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極道恋浪漫 第一章
70 新たな未来へ
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それからひと月後――。
焔の邸に揃って姿を見せたのは、僚一、遼二父子の他に一之宮飛燕と紫月の二人も一緒だった。
「僚一、カネ! それに飛燕殿と紫月も……」
わざわざ挨拶の為に再びこの香港を訪れてくれたのかと、焔は感激の面持ちで四人を出迎えた。
ところが――だ。
なんと飛燕と紫月は日本での暮らしを離れて、これまで通りここ九龍城砦内の遊郭街で生きていきたいと言ってくれたのだ。
「ここでって……本当によろしいのか?」
焔が驚いたようにして一之宮父子を見やる。
「はい。私どもは長い間ここで生きて参りました。経緯はどうあれ、この街は既に私どもの故郷に他なりません。微力ではありますが、ここの立て直しに少しでもお役に立てればと思うのでございます」
飛燕の言葉に付け足すようにして、僚一もまた是非とも彼らを迎えてやって欲しいと言った。
「焔、お聞きの通りだ。二人はここでお前さん方と共に遊郭街を本当の意味での良い花街にすべく尽力してくれるそうだ。どうか意を汲んでやってはもらえぬか」
「それは……もう、有難いのひと言に尽きますが……。ですがよろしいのでしょうか? 故国のご実家には……」
飛燕の実家は代々寺を守ってきた家柄だと聞いている。
「良いのです。私は元々坊主になる気はございませんでしたのでな。それに、実家は既に父の師弟が住職となって立派に継いでくれており、何も心配はございません。私は余生を――人生の半分を生きたこの香港で息子ともども全ういたしたく、皇帝様にはまたお世話をお掛けすることと存じますが、是非ともここに置いていただければと願う次第にございます」
丁寧に頭を下げた父子に、焔は恐縮してしまった。
「どうか頭を上げてください! お二人にご助力いただけるのでしたら、有り難くこの上ない幸甚に存じます」
何とも丁寧過ぎるやり取りを繰り返す飛燕と焔に、息子の紫月は朗らかな表情で悪戯そうに笑ってみせた。
「皇帝様、これからも世話を掛けるがよろしくなぁ!」
「紫月、もちろんだ! 俺の方こそよろしく頼む!」
固く握手を交わし合う二人を横目に、更なる嬉しい報告がなされた。
「焔、俺と遼二もな、しばらくはこの香港で厄介になることにした。俺の方は遊郭街を無事に立て直すまでの間だが、この遼二の方は――」
「カネの方は……? なんだ」
「遼二の方はお前さんの元に置いてやってもらえんだろうか」
「カネを……ここに?」
「どうやらこいつは俺の下に居るよりお前さん方と未来を共にしたいそうだ」
僚一曰く、鐘崎組を二つに分けて、元からあった日本の拠点に加え、この香港を息子であり若頭でもある遼二に任せようと思っている――とのことだった。
「まあ、暖簾分けのような形になるが――焔、よろしく頼む」
そう言った遼二に、焔は嬉しさを抑え切れないといった表情で瞳を潤ませた。
「暖簾分けってよりかは襲名といったところだろうが」
遼二の手を取りながら冷やかし文句の中にも弾む心が滲み出ている。
「じゃあお前さんの事務所を構えねばならんな! 場所は俺の邸内でどうだ。お前さんがいてくれれば俺も非常に助かる! 土地は十分に余っているからな」
「有り難い。すまねえな、焔。世話をかける」
男たちは厚い友情を更に深めるべく、今一度固く手を取り合ったのだった。
そしてもうひとつ嬉しい報告が――。なんと春日野夫妻も遊郭街の病院へ戻ってくることを希望してくれたというのだ。息子の菫が生まれ育った地であり、これからも鄧医師らと連携してこの九龍城砦で尽力したいと言ってくれる彼らの厚情に、焔はじめ周一族は両手放しで喜んだのだった。
◇ ◇ ◇
焔の邸に揃って姿を見せたのは、僚一、遼二父子の他に一之宮飛燕と紫月の二人も一緒だった。
「僚一、カネ! それに飛燕殿と紫月も……」
わざわざ挨拶の為に再びこの香港を訪れてくれたのかと、焔は感激の面持ちで四人を出迎えた。
ところが――だ。
なんと飛燕と紫月は日本での暮らしを離れて、これまで通りここ九龍城砦内の遊郭街で生きていきたいと言ってくれたのだ。
「ここでって……本当によろしいのか?」
焔が驚いたようにして一之宮父子を見やる。
「はい。私どもは長い間ここで生きて参りました。経緯はどうあれ、この街は既に私どもの故郷に他なりません。微力ではありますが、ここの立て直しに少しでもお役に立てればと思うのでございます」
飛燕の言葉に付け足すようにして、僚一もまた是非とも彼らを迎えてやって欲しいと言った。
「焔、お聞きの通りだ。二人はここでお前さん方と共に遊郭街を本当の意味での良い花街にすべく尽力してくれるそうだ。どうか意を汲んでやってはもらえぬか」
「それは……もう、有難いのひと言に尽きますが……。ですがよろしいのでしょうか? 故国のご実家には……」
飛燕の実家は代々寺を守ってきた家柄だと聞いている。
「良いのです。私は元々坊主になる気はございませんでしたのでな。それに、実家は既に父の師弟が住職となって立派に継いでくれており、何も心配はございません。私は余生を――人生の半分を生きたこの香港で息子ともども全ういたしたく、皇帝様にはまたお世話をお掛けすることと存じますが、是非ともここに置いていただければと願う次第にございます」
丁寧に頭を下げた父子に、焔は恐縮してしまった。
「どうか頭を上げてください! お二人にご助力いただけるのでしたら、有り難くこの上ない幸甚に存じます」
何とも丁寧過ぎるやり取りを繰り返す飛燕と焔に、息子の紫月は朗らかな表情で悪戯そうに笑ってみせた。
「皇帝様、これからも世話を掛けるがよろしくなぁ!」
「紫月、もちろんだ! 俺の方こそよろしく頼む!」
固く握手を交わし合う二人を横目に、更なる嬉しい報告がなされた。
「焔、俺と遼二もな、しばらくはこの香港で厄介になることにした。俺の方は遊郭街を無事に立て直すまでの間だが、この遼二の方は――」
「カネの方は……? なんだ」
「遼二の方はお前さんの元に置いてやってもらえんだろうか」
「カネを……ここに?」
「どうやらこいつは俺の下に居るよりお前さん方と未来を共にしたいそうだ」
僚一曰く、鐘崎組を二つに分けて、元からあった日本の拠点に加え、この香港を息子であり若頭でもある遼二に任せようと思っている――とのことだった。
「まあ、暖簾分けのような形になるが――焔、よろしく頼む」
そう言った遼二に、焔は嬉しさを抑え切れないといった表情で瞳を潤ませた。
「暖簾分けってよりかは襲名といったところだろうが」
遼二の手を取りながら冷やかし文句の中にも弾む心が滲み出ている。
「じゃあお前さんの事務所を構えねばならんな! 場所は俺の邸内でどうだ。お前さんがいてくれれば俺も非常に助かる! 土地は十分に余っているからな」
「有り難い。すまねえな、焔。世話をかける」
男たちは厚い友情を更に深めるべく、今一度固く手を取り合ったのだった。
そしてもうひとつ嬉しい報告が――。なんと春日野夫妻も遊郭街の病院へ戻ってくることを希望してくれたというのだ。息子の菫が生まれ育った地であり、これからも鄧医師らと連携してこの九龍城砦で尽力したいと言ってくれる彼らの厚情に、焔はじめ周一族は両手放しで喜んだのだった。
◇ ◇ ◇
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