Anniversary

一園木蓮

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4話

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「あんたさ、いっつもあのバーに何しに来てるわけ?」
 ついそんな疑問を投げ掛けてみたくなった。
 わざわざゲイバーに足を運んでいるくせに、いつも独りで飲んでいるだけだなんて、どういうつもりなのか訊いてみたくなるのも当然だろう。それ以前にあそこがゲイバーだということ自体を知らない可能性も強い。
 確かにあの店は落ち着いた感じの造りな上に、客層からしても一見ではそれと気付かないケースも多い。
 マスターの意向で会員制というわけでもないから、やはり何も知らずに単に飲みに来ているだけなのかも知れない。
 いや、案外それで当たりだったりして――それなら本当のところを教えておいてやるのが親切というものか、ついぞそんな節介な気持ちまでもが湧き上がる。
 だがヤツはそんな俺の思惑をあっさりと翻すような意味ありげな視線でこちらを見やりながら、
「そういうアンタは何しに来てるんだ、なんてな? 訊くのもヤボだな?」
 そう言って薄く笑ってみせた。

――雨に滲んだ信号機が赤に変わる。

 ハンドルに肘をかけながらチラリと流し目に見られれば、格好悪くも視線が泳ぐのをとめられなかった。
「あんた、いつも綺麗なボウズを連れてるもんな? ああいうのが好みなのかって思いながらあんたがそいつらと連れ立って店を出てくのを見るたんびに、かなり焦れた。妬けたって方が正解かな」
「は……?」
 信じ難いセリフだ。
 一瞬、何を言われているのかよく分からなかったくらいだ。



◇    ◇    ◇



「ここ、いいか――?」

「――? 何……?」

「キスしたい――」

 あっという間の顔面ドアップに驚く暇もなく、ヤツの唇が俺の耳元でそう囁く。
「俺みてえなのは、好みじゃない?」
「え……!? あの、えっと……」

(や、その好みじゃねえ……とか急に、ンなこと言われても……)

 実はすごい好みでした、なんて返せるわけがない。
 本来ならば冗談まじりに妖しい駆け引きを楽しむくらいの余裕があるはずの俺が、ただただ硬直してたじろいでいるだけだなんて、これじゃ初恋も朧なガキじゃねえか。

 『俺みてえなのは好みじゃない?』

 囁くようなローボイスに得体の知れない何かがうずき出す。瞬時に背筋を這い上がったゾワリとした感覚が信じられなくて、俺は思わずギュッと拳を握り締めた。
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