70 / 136
極道恋浪漫 第一章
68
しおりを挟む
「そうだ……! ところで親父……頭目のことだけど。お邸から九龍湾へ逃げられる道を掘ってたって本当なのか?」
みすみす逃してしまって大丈夫なのかと心配そうな顔をする。だが、飛燕は案ずるなと笑ってみせた。
「ヤツの行く先は決まっている。僚一や周隼殿はご存知かと思うが――」
デスアライブという組織を知っているだろう? と訊く。
「デスアライブだと? まさかあの羅辰はその組織と関係があるってのか?」
デスアライブ。それはどこの国にも属さない闇組織の名だ。
麻薬、武器、金、そして都合の良く使い捨てにできる人材。世の中の悪をすべて牛耳っているような闇の代名詞とも言われて恐れられている組織だ。僚一も隼もその名だけは聞いたことがあるものの、実態を掴むところまではいっていない。同じ裏社会でも、隼が治めるこの香港ように国や地域の単位で統治する者がいるわけではなく、世界中に散らばっておいそれとは正体を掴みづらくしている煙のような組織なのだ。
「デスアライブについて俺たちが把握しているのは、実態を現さない非道者の集まりだということだけだ。聞くところによると、人間を意のままに操ることのできる特殊な薬物を開発していて、それを食らった者たちは意思どころか恐怖や痛みといった感情をも削ぎ取られると言われている」
「ああ――いわば人間を戦闘用のロボットに変えるという薬物だそうな」
僚一と隼が交互に言う。
裏の世界での共通認識では、その薬物を通称DAと呼び、危惧されているそうだ。デスアライブから取った頭文字である。
「まさかあの羅辰がその組織に属していたというのか――」
そう訊いた二人に、飛燕は静かにうなずいてみせた。
「おそらくは――。私は裏の世界のことについては素人だが、この遊郭街へ来てからというもの、あの男のすぐ側で過ごしてきた。ヤツは大概の取り引きの際には用心棒として私を側に置いてきた。そんな中で度々耳にしたのがデスアライブという名だった。おそらくヤツは組織の中において中堅か、その下辺りに位置していたのではないかというのが私の印象だ」
羅辰は組織に関する者たちが訪ねて来た際、いつもボスという存在に気を遣っているように見えたという。
「この遊郭街でヤツが奔放にしていられたのも、組織という後ろ盾があってのことだろう。ヤツはここで稼いだ金を組織に上納し、少しでも立場を良くしようと必死のようだった」
と同時にボスという存在を恐れていたようにも思える、飛燕はそう言った。
「おそらくヤツが逃げ込むとすれば組織だろう。ただし――今回のことで失脚したも同然の羅辰を組織が寛容に扱うかは保障できんところだ」
もしかしたらしくじったことで上から消されてしまう可能性も高いだろうと飛燕は見ているようだ。
「だからヤツを逃したというわけか――」
逃したところでおそらくは黙っていても始末される運命にあるだろう羅辰を、わざわざ自分たちの手を汚してまで討ち取る必要はないということだ。
「まあ、ヤツを捕まえておけば組織の実態について何かしら聞き出せることがあったやも知れんがね」
ただし、羅辰が知っている実情などそれこそ大したものでもないだろうというのも事実だろう。
みすみす逃してしまって大丈夫なのかと心配そうな顔をする。だが、飛燕は案ずるなと笑ってみせた。
「ヤツの行く先は決まっている。僚一や周隼殿はご存知かと思うが――」
デスアライブという組織を知っているだろう? と訊く。
「デスアライブだと? まさかあの羅辰はその組織と関係があるってのか?」
デスアライブ。それはどこの国にも属さない闇組織の名だ。
麻薬、武器、金、そして都合の良く使い捨てにできる人材。世の中の悪をすべて牛耳っているような闇の代名詞とも言われて恐れられている組織だ。僚一も隼もその名だけは聞いたことがあるものの、実態を掴むところまではいっていない。同じ裏社会でも、隼が治めるこの香港ように国や地域の単位で統治する者がいるわけではなく、世界中に散らばっておいそれとは正体を掴みづらくしている煙のような組織なのだ。
「デスアライブについて俺たちが把握しているのは、実態を現さない非道者の集まりだということだけだ。聞くところによると、人間を意のままに操ることのできる特殊な薬物を開発していて、それを食らった者たちは意思どころか恐怖や痛みといった感情をも削ぎ取られると言われている」
「ああ――いわば人間を戦闘用のロボットに変えるという薬物だそうな」
僚一と隼が交互に言う。
裏の世界での共通認識では、その薬物を通称DAと呼び、危惧されているそうだ。デスアライブから取った頭文字である。
「まさかあの羅辰がその組織に属していたというのか――」
そう訊いた二人に、飛燕は静かにうなずいてみせた。
「おそらくは――。私は裏の世界のことについては素人だが、この遊郭街へ来てからというもの、あの男のすぐ側で過ごしてきた。ヤツは大概の取り引きの際には用心棒として私を側に置いてきた。そんな中で度々耳にしたのがデスアライブという名だった。おそらくヤツは組織の中において中堅か、その下辺りに位置していたのではないかというのが私の印象だ」
羅辰は組織に関する者たちが訪ねて来た際、いつもボスという存在に気を遣っているように見えたという。
「この遊郭街でヤツが奔放にしていられたのも、組織という後ろ盾があってのことだろう。ヤツはここで稼いだ金を組織に上納し、少しでも立場を良くしようと必死のようだった」
と同時にボスという存在を恐れていたようにも思える、飛燕はそう言った。
「おそらくヤツが逃げ込むとすれば組織だろう。ただし――今回のことで失脚したも同然の羅辰を組織が寛容に扱うかは保障できんところだ」
もしかしたらしくじったことで上から消されてしまう可能性も高いだろうと飛燕は見ているようだ。
「だからヤツを逃したというわけか――」
逃したところでおそらくは黙っていても始末される運命にあるだろう羅辰を、わざわざ自分たちの手を汚してまで討ち取る必要はないということだ。
「まあ、ヤツを捕まえておけば組織の実態について何かしら聞き出せることがあったやも知れんがね」
ただし、羅辰が知っている実情などそれこそ大したものでもないだろうというのも事実だろう。
26
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)
藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!?
手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる