Wild Passion

一園木蓮

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7話

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 廊下から漏れる明かりだけで仄暗くなった部屋に急な静寂が立ち込める。
 大パノラマの窓から拝む見事な程の夜景がより一層クッキリと映し出されて思わず息を呑む。

 だがそれも束の間、暗闇の静寂の中に二人きりというのが何とも居心地の悪く思えたのだろうか、氷川がすぐ脇へと腰掛けてきた気配で冰はおぼろげに瞳を見開いた。
「おい、眠いのか?」
 初めて訪ねた他人の部屋で、その部屋主に寝入られてしまっては手持ち無沙汰この上ないのだろう、悪いことをしてしまったかと苦笑する。
「悪ィ、やっぱちょっと飲み過ぎたかな。一瞬寝そうになった」
 笑いながらそう言うも、何だか氷川の様子が変だ。酷く仏頂面で、機嫌の悪そうに眉根を寄せている。
「ごめ! お前、どーする? 帰るんなら階下したまで送ろうか? それとも泊まってくか?」
 軽い気持ちでそう訊いた。だが、氷川が機嫌の悪そうにしていたのは、そこではないらしい。どうやら恋人との経緯が気に掛かるのか、
「てめえが泣くほど落ち込むなんてよ。らしくねえぜ? そんなにショックだったわけか?」
 そう訊かれ、今度は冰の方が眉根を寄せて氷川を振り返った。
「しつけーよ。だから泣いてなんかねーってば。俺、今日結構飲んだしちょっとノビてえ気分なのー」
「は、どうだか!」
 呆れた調子で苦笑気味の氷川に、
「ま、仕方ねえだろ。俺、コイビトに振られたのつい昼間のことなんだから。そりゃちっとは落ち込みもするっしょ? なんせ酷え台詞でバッサリ捨てられたわけだしよー……」
 別れた経緯など話すつもりでもなかったが、何となく口を滑らせてしまいたくなったのも不思議だ。学生時代を同じような環境で過ごしたこの男になら、開けっ広げにこんな話をするのも悪くない、そんな思いがぎったのは確かだった。
 それをうっとうしがるわけでもなく、どちらかといったら話の続きを聞きたげな表情でこちらをチラ見している氷川の様子にも、ヘンな依頼心ともいうべき感情が湧き上がる。
 格別相談に乗って欲しいわけではないが、何となく事の成り行きを聞き流してもらうだけでも心が軽くなる、そんな気がしていた。
 やはり酔っていたせいもあるだろう。普段なら他人に弱みを見せることなど滅多にないというのに、自ら進んで誰かに頼りたい、寄り掛かりたいだなんて随分と可笑しな夜だ。冰はそんな自分に半ば呆れながらも、

「俺ね、ケモノなんだ――」

 自分でも無意識に、思わず『どういう意味だ』と訊き返したくなるような言葉をぶつけていた。
「……獣だ?」
 案の定、ワケが分からないと言わんばかりの表情で興味有りげに見つめてくる氷川の視線に満足げな気分にさせられて、ツラツラと続きを話したくなる。この際、この男にすべてをさらけ出してみるのも悪くはない、そんな積極的な気分になって先を続けた。
「なんか俺ね、しつけーんだと!」
「しつけえ? 性格がか?」
「さあ、それも有りかもだけど。セックスが動物的で嫌なんだとよ」
「何だ、それ――」
「そんでもって自分勝手で傲慢で、だから嫌いになったってさ。そこまで堂々言われりゃ、悲しーなんて気も失せちまう。挙げ句は他に好きな男ができたからそっちに鞍替えするってよ。あんまし見事過ぎて、泣きたくたって涙も出ねーわ」
 わざと深い溜息をつき、おどけながらも苦笑いを隠せない。そんな仕草が氷川の感情の何に何をどう焚き付けたというわけか、
「だからってそんな堂々……俺の前で腹見せるなんて、あの頃じゃ考えらんねえな」
 少々不機嫌そうにソッポを向きながら、舌打ちをしてよこす。
 そんな様子を可笑しそうに見つめながら、
「今はあの頃とは違うだろ? てめえの前で腹見せてたってどうってもんでもねえじゃん」
 全面的に安心しきった調子でそんなことを口走ってしまい、――が、それを氷川がどう受け取るかなど、冰にはまるで想像外だった。彼の口から飛び出した意外な台詞、
「そりゃどうかな? そんな隙だらけのてめえ見てっと――」
「久し振りに血が騒ぐってか?」
 あっけらかんと暢気な返事をしてしまったことを後悔すべきか――
「別の意味でならな……」
 スッと伸ばされた形のいい指先に、クイと顎先を摘ままれて、冰はキョトンとしたように目の前の男を凝視した。



◇    ◇    ◇


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