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極道恋浪漫 第二章
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邸に戻ると遼二に紫月、そしてレイと倫周が「良かったな」と言って迎えてくれた。
「これで一件落着だな! 冰、黄の爺さんも仕事が済み次第ここへ帰って来ることになってるから安心しろ」
遼二からそう聞かされてホッと胸を撫で下ろす。
「遼二兄様、ありがとうございます」
「それより何より、お前さんがいなくなっちまってからの焔は落ち込んじまって大変だったんだ! これからはしっかり側で見てやってくれな!」
おまけにそう冷やかされて、焔はタジタジながらも嬉しそうだ。持ち帰った鍋を手に、これは冰が作ったスープなんだと自慢げに見せびらかす始末――。
「真田! 真田はいるかー」
真田というのは焔の邸の家令である。元々は焔の実母に当たる日本の財閥、氷川家で執事として仕えてくれていたベテランだが、焔が生まれてからは香港に移住して来て、真心込めて世話を焼いてくれている。焔にとっては育ての親といえるほどに信頼のおける男だ。
歳は父親の隼よりも上だが、未だ矍鑠としていて、邸の掃除から調理場のメニューまで気を配り、焔のベッドリネンなどはメイド頼みにせずに彼自らが取り替える。ともすれば焔よりも行動力があるのではというくらいの頼れる家令なのだ。その真田を大声で呼んでは、早速に持ち帰ったスープを温めてくれと満面の笑みでいる。
冰がしばしこの邸にいた際にも、まるで孫のように可愛がってくれた有り難い老人なのである。
「お呼びでございますか、坊っちゃま」
「おう、真田! こいつぁな、冰がこしらえたものなんだ。温めて晩飯と一緒に出してくれねえか」
主人の横に冰の姿を見つけて、真田も嬉しかったようだ。
「おや、冰さん! お帰りなさいませ!」
既に遼二らから事の経緯を聞いていたようで、冰の帰宅を両手放しで喜んでくれた。
「真田さん、またお世話になります。どうぞよろしくお願いいたします」
深々と頭を下げた冰に、こちらこそと言って満面の笑みを見せてくれた。
「お前らにもちょっと分けてやろう」
スープの入った鍋を大事そうに抱えながら、焔はそう言って、遼二らを横目に不敵に笑う。真田と連れ立って自ら厨房に向かって行った後ろ姿を皆で見つめながら、やれやれと笑いの絶えないリビングに笑顔の花が咲いたのだった。
「しかし焔のヤツ、まるでガキだな。俺も付き合いは長えが、あんなにはしゃいでいるのを見るのは初めてだ」
遼二が呆れ気味で肩をすくめている。
「あっはっは! 冰君が戻って来てくれたことがそんだけ嬉しいんだべ!」
紫月も朗らかな笑顔を見せる。レイと倫周は初めて会う冰に興味津々のようで、自己紹介がてら二人で彼を囲んで離さない。
和気藹々、焔邸に朗らかな笑い声が戻ってきた幸せな夜が更けていったのだった。
◇ ◇ ◇
「これで一件落着だな! 冰、黄の爺さんも仕事が済み次第ここへ帰って来ることになってるから安心しろ」
遼二からそう聞かされてホッと胸を撫で下ろす。
「遼二兄様、ありがとうございます」
「それより何より、お前さんがいなくなっちまってからの焔は落ち込んじまって大変だったんだ! これからはしっかり側で見てやってくれな!」
おまけにそう冷やかされて、焔はタジタジながらも嬉しそうだ。持ち帰った鍋を手に、これは冰が作ったスープなんだと自慢げに見せびらかす始末――。
「真田! 真田はいるかー」
真田というのは焔の邸の家令である。元々は焔の実母に当たる日本の財閥、氷川家で執事として仕えてくれていたベテランだが、焔が生まれてからは香港に移住して来て、真心込めて世話を焼いてくれている。焔にとっては育ての親といえるほどに信頼のおける男だ。
歳は父親の隼よりも上だが、未だ矍鑠としていて、邸の掃除から調理場のメニューまで気を配り、焔のベッドリネンなどはメイド頼みにせずに彼自らが取り替える。ともすれば焔よりも行動力があるのではというくらいの頼れる家令なのだ。その真田を大声で呼んでは、早速に持ち帰ったスープを温めてくれと満面の笑みでいる。
冰がしばしこの邸にいた際にも、まるで孫のように可愛がってくれた有り難い老人なのである。
「お呼びでございますか、坊っちゃま」
「おう、真田! こいつぁな、冰がこしらえたものなんだ。温めて晩飯と一緒に出してくれねえか」
主人の横に冰の姿を見つけて、真田も嬉しかったようだ。
「おや、冰さん! お帰りなさいませ!」
既に遼二らから事の経緯を聞いていたようで、冰の帰宅を両手放しで喜んでくれた。
「真田さん、またお世話になります。どうぞよろしくお願いいたします」
深々と頭を下げた冰に、こちらこそと言って満面の笑みを見せてくれた。
「お前らにもちょっと分けてやろう」
スープの入った鍋を大事そうに抱えながら、焔はそう言って、遼二らを横目に不敵に笑う。真田と連れ立って自ら厨房に向かって行った後ろ姿を皆で見つめながら、やれやれと笑いの絶えないリビングに笑顔の花が咲いたのだった。
「しかし焔のヤツ、まるでガキだな。俺も付き合いは長えが、あんなにはしゃいでいるのを見るのは初めてだ」
遼二が呆れ気味で肩をすくめている。
「あっはっは! 冰君が戻って来てくれたことがそんだけ嬉しいんだべ!」
紫月も朗らかな笑顔を見せる。レイと倫周は初めて会う冰に興味津々のようで、自己紹介がてら二人で彼を囲んで離さない。
和気藹々、焔邸に朗らかな笑い声が戻ってきた幸せな夜が更けていったのだった。
◇ ◇ ◇
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