極道恋浪漫

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
91 / 159
極道恋浪漫 第二章

89

しおりを挟む
 邸に戻ると遼二に紫月ズィユエ、そしてレイと倫周りんしゅうが「良かったな」と言って迎えてくれた。
「これで一件落着だな! 冰、ウォンの爺さんも仕事が済み次第ここへ帰って来ることになってるから安心しろ」
 遼二からそう聞かされてホッと胸を撫で下ろす。
遼二兄様りょうじ あにさま、ありがとうございます」
「それより何より、お前さんがいなくなっちまってからのイェンは落ち込んじまって大変だったんだ! これからはしっかり側で見てやってくれな!」
 おまけにそう冷やかされて、イェンはタジタジながらも嬉しそうだ。持ち帰った鍋を手に、これは冰が作ったスープなんだと自慢げに見せびらかす始末――。
真田さなだ! 真田はいるかー」
 真田というのはイェンの邸の家令である。元々はイェンの実母に当たる日本の財閥、氷川ひかわ家で執事として仕えてくれていたベテランだが、イェンが生まれてからは香港に移住して来て、真心込めて世話を焼いてくれている。イェンにとっては育ての親といえるほどに信頼のおける男だ。
 歳は父親のスェンよりも上だが、未だ矍鑠かくしゃくとしていて、邸の掃除から調理場のメニューまで気を配り、イェンのベッドリネンなどはメイド頼みにせずに彼自らが取り替える。ともすればイェンよりも行動力があるのではというくらいの頼れる家令なのだ。その真田を大声で呼んでは、早速に持ち帰ったスープを温めてくれと満面の笑みでいる。
 冰がしばしこの邸にいた際にも、まるで孫のように可愛がってくれた有り難い老人なのである。
「お呼びでございますか、坊っちゃま」
「おう、真田! こいつぁな、冰がこしらえたものなんだ。温めて晩飯と一緒に出してくれねえか」
 主人の横に冰の姿を見つけて、真田も嬉しかったようだ。
「おや、冰さん! お帰りなさいませ!」
 既に遼二らから事の経緯を聞いていたようで、冰の帰宅を両手放しで喜んでくれた。
「真田さん、またお世話になります。どうぞよろしくお願いいたします」
 深々と頭を下げた冰に、こちらこそと言って満面の笑みを見せてくれた。
「お前らにもちょっと分けてやろう」
 スープの入った鍋を大事そうに抱えながら、イェンはそう言って、遼二らを横目に不敵に笑う。真田と連れ立って自ら厨房に向かって行った後ろ姿を皆で見つめながら、やれやれと笑いの絶えないリビングに笑顔の花が咲いたのだった。
「しかしイェンのヤツ、まるでガキだな。俺も付き合いは長えが、あんなにはしゃいでいるのを見るのは初めてだ」
 遼二が呆れ気味で肩をすくめている。
「あっはっは! 冰君が戻って来てくれたことがそんだけ嬉しいんだべ!」
 紫月も朗らかな笑顔を見せる。レイと倫周は初めて会う冰に興味津々のようで、自己紹介がてら二人で彼を囲んで離さない。
 和気藹々、イェン邸に朗らかな笑い声が戻ってきた幸せな夜が更けていったのだった。



◇    ◇    ◇



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

処理中です...