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極道恋浪漫 第一章
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「なるほど――そうであったか」
ところで――と言って僚一は更なる先を続けた。
「紫月、お前さんは男遊郭を束ねる役目にあるとのことだが、お父上はどのような仕事に就いておられるのだろう」
「……は、父は遊郭街の治安に携わる任を負っております」
例えば各妓楼で喧嘩や揉め事が起きた際に仲裁に入るような役目だそうだ。
「父は少々武道の心得がございますもので」
「武道の心得――とな」
「はい……」
「遊郭街ではずっとその役目を担ってきたと?」
「そうです。私が物心ついた時分からその仕事で生計を立てて参りました」
ということは、もしもその父親というのが一之宮飛燕だったとして、彼は男娼にはなっていなかったということになる。
先程この紫月は父の名を『フェイェン』だと言った。どういった字を書くのかは聞いていないが、飛燕を広東語読みにすると確かにフェイェンとなる。それ以前に、こうして間近に見る紫月の顔立ちが当時の飛燕に生き写しというくらいに似ているのは疑いようのない事実といえる。
二人は二十四年前に行方不明になった一之宮父子でほぼ間違いない――僚一はそう確信した。
「お父上が治安の役目をされているのであれば、お前さんはそれを継ごうとは思わなかったのか?」
一之宮飛燕ならばおそらく自分の息子にも武術を仕込んで育てたはずだ。彼が姿を消す前に、将来は息子と共に道場をやっていけたらいいという夢を語っていたのを聞いているからだ。
「お前さんもお父上から武術を教わったのではないか?」
「ええ、まあ。ですがそれこそ幼い頃の話でして、私自身は父のような才覚が無かったものですから」
とはいえ、先程からこの紫月の所作を見ていると、一見華奢そうに思える身体のどこにも隙は見当たらない。おそらくは周隼をはじめ、この場にいる誰もが少なからずそう感じていることだろう。
僚一はもちろんのこと、隼にしても焔や遼二にしても武術といった面では達人揃いだ。仮に四人がそれぞれにこの紫月を捕らえようと攻撃を仕掛けたとして、そう簡単にはいかないだろうという思いが彼の身体全体から感じられるのだ。
ふとした視線の動きにしても然り、四人を前に穏やかな会話を交わしている今この最中にも然り。いつ何時どこから攻撃が飛んできたとしても即座にかわせるだろう体勢を崩さない。それは紫月自身が意識してそうしているわけではなく、おそらくは身体に叩き込まれた無意識の動きなのだろうと思える。自分自身は父のような才覚がなかったからと彼は言ったが、それは謙遜であって、実際は相当に腕の達つだろうことを僚一は見抜いていた。
「なるほど。武術の才は無かったとな。それでお前さんは男遊郭を束ねる役目に就いたわけか」
「は、左様で」
ここまで僚一の問いには素直に答えるものの、紫月の様子を見ていると正直なところあまり触れて欲しくない話題のように感じられる。そんな奇妙な雰囲気に遼二の方はハラハラとしたような表情で二人のやり取りを窺っていた。
「紫月――お父上に会わせてもらうことはできんだろうか」
僚一のそのひと言に、紫月はそれまで垂れていた頭をハタと上げて驚いたように瞳を見開いた。
「……父に……でございますか?」
「そうだ。是非ともお会いしたい」
「はあ……」
戸惑う紫月の前に僚一は懐に忍ばせていた飛燕の写真を差し出してみせた。
ところで――と言って僚一は更なる先を続けた。
「紫月、お前さんは男遊郭を束ねる役目にあるとのことだが、お父上はどのような仕事に就いておられるのだろう」
「……は、父は遊郭街の治安に携わる任を負っております」
例えば各妓楼で喧嘩や揉め事が起きた際に仲裁に入るような役目だそうだ。
「父は少々武道の心得がございますもので」
「武道の心得――とな」
「はい……」
「遊郭街ではずっとその役目を担ってきたと?」
「そうです。私が物心ついた時分からその仕事で生計を立てて参りました」
ということは、もしもその父親というのが一之宮飛燕だったとして、彼は男娼にはなっていなかったということになる。
先程この紫月は父の名を『フェイェン』だと言った。どういった字を書くのかは聞いていないが、飛燕を広東語読みにすると確かにフェイェンとなる。それ以前に、こうして間近に見る紫月の顔立ちが当時の飛燕に生き写しというくらいに似ているのは疑いようのない事実といえる。
二人は二十四年前に行方不明になった一之宮父子でほぼ間違いない――僚一はそう確信した。
「お父上が治安の役目をされているのであれば、お前さんはそれを継ごうとは思わなかったのか?」
一之宮飛燕ならばおそらく自分の息子にも武術を仕込んで育てたはずだ。彼が姿を消す前に、将来は息子と共に道場をやっていけたらいいという夢を語っていたのを聞いているからだ。
「お前さんもお父上から武術を教わったのではないか?」
「ええ、まあ。ですがそれこそ幼い頃の話でして、私自身は父のような才覚が無かったものですから」
とはいえ、先程からこの紫月の所作を見ていると、一見華奢そうに思える身体のどこにも隙は見当たらない。おそらくは周隼をはじめ、この場にいる誰もが少なからずそう感じていることだろう。
僚一はもちろんのこと、隼にしても焔や遼二にしても武術といった面では達人揃いだ。仮に四人がそれぞれにこの紫月を捕らえようと攻撃を仕掛けたとして、そう簡単にはいかないだろうという思いが彼の身体全体から感じられるのだ。
ふとした視線の動きにしても然り、四人を前に穏やかな会話を交わしている今この最中にも然り。いつ何時どこから攻撃が飛んできたとしても即座にかわせるだろう体勢を崩さない。それは紫月自身が意識してそうしているわけではなく、おそらくは身体に叩き込まれた無意識の動きなのだろうと思える。自分自身は父のような才覚がなかったからと彼は言ったが、それは謙遜であって、実際は相当に腕の達つだろうことを僚一は見抜いていた。
「なるほど。武術の才は無かったとな。それでお前さんは男遊郭を束ねる役目に就いたわけか」
「は、左様で」
ここまで僚一の問いには素直に答えるものの、紫月の様子を見ていると正直なところあまり触れて欲しくない話題のように感じられる。そんな奇妙な雰囲気に遼二の方はハラハラとしたような表情で二人のやり取りを窺っていた。
「紫月――お父上に会わせてもらうことはできんだろうか」
僚一のそのひと言に、紫月はそれまで垂れていた頭をハタと上げて驚いたように瞳を見開いた。
「……父に……でございますか?」
「そうだ。是非ともお会いしたい」
「はあ……」
戸惑う紫月の前に僚一は懐に忍ばせていた飛燕の写真を差し出してみせた。
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