極道恋浪漫

一園木蓮

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極道恋浪漫 第一章

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「ふむ、まるでスパルタ教育といったところだな……」
 イェンは眉間に皺が寄ってしまうのを抑えらえなかった。
「それで、宿舎での教育期間というのはどのくらいなのだ?」
「はい、僕はここに来て一ヶ月ほどですが、ご先輩方の話では半年から一年で男娼としてお客様の前に出るようになるのだそうです。期間は人によっても違うようで、宿舎替えなどもあると聞きました」
「宿舎替え?」
「はい。僕のいる北でも、ある日突然宿舎長さんに組替えだと言われて、東や南に移って行った人がいました。ただでさえ北は人数が少ないのにねって、宿舎の皆んなで話していました」
 つまり当初の見込み違いや個性によって、売り出す方向性を変えることもあるということだ。
「なるほど。北は人数が少ないというが、いったい何人くらいいるのだ?」
「今は僕を入れて五人です」
「――五人?」
 それはまたえらく少ないことに驚かされる。まあ北は高級男娼に育て上げるにあたって容姿はもとより性質の点でも抜きん出た者が集められるのだろうから、少なくても当然といったところなのか。
「他の宿舎はどうなのだ? やはり五、六人ずつなのか?」
「いえ、東は十人くらいで、次に多いのが西だと聞いています。西は三十人くらいいるとか。でも一番の大所帯は南で、五十人くらいだとか」
 その分、宿舎の規模も大きいそうだが、建物の造りとしては簡素だそうだ。
「先輩方の話では僕たちの北宿舎はとても豪華なんだそうです。確かに実際のお座敷と同じくらい家具や調度品なんかも立派で、じいちゃんと住んでいた家から比べても驚くくらい広い部屋に住まわせてもらってはいます。東も似たような感じだそうですが、部屋の豪華さで言えば北宿舎が一番綺麗なのだとか」
 つまり、普段からそういった部屋に住まわせることで環境面でも身体に叩き込み、それに見合う優雅さを身につけさせるというわけだろう。次いで西、南の順だそうだが、特に南は大所帯ということもあってか、各部屋も狭く、調度品なども必要最低限の物が揃っているだけで非常に簡素なのだと噂されているらしい。
 南は床技中心とのことだから、色を売ることに重きを置いた男娼の育成場ということになる。遊郭街の男娼となれば、やはり身を売ることが主だろうから当然人数も必要になってくるのは納得である。
 察するに、北の宿舎は容姿に抜きん出た高級男娼を育てる所で、東はそれに次ぐ芸に秀でた者の育成。西は武術と執事的な教育というからには将来的に下男や用心棒として起用するつもりなのかも知れない。そして一番多い身を売る為の南――。
 冰の話によってこの遊郭街の実情が少しずつだが見えてきた。彼らのように教育期間中の新人を育てながら、実際に男娼として客を取っている者たちを合わせれば街全体の人数は相当なものになるだろう。この他に女遊郭の方でも同じように組織されているのだろうから、総べると莫大な数の人間がこの特殊な街で生きていることになるわけだ。
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