69 / 159
極道恋浪漫 第一章
67
しおりを挟む
「親父……」
「すまなかったな、紫月――」
私は厳しいだけの父親だった。
だが、それで良かったと思っている。ともすれば生死が紙一重のような特殊なこの街で、お前が自分の身を守れるように導くことが何より重要だった。
敢えてやさしい言葉をかけずにきた。
敢えて微笑まず、あたたかな触れ合いを持たず、ただただ厳しく接してきた。
瞳を細めて我が息子を見やる飛燕の傍らで、僚一が彼に代わって静かに告げた。
「そうか――なるほどな。あたたかい感情は時に強い信頼や絆を生むが、同時に脆さにも繋がりかねない。ましてや命がかかった絶体絶命の中にあっては、時に恨みを伴うくらいに厳しい感情を植え付けた方が結果的に身を守れることに繋がる場合もある。お前さんは紫月が無事で、一日でも長く生きられるなら、自分自身が嫌われることも恨まれることも厭わなかったということか」
そうであろう? と、交互に父子を見やった。
「うむ――そんなに格好のいいものではないがな。ただ……今こうしてあの羅辰から解放されてみれば、紫月には辛い思いしかさせてこなかったと……申し訳ない気持ちでいっぱいだ」
すまなかった、そう言って飛燕はそっと息子の肩に手を置いた。
「親父……」
「紫月――。ずっと……抱き締めてやりたかった。思い切り甘やかしてやりたかった」
「ンな……の、俺ン方こそ……親父の背負ってきたもんを……全然気付かずにのうのうとしてて……」
馬鹿だ、俺――!
「ごめんな、親父……。俺、俺……」
ポロポロと美しい頬を濡らして紫月は泣いた。
「謝るのは私だ、紫月。よくぞ今まで厳しい稽古にもついてきてくれた。結果として、お前は私の意を汲み取ってくれた。先程の剣捌き、実に見事であった。今、こうして皆が無事でいられるのもお前のお陰だよ」
「親父……!」
飛燕は思い切り紫月を腕に引き寄せ、その思いの丈を吐き出すように万感込めて抱き締めた。強く強く、二十四年分の思いをすべて捧ぐように抱き締めたのだった。
そんな二人を囲みながら、皆もまた誘い涙に男泣きを噛み締める。とかく遼二にとっては紫月さながらにあふれ出る涙を抑え切れなかったようだ。
(良かったな、紫月――! 親父さんと心が通じ合えて、本当に良かった……!)
拭い切れない涙に焔がそっとハンカチを差し出す。
誰の胸にもあたたかな灯が点る、そんな瞬間だった。
ひと時、泣き濡れた後に紫月がハタと気付いたようにして父の飛燕を見つめた。
「すまなかったな、紫月――」
私は厳しいだけの父親だった。
だが、それで良かったと思っている。ともすれば生死が紙一重のような特殊なこの街で、お前が自分の身を守れるように導くことが何より重要だった。
敢えてやさしい言葉をかけずにきた。
敢えて微笑まず、あたたかな触れ合いを持たず、ただただ厳しく接してきた。
瞳を細めて我が息子を見やる飛燕の傍らで、僚一が彼に代わって静かに告げた。
「そうか――なるほどな。あたたかい感情は時に強い信頼や絆を生むが、同時に脆さにも繋がりかねない。ましてや命がかかった絶体絶命の中にあっては、時に恨みを伴うくらいに厳しい感情を植え付けた方が結果的に身を守れることに繋がる場合もある。お前さんは紫月が無事で、一日でも長く生きられるなら、自分自身が嫌われることも恨まれることも厭わなかったということか」
そうであろう? と、交互に父子を見やった。
「うむ――そんなに格好のいいものではないがな。ただ……今こうしてあの羅辰から解放されてみれば、紫月には辛い思いしかさせてこなかったと……申し訳ない気持ちでいっぱいだ」
すまなかった、そう言って飛燕はそっと息子の肩に手を置いた。
「親父……」
「紫月――。ずっと……抱き締めてやりたかった。思い切り甘やかしてやりたかった」
「ンな……の、俺ン方こそ……親父の背負ってきたもんを……全然気付かずにのうのうとしてて……」
馬鹿だ、俺――!
「ごめんな、親父……。俺、俺……」
ポロポロと美しい頬を濡らして紫月は泣いた。
「謝るのは私だ、紫月。よくぞ今まで厳しい稽古にもついてきてくれた。結果として、お前は私の意を汲み取ってくれた。先程の剣捌き、実に見事であった。今、こうして皆が無事でいられるのもお前のお陰だよ」
「親父……!」
飛燕は思い切り紫月を腕に引き寄せ、その思いの丈を吐き出すように万感込めて抱き締めた。強く強く、二十四年分の思いをすべて捧ぐように抱き締めたのだった。
そんな二人を囲みながら、皆もまた誘い涙に男泣きを噛み締める。とかく遼二にとっては紫月さながらにあふれ出る涙を抑え切れなかったようだ。
(良かったな、紫月――! 親父さんと心が通じ合えて、本当に良かった……!)
拭い切れない涙に焔がそっとハンカチを差し出す。
誰の胸にもあたたかな灯が点る、そんな瞬間だった。
ひと時、泣き濡れた後に紫月がハタと気付いたようにして父の飛燕を見つめた。
42
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説

悪魔の犬
おさかな
BL
あるヤクザの組、篝火会(かがりびかい)の組長代理である黒川来夏(くろかわらいか)は篝火会の組員が全治2ヶ月の大怪我をする事件が多発していた。怪我をした組員は皆「黒木来夏に合わせろ」と襲撃犯に言われたという。そして黒木来夏が襲撃犯の元へ向かうと…。
初めてアルファポリスで投稿をしたおさかなです。小説を作る自体が初めてなので誤字脱字などがあってもご了承ください。もしかしたらグロテスクな表現があると思います。
毎日一話更新する予定です。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。


甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる