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極道恋浪漫 第一章
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「私は羅辰の側近連中がどうやって彼らを葬っているのかということを探ることにした。それによると、彼らもまた遊女らの始末には手を焼いていたようだった」
例の銃撃事件以来、邸内での発砲が御法度になったこともあり、殺戮には刃物や鈍器などが使われていたようだが、実行部隊の連中にとってもあまり気持ちのいいものではなかったようだ。飛び散った血痕の処理にも手を焼き、清掃を怠れば思いも掛けない感染病に繋がりかねない。以前から殺戮専用の倉庫が使われていたそうだが、そこは見るも無惨な拷問部屋さながらだったという。
「そこで私は羅辰に始末役を買って出る提案をした。剣術によって体内から血を流すことなく葬る方法があると伝えたところ、側近連中が是非ともそうしてくれと言ったこともあって、ヤツも割合容易に承諾した。その際、私は引き受ける条件として紫月と菫の将来について羅辰との間で或る取り引きを交わしたのだ」
それは、紫月が年頃になっても決して色を売らせないこと。その代わりに男娼らの取りまとめ役として事務方の一切を彼に任せ、菫を下男として側に置くこと。その二点であった。
「私は春日野夫妻から菫を預かり、紫月と菫に日本語と武術を仕込んで育てることにした。表向きは遊郭街の人寄せパンダでいい、春日野夫妻も容姿には恵まれていたから、紫月も菫もそれなりに育つはずだと言って羅辰を説得したのだ。子供たちには日本人であることと拉致によってこの街に来たことを伏せ、苗字は存在しないものと教えた。呼び方を広東語読みのズィユエとジンに変えたのもその時だった」
飛燕は他にも遊郭街で起こった揉め事の仲裁役も引き受け、普段は羅辰の護衛として彼の邸の離れに住まわされることになったのだそうだ。
子供たちが高校に上がると、学業の傍ら、男遊郭の華・客寄せ専門の看板男娼として最上級の妓楼でデビューさせた。店の名を椿楼に変えさせたのもこの時だった。
そうして子供たちを安全な場所に置き、表向きは始末役として羅辰の信頼を勝ち得ながら、春日野夫妻のいる病院から送られてくる病の者たちを密かに塵コンテナに隠して鄧一家へ預けてきたというわけだった。
「二十四年前、この香港へ旅行する際に幼い紫月を実家に預けてくるべきだったと、幾度後悔したことか知れない。だが、妻の泪を亡くしたばかりの私にとって、紫月は彼女が残してくれたたったひとつの大事な宝だったのでな。新婚旅行で泪と共に訪れた香港の――活気ある街を紫月にも見せておいてやりたい、そんな気持ちもあってな。どうしても離れる気にはなれなかったのだ」
飛燕のそのひと言に一等驚いたのは紫月だ。
まさかこの冷徹と思い続けてきた父がそんなふうに思って長い年月を過ごしてきたのだということが、すぐには信じられなくもあった。そしてそれは隼や僚一、焔と遼二にとっても同様、聞くからに壮絶といえる四半世紀の出来事だった。
「――そうだったのか。この二十四年はお前さんにとってたいへんな年月だったのだな。だが、よくぞ無事で生きていてくれた」
僚一はそれが何よりだったと言って目頭を熱くした。
例の銃撃事件以来、邸内での発砲が御法度になったこともあり、殺戮には刃物や鈍器などが使われていたようだが、実行部隊の連中にとってもあまり気持ちのいいものではなかったようだ。飛び散った血痕の処理にも手を焼き、清掃を怠れば思いも掛けない感染病に繋がりかねない。以前から殺戮専用の倉庫が使われていたそうだが、そこは見るも無惨な拷問部屋さながらだったという。
「そこで私は羅辰に始末役を買って出る提案をした。剣術によって体内から血を流すことなく葬る方法があると伝えたところ、側近連中が是非ともそうしてくれと言ったこともあって、ヤツも割合容易に承諾した。その際、私は引き受ける条件として紫月と菫の将来について羅辰との間で或る取り引きを交わしたのだ」
それは、紫月が年頃になっても決して色を売らせないこと。その代わりに男娼らの取りまとめ役として事務方の一切を彼に任せ、菫を下男として側に置くこと。その二点であった。
「私は春日野夫妻から菫を預かり、紫月と菫に日本語と武術を仕込んで育てることにした。表向きは遊郭街の人寄せパンダでいい、春日野夫妻も容姿には恵まれていたから、紫月も菫もそれなりに育つはずだと言って羅辰を説得したのだ。子供たちには日本人であることと拉致によってこの街に来たことを伏せ、苗字は存在しないものと教えた。呼び方を広東語読みのズィユエとジンに変えたのもその時だった」
飛燕は他にも遊郭街で起こった揉め事の仲裁役も引き受け、普段は羅辰の護衛として彼の邸の離れに住まわされることになったのだそうだ。
子供たちが高校に上がると、学業の傍ら、男遊郭の華・客寄せ専門の看板男娼として最上級の妓楼でデビューさせた。店の名を椿楼に変えさせたのもこの時だった。
そうして子供たちを安全な場所に置き、表向きは始末役として羅辰の信頼を勝ち得ながら、春日野夫妻のいる病院から送られてくる病の者たちを密かに塵コンテナに隠して鄧一家へ預けてきたというわけだった。
「二十四年前、この香港へ旅行する際に幼い紫月を実家に預けてくるべきだったと、幾度後悔したことか知れない。だが、妻の泪を亡くしたばかりの私にとって、紫月は彼女が残してくれたたったひとつの大事な宝だったのでな。新婚旅行で泪と共に訪れた香港の――活気ある街を紫月にも見せておいてやりたい、そんな気持ちもあってな。どうしても離れる気にはなれなかったのだ」
飛燕のそのひと言に一等驚いたのは紫月だ。
まさかこの冷徹と思い続けてきた父がそんなふうに思って長い年月を過ごしてきたのだということが、すぐには信じられなくもあった。そしてそれは隼や僚一、焔と遼二にとっても同様、聞くからに壮絶といえる四半世紀の出来事だった。
「――そうだったのか。この二十四年はお前さんにとってたいへんな年月だったのだな。だが、よくぞ無事で生きていてくれた」
僚一はそれが何よりだったと言って目頭を熱くした。
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