67 / 110
極道恋浪漫 第一章
65
しおりを挟む
「私は羅辰の側近連中がどうやって彼らを葬っているのかということを探ることにした。それによると、彼らもまた遊女らの始末には手を焼いていたようだった」
例の銃撃事件以来、邸内での発砲が御法度になったこともあり、殺戮には刃物や鈍器などが使われていたようだが、実行部隊の連中にとってもあまり気持ちのいいものではなかったようだ。飛び散った血痕の処理にも手を焼き、清掃を怠れば思いも掛けない感染病に繋がりかねない。以前から殺戮専用の倉庫が使われていたそうだが、そこは見るも無惨な拷問部屋さながらだったという。
「そこで私は羅辰に始末役を買って出る提案をした。剣術によって体内から血を流すことなく葬る方法があると伝えたところ、側近連中が是非ともそうしてくれと言ったこともあって、ヤツも割合容易に承諾した。その際、私は引き受ける条件として紫月と菫の将来について羅辰との間で或る取り引きを交わしたのだ」
それは、紫月が年頃になっても決して色を売らせないこと。その代わりに男娼らの取りまとめ役として事務方の一切を彼に任せ、菫を下男として側に置くこと。その二点であった。
「私は春日野夫妻から菫を預かり、紫月と菫に日本語と武術を仕込んで育てることにした。表向きは遊郭街の人寄せパンダでいい、春日野夫妻も容姿には恵まれていたから、紫月も菫もそれなりに育つはずだと言って羅辰を説得したのだ。子供たちには日本人であることと拉致によってこの街に来たことを伏せ、苗字は存在しないものと教えた。呼び方を広東語読みのズィユエとジンに変えたのもその時だった」
飛燕は他にも遊郭街で起こった揉め事の仲裁役も引き受け、普段は羅辰の護衛として彼の邸の離れに住まわされることになったのだそうだ。
子供たちが高校に上がると、学業の傍ら、男遊郭の華・客寄せ専門の看板男娼として最上級の妓楼でデビューさせた。店の名を椿楼に変えさせたのもこの時だった。
そうして子供たちを安全な場所に置き、表向きは始末役として羅辰の信頼を勝ち得ながら、春日野夫妻のいる病院から送られてくる病の者たちを密かに塵コンテナに隠して鄧一家へ預けてきたというわけだった。
「二十四年前、この香港へ旅行する際に幼い紫月を実家に預けてくるべきだったと、幾度後悔したことか知れない。だが、妻の泪を亡くしたばかりの私にとって、紫月は彼女が残してくれたたったひとつの大事な宝だったのでな。新婚旅行で泪と共に訪れた香港の――活気ある街を紫月にも見せておいてやりたい、そんな気持ちもあってな。どうしても離れる気にはなれなかったのだ」
飛燕のそのひと言に一等驚いたのは紫月だ。
まさかこの冷徹と思い続けてきた父がそんなふうに思って長い年月を過ごしてきたのだということが、すぐには信じられなくもあった。そしてそれは隼や僚一、焔と遼二にとっても同様、聞くからに壮絶といえる四半世紀の出来事だった。
「――そうだったのか。この二十四年はお前さんにとってたいへんな年月だったのだな。だが、よくぞ無事で生きていてくれた」
僚一はそれが何よりだったと言って目頭を熱くした。
例の銃撃事件以来、邸内での発砲が御法度になったこともあり、殺戮には刃物や鈍器などが使われていたようだが、実行部隊の連中にとってもあまり気持ちのいいものではなかったようだ。飛び散った血痕の処理にも手を焼き、清掃を怠れば思いも掛けない感染病に繋がりかねない。以前から殺戮専用の倉庫が使われていたそうだが、そこは見るも無惨な拷問部屋さながらだったという。
「そこで私は羅辰に始末役を買って出る提案をした。剣術によって体内から血を流すことなく葬る方法があると伝えたところ、側近連中が是非ともそうしてくれと言ったこともあって、ヤツも割合容易に承諾した。その際、私は引き受ける条件として紫月と菫の将来について羅辰との間で或る取り引きを交わしたのだ」
それは、紫月が年頃になっても決して色を売らせないこと。その代わりに男娼らの取りまとめ役として事務方の一切を彼に任せ、菫を下男として側に置くこと。その二点であった。
「私は春日野夫妻から菫を預かり、紫月と菫に日本語と武術を仕込んで育てることにした。表向きは遊郭街の人寄せパンダでいい、春日野夫妻も容姿には恵まれていたから、紫月も菫もそれなりに育つはずだと言って羅辰を説得したのだ。子供たちには日本人であることと拉致によってこの街に来たことを伏せ、苗字は存在しないものと教えた。呼び方を広東語読みのズィユエとジンに変えたのもその時だった」
飛燕は他にも遊郭街で起こった揉め事の仲裁役も引き受け、普段は羅辰の護衛として彼の邸の離れに住まわされることになったのだそうだ。
子供たちが高校に上がると、学業の傍ら、男遊郭の華・客寄せ専門の看板男娼として最上級の妓楼でデビューさせた。店の名を椿楼に変えさせたのもこの時だった。
そうして子供たちを安全な場所に置き、表向きは始末役として羅辰の信頼を勝ち得ながら、春日野夫妻のいる病院から送られてくる病の者たちを密かに塵コンテナに隠して鄧一家へ預けてきたというわけだった。
「二十四年前、この香港へ旅行する際に幼い紫月を実家に預けてくるべきだったと、幾度後悔したことか知れない。だが、妻の泪を亡くしたばかりの私にとって、紫月は彼女が残してくれたたったひとつの大事な宝だったのでな。新婚旅行で泪と共に訪れた香港の――活気ある街を紫月にも見せておいてやりたい、そんな気持ちもあってな。どうしても離れる気にはなれなかったのだ」
飛燕のそのひと言に一等驚いたのは紫月だ。
まさかこの冷徹と思い続けてきた父がそんなふうに思って長い年月を過ごしてきたのだということが、すぐには信じられなくもあった。そしてそれは隼や僚一、焔と遼二にとっても同様、聞くからに壮絶といえる四半世紀の出来事だった。
「――そうだったのか。この二十四年はお前さんにとってたいへんな年月だったのだな。だが、よくぞ無事で生きていてくれた」
僚一はそれが何よりだったと言って目頭を熱くした。
40
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王
ミクリ21
BL
姫が拐われた!
……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。
しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。
誰が拐われたのかを調べる皆。
一方魔王は?
「姫じゃなくて勇者なんだが」
「え?」
姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?
身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)
振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話
雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。
諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。
実は翔には諒平に隠している事実があり——。
諒平(20)攻め。大学生。
翔(20) 受け。大学生。
慶介(21)翔と同じサークルの友人。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる