45 / 159
極道恋浪漫 第一章
43
しおりを挟む
「仮にヤツと赤子がここの遊郭街に囚われたのだとすれば――」
僚一が長い間捜し出せなかったことにも納得がいくというものだ。治外法権とも言われ、マフィアトップの周ファミリーであってもおいそれとは手が出しにくい特殊な遊郭街――。
「遼二、その紫月というのは幾つだと言っていた?」
「幾つって……歳のことか? いや、そこまでは聞いてねえが」
彼が僚一の知り合いの息子だとすれば、今は二十四歳くらいのはずだそうだ。
「歳は聞かなかったが――俺たちよりは若干若く見えた気もするな」
確か紫月本人もそのようなことを口走っていたことを思い出す。実際、遼二を見て、『アンタは俺よりも歳上に思えたからさ』と言っていた。
「そういえば最初に俺を遼生と呼んだっけ……。ってことは俺たちよりも歳下であるのは確かかもな」
「そうだな……。冰というボウズよりは当然上に感じられたが、俺とカネよりは下のように思えたな」
焔も自分たちより歳上には思えなかったという。
「とすれば、本当に本人かも知れんな。その紫月という男の生い立ちやなんかはどうだ。どこで生まれて、何故この街に住み着くことになったのかなどの話は出なかったか?」
冰を捜しに行った晩、紫月と一緒に過ごしたのは遼二の方だ。
「確かに――紫月があの遊郭街に住み着いたのは生まれて間もなくの頃だと言っていた。だったら生まれは何処だと訊きたかったんだが、初対面だったしさすがにそこまでは言い出せなくてな。てっきり香港の生まれとばかり思っていたんだが……」
ということは、紫月は日本人ということだろうか。
「けど――両親の話なんかは一切出なかったな。香港人にしちゃやけに日本語が流暢だとは思ったが、それも遊郭の仕事の一環だとばかり思って疑わなかった……。あの遊郭街には日本人の客も多いと言っていたし」
だとすれば僚一の知り合いだという紫月の父親が広東語や英語の他に日本語もまじえて育てたという可能性が考えられる。
「遼二、焔。その紫月という男に会うことはできるか?」
僚一は直に紫月に会ってみたいと言った。
「もしかしたら――飛燕もあの遊郭街のどこかで生きているやも知れん」
「飛燕――っていうのか? その人の名前」
「ああ。一之宮飛燕、日本人だ」
「じゃあ……紫月は」
一之宮紫月――。
「紫月という男娼が飛燕の息子なら、それが彼の本当の名ということになる」
「一之宮紫月……。あの紫月が……俺と同じ日本人……」
あまりの驚きに遼二は見開いたままの瞳に瞬きすら忘れてしまいそうだった。もしもそれが事実で、当時飛燕と紫月の父子が無事に香港旅行から帰って来ていたとするなら、今頃は良き友となっていたかも知れないのだ。
「あの紫月が……日本人……」
遼二のみならず、その場の誰もが驚きに言葉を失ってしまった。
「飛燕は当時二十代の半ばだったはずだが、ヤツはこの通りの容姿だ。実際の年齢よりも若く見られたのだろうな。旅行中に遊郭街の連中から目をつけられて拐われたと考えてもおかしくはない」
「ではその飛燕というお前さんの友は男娼にさせられた可能性もあるということか」
焔の父・隼が訊く。
「可能性としては有り得ん話ではないだろうな。仮にそれが事実だったとすれば、当時遊郭街でも引き手数多の男娼になったはずだ」
むろん、年齢的に言えば今はもう現役を退いているはずだが、存命であるなら彼もまた紫月同様あの遊郭街で暮らしているはずだ。
僚一が長い間捜し出せなかったことにも納得がいくというものだ。治外法権とも言われ、マフィアトップの周ファミリーであってもおいそれとは手が出しにくい特殊な遊郭街――。
「遼二、その紫月というのは幾つだと言っていた?」
「幾つって……歳のことか? いや、そこまでは聞いてねえが」
彼が僚一の知り合いの息子だとすれば、今は二十四歳くらいのはずだそうだ。
「歳は聞かなかったが――俺たちよりは若干若く見えた気もするな」
確か紫月本人もそのようなことを口走っていたことを思い出す。実際、遼二を見て、『アンタは俺よりも歳上に思えたからさ』と言っていた。
「そういえば最初に俺を遼生と呼んだっけ……。ってことは俺たちよりも歳下であるのは確かかもな」
「そうだな……。冰というボウズよりは当然上に感じられたが、俺とカネよりは下のように思えたな」
焔も自分たちより歳上には思えなかったという。
「とすれば、本当に本人かも知れんな。その紫月という男の生い立ちやなんかはどうだ。どこで生まれて、何故この街に住み着くことになったのかなどの話は出なかったか?」
冰を捜しに行った晩、紫月と一緒に過ごしたのは遼二の方だ。
「確かに――紫月があの遊郭街に住み着いたのは生まれて間もなくの頃だと言っていた。だったら生まれは何処だと訊きたかったんだが、初対面だったしさすがにそこまでは言い出せなくてな。てっきり香港の生まれとばかり思っていたんだが……」
ということは、紫月は日本人ということだろうか。
「けど――両親の話なんかは一切出なかったな。香港人にしちゃやけに日本語が流暢だとは思ったが、それも遊郭の仕事の一環だとばかり思って疑わなかった……。あの遊郭街には日本人の客も多いと言っていたし」
だとすれば僚一の知り合いだという紫月の父親が広東語や英語の他に日本語もまじえて育てたという可能性が考えられる。
「遼二、焔。その紫月という男に会うことはできるか?」
僚一は直に紫月に会ってみたいと言った。
「もしかしたら――飛燕もあの遊郭街のどこかで生きているやも知れん」
「飛燕――っていうのか? その人の名前」
「ああ。一之宮飛燕、日本人だ」
「じゃあ……紫月は」
一之宮紫月――。
「紫月という男娼が飛燕の息子なら、それが彼の本当の名ということになる」
「一之宮紫月……。あの紫月が……俺と同じ日本人……」
あまりの驚きに遼二は見開いたままの瞳に瞬きすら忘れてしまいそうだった。もしもそれが事実で、当時飛燕と紫月の父子が無事に香港旅行から帰って来ていたとするなら、今頃は良き友となっていたかも知れないのだ。
「あの紫月が……日本人……」
遼二のみならず、その場の誰もが驚きに言葉を失ってしまった。
「飛燕は当時二十代の半ばだったはずだが、ヤツはこの通りの容姿だ。実際の年齢よりも若く見られたのだろうな。旅行中に遊郭街の連中から目をつけられて拐われたと考えてもおかしくはない」
「ではその飛燕というお前さんの友は男娼にさせられた可能性もあるということか」
焔の父・隼が訊く。
「可能性としては有り得ん話ではないだろうな。仮にそれが事実だったとすれば、当時遊郭街でも引き手数多の男娼になったはずだ」
むろん、年齢的に言えば今はもう現役を退いているはずだが、存命であるなら彼もまた紫月同様あの遊郭街で暮らしているはずだ。
32
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説


そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。



鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる