極道恋浪漫

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
69 / 149
極道恋浪漫 第一章

67

しおりを挟む
「親父……」
「すまなかったな、紫月ズィユエ――」

 私は厳しいだけの父親だった。
 だが、それで良かったと思っている。ともすれば生死が紙一重のような特殊なこの街で、お前が自分の身を守れるように導くことが何より重要だった。
 敢えてやさしい言葉をかけずにきた。
 敢えて微笑まず、あたたかな触れ合いを持たず、ただただ厳しく接してきた。

 瞳を細めて我が息子を見やる飛燕の傍らで、僚一が彼に代わって静かに告げた。

「そうか――なるほどな。あたたかい感情は時に強い信頼や絆を生むが、同時に脆さにも繋がりかねない。ましてや命がかかった絶体絶命の中にあっては、時に恨みを伴うくらいに厳しい感情を植え付けた方が結果的に身を守れることに繋がる場合もある。お前さんは紫月ズィユエが無事で、一日でも長く生きられるなら、自分自身が嫌われることも恨まれることも厭わなかったということか」

 そうであろう? と、交互に父子を見やった。

「うむ――そんなに格好のいいものではないがな。ただ……今こうしてあの羅辰ルオ チェンから解放されてみれば、紫月ズィユエには辛い思いしかさせてこなかったと……申し訳ない気持ちでいっぱいだ」

 すまなかった、そう言って飛燕はそっと息子の肩に手を置いた。

「親父……」
紫月ズィユエ――。ずっと……抱き締めてやりたかった。思い切り甘やかしてやりたかった」
「ンな……の、俺ン方こそ……親父の背負ってきたもんを……全然気付かずにのうのうとしてて……」

 馬鹿だ、俺――!

「ごめんな、親父……。俺、俺……」
 ポロポロと美しい頬を濡らして紫月ズィユエは泣いた。
「謝るのは私だ、紫月ズィユエ。よくぞ今まで厳しい稽古にもついてきてくれた。結果として、お前は私の意を汲み取ってくれた。先程の剣捌き、実に見事であった。今、こうして皆が無事でいられるのもお前のお陰だよ」
「親父……!」
 飛燕は思い切り紫月ズィユエを腕に引き寄せ、その思いの丈を吐き出すように万感込めて抱き締めた。強く強く、二十四年分の思いをすべて捧ぐように抱き締めたのだった。
 そんな二人を囲みながら、皆もまた誘い涙に男泣きを噛み締める。とかく遼二にとっては紫月ズィユエさながらにあふれ出る涙を抑え切れなかったようだ。

(良かったな、紫月ズィユエ――! 親父さんと心が通じ合えて、本当に良かった……!)

 拭い切れない涙にイェンがそっとハンカチを差し出す。
 誰の胸にもあたたかな灯が点る、そんな瞬間だった。
 ひと時、泣き濡れた後に紫月ズィユエがハタと気付いたようにして父の飛燕を見つめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

花屋の息子

きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。 森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___? 瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け の、お話です。 不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。 攻めが出てくるまでちょっとかかります。

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

万華の咲く郷 ~番外編集~

四葩
BL
『万華の咲く郷』番外編集。 現代まで続く吉原で、女性客相手の男役と、男性客相手の女役に別れて働く高級男娼たちのお話です。 各娼妓の過去話SS、番外編まとめ。 この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは一切、関係ございません。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

光と闇の子

時雨
BL
 テオは生まれる前から愛されていた。精霊族はめったに自分で身籠らない、魔族は自分の子供には名前を付けない。しかしテオは違った。精霊族の女王である母が自らの体で産んだ子供、魔族の父が知恵を絞ってつけた名前。だがある日、「テオ」は消えた。  レイは生まれた瞬間から嫌われていた。最初は魔族の象徴である黒髪だからと精霊族に忌み嫌われ、森の中に捨てられた。そしてそれは、彼が魔界に行っても変わらなかった。半魔族だから、純血種ではないからと、蔑まれ続けた。だから、彼は目立たずに強くなっていった。  人々は知らない、「テオ」が「レイ」であると。自ら親との縁の糸を絶ったテオは、誰も信じない「レイ」になった。  だが、それでも、レイはただ一人を信じ続けた。信じてみようと思ったのだ。  BL展開は多分だいぶ後になると思います。主人公はレイ(テオ)、攻めは従者のカイルです。

処理中です...