極道恋浪漫

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
10 / 159
極道恋浪漫 第一章

しおりを挟む
「そうだとしても、五年もの間ただの一度もツラを見たことすらねえってのは気に掛かるところだ。人前に出ねえということは、イコール出られねえ理由でもあるか、あるいはよほどの悪事にでも手を染めているか――。ツラが割れちゃ困る何かがあるんじゃねえのか?」
 そう勘ぐりたくもなるというものだ。遼二曰く、既によく知った人物であるという可能性もあるのではないかと言う。
「親父さんはどうなんだ。親父さんもその頭目ってのには会ったことがねえわけか?」
「だから治外法権とも言われているんだろうな。実のところ頭目というのは年齢も不詳で、分かっているのは男だということくらいでな。一説には俺やお前の親父と同年代とも言われているが定かではない」
「ふむ、俺もここへ来る前に親父からザッと話は聞いたがな。親父たちの情報網をもってしてもその程度しか分からんとすればかなり手強い相手となりそうだな。仮にウォンの爺さんの息子を捜し出せたにせよ、連れ帰るには骨が折れそうだ……」
 遊郭街が何をもって外との交友を避けているのか、そこには案外深い闇が存在しているのかも知れない。
「とにかくは上客となってあの街の人間に伝手を作りたい。その上で各妓楼ぎろうの主人か番頭あたりに覚えがめでたい客にのし上がるしかねえ。ある程度心許せる客だと信頼を得たところで、雪吹冰がどこの店子たなごであるのかということを――それとなく聞き出せれば御の字といったところだろうな」
「ふむ、どこの店にいるかも分からんのなら道は長い――か。脅して訊き出すのも手ではあるが、いては事をし損じるというしな」
 それ以前に遊郭が実際どういう状況下にあるのかということから把握しなければならない。仮に底知れない闇があるというのなら、雪吹冰の件以外でもそれらを探り出す必要に迫られることも視野に入れなければならない。

「カネ――今回の件は案外取っ掛かりに過ぎないかも知れんと、俺はそうも思っているのだ」

「つまり……爺さんの息子のこと以外にも探らにゃならん何かがあるということか?」
「正直なところそいつは俺にもまだ分からん。何かがあるのかも知れんし、特に何も無いかも知れん。ただ、俺がここへ来てから五年――表立って遊郭街にきな臭い話は上がったことがねえ」
「静か過ぎるのが逆に気になるってわけか」
「波風の一切ない――一見穏やかな水面の下にとんでもねえマグマが渦巻いている可能性もゼロではないということだ」
イェン、おめえ……」
 それこそ一見穏やかで落ち着いたイェンの視線が、まるでボコボコと音を立てて対流する地殻のほむらを見つめているようにも思えて、遼二もまた覚悟を意識するのだった。
「とにかく――だ。まずは目先のことから取り掛かるしかねえ。雪吹冰という息子を捜し出して連れ帰る。それが俺たちの役目だ」
 しばらくは通い詰めで様子見になるだろうとイェンは言った。



◇    ◇    ◇


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

悪魔の犬

おさかな
BL
あるヤクザの組、篝火会(かがりびかい)の組長代理である黒川来夏(くろかわらいか)は篝火会の組員が全治2ヶ月の大怪我をする事件が多発していた。怪我をした組員は皆「黒木来夏に合わせろ」と襲撃犯に言われたという。そして黒木来夏が襲撃犯の元へ向かうと…。 初めてアルファポリスで投稿をしたおさかなです。小説を作る自体が初めてなので誤字脱字などがあってもご了承ください。もしかしたらグロテスクな表現があると思います。 毎日一話更新する予定です。

インテリヤクザは子守りができない

タタミ
BL
とある事件で大学を中退した初瀬岳は、極道の道へ進みわずか5年で兼城組の若頭にまで上り詰めていた。 冷酷非道なやり口で出世したものの不必要に凄惨な報復を繰り返した結果、組長から『人間味を学べ』という名目で組のシマで立ちんぼをしていた少年・皆木冬馬の教育を任されてしまう。 なんでも性接待で物事を進めようとするバカな冬馬を煙たがっていたが、小学生の頃に親に捨てられ字もろくに読めないとわかると、徐々に同情という名の情を抱くようになり……──

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

処理中です...