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極道恋浪漫 第三章
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拘束された白蘭については引き続き見張り組にその後の動向を報告するように頼み、李はすぐさま焔の下へと走った。ロナルドは重傷のまま地下街の病院で緊急手術が行われることとなり、春日野医師と鄧一家によって懸命な処置が始まった。
ほどなくして焔が遼二を伴って手術室前へと駆け付けて来た。
「それで経緯は? なぜこの男が白蘭に刺されることになったのだ」
「詳しいことは解りませんが、彼が意識を失う直前に言い残したことが気になります。どうもロナルドはあのまま死ぬつもりでいたようなのです。これで周老板のお役に立てる。そう申しておりました」
「俺の役に立てる――? どういうこった」
「詳しくは彼の容態が快復してからになりましょうが、もしかするとロナルドはわざとあの女に刺されるよう仕向けたのではないかと」
「わざと――だと?」
「女が手にしていた獲物ですが、どうもロナルドが所持していた物のようでして。彼は目立つように自分の腰にナイフをぶら下げていたらしく、口論の最中に女がそれを取り上げて刺した――と目撃者らが口を揃えていたそうです」
なぜそんなことを――と、焔が驚き顔でいる傍ら、遼二はとある仮説を口にした。
「もしかしたら白蘭という女がお前さんと冰の婚姻を嗅ぎ付けたのではないか? それで、ロナルドが冰を殺り損ねたことを知って、二人の間に揉め事が生じた――というのがひとつ。もしくは――」
確かに有り得ない話ではない。焔と冰の婚姻については九龍城砦地下街では噂が広まっていたし、その噂が白蘭の耳に入ったとて不思議はない。
「もしくは、そこで女が性懲りも無くまた何らかの悪巧みをしていることに気付いたロナルドが――それを阻止しようとしたのかも知れん」
だからわざわざナイフを持参して行き、女にそれを見せつけて自分を刺すように罵倒でも投げつけたのではないか――。
「阻止だと? なぜロナルドが――」
「冰を殺り損ねた際にヤツは何の咎めもなく解放してもらえたわけだ。お前さんに対して少なからず恩を感じていたか、或いは女の執念を目の当たりにして嫌気が差したのか。いずれにせよ、女をこのまま放置すれば、性懲りも無く別の殺し屋を雇うなりしてまたお前さんを煩わせることになろう。雇われた殺し屋にとってもロナルドの時と同様、何も知らないまま周一族を手にかけることになるわけだ。ヤツにとって殺し屋は同業者――いわば仲間ともいえる。それと同時に――ヤツは以前、お前さんに逃がしてもらえた恩を感じていて、どうにか阻止したいと思ったのかも知れん」
そうだとしても普通に考えるならば刺されるのは女の方であろう。ロナルドほどの玄人がナイフを取り上げられて、ましてや簡単に刺されてしまうなど考えにくい。とすれば、わざと刺されたとしか思えないのだ。
「……ヤツめ、いったい何を考えてそんなことを」
まあそこのところはロナルド本人に聞いてみないとなんとも言えないが、遼二の推測はそう的外れでもないのかも知れない。刺された直後にロナルドと対面した李もまた、同じように感じていたようだ。
「彼が老板に恩を感じているのは事実と思われます。本来、冰さんを襲おうとした時点で葬られていたとて不思議はない身です。自分が白蘭に殺されることで彼女を監獄送りにし、老板が煩わされるのを避ける一役を買ったとも考えられます」
「ロナルドが……俺の為に――か?」
焔がロナルドを不問いにしたのは、別段彼の為というわけではない。冰が葬られたことにすれば今後白蘭から冰が狙われることが無いからという、ただそれだけの理由だ。
「それなのに――あの男はこの俺に恩を感じて、てめえが殺られることで女を監獄に閉じ込め、俺の前から災いを遠ざけたってのか……」
焔は図らずも驚愕に拳が震えてしまうのを抑えられずにいた。
ほどなくして焔が遼二を伴って手術室前へと駆け付けて来た。
「それで経緯は? なぜこの男が白蘭に刺されることになったのだ」
「詳しいことは解りませんが、彼が意識を失う直前に言い残したことが気になります。どうもロナルドはあのまま死ぬつもりでいたようなのです。これで周老板のお役に立てる。そう申しておりました」
「俺の役に立てる――? どういうこった」
「詳しくは彼の容態が快復してからになりましょうが、もしかするとロナルドはわざとあの女に刺されるよう仕向けたのではないかと」
「わざと――だと?」
「女が手にしていた獲物ですが、どうもロナルドが所持していた物のようでして。彼は目立つように自分の腰にナイフをぶら下げていたらしく、口論の最中に女がそれを取り上げて刺した――と目撃者らが口を揃えていたそうです」
なぜそんなことを――と、焔が驚き顔でいる傍ら、遼二はとある仮説を口にした。
「もしかしたら白蘭という女がお前さんと冰の婚姻を嗅ぎ付けたのではないか? それで、ロナルドが冰を殺り損ねたことを知って、二人の間に揉め事が生じた――というのがひとつ。もしくは――」
確かに有り得ない話ではない。焔と冰の婚姻については九龍城砦地下街では噂が広まっていたし、その噂が白蘭の耳に入ったとて不思議はない。
「もしくは、そこで女が性懲りも無くまた何らかの悪巧みをしていることに気付いたロナルドが――それを阻止しようとしたのかも知れん」
だからわざわざナイフを持参して行き、女にそれを見せつけて自分を刺すように罵倒でも投げつけたのではないか――。
「阻止だと? なぜロナルドが――」
「冰を殺り損ねた際にヤツは何の咎めもなく解放してもらえたわけだ。お前さんに対して少なからず恩を感じていたか、或いは女の執念を目の当たりにして嫌気が差したのか。いずれにせよ、女をこのまま放置すれば、性懲りも無く別の殺し屋を雇うなりしてまたお前さんを煩わせることになろう。雇われた殺し屋にとってもロナルドの時と同様、何も知らないまま周一族を手にかけることになるわけだ。ヤツにとって殺し屋は同業者――いわば仲間ともいえる。それと同時に――ヤツは以前、お前さんに逃がしてもらえた恩を感じていて、どうにか阻止したいと思ったのかも知れん」
そうだとしても普通に考えるならば刺されるのは女の方であろう。ロナルドほどの玄人がナイフを取り上げられて、ましてや簡単に刺されてしまうなど考えにくい。とすれば、わざと刺されたとしか思えないのだ。
「……ヤツめ、いったい何を考えてそんなことを」
まあそこのところはロナルド本人に聞いてみないとなんとも言えないが、遼二の推測はそう的外れでもないのかも知れない。刺された直後にロナルドと対面した李もまた、同じように感じていたようだ。
「彼が老板に恩を感じているのは事実と思われます。本来、冰さんを襲おうとした時点で葬られていたとて不思議はない身です。自分が白蘭に殺されることで彼女を監獄送りにし、老板が煩わされるのを避ける一役を買ったとも考えられます」
「ロナルドが……俺の為に――か?」
焔がロナルドを不問いにしたのは、別段彼の為というわけではない。冰が葬られたことにすれば今後白蘭から冰が狙われることが無いからという、ただそれだけの理由だ。
「それなのに――あの男はこの俺に恩を感じて、てめえが殺られることで女を監獄に閉じ込め、俺の前から災いを遠ざけたってのか……」
焔は図らずも驚愕に拳が震えてしまうのを抑えられずにいた。
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