極道恋浪漫

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
54 / 136
極道恋浪漫 第一章

52

しおりを挟む
 二日後、九龍城砦塵集積所――。

「来たぞ。あれが遊郭街からの収集車だ」
 業者に化けたイェンと鐘崎父子の三人は、逸る気持ちでそれを待っていた。
「あれぇ? 今日はいつもの連中と違うのな」
 収集車の運転手は三人を見てそうつぶやいたが、そこはイェンが上手いこと言い繕う。三人共に普段とは全く違う作業着姿で変装して来たこともあり、運転手も城壁の皇帝だとは夢にも思っていないようだ。
「今日は連中、風邪をわずらってな。俺らが交代でこっちに回されたんだ」
「へえ、そうかい。んじゃ、これ頼むわ」
 特に疑うこともなく塵の詰め込まれたコンテナを下ろして去って行った。
「よし、中を確かめよう」
 三人でコンテナの扉を開ける。

 ――と、中にはゴミに紛れて目を疑うような光景が飛び込んできて絶句。
 なんとそこには遊女や男娼と思われる人間が数人横たわっていたからだ。

「こいつぁ……」
「……どういうこった」
 着ている物から察するに遊女と男娼で間違いない。しかも全員が意識を失ったようにして横たわったまま詰め込まれていたのだから驚きもするだろう。
「まさか――死んでいるのか?」
 急いで確かめたところ、どうやら死体ではないようだった。
「気を失っているだけだ。息はある――!」
「おい、しっかりしろ!」
 揺り起こすと、その中の一人が目を覚ました。
「……あの……あなたがデェン先生で……すか?」
「鄧――?」
「九龍城砦のデェン先生が……お迎えに来てくださるとお役目様が……」

(お役目様? というと、飛燕がそう言ったというのか――?)

「お前さん方は遊郭街の者だな? なぜこんなゴミの山の中に埋もれているのだ。お役目様とは飛燕という男のことだな? ヤツから何か言云ことづかっているのか?」
 僚一が訊いたが、それとほぼ同時だった。
デェンは私だが――あんた方は?」
 デェンと名乗る中年の男からそう声を掛けられた。そのデェンもまた、イェンの顔を見て城壁の皇帝だと察したようだった。
「貴方様は周家の――」
「ああ。周焔ジォウ イェンだ。あんたは――? それよりこの連中はいったい――」
「やはり皇帝様であられたか。あんた方は飛燕殿のお知り合いか?」
 たった今、僚一が口走った『飛燕』という名が聞こえていたのだろう、デェンという男はそう訊いてきた。
「いかにも。飛燕は俺の古くからの友だが――。それよりこれはどういうことなんだ。この者たちは見たところ遊郭街の遊女と男娼のようだが」
 僚一が問う。
「ほう? あんた方は飛燕殿の友とな……。良かろう。皇帝様もご一緒ということは、あんた方も悪いお人ではないのだろう」
 僚一と遼二の二人をちらりと見やりながら、デェンという男は理由を話そうと言った。その話を聞いて、三人は滅法驚かされることとなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

処理中です...