極道恋浪漫

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
114 / 136
極道恋浪漫 第三章

112 告白

しおりを挟む
「秘書……でございますか? えっと、僕がイェンさんの?」
「そうだ」
「……はい、あの……僕などでお役に立てるのでしたら」
 ひょうは未だ驚きを隠せないといった表情でいるが、ひとまずのところイェンにとっては嬉しい返事だ。
「秘書といっても実質俺の側で茶を淹れてくれたり書類の整理などを手伝ってもらえれば良いのだ。難しい仕事は無いし、危険なことには巻き込まないと誓う」
「はい、あの……」
 要は自分の側で身の回りの世話などをしてくれればいいということのようだが、それだったら既に執事の真田さなだや、他にも邸内の掃除や食事の支度などをする家令と呼ばれる者たちは多くいる。仕事の面ではリーリゥといった精鋭もいることだし、ひょうは果たしてそんな諸先輩方と同じような任務が自分に務まるのだろうかと思ったようだ。
 それでもイェンが直々にそうしてくれというのなら、精一杯励む心づもりではいる。
「はい、では先輩方にご教示いただきながら、皆さんの足手まといにならないよう努めて参ります」
 胸前で手を合わせて丁寧に腰を折る。初めて見た日そのままに、相変わらずの礼儀正しさが可愛くもあり、その反面もう少しその律儀すぎる壁を越えて甘えてくれたら嬉しいとも思ってしまうのはイェンの欲だろう。

ひょう――」

「はい」

「――ただ側に居てくれれば嬉しいのだ。俺はお前さんが常にこの目の中に入るところに居てくれるだけで有り難い。お前さんの存在が心を満たしてくれるのでな」
 お前が側にいるというだけで安らぎを覚え、ひいては仕事にも身が入るのだ――そんなふうに言っては少し気恥ずかしげに微笑むイェンの男前の顔が心拍数を上げる。

 側にいるだけでいい――つまりは秘書というのは名ばかりの体面であって、実質的な仕事などは無いという意味にも受け取れる。

「あの……イェンさん」
「ん――?」
「いえ……あの、お側にお仕えさせていただける光栄に甘んじず、精一杯努めて参ります。至らぬところも多ございましょうが、よろしくご指導くださいませ」
 今一度丁寧に頭を下げたその仕草に、イェンは『うむ』と返しながらも少々深い溜め息が漏れてしまうのを抑えられずにいた。
 もうこの際、はっきりとプロポーズを口にすべきだろうか――と、ついぞせっかちな思いが胸を過ぎる。本来、彼が成人を迎えるまでは伸び伸びと過ごさせてやりたいと思っていたのだが、例えばその成人までのあと数年をこれまで通り共に過ごしたとて、この律儀過ぎる少年の心を解し切ることはできないかも知れない。無駄に数年を堪えるのであれば、今ここで想いを打ち明けて、彼の気持ちも聞いてしまった方がいいようにも思えてくる。

 イェンにとって迷いがあるとすれば、それは自らの立場にこの少年が逆らえる身分に無い――という、ただその一点であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

上司と俺のSM関係

雫@3日更新予定あり
BL
タイトルの通りです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...