一園木蓮

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「一人ですんだろ? 何想像しながらヤんのかと思ってさ?」
 ひょうひょうとした調子でヤツは言った。
 俺はしばし返答に詰まらされた。きっとこいつは、さっきの紫月のドギツイ質問にも平然と答えた俺のことだから、この程度の話には気軽に乗ってくるだろうと思ったのだろうが、俺にとってはこっちの方がよっぽど驚愕だった。
 だがヤツは口ごもっている俺のことを面白がるような感じで横目にしながら、もっととんでもないことを言ってのけた。
 さっきからいじくっていた携帯電話の画面を俺の目の前へと差し出すと、
「なら、こんなのはどーよ?」
 ニヤッと不敵に笑ってみせた。その画面に目をやった瞬間に、俺は酷く驚き、不本意にも動揺させられてしまった。
 そこには全裸の男が縄で縛られて、苦しげに悶えているような写真が映し出されていたからだ。
 どう見たって明らかに官能的な要素を含んだエロ写真だ。俺は今までゲイとか同性愛だとかに特に関心がなかったのもあって、男の全裸写真なんていうものを進んで見た試しがない。香港にいた頃に、同級生らとエロ話に花を咲かせたことも勿論あるが、その対象は全部女についてだった。エロ雑誌だって仲間内で回し読みするのは百パーセント女が写っている類の代物だ。
 実際、お袋のことがなければ、俺だって普通に女性に興味はあったし、付き合ったり深い関係になったことだって多々あった。
 あったというよりも思春期の一時期は、そういった行為に溺れたといっていい程に、お盛んだった。
 親父の稼業のせいで、常に危険と隣り合わせに置かれる安息のない日々が嫌で、反抗方々、オンナとの情事に明け暮れた時期があったのは確かな事実だ。
 相手なんて誰でもいい。繁華街で知り合った行きずりの女と、寝るだけの目的で付き合ったことも数え切れない。
 親父譲りで発育がよかった俺は、十五歳の時分には既に成人に間違われるような風体をしていた。そんな中で、俺の素性を知っている大人たちには早熟と言われ、不良のレッテルを貼られることにゾクゾクし、背伸びをして怠惰に浸ることで、親父に対する無言の反抗をしているつもりでいた。さすがにあんな稼業をしている親の子だとののしられ、世間様から白い目で見られることが何よりの当てつけだと、そんなふうに思ってもいた。
 今となってはそれこそ苦笑いがとまらないような懐かしい記憶だったが、とにかくそんな俺でも男同士の情事というのは思いもつかなかったというか、正直そっち方向には縁がなかった。だから急にそんな写真を突き付けられて、酷く戸惑ってしまったわけだ。
 こんな写真を携帯電話の中に保存しているコイツも、紫月と同じゲイだということになるのか。まあ彼らが仲のいい友人であるなら有り得ないことじゃない。むしろ、だからこそツルんでいるという方が妥当な線か。いや、そうとも限らないのか。
 そんな想像で頭の中がパニくって、咄嗟には返答の言葉も見つからない。
 しばしの間、画面を見つめながら絶句している俺のことを面白がるかのように、『ヒョウ』というこいつから出た台詞は更に大胆なものだった。
「オンナじゃ勃たねえってんなら、お前もこっちだろ?」
 ニヤニヤとしながら舐めるような視線でまっすぐに俺をとらえていやがる。
 ちょい待ち、誰が勃たねえっつったよ……。俺がオンナを抱けねえのにはちゃんとワケがあって……と、心の中で反論するものの、実際上手くは言葉にならない。
 ヤツは携帯の画面を次の画像へと送りながら、今度は内緒話の耳打ちでもするかのように、グッと身体を俺の肩先へと近付けてよこした。
 その瞬間に立ち上った淡い香りはボディソープかシャンプーだろうか。ブランドものの香水といったそれではない。ゆるめに施された制服のネクタイの下にはボタンが二つほど外された開襟シャツ。体温でぬくもりを増した微かな香りが、卑猥な台詞と相まって、俺は不快とも欲情ともつかない奇妙な心持ちになるのを感じていた。
 画面に映し出されているのは、さっきの写真とちょっと角度の変わっただけの同じ男の拘束写真だ。どこかの動画サイトからでも引っ張ってきたってところだろうか。

「な、ちょっとソソられねえ?」

 はっきり言って全くソソられねえな、俺はそんなふうに思いながらも、他人様の趣味に口を挟む気もないので、依然黙ったままでいた。それが物足りなかったのか、ヤツの台詞はきわどさを増していく。
「この後さ、薬盛られてケツに玩具突っ込まれてー、そんでもってイかされちまうの」
「――ッ!?」
「情けねえだろ? 男のくせに……よ? いいように弄られて悶えるなんてさ。しかもコレ、周りにギャラリーが何人かいる中でだぜ? イかされちまった時点で負け、その後はギャラリーの連中に輪姦マワされるって趣向」
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