一園木蓮

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焔(続編)

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「なんだ、口ほどにもねえじゃねえか」
 抱き寄せた肌のどこかしこがカタカタと音を立てて小刻みに震えていた。
「おめえ……ケツの軽いふりして遊び人を気取ってるが、本当は初めてなんじゃねえか?」
 逃がさないとばかり腕に力を込めて耳たぶを甘噛みしながらそう囁けば、ヤツの細い首がビクリと震えたような気がした。
「バ……ッ! バカにすん……な……! 誰がハジメテよ……。て、てめえこそ……大人ぶってっけど、実はドーテーだったりし……て」
 自尊心が邪魔するのか、目一杯強がったセリフも震えっ放しだ。
「ドーテー? そんなもん、十五の時にゃとっくに無かったな」
「じゅ……十五……ッ! この……早熟早漏……っ」
「早漏とは言い草だな。残念だが俺はそんなに柔じゃねえ」
 そう広くはないコンクリート剥き出しの部屋。乱暴に、吊し上げるようにヤツを引き摺っていき、ベッドへと張り付けた。

 安物のスプリングの――ギギッという音が胸を逸らせる。

 そのまま馬乗りになり、普段から胸飾りスレスレにまで開けているこいつのシャツを指で撫でた。まるで脅すように少しずつ少しずつ、首から鎖骨、鎖骨から肋骨、そして白い制服のシャツの下で透けているその飾りの手前で弧を描くように弄ぶ。
「……おッ……い、遼……二……」

 焦って裏返った声が、
 行き場を失くして泳ぐ視線が、
 ついさっきまでの背伸びを、
 粋がりを、
 暴露する。

「どうした? ヤらねえかと言ったのはてめえだぞ、紫月」
「や……! そだけ……ど。お、俺ァ……その、ム……ムードを大事にする主義っつーか」
 この期に及んでまだ強がりを言うってか。
 理由もなく苛立ちが込み上げて、無我夢中でヤツを追い込んだ。ローライズ気味のズボンに手を突っ込んで、尻を撫で回し、掴み上げ――後孔をなぞれば、『ヒッ!』と小さくどよめいた焦り声にも苛立ちが募る。
 腕の中で組み敷いたヤツのツラは幾ばかりか蒼白となっていて、その瞳は明らかに恐怖を訴えていた。
「怖えか? だが、誘ったのはおめえだ。こんな状態でやめられるわけがねえ」
 既に硬く欲情した雄をこれみよがしとばかりに擦り付ければ、無意識に俺の胸板を押して退けようとしたその仕草までを封じ込めて、俺は更にヤツを追い込んだ。
 むんずと髪を掴み上げ、反らしていた顔を強引にこちらへと向けて無垢な唇を塞ぎ、思いきり濃いキスを見舞う。
「や……ッ! ちょッたんま! 待ッ……遼……ッ」
 逃げても逃げても、何度でも顔をこちらに向けて唇を重ねる。いつしか自分でも制御が効かないほどに俺は興奮した獣のようになっていることを自覚していた。
 あわや人としてあるべき理性などどうでもよく、本能のままにつき動く獣になり掛かった――その時だった。
 勢いよくドアの叩かれる音でハッと我に返った。
「遼ちゃん! 遼ちゃん、いるかい!? すぐに出て来てくれ!」
 源さんの呼ぶ声だった。焦ったようなその声が俺を人に引き戻す――。
 組み敷いていた身体を離すと、紫月はホッとしたような顔つきで俺を見上げた。
 乱れた服を軽く訂してドアを開ければ、源さんの慌てた表情。
「遼ちゃん! お前さんがさっきタクシーに乗せた友達だがね。つい今しがたユーターンして戻って来たのを見たんだ。ちょうどウチの真ん前の信号で停まったんだが、その際あの坊やが運転手に告げた行き先が気になってな」
「行き先……?」
「プルダウン――と言っていたように見えた。口の動きを読んだだけだが、確かにそう言っていた。プルダウンに行ってくれとな。あそこは表向きはダイナーバーだが、裏じゃ危ねえことが行われてるって噂が絶えん店だぞ」
「プルダウンだって? あいつが――冰が確かにそう言ったのか……?」
「ああ確かさ! 運転手が本当にいいのかと尋ねたようだったが、彼はこう返した。『さっきのヤツが言ってたことは気にするな。あいつはお節介な野郎なんだ』とな」
「クソ……ッ! あのバカッ」
 こうなったら追い掛けて連れ戻すしかない。
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