極道恋浪漫

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
22 / 159
極道恋浪漫 第一章

20

しおりを挟む
「じいちゃん、元気でいるでしょうか。身体を壊していなければいいのですが……」
 その表情を見ただけでもやはり老人同様、互いのことを気に掛けて大切に思っているのが窺える。血の繋がりは無いにしても、本物さながらの家族であることは間違いないのだろう。イェンは何とかしてこの哀れな少年を救い出してやりたいと強く思うのだった。
「冰といったな? 実はお前さんをここから連れ帰る方法を考えてみたのだ」
 イェンは先程紫月ズィユエと話し合った救出方法を丁寧に説明してみせた。当然だが冰は驚いたようだ。

「結婚……ですか? あの……皇帝様が僕と?」

 言われている意味がよく理解できないというわけなのか、冰は形のいい大きな瞳をまん丸く見開いてはポカンとした表情で固まっている。
「驚くのも無理はねえ。言うまでもねえが、お前さんも俺も男同士だ。婚約だの結婚だのといっても、なかなか想像できんことではあろうがな。いずれにせよこの遊郭街にいるとなれば、見ず知らずの客を取らされることになろう。もちろん色を売るという行為も避けては通れん。それよりもこの俺の元へ輿入れする方がお前さんにとっては幾分マシなはずだ。ウォンの爺さんも安心するだろう」
 イェンは、輿入れするといっても形の上だけで構わないし、世間一般でいうところの本物の夫婦のようにして過ごさずともいいのだからと言った。
「まあ表向きは夫婦となるわけだから、お前さんには俺の邸で共に住んでもらうことになるが、これまで通り学園にも通えるしウォンの爺さんと会うのも自由だ。というより、爺さん共々引っ越して来てくれりゃあいい」
 どうだろう、婚姻という形を取って自分の元で一緒に暮らさないかと訊いたイェンだったが、まさか当の冰から意外な答えを聞くことになろうとは思わなかった。なんと冰はその申し出を断ったからだ。

「……そうか。やはり気が進まんか……」

 まあ婚姻となれば人生を左右する事柄だし、会ったばかりの人間――しかも同性相手となれば断っても当然だろう。いい手だとは思ったが、やはり別のやり方を考えるべきかと思った時だった。冰がこの話を断る理由を聞いて、イェンは驚かされることとなった。
「あの……皇帝様……。お気持ちはたいへん有り難く思います。僕のような者の為に皇帝様がそんなことまでお考えくださるなんて……驚きと有り難さでお礼の言葉もございません。ですが、皇帝様の人生を僕の為に犠牲にするなんて……そんなことはできません!」
「ボウズ……お前……」
「確かに――ここへ連れて来られたことは僕にとっても驚きですし、ここで生きていきたいわけではありません。でもその為に皇帝様を巻き込むだなんて……」
 僕には絶対にできません! きっぱりと冰は言った。つまり、有難い話ではあるがそれに甘んじていいとは思わないということだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

万華の咲く郷 ~番外編集~

四葩
BL
『万華の咲く郷』番外編集。 現代まで続く吉原で、女性客相手の男役と、男性客相手の女役に別れて働く高級男娼たちのお話です。 各娼妓の過去話SS、番外編まとめ。 この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは一切、関係ございません。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

処理中です...