55 / 136
極道恋浪漫 第一章
53 秘密裏の試み
しおりを挟む
それによると、彼はこの九龍城砦で医者をしている男で、名を鄧揺といった。
彼には息子が二人いて、鄧海と鄧浩というそうだ。息子たちは焔や遼二とほぼ同じ年頃だそうだが、親子三人で砦に医療所を構えているという。つまり医者だ。
彼の妻も両親も一家揃って医者だそうだが、城砦の外で開業医をしているそうだ。代々医者の家系らしい。
元々一家で医院をしていたそうだが、この九龍城砦――といっても焔が治める地下街の方ではなく、地上に建つスラム区に当たる場所――にて医者にかかることもできずに命を蝕んでいく貧しい人々がいることに心を痛め、一家が交代でここに常駐するようになったそうだ。
鄧海と鄧浩の兄弟が成長し、医師として働けるようになってからは、主に父子三人で砦内を診ているのだという。そんな鄧揺が飛燕と知り合ったのは今から二十年以上前のこと――つまり飛燕と紫月が遊郭街に拉致されて間もなくの頃だったそうだ。
それ以前から、遊郭街では病に罹り使い物にならなくなった遊女や男娼を秘密裏に葬ってきたらしい。ところが飛燕がお役目様――つまり用心棒のことだが――その役目に就くようになってから、本来であれば葬られる者たちを密かに鄧に預け、命を救ってきたというのだ。
「飛燕殿と知り合ったきっかけは遊郭街の病院で医師をしている私の同業者からの紹介でした。病に罹った遊女男娼らを義理も人情もなく葬り続けていた遊郭街の実情に心を痛めた飛燕殿は、彼らを処刑する役目を自ら名乗り出たそうでな。表向きは葬ったということにして、密かに塵のコンテナに彼らを乗せ、私の元へ送り届けてくるようになったのだ」
その者たちに治療を施し、彼らをこの九龍城砦の外へ逃すのが鄧の役目だったそうだ。
「飛燕殿は治療費の他に彼らが当座生活できるようにと金まで握らせてくれてな。あの人のお陰でこれまで何百何千という遊女男娼らの命が散らされずに済んだことか――。誠、飛燕殿は神か仏の化身といえる御方だ」
遊郭街で使い物にならなくなった者たちの始末には頭目の側近連中が監視役として付き添うのだそうが、飛燕は自らの尋常ならぬ剣術の腕を以って、始末される者たちを真の死人のように見せ掛けてきたのだそうだ。
「飛燕殿は始末されることが決まった遊女男娼ら事情を話し、しばしの間は仮死状態でいられるよう取り計らうとお伝えなさった。塵としてコンテナに積み込み、目が覚めたら九龍城砦内にいる鄧という医者の元へ行けと言って彼らを峰打ちで眠らせた。その直後に頭目の側近方が本当に死んだかどうか確かめに来るそうなのだが、その時点では心の臓も脈も動いていないかのように見せることのできる技をお持ちだった。常人には到底出来得ない神業だ」
側近たちの検閲が済んだ後は、遊郭街から出た他の塵と一緒にコンテナに詰め込まれて砦の外へと運ばれる。その途中、地下街のすべての塵が一旦集められるこの九龍城砦廃棄物集積所にて鄧一家が峰打ちから目覚めた遊女男娼らを秘密裏に引き取っていたというのだ。
事情を聞いた焔ら一行は、信じ難いような話に驚きを通り越して絶句させられてしまった。
彼には息子が二人いて、鄧海と鄧浩というそうだ。息子たちは焔や遼二とほぼ同じ年頃だそうだが、親子三人で砦に医療所を構えているという。つまり医者だ。
彼の妻も両親も一家揃って医者だそうだが、城砦の外で開業医をしているそうだ。代々医者の家系らしい。
元々一家で医院をしていたそうだが、この九龍城砦――といっても焔が治める地下街の方ではなく、地上に建つスラム区に当たる場所――にて医者にかかることもできずに命を蝕んでいく貧しい人々がいることに心を痛め、一家が交代でここに常駐するようになったそうだ。
鄧海と鄧浩の兄弟が成長し、医師として働けるようになってからは、主に父子三人で砦内を診ているのだという。そんな鄧揺が飛燕と知り合ったのは今から二十年以上前のこと――つまり飛燕と紫月が遊郭街に拉致されて間もなくの頃だったそうだ。
それ以前から、遊郭街では病に罹り使い物にならなくなった遊女や男娼を秘密裏に葬ってきたらしい。ところが飛燕がお役目様――つまり用心棒のことだが――その役目に就くようになってから、本来であれば葬られる者たちを密かに鄧に預け、命を救ってきたというのだ。
「飛燕殿と知り合ったきっかけは遊郭街の病院で医師をしている私の同業者からの紹介でした。病に罹った遊女男娼らを義理も人情もなく葬り続けていた遊郭街の実情に心を痛めた飛燕殿は、彼らを処刑する役目を自ら名乗り出たそうでな。表向きは葬ったということにして、密かに塵のコンテナに彼らを乗せ、私の元へ送り届けてくるようになったのだ」
その者たちに治療を施し、彼らをこの九龍城砦の外へ逃すのが鄧の役目だったそうだ。
「飛燕殿は治療費の他に彼らが当座生活できるようにと金まで握らせてくれてな。あの人のお陰でこれまで何百何千という遊女男娼らの命が散らされずに済んだことか――。誠、飛燕殿は神か仏の化身といえる御方だ」
遊郭街で使い物にならなくなった者たちの始末には頭目の側近連中が監視役として付き添うのだそうが、飛燕は自らの尋常ならぬ剣術の腕を以って、始末される者たちを真の死人のように見せ掛けてきたのだそうだ。
「飛燕殿は始末されることが決まった遊女男娼ら事情を話し、しばしの間は仮死状態でいられるよう取り計らうとお伝えなさった。塵としてコンテナに積み込み、目が覚めたら九龍城砦内にいる鄧という医者の元へ行けと言って彼らを峰打ちで眠らせた。その直後に頭目の側近方が本当に死んだかどうか確かめに来るそうなのだが、その時点では心の臓も脈も動いていないかのように見せることのできる技をお持ちだった。常人には到底出来得ない神業だ」
側近たちの検閲が済んだ後は、遊郭街から出た他の塵と一緒にコンテナに詰め込まれて砦の外へと運ばれる。その途中、地下街のすべての塵が一旦集められるこの九龍城砦廃棄物集積所にて鄧一家が峰打ちから目覚めた遊女男娼らを秘密裏に引き取っていたというのだ。
事情を聞いた焔ら一行は、信じ難いような話に驚きを通り越して絶句させられてしまった。
42
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)
藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!?
手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる