一園木蓮

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焔(続編)

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「源さん、悪ィ! バイク借してくれ!」
「ああ、構わんが……一人で乗り込むつもりかい?」
 慌てる俺たちの会話が気になったのか、紫月がおずおずとこちらを気に掛けながら覗いていた。
「紫月……」
「なに……? どっか出掛けんの? つか、冰がどうかしたんか?」
 だったら俺も一緒に行こうかと言い出したこいつを無我夢中で引き留めた。
「お前はダメだ!」
「……ンだよ……、俺だって冰のダチだぜ? あいつが何かやべえコトになってんだったら……」
「ダメだ!」
 紫月の側へと駆け寄って、がっしりとヤツの両肩を掴んで揺さぶった。
「ンだよ……ンなおっかねえ顔しなくったって……」
「あ……ああ、すまん。だが――とにかくお前はここにいてくれ。すぐに戻るから――俺が帰るまで待ってて欲しい」
 どうしてか胸が逸ってならなかった。
 危険が迫っているのは冰の方だ。この紫月に――じゃない。
 こいつが一緒に行こうかなどと言ったせいか、俺の頭の中は焦燥感でぐちゃぐちゃになっていた。
 もしもこいつが一緒に来て、目をつけられて、冰と同じような目に遭わされることにでもなったなら――そんな場面を想像すれば居ても立っても居られない。
 理由など分からなかった。とにかく紫月を誰の目にも触れさせたくない、そんな気にさえさせられた。
「紫月――すまねえ。さっきのことも……悪かったと思ってる。どうかしていた……。謝る。この通りだ」
「……遼二」
「だが、頼む。これだけは聞いてくれねえか? 俺が帰るまで待っていて欲しいんだ。理由は――後でちゃんと説明する。おめえの家には――親父さんには、ダチの家に泊まるとでも言って、とにかく待っててくれねえか」
「泊まるって……別にいいけど……。そんな遅くなるってこと?」
「いや――なるべく早く帰るようにする。すまねえ――本当に」
 紫月の肩を掴んでいた手をゆるめて、軽く――ほんの一瞬触れるだけの口づけを残して部屋を飛び出した。
「……ッと、遼……!」
「源さん、俺が戻るまでそいつを頼む!」
 それだけ言い残して俺は一目散に冰を追った。



「ダイナー・プルダウン――ここか」
 表向きは源さんの言っていた通り、普通のバーだ。湾岸べりの広大な敷地の中にポツンと建っていて、周囲には有刺鉄線で囲われた空き地や倉庫なども建ち並んでいる。洋画に出てくるような軍の基地を連想させられる。
 そんな混沌とした雰囲気の中、店は少し洒落た感があり、猫も杓子も気軽に入れる雰囲気ではないものの、一見にして危ない雰囲気は感じられない。とにかくは店内へと足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ。お一人様でしょうか?」
 言葉じりは丁寧ながら、その視線は怪しげに俺を観察している。おそらくここに来る客は常連ばかりなのだろう、明らかに一見の俺を警戒しているのだろうことが窺えた。
「待ち合わせだ。相手は少々遅れるそうだから先に飲ませてもらう」
 そう言うとホッとしたように笑顔を見せて席を勧められた。
 客の様相は十人十色、年齢もバラバラだ。薄暗い照明はわざとなのか、メニュー表すら見にくいほどの不気味さだが、胸を張れない相談をするには打ってつけといえる。
「何を差し上げましょう」
 今度は先程のドア係とは別のボーイがやって来てそう聞いた。
「バーボンをロックで。つまみは相方が来てからだ。それからタバコを二つ持って来てくれ。切らしたばかりなんだ」
 テーブルにマッチが置いてあったので、おそらくタバコも置いているはずだ。そう思って銘柄を告げた。
「かしこまりました」
 ボーイは怪しむ様子もなく、わずかだが愛想のある笑顔も見せながらカウンターへと戻っていった。タバコを二箱と言ったのが功を奏したようだ。一箱では足りないヘビースモーカー、そう受け取ったのだろう。
 やはり香港時代のクセが抜けないわけか、こういった場所でも浮かないことに苦笑したい気分だが、今はとにかく目的が先だ。慣れた素振りで酒を含み、タバコに火を点けつつそれとなく店内を窺った。
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