一園木蓮

文字の大きさ
上 下
17 / 35
焔(続編)

しおりを挟む
「――そうだな。おめえが帰ると言ったなら……送る送らない以前に何故だと訊いただろうよ。だってウチに来たいと言い出したのはおめえだぜ? 来てすぐに帰りたいなんて聞けば、理由を知りてえと思うだろうが」
 そう返すと紫月はホッとしたようなツラで、「確かに!」と言って笑った。そして、俺にとってはまたもや衝撃的な言葉を投げ掛けてきた。
「なあ、遼二さ……。俺、クラスの連中からも毒舌とか直球とか言われてっけどもよ。実際当たってると思うのよね。思ったことを溜めとけねえっつかさ、例えば欲しいモンがあれば欲しい、手に入れたいって思っちまう。特にそれがこの世に二つと無い貴重品の場合なんかは――さ」
「――いいんじゃねえか? それこそお前らしいじゃねえか」
「そう思う?」
「ああ。確かに欲しいモンがこの世にたったひとつっきゃ無え貴重な物だってんなら、手に入れたいと思う自体は誰にでもある素直な気持ちだろ? それをはっきり言えるおめえがおかしいとは思わねえさ」
「そっか、そうね。んじゃ言っちゃう。俺さあ、お前を他所よそのヤツに盗られたくねえって思ってさ。例えそれが超親友って言える冰でも――な」

「――――?」

 一瞬、言われている意味を理解するのに時間を要してしまった。つまりは何だ、こいつは俺に惚れた――とそう言っているわけか。

「お前、女じゃ勃たねえっつったろ? だったら俺なんかどう?」
「どう……って」
「ヤってみねえ? 俺と――」
「ヤる――だ?」
「そ! 案外相性いいかもだし。まあ、おめえが俺ンことめさめさ趣味じゃねえってんなら無理強いはしねえけどさ」
 あっけらかんと言い放つ。この世に二つと無いモノには違いないが、まるで美味そうな食べ物を試食したいような軽さで言われても、正直なところ面食らってしまう。
「あのな、紫月――」
「うん?」
「俺は食い物じゃねんだ。ちょっと美味そうだから味見してみたいってな感覚と一緒にされてもな」
「やっぱ俺が好みじゃねえ?」
「いや、そういうわけじゃ……。ただもっと――その、欲しいモノってのが好いた惚れたって意味ならば真剣に考えろと言いたいだけだ。てめえは軽いノリでヤるなんて言うけどな、そういうのはもっとちゃんと――心からこいつが好きだと思えるような相手に出逢うまで大事に取っとけと思うがな」
「俺、本気で好きだけど? お前、イイ男だし誰かに盗られる前に俺のモンにしてえって、すっげマジで思うけど」

 はぁ……。

 冗談なのか本気なのか、彼特有の軽口が真意を濁らせる。ある程度本気なのだろうことは分かるが、では実際、俺自身はこいつのことをどう思っているのか、抱きたいほどに興味があるのかと考えればすぐには答えが浮かばない。
 そこで考えてみることにした。もしも紫月が冰のような目に遭っていたとしたら俺はどう感じるだろうか。もちろんクラスメイトだし、俺にできる全力で助け出してやりたい――そう思うだろう。
 だが、何故だろう。そう考えた瞬間に胸が異様に逸るような気持ちになった。
 もしも――冰が安泰で、この紫月があんな目に遭っていたとしたら――俺は酷く憤って、正気ではいられない気がする。是が非でも一緒に車に乗って自宅前まで送らなければ安心できない。運転手に行き先を告げて一人で帰すなど有り得ない。首根っこを引っ掴んででも送り届けるか、あるいは帰さずにここに泊めようとさえ思うかも知れない。
 思わず湧き上がった衝動に、自分自身で驚きを隠せなかった。
 俺はこの紫月に対して冰には感じていない別の感情を抱いている――そう思えるからだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

【完結】あなたに撫でられたい~イケメンDomと初めてのPLAY~

金色葵
BL
創作BL Dom/Subユニバース 自分がSubなことを受けれられない受け入れたくない受けが、イケメンDomに出会い甘やかされてメロメロになる話 短編 約13,000字予定 人物設定が「好きになったイケメンは、とてつもなくハイスペックでとんでもなくドジっ子でした」と同じですが、全く違う時間軸なのでこちらだけで読めます。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...