極道恋浪漫

一園木蓮

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極道恋浪漫 第一章

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「身請け金――ね」
 金の面ではどうとでも自由になる皇帝様の言い出しそうなことだと言って、紫月ズィユエは軽い溜め息をつく。
「ま、皇帝様にとっちゃどんな大金もわけねえってか。けど……今回はどうにも相手が悪過ぎる」
「――それはどういう意味だ」
「あの子――雪吹冰といったか。普通の子なら大金積んでもらって、体良く身請けが決まったと片付けられるところなんだけどな。正直に言っちまうとあの子は器量が良過ぎる。ついでに賢くて性質も素直だ。あんたらにとっちゃ嫌な話だろうが、頭目の覚えもめでてえんだ」
 新しい男娼が売られてきた時点で一度は頭目が目を通すそうだ。えげつない話だが、器量や才覚によってその時点でまずどういった売り方をするかに振り分けられるというのだ。
「見た目が抜きん出ていれば教育期間を設けて色以外で客をもてなせるように仕込まれる。女ならば茶の湯に舞い。男なら世情や政治経済についての専門的な知識と話術。それらを徹底的に叩き込んで一級品に仕立て上げる。つまり高級遊女に高級男娼だ」
 まあ、もちろん見た目が良いだけで全員がそうなるとは限らないという。知性も然りだが、何よりも重要なのは抜きん出た容姿に匹敵するだけの性質の良さだそうだ。
「いくら見た目が良くても性質が悪ければ問題外だ。鼻っ柱が強くて自分が美しいというプライドの高過ぎる者は客を下に見る傾向があるんでね。そういう者はすぐに色だけで日銭を稼げる妓楼に回される」
 つまりその時点でプライドも何もかもをへし折られる悲惨な行く末が待っているそうだ。
「逆に容姿、性質ともに見込みがあると判断されれば教育を受けさせられる。そうして一級品に仕立てられれば雑な売り方はされずに済む」
 とはいえ、そういった高級男娼であったとしても、必ずしも貞操が守られるというわけではないらしい。
「本格的に座敷に出るようになってからも、客の希望いかんによっては当然だが色も売る。ただし、それこそ目ん玉の飛び出るような大金が必要だ。その際、客を幻滅させねえ為の床技もみっちりと仕込まれるってわけ。そんな見込みのあるヤツをデビュー前に身請けしたいとなりゃ、如何に大金積んだところで頭目が『うん』と言うはずもねえってことだ」
「……つまり、あの息子にはここの頭目も期待しているということか?」
「そういうことになるね」
 気の毒だが――紫月ズィユエはそう言って苦笑した。
「仮にあの子を身請け金で何とかしたいとすりゃあ、少なく見積もっても彼がこの先十年に渡って稼ぎ出すだろう金額が必要になる。豪邸が建つどころじゃすまねえことくらい皇帝様なら分かるだろ? 下手すりゃちっこい国が買えるかってな大金が必要だ」
 いかにこの香港を仕切るマフィアのトップとて少年一人に易々出せる金額ではない。
「――ッ、ある程度難儀なことは予想できていたが……。それにしても何とかならんものか」
 イェンが顔をしかめて考え込む様子に、紫月の方ではそこまで大事な相手なのかと首を傾げた。
「そんなにあの子が大切か? いったい皇帝様とどういう関係なわけ?」
「どうと言われてもな……。あの少年は我がファミリーが有するカジノで長い間ディーラーをしてくれている爺さんの息子なのだ。爺さんはその世界じゃ右に出る者はねえってくらいの腕前の持ち主だ。我々にとっても大事なファミリーといえる」
「カジノのディーラーか――。もしかして老黄ラァオウォンか?」

 驚いた。この紫月はウォン老人のことも知っているようだ。

「あんた、ウォンの爺さんのことも承知か……。恐れ入ったな」
 イェンも遼二もほとほと感心させられるばかりだ。
「まあな。知ってると言っても噂だけだがね。周ファミリー下で腕のいいディーラーと聞けば、この手の世界の者なら誰だって老黄ラァオウォンの名を思い浮かべるだろうさ。――で? つまり皇帝様は老黄の息子だからあの子を助けてえってか?」
「その通りだ」
「ふぅん?」
 しばし考え込むと紫月ズィユエは言った。
「そう……。だったら方法が無くはないかも」
 ただし一か八かの賭けにもなるが――と再び考え込む。
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