10 / 35
焔
10
しおりを挟む
「一人ですんだろ? 何想像しながらヤんのかと思ってさ?」
ひょうひょうとした調子でヤツは言った。
俺はしばし返答に詰まらされた。きっとこいつは、さっきの紫月のドギツイ質問にも平然と答えた俺のことだから、この程度の話には気軽に乗ってくるだろうと思ったのだろうが、俺にとってはこっちの方がよっぽど驚愕だった。
だがヤツは口ごもっている俺のことを面白がるような感じで横目にしながら、もっととんでもないことを言ってのけた。
さっきからいじくっていた携帯電話の画面を俺の目の前へと差し出すと、
「なら、こんなのはどーよ?」
ニヤッと不敵に笑ってみせた。その画面に目をやった瞬間に、俺は酷く驚き、不本意にも動揺させられてしまった。
そこには全裸の男が縄で縛られて、苦しげに悶えているような写真が映し出されていたからだ。
どう見たって明らかに官能的な要素を含んだエロ写真だ。俺は今までゲイとか同性愛だとかに特に関心がなかったのもあって、男の全裸写真なんていうものを進んで見た試しがない。香港にいた頃に、同級生らとエロ話に花を咲かせたことも勿論あるが、その対象は全部女についてだった。エロ雑誌だって仲間内で回し読みするのは百パーセント女が写っている類の代物だ。
実際、お袋のことがなければ、俺だって普通に女性に興味はあったし、付き合ったり深い関係になったことだって多々あった。
あったというよりも思春期の一時期は、そういった行為に溺れたといっていい程に、お盛んだった。
親父の稼業のせいで、常に危険と隣り合わせに置かれる安息のない日々が嫌で、反抗方々、オンナとの情事に明け暮れた時期があったのは確かな事実だ。
相手なんて誰でもいい。繁華街で知り合った行きずりの女と、寝るだけの目的で付き合ったことも数え切れない。
親父譲りで発育がよかった俺は、十五歳の時分には既に成人に間違われるような風体をしていた。そんな中で、俺の素性を知っている大人たちには早熟と言われ、不良のレッテルを貼られることにゾクゾクし、背伸びをして怠惰に浸ることで、親父に対する無言の反抗をしているつもりでいた。さすがにあんな稼業をしている親の子だとののしられ、世間様から白い目で見られることが何よりの当てつけだと、そんなふうに思ってもいた。
今となってはそれこそ苦笑いがとまらないような懐かしい記憶だったが、とにかくそんな俺でも男同士の情事というのは思いもつかなかったというか、正直そっち方向には縁がなかった。だから急にそんな写真を突き付けられて、酷く戸惑ってしまったわけだ。
こんな写真を携帯電話の中に保存しているコイツも、紫月と同じゲイだということになるのか。まあ彼らが仲のいい友人であるなら有り得ないことじゃない。むしろ、だからこそツルんでいるという方が妥当な線か。いや、そうとも限らないのか。
そんな想像で頭の中がパニくって、咄嗟には返答の言葉も見つからない。
しばしの間、画面を見つめながら絶句している俺のことを面白がるかのように、『ヒョウ』というこいつから出た台詞は更に大胆なものだった。
「オンナじゃ勃たねえってんなら、お前もこっちだろ?」
ニヤニヤとしながら舐めるような視線でまっすぐに俺をとらえていやがる。
ちょい待ち、誰が勃たねえっつったよ……。俺がオンナを抱けねえのにはちゃんとワケがあって……と、心の中で反論するものの、実際上手くは言葉にならない。
ヤツは携帯の画面を次の画像へと送りながら、今度は内緒話の耳打ちでもするかのように、グッと身体を俺の肩先へと近付けてよこした。
その瞬間に立ち上った淡い香りはボディソープかシャンプーだろうか。ブランドものの香水といったそれではない。ゆるめに施された制服のネクタイの下にはボタンが二つほど外された開襟シャツ。体温でぬくもりを増した微かな香りが、卑猥な台詞と相まって、俺は不快とも欲情ともつかない奇妙な心持ちになるのを感じていた。
画面に映し出されているのは、さっきの写真とちょっと角度の変わっただけの同じ男の拘束写真だ。どこかの動画サイトからでも引っ張ってきたってところだろうか。
「な、ちょっとソソられねえ?」
はっきり言って全くソソられねえな、俺はそんなふうに思いながらも、他人様の趣味に口を挟む気もないので、依然黙ったままでいた。それが物足りなかったのか、ヤツの台詞はきわどさを増していく。
「この後さ、薬盛られてケツに玩具突っ込まれてー、そんでもってイかされちまうの」
「――ッ!?」
「情けねえだろ? 男のくせに……よ? いいように弄られて悶えるなんてさ。しかもコレ、周りにギャラリーが何人かいる中でだぜ? イかされちまった時点で負け、その後はギャラリーの連中に輪姦されるって趣向」
ひょうひょうとした調子でヤツは言った。
俺はしばし返答に詰まらされた。きっとこいつは、さっきの紫月のドギツイ質問にも平然と答えた俺のことだから、この程度の話には気軽に乗ってくるだろうと思ったのだろうが、俺にとってはこっちの方がよっぽど驚愕だった。
だがヤツは口ごもっている俺のことを面白がるような感じで横目にしながら、もっととんでもないことを言ってのけた。
さっきからいじくっていた携帯電話の画面を俺の目の前へと差し出すと、
「なら、こんなのはどーよ?」
ニヤッと不敵に笑ってみせた。その画面に目をやった瞬間に、俺は酷く驚き、不本意にも動揺させられてしまった。
そこには全裸の男が縄で縛られて、苦しげに悶えているような写真が映し出されていたからだ。
どう見たって明らかに官能的な要素を含んだエロ写真だ。俺は今までゲイとか同性愛だとかに特に関心がなかったのもあって、男の全裸写真なんていうものを進んで見た試しがない。香港にいた頃に、同級生らとエロ話に花を咲かせたことも勿論あるが、その対象は全部女についてだった。エロ雑誌だって仲間内で回し読みするのは百パーセント女が写っている類の代物だ。
実際、お袋のことがなければ、俺だって普通に女性に興味はあったし、付き合ったり深い関係になったことだって多々あった。
あったというよりも思春期の一時期は、そういった行為に溺れたといっていい程に、お盛んだった。
親父の稼業のせいで、常に危険と隣り合わせに置かれる安息のない日々が嫌で、反抗方々、オンナとの情事に明け暮れた時期があったのは確かな事実だ。
相手なんて誰でもいい。繁華街で知り合った行きずりの女と、寝るだけの目的で付き合ったことも数え切れない。
親父譲りで発育がよかった俺は、十五歳の時分には既に成人に間違われるような風体をしていた。そんな中で、俺の素性を知っている大人たちには早熟と言われ、不良のレッテルを貼られることにゾクゾクし、背伸びをして怠惰に浸ることで、親父に対する無言の反抗をしているつもりでいた。さすがにあんな稼業をしている親の子だとののしられ、世間様から白い目で見られることが何よりの当てつけだと、そんなふうに思ってもいた。
今となってはそれこそ苦笑いがとまらないような懐かしい記憶だったが、とにかくそんな俺でも男同士の情事というのは思いもつかなかったというか、正直そっち方向には縁がなかった。だから急にそんな写真を突き付けられて、酷く戸惑ってしまったわけだ。
こんな写真を携帯電話の中に保存しているコイツも、紫月と同じゲイだということになるのか。まあ彼らが仲のいい友人であるなら有り得ないことじゃない。むしろ、だからこそツルんでいるという方が妥当な線か。いや、そうとも限らないのか。
そんな想像で頭の中がパニくって、咄嗟には返答の言葉も見つからない。
しばしの間、画面を見つめながら絶句している俺のことを面白がるかのように、『ヒョウ』というこいつから出た台詞は更に大胆なものだった。
「オンナじゃ勃たねえってんなら、お前もこっちだろ?」
ニヤニヤとしながら舐めるような視線でまっすぐに俺をとらえていやがる。
ちょい待ち、誰が勃たねえっつったよ……。俺がオンナを抱けねえのにはちゃんとワケがあって……と、心の中で反論するものの、実際上手くは言葉にならない。
ヤツは携帯の画面を次の画像へと送りながら、今度は内緒話の耳打ちでもするかのように、グッと身体を俺の肩先へと近付けてよこした。
その瞬間に立ち上った淡い香りはボディソープかシャンプーだろうか。ブランドものの香水といったそれではない。ゆるめに施された制服のネクタイの下にはボタンが二つほど外された開襟シャツ。体温でぬくもりを増した微かな香りが、卑猥な台詞と相まって、俺は不快とも欲情ともつかない奇妙な心持ちになるのを感じていた。
画面に映し出されているのは、さっきの写真とちょっと角度の変わっただけの同じ男の拘束写真だ。どこかの動画サイトからでも引っ張ってきたってところだろうか。
「な、ちょっとソソられねえ?」
はっきり言って全くソソられねえな、俺はそんなふうに思いながらも、他人様の趣味に口を挟む気もないので、依然黙ったままでいた。それが物足りなかったのか、ヤツの台詞はきわどさを増していく。
「この後さ、薬盛られてケツに玩具突っ込まれてー、そんでもってイかされちまうの」
「――ッ!?」
「情けねえだろ? 男のくせに……よ? いいように弄られて悶えるなんてさ。しかもコレ、周りにギャラリーが何人かいる中でだぜ? イかされちまった時点で負け、その後はギャラリーの連中に輪姦されるって趣向」
1
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる