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極道恋浪漫 第一章
18 美しき少年との出会い
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「……城壁の皇帝はすげえお人だって聞いてはいたけどな――」
まさかこれほどとは思わなかったと紫月も驚き顔でいる。マフィアの次男坊が皇帝だなどと異名で呼ばれる自体どんな男なのかと興味はあったが、実際目の当たりにしてみればその人間性に深く感銘を受ける。自分の幸せなど二の次で構わないからこの城壁内に生きる人々の安泰を願いたいという焔の思いに、紫月はどうにかして力になってやりたいと思ってしまうのだった。
「ふぅ……、俺にもっと権限があればな……。この遊郭街で生きてるヤツらにももうちょいマシな人生歩んでもらえるんだけど」
だが実際は頭目の下で彼の言いなりに動くしかできないでいる今の自分が情けないと憂い、唇を噛み締めることしかできないと言っては眉根を寄せた。せめて皇帝はじめ黄老人や雪吹冰という少年の傷が少しでも浅くなるように、できる限りの手を尽くしてやりたいとまで言ってくれたのだ。
「あのさ、皇帝様……。今夜はここに泊まれるか? もし良ければ、あの子と一晩よく話し合って決めるってのはどうかな」
「話し合う?」
「うん……。あの子の為にはここで無理矢理男娼にさせられるよりは皇帝様に娶られる方が当然いいだろうことは目に見えてる。けど、お互い会ったこともねえのに簡単に決められることじゃねえとも思うんだ。だからとにかく二人で話し合ってみるのはどうだ? 俺にできるのはそのくれえしか思いつかなくてすまねんだけど」
焔も遼二も紫月の厚意を感じるのだろう、有り難く言葉に甘えさせてもらおうと思うのだった。――と、ちょうどその時だ。下男の菫が冰という少年を連れて戻って来た。
「兄さん、お待たせいたしました。連れて参りました」
菫が少年の肩を押して紫月らの前へといざなう。
驚いたのはその容姿だ。写真で見た印象も確かに端正な顔立ちの美少年といえたが、実物はその比ではない。この紫月という男に勝るとも劣らない、まさに生きた人形の如く美しさに思わず目を奪われる。焔も遼二もしばしはポカンと口を半開きにしたまま、視線を釘付けにさせられてしまった。
「皇帝様、雪吹冰君だ。冰君、こちらは城壁の皇帝様とそのご友人の鐘崎遼二さんだぜ」
紫月に紹介されて、冰という少年はおずおずと頭を下げた。
「……お初にお目に掛かります。雪吹冰と申します」
胸前で両手を合わせ、クイと膝を折って敬意を表す仕草が美しい。おそらくはここに来た時からそのようにしろと教育を受けたのだろうが、こんなふうにされれば誰でも悪い気はしない。というよりも、もしもこれが男娼を求めてやって来た客ならば一目で虜にさせられることだろう。
先程この紫月という男が、『あの子は容姿だけじゃなく知性もあって性質もいい』と言っていたが、誠その通りだったというわけだ。
実に親切心からこの少年を娶ろうと思っていたものの、彼とならその親切心を通り越して本心から共に暮らしてみたいという興味が湧いてしまうほどだ。かといって、それが即恋情と結びつくというわけではないものの、焔は図らずも胸が騒ぎ出す気がして、高揚する気持ちに戸惑いすら感じさせられるのだった。
◇ ◇ ◇
まさかこれほどとは思わなかったと紫月も驚き顔でいる。マフィアの次男坊が皇帝だなどと異名で呼ばれる自体どんな男なのかと興味はあったが、実際目の当たりにしてみればその人間性に深く感銘を受ける。自分の幸せなど二の次で構わないからこの城壁内に生きる人々の安泰を願いたいという焔の思いに、紫月はどうにかして力になってやりたいと思ってしまうのだった。
「ふぅ……、俺にもっと権限があればな……。この遊郭街で生きてるヤツらにももうちょいマシな人生歩んでもらえるんだけど」
だが実際は頭目の下で彼の言いなりに動くしかできないでいる今の自分が情けないと憂い、唇を噛み締めることしかできないと言っては眉根を寄せた。せめて皇帝はじめ黄老人や雪吹冰という少年の傷が少しでも浅くなるように、できる限りの手を尽くしてやりたいとまで言ってくれたのだ。
「あのさ、皇帝様……。今夜はここに泊まれるか? もし良ければ、あの子と一晩よく話し合って決めるってのはどうかな」
「話し合う?」
「うん……。あの子の為にはここで無理矢理男娼にさせられるよりは皇帝様に娶られる方が当然いいだろうことは目に見えてる。けど、お互い会ったこともねえのに簡単に決められることじゃねえとも思うんだ。だからとにかく二人で話し合ってみるのはどうだ? 俺にできるのはそのくれえしか思いつかなくてすまねんだけど」
焔も遼二も紫月の厚意を感じるのだろう、有り難く言葉に甘えさせてもらおうと思うのだった。――と、ちょうどその時だ。下男の菫が冰という少年を連れて戻って来た。
「兄さん、お待たせいたしました。連れて参りました」
菫が少年の肩を押して紫月らの前へといざなう。
驚いたのはその容姿だ。写真で見た印象も確かに端正な顔立ちの美少年といえたが、実物はその比ではない。この紫月という男に勝るとも劣らない、まさに生きた人形の如く美しさに思わず目を奪われる。焔も遼二もしばしはポカンと口を半開きにしたまま、視線を釘付けにさせられてしまった。
「皇帝様、雪吹冰君だ。冰君、こちらは城壁の皇帝様とそのご友人の鐘崎遼二さんだぜ」
紫月に紹介されて、冰という少年はおずおずと頭を下げた。
「……お初にお目に掛かります。雪吹冰と申します」
胸前で両手を合わせ、クイと膝を折って敬意を表す仕草が美しい。おそらくはここに来た時からそのようにしろと教育を受けたのだろうが、こんなふうにされれば誰でも悪い気はしない。というよりも、もしもこれが男娼を求めてやって来た客ならば一目で虜にさせられることだろう。
先程この紫月という男が、『あの子は容姿だけじゃなく知性もあって性質もいい』と言っていたが、誠その通りだったというわけだ。
実に親切心からこの少年を娶ろうと思っていたものの、彼とならその親切心を通り越して本心から共に暮らしてみたいという興味が湧いてしまうほどだ。かといって、それが即恋情と結びつくというわけではないものの、焔は図らずも胸が騒ぎ出す気がして、高揚する気持ちに戸惑いすら感じさせられるのだった。
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