Anniversary

一園木蓮

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6話

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「ダブルブリザード――か。随分とまた冷てえ名前だな? 俺は――イェン
「え――?」
「”ほむら”と書いてイェンだ」

――イェンだと?

「混血なんだ。親父が中国人でお袋が日本人」
 ああ、なんだ、そういうことか。キョトンとしてしまった俺を見て、ヤツの瞳が可笑しそうに弧を描く。
 もしかしたらコイツも俺と似たような経験をしてきたんだろうか――ふと、そんな想像が脳裏を過ぎった。名乗る度に必ずと言っていいほど不思議な顔をされ、由来を説明するのがかったるい。何だか親近感が湧いちまいそうだ。
 しばしそんな温かい気持ちに浸り掛けていたのも束の間、
「じゃあ俺たちは傍に居ると形を変えるってわけだな」
 突如、『え――?』というようなことを囁かれて、我に返った。
「形を……変える?」
ひょうほむらで溶かされてみずになるだろ? 焔は冰を溶かす内に燃え尽きて気体になる――とかな」
「え……、は……?」
「溶かされた水もやがては気化する。俺たちは同じものになるってわけだ」
 おいおいおい、どこの哲学者だよ……。
 そもそもどういう意味で言っているのか、わけが分からない。俺は口をポカンと開いたまま、ヤツを凝視してしまった。きっとひどく間抜けな顔をしていたことだろう。
 そんな俺をヤツは面白おかしそうに見つめていた。
 その笑顔がとてつもなくやわらかくて、しかも妙に色っぽくて、見つめられるだけで心臓を射貫かれそうだ。
 整い過ぎた顔立ち、好むと好まざるにかかわらず見惚れてしまうような完璧な美丈夫の妖艶な笑み――ダメだ、堕とされる――瞬時に本能がそう告げる。
 格好付けることも粋がることも儘ならず、どういった思考回路からか、ヤツの逞しい腕の中で抱っこされている仔豹の姿が思い浮かんでしまったほどだ。
 いや待て、それは俺じゃない――! そうだ、俺はそんな可愛らしいイメージじゃないはずだ。そう、俺はもっと、もっと……こう――
 そんなことで頭がグルグルしているのを他所に、ハッと我に返ればヤツの掌が俺の頬に添えられていて――
 クイと顎先を掴むように指先が撫でた感覚に、全身を電流で貫かれるような衝撃が走った。

 ビー、ビー、ビーーーッ!

 突然のけたたましいクラクションの音で俺はハッと我に返った。
 ああそうだ、赤信号だったんだっけ。
 キョトンとなっている様がおかしく思えたのか、
「無粋な連中だな」
 そう言ってヤツは悪戯そうに笑うと、何事もなかったかのように俺から離れてハンドルを手に取った。



◇    ◇    ◇


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