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8話
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― 5 years after(五年後) ―
「おい――、さっきっからぼんやりして。どうした?」
そんな問い掛けにふと我に返れば、パノラマの窓ガラス越しに見慣れた顔が俺を覗き込むように身を乗り出しているのが目に入った。
あの雨の夜から五年、俺たちは未だこうして一緒にグラスを傾けている。
もうあと半月もすれば、世間では聖夜を祝う一大イベントがやってくる、そんな時期だ。少し早めだが、都内一等地に新しく出来た外資系の高級ホテルでディナーデートなんていうのもオツだと、最上階のレストランで卓を囲んでいた。
「腹がいっぱいになったら眠くなっちまったか?」
評判通りのコース料理はさすがに美味くて、二人して会話もそこそこに平らげたくらいだ。そしてこの見事な夜景とくれば、心身共に大満足だった。今しがた、デザートが運ばれてきたから、コースはこれで終わりなのだろう。そう思って、ふと視線をやった先の景色があまりにも綺麗で、しばし呆然と見惚れてしまっていたのだ。
「ん、ああ……悪ぃ。ちょっとさ、お前と初めてデートした時のことを思い出してた」
「ああ、あのどっしゃ降りの雨の日な?」
「ん――。あん時、お前の車ン中で考えてたことがさ……えっちすんならどっちが上になんのか下になんのかとか、そんなことばっか想像してすっげオロオロしてたの俺!」
「はは、何だそれ。エッロ!」
可笑しそうに微笑うこいつの笑顔に胸の奥がキュッと熱くなる。幸いか、今日は雨じゃなかったが、あれから五年も経った今でもそんなところは変わらない。
今では心底こいつにイカれてしまっている自分が信じられなくもあり、けれども一等シアワセでもあるような気がして、複雑な思いに甘苦しく胸がうずく。と同時に、余裕がないのはいつも俺の方ばかりに思えて、些細なことでも胸がドキついちまうのが情けない。
そんな気持ちを悟られまいと、少しだけ意地の悪いことを訊きたくなって、ずっと気になっていたことを投げ掛けた。
「てかよ、お前はどうだったんだって……」
「どうって、何がだ」
「あン時、つまりその……抱くつもりだった? それとも……」
「抱かれるつもりだった――ってか? ンなわきゃねえだろう」
最後まで訊き終わらない内にあっさりと否定されて、図らずも赤面だ。
「抱く気満々だった。――てよりも、食う気満々だったって方が正しいな」
「……って、俺は餌かよ」
初めてのあの夜、こいつが俺の名を『豹』かと訊いたことが未だに鮮明な印象として残っている。そのせいか、抱かれる時はいつも同じ光景が思い浮かぶんだ。
野生の広大な原野で、百獣の王の下に組み敷かれる豹の姿が、切り取った絵画の如く脳裏に焼き付いて現れる。
そんなことを考えていたら、不本意にも身体の中心――雄――が熱を持ち始めたのを感じて、酷く焦ってしまった。
「どうした――? 今、ここで食われたくなったか?」
見透かすように口角を上げた笑顔が憎らしい。
目の前のデザートのベリーをひとつまみ、形のいい指先で掴み上げてニヤッと笑う。
口に放り込んで、これ見よがしに舌先で転がすような素振りをする。
まるで今にも俺のいっとう反応かんじる箇所を舐め取るかのような連想を突き付けてくる。
絶対に面白がっている、からかわれているだけだと知りつつも、俺の中の熱はユルユルと温まり、うねりを増してしまいそうだ。ゾクゾクと背筋を這い上がってくる独特の感覚は、俺の意思を裏切って、気を許せばすぐにもその先を望み出す。
ここは一流ホテルのレストランだ。こんな場所で欲情するなんて、俺って相当イカれてる――
「おい――、さっきっからぼんやりして。どうした?」
そんな問い掛けにふと我に返れば、パノラマの窓ガラス越しに見慣れた顔が俺を覗き込むように身を乗り出しているのが目に入った。
あの雨の夜から五年、俺たちは未だこうして一緒にグラスを傾けている。
もうあと半月もすれば、世間では聖夜を祝う一大イベントがやってくる、そんな時期だ。少し早めだが、都内一等地に新しく出来た外資系の高級ホテルでディナーデートなんていうのもオツだと、最上階のレストランで卓を囲んでいた。
「腹がいっぱいになったら眠くなっちまったか?」
評判通りのコース料理はさすがに美味くて、二人して会話もそこそこに平らげたくらいだ。そしてこの見事な夜景とくれば、心身共に大満足だった。今しがた、デザートが運ばれてきたから、コースはこれで終わりなのだろう。そう思って、ふと視線をやった先の景色があまりにも綺麗で、しばし呆然と見惚れてしまっていたのだ。
「ん、ああ……悪ぃ。ちょっとさ、お前と初めてデートした時のことを思い出してた」
「ああ、あのどっしゃ降りの雨の日な?」
「ん――。あん時、お前の車ン中で考えてたことがさ……えっちすんならどっちが上になんのか下になんのかとか、そんなことばっか想像してすっげオロオロしてたの俺!」
「はは、何だそれ。エッロ!」
可笑しそうに微笑うこいつの笑顔に胸の奥がキュッと熱くなる。幸いか、今日は雨じゃなかったが、あれから五年も経った今でもそんなところは変わらない。
今では心底こいつにイカれてしまっている自分が信じられなくもあり、けれども一等シアワセでもあるような気がして、複雑な思いに甘苦しく胸がうずく。と同時に、余裕がないのはいつも俺の方ばかりに思えて、些細なことでも胸がドキついちまうのが情けない。
そんな気持ちを悟られまいと、少しだけ意地の悪いことを訊きたくなって、ずっと気になっていたことを投げ掛けた。
「てかよ、お前はどうだったんだって……」
「どうって、何がだ」
「あン時、つまりその……抱くつもりだった? それとも……」
「抱かれるつもりだった――ってか? ンなわきゃねえだろう」
最後まで訊き終わらない内にあっさりと否定されて、図らずも赤面だ。
「抱く気満々だった。――てよりも、食う気満々だったって方が正しいな」
「……って、俺は餌かよ」
初めてのあの夜、こいつが俺の名を『豹』かと訊いたことが未だに鮮明な印象として残っている。そのせいか、抱かれる時はいつも同じ光景が思い浮かぶんだ。
野生の広大な原野で、百獣の王の下に組み敷かれる豹の姿が、切り取った絵画の如く脳裏に焼き付いて現れる。
そんなことを考えていたら、不本意にも身体の中心――雄――が熱を持ち始めたのを感じて、酷く焦ってしまった。
「どうした――? 今、ここで食われたくなったか?」
見透かすように口角を上げた笑顔が憎らしい。
目の前のデザートのベリーをひとつまみ、形のいい指先で掴み上げてニヤッと笑う。
口に放り込んで、これ見よがしに舌先で転がすような素振りをする。
まるで今にも俺のいっとう反応かんじる箇所を舐め取るかのような連想を突き付けてくる。
絶対に面白がっている、からかわれているだけだと知りつつも、俺の中の熱はユルユルと温まり、うねりを増してしまいそうだ。ゾクゾクと背筋を這い上がってくる独特の感覚は、俺の意思を裏切って、気を許せばすぐにもその先を望み出す。
ここは一流ホテルのレストランだ。こんな場所で欲情するなんて、俺って相当イカれてる――
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