女を煽る為です。あなたが――周老板が自分のすぐ足下にいるとなれば、女もより一層気持ちが昂って手前を攻撃するだろうと。思いつく限りの罵倒を並べたところ、案の定怒った女は刃物を取り上げて手前に襲い掛かってきました」
曲がり形にもプロの殺し屋であるロナルドのことだ。同じ刺されるにしても急所を外して刺させることくらいは可能だったはずだ。だが、彼は敢えて急所を差し出すような体勢で刃物を食らったのだ。傷害と殺人では罪の重さに違いが出ると思ってのことだったのだろう。少しでも長く女を監獄に留め置くには罪は重い方がいい。ロナルドの告白からは、彼が本気で焔や九龍城砦地下街の為に犠牲になろうとしていたことが窺えた。
「しかしロナルド――お前さん、この焔に不問にしてもらった恩を感じているのは分かるが……。命を賭してまで恩返しをしようとするとはな」
これまでのところ、焔とロナルドは特に懇意にしていたという既知の関係ではなかった。冰の件を通して初めて顔を突き合わせた、いわば初対面といえる。なぜそこまでして恩に報いようとするのか、遼二がそう訊くと、ロナルドは少し寂しそうに苦笑を浮かべながらも素直にその理由を述べてよこした。
「本来であれば――手前はあの時に始末されて当然の身でした。ですが、周老板は手前を生かし、見逃してくださった。もちろんそれが手前のことを思ってしてくださったわけじゃねえというのは分かっております。ですが、理由はどうあれ手前の命が繋がったことは事実です。あの時に掛けていただいた周老板の温情が……身に染みたんス。手前はこれまでずっと……決して褒められねえ人生を送ってきました。殺し屋を稼業にして……それで食ってきたんです。クズ同然、いえ――クズ以下のような手前ですが、せめて一度くれえ他人様の役に立って死ねたらと、そう思ったんス」
つまり、彼にとって生かしてもらえたという事実は、傍で思うよりも遥かに重く、有り難かったということなのだろう。ロナルドは続けた。
そこで彼女を罵り、苛立たせて自分を刺すように仕向けた――ということだ。
「場所をこの九龍城砦の近くにしたのは女を煽る為です。あなたが――周老板が自分のすぐ足下にいるとなれば、女もより一層気持ちが昂って手前を攻撃するだろうと。思いつく限りの罵倒を並べたところ、案の定怒った女は刃物を取り上げて手前に襲い掛かってきました」
曲がり形にもプロの殺し屋であるロナルドのことだ。同じ刺されるにしても急所を外して刺させることくらいは可能だったはずだ。だが、彼は敢えて急所を差し出すような体勢で刃物を食らったのだ。傷害と殺人では罪の重さに違いが出ると思ってのことだったのだろう。少しでも長く女を監獄に留め置くには罪は重い方がいい。ロナルドの告白からは、彼が本気で焔や九龍城砦地下街の為に犠牲になろうとしていたことが窺えた。
「しかしロナルド――お前さん、この焔に不問にしてもらった恩を感じているのは分かるが……。命を賭してまで恩返しをしようとするとはな」
これまでのところ、焔とロナルドは特に懇意にしていたという既知の関係ではなかった。冰の件を通して初めて顔を突き合わせた、いわば初対面といえる。なぜそこまでして恩に報いようとするのか、遼二がそう訊くと、ロナルドは少し寂しそうに苦笑を浮かべながらも素直にその理由を述べてよこした。
「本来であれば――手前はあの時に始末されて当然の身でした。ですが、周老板は手前を生かし、見逃してくださった。もちろんそれが手前のことを思ってしてくださったわけじゃねえというのは分かっております。ですが、理由はどうあれ手前の命が繋がったことは事実です。あの時に掛けていただいた周老板の温情が……身に染みたんス。手前はこれまでずっと……決して褒められねえ人生を送ってきました。殺し屋を稼業にして……それで食ってきたんです。クズ同然、いえ――クズ以下のような手前ですが、せめて一度くれえ他人様の役に立って死ねたらと、そう思ったんス」
つまり、彼にとって生かしてもらえたという事実は、傍で思うよりも遥かに重く、有り難かったということなのだろう。ロナルドは続けた。
23
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説


そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。


男だけど幼馴染の男と結婚する事になった
小熊井つん
BL
2×××年、同性の友人同士で結婚する『親友婚』が大ブームになった世界の話。 主人公(受け)の“瞬介”は家族の罠に嵌められ、幼馴染のハイスペイケメン“彗”と半ば強制的に結婚させられてしまう。
受けは攻めのことをずっとただの幼馴染だと思っていたが、結婚を機に少しずつ特別な感情を抱くようになっていく。
美形気だるげ系攻め×平凡真面目世話焼き受けのほのぼのBL。
漫画作品もございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる