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極道恋浪漫 第一章
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「方法ってのは? 俺にできることならどんなことでもするつもりだ」
「どんなことでも――ね?」
「ああ、どんなことでもだ!」
意志のある瞳で焔が身を乗り出す。察するに彼を助けたいというのは本心なのだろう。
「ならひとつ提案だ。如何に遊郭街の頭目といえど香港を仕切る周ファミリーの身内とあらば簡単に手は出せねえ。つまり雪吹冰って子を周家で養子にするなりすれば、頭目も諦めざるを得ねえかも」
「養子……だと?」
それは何とも目から鱗の話だ。
「まあこれは今思いついた俺の考えだから――? 養子にしたところで、それがあの子を助けたいが為の工作と受け取られねえとも限らねえ。ちょっとでも疑われれば頭目が素直に引き下がってくれるかどうかは分からねえが」
そこまで話し掛けて紫月はハタと瞳を見開いた。
「あー、けどもっと確実に足抜けさせるなら、実はあの子が皇帝様の婚約者だった――とかいうことになれば頭目でもぐうの音も出ねえかもな」
「婚約者ッ!?」
これには思わず焔と遼二の声が重なってしまった。
「そう、婚約者! 皇帝様の婚約者とは知らずに女衒が拉致してここに売っ飛ばしたとなりゃあ、頭目の方がやべえ立場に追い込まれる。一も二もなくすぐにあの子を返すだろうぜ。もちろん身請け金も必要なくなる」
というよりも、逆に粗相の詫びとして頭目の方から謝罪金が出るくらいの事案になるだろうよと紫月は言った。
突飛な発想ではあるが、確かに有効な手立てかも知れない。
「……ふむ、婚約者か。悪くねえ考えだが、あの息子は当然のことながら男だ。男の俺が男と結婚するはずだったと言って、頭目が信じてくれるかどうか」
「そんなことは心配いらねえ。どうとでも言い繕うのは簡単さ。例えば――皇帝様は元々男色だとでも言やあいいだけだろ?」
「……そりゃまあ、そうだが」
そう都合よく理解してもらえるかどうかは怪しいところだと焔は渋顔だ。
「世の中にゃ女を欲する野郎の方が圧倒的に多いんだ。俺が男色だと言ったところで、大概の人間はそれこそあのボウズを連れ帰る為の嘘だと疑るんじゃねえのか?」
「それなら心配はいらねえ。頭目は両刀使いだ。男が男を愛したところでおかしいとは思わねえさ」
「両刀だ? ったく……、遊郭王ともなればお盛んってわけか」
頭目の個人的な趣味については意見するつもりもないが、それにしても舌打ちのひとつもしたくなるというものだ。
それはともかく婚約者とはまた大胆な発想だ。正直なところ焔にも遼二にもそんな手立ては思いもつかなかったからだ。
紫月という男の発想には感心するところだが、仮に今はそうしてこの場を凌いだとしても、後々それが偽の婚約だったと知れた際には、また別の面倒事に発展しないとも限らない。当の紫月もそれを危惧していて、そこまでしてもあの息子を助けたいのかと訊いてきた。
「とはいえ、もしも偽りの婚約話をでっち上げてあの子を連れ帰ったなんてことがバレた日にゃ、おそらく頭目は黙っちゃいねえ。下手すりゃ遊郭街と周ファミリーが正面切っての戦になるくれえには発展するだろうぜ? この手を使うなら信憑性が必要不可欠だ」
ところで皇帝様は独身だったっけ? と、紫月は訊いた。
「どんなことでも――ね?」
「ああ、どんなことでもだ!」
意志のある瞳で焔が身を乗り出す。察するに彼を助けたいというのは本心なのだろう。
「ならひとつ提案だ。如何に遊郭街の頭目といえど香港を仕切る周ファミリーの身内とあらば簡単に手は出せねえ。つまり雪吹冰って子を周家で養子にするなりすれば、頭目も諦めざるを得ねえかも」
「養子……だと?」
それは何とも目から鱗の話だ。
「まあこれは今思いついた俺の考えだから――? 養子にしたところで、それがあの子を助けたいが為の工作と受け取られねえとも限らねえ。ちょっとでも疑われれば頭目が素直に引き下がってくれるかどうかは分からねえが」
そこまで話し掛けて紫月はハタと瞳を見開いた。
「あー、けどもっと確実に足抜けさせるなら、実はあの子が皇帝様の婚約者だった――とかいうことになれば頭目でもぐうの音も出ねえかもな」
「婚約者ッ!?」
これには思わず焔と遼二の声が重なってしまった。
「そう、婚約者! 皇帝様の婚約者とは知らずに女衒が拉致してここに売っ飛ばしたとなりゃあ、頭目の方がやべえ立場に追い込まれる。一も二もなくすぐにあの子を返すだろうぜ。もちろん身請け金も必要なくなる」
というよりも、逆に粗相の詫びとして頭目の方から謝罪金が出るくらいの事案になるだろうよと紫月は言った。
突飛な発想ではあるが、確かに有効な手立てかも知れない。
「……ふむ、婚約者か。悪くねえ考えだが、あの息子は当然のことながら男だ。男の俺が男と結婚するはずだったと言って、頭目が信じてくれるかどうか」
「そんなことは心配いらねえ。どうとでも言い繕うのは簡単さ。例えば――皇帝様は元々男色だとでも言やあいいだけだろ?」
「……そりゃまあ、そうだが」
そう都合よく理解してもらえるかどうかは怪しいところだと焔は渋顔だ。
「世の中にゃ女を欲する野郎の方が圧倒的に多いんだ。俺が男色だと言ったところで、大概の人間はそれこそあのボウズを連れ帰る為の嘘だと疑るんじゃねえのか?」
「それなら心配はいらねえ。頭目は両刀使いだ。男が男を愛したところでおかしいとは思わねえさ」
「両刀だ? ったく……、遊郭王ともなればお盛んってわけか」
頭目の個人的な趣味については意見するつもりもないが、それにしても舌打ちのひとつもしたくなるというものだ。
それはともかく婚約者とはまた大胆な発想だ。正直なところ焔にも遼二にもそんな手立ては思いもつかなかったからだ。
紫月という男の発想には感心するところだが、仮に今はそうしてこの場を凌いだとしても、後々それが偽の婚約だったと知れた際には、また別の面倒事に発展しないとも限らない。当の紫月もそれを危惧していて、そこまでしてもあの息子を助けたいのかと訊いてきた。
「とはいえ、もしも偽りの婚約話をでっち上げてあの子を連れ帰ったなんてことがバレた日にゃ、おそらく頭目は黙っちゃいねえ。下手すりゃ遊郭街と周ファミリーが正面切っての戦になるくれえには発展するだろうぜ? この手を使うなら信憑性が必要不可欠だ」
ところで皇帝様は独身だったっけ? と、紫月は訊いた。
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