一園木蓮

文字の大きさ
上 下
26 / 35
焔(続編)

14

しおりを挟む
「そんなわけだからあいつ、未だに彼女の一人もできたことないんだ。もちろん男と付き合ったこともない。けど、あいつがゲイだって触れ回ったせいで女は寄ってこなくなったのはいいとして――今度はホントにそっちに興味あるヤツが寄ってきちゃうことになって。だからあいつ、わざとああいうデカい態度で『俺は怖いヤツなんだぞ』って牽制してるんだ。下手にちょっかい掛けられんが面倒だからって」
 だがまあ、実際道場育ちで腕は達つから自然と周りが一目置くようになったのだそうだ。
「でもさ、多分だけど……きっとお前のことは――遼二のことは本気で好きなんじゃねえかって。俺、小っさい頃からあいつのこと見てきてるから分かるんだ。あいつがゲイだってのは当初ホラだったわけだけど――お前に会って本当に男を好きになっちゃったんだろうなって思ってさ」
 嘘も方便が本当になってしまった、嘘から出た実といおうか何と言おうか――。
「あいつ、自分でも戸惑ってるはずだ。人を好きになること自体が初めてみたいなヤツだからさ。お前にもわざと突っ掛かったり強がったり……気持ちを上手く表現できてないかも知れねえけど。悪いヤツじゃねんだ」
 だから誤解だけはしないでやって欲しい、冰はそう言った。
 俺は何とも言いようのない――ともすれば涙が滲んでしまいそうな気持ちにさせられてしまった。
「な、遼二。転校初日の日に俺、お前に例の画像を見せたじゃん? 会ったばっかのお前に……何であんなことしたのか自分でもよく分からねえんだけど。何となくお前にだったら打ち明けられるような気がしたっつーか、頼りたくなってーか……。それ以来、お前は俺のこといろいろ気に掛けてくれてた。さっきだって俺が帰るって言った時、一人じゃ帰さねえってムキになってくれたろ? 俺は嬉しかったけど、多分あれ見て紫月不安になったと思うんだ」
 今もこうして追い掛けて来てくれた。そんな姿を見て紫月は酷く心が揺れているのではないかと言って冰は心配していた。
「あいつ、まだお前ン家にいるの? それとももう帰ったのか……」
「いや――いる。というか、俺が戻るまで待ってて欲しいと言ったんだ」
 冰は驚いたようだが、そんなふうに紫月を待たせている俺の気持ちを察したのだろう。クスッと微笑んでは『そっか、良かった』と言った。
「じゃあ……行く。紫月にはお前からよろしく伝えといて。まあ俺からも後でメッセージ入れるわ」
 急なことではあるが、早速今夜発つという。ロビーへ向かうと周焔が待っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

処理中です...