Anniversary

一園木蓮

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3話

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 助手席に乗せてもらい、何気ない会話を流麗に交し合い、こうしていると何故今までこの男に話し掛けることをあんなにもためらっていたのかが分からなくなるくらいに自然な感じがした。
 互いの趣味の話から始まって、仕事は何をしているのか興味があった――などと悪戯そうな顔つきで言われれば、全くもって悪い気はしない。どんどん会話が弾んで、このまま送ってもらうだけでは物足りないような気にさえなってくる。
 そんな気持ちを読み取るかのようにヤツが放ったひと言、余程俺が物欲しそうな顔でもしていたのか、
「時間、あるんだろ? このまま送っていっても勿論いいが……少し遠回りしてドライブでもしないか?」
 若干遠慮がちにそんなことを言っては俺の意向を尊重するように、チラリと視線を投げ掛ける。
 そんな仕草にドキリとさせられて、
「――こんなどしゃ降りなのに?」
 鼻先に軽い嘲笑までをも携えて、咄嗟にそんな高飛車な台詞が口をついて出てしまった。
 せっかくの誘い文句に、俺ときたらバカな返事をしたもんだ。
 だが素直にそうですか、とホイホイ付いていくのも癪な気がして、ついそんなふうに返してしまった。
 だがヤツは残念がるわけでもなく、悔しがるわけでもなく、その整った唇を満足そうにゆるめながら、意味ありげにニヤリと笑ってこちらを見つめた。
「なら二択だ。この先ちょっと行った所に俺の馴染みのバーがあるんだが――そこで飲み直す。じゃなければ……俺の部屋に来る? どっちがいい?」

 どっちがいいったって……。

 この場合、普通に考えれば ”馴染みのバー” が正解だ。妥当な答えだ。
 だがありきたりに答えるのもこれまた小粋さに欠けるような気がして、俺はヤツの不適な笑みに受けて立つとばかりに、

「じゃあ、あんたの部屋――」

 そう言って少し挑発的に顔を近付け微笑ってやった。
 そうさ、あんただってもう分かっているんだろう。
 俺たちが互いに同じ立場の、相容れない者同士だってこと。
 そんな男を部屋に呼んだからといってどうなるわけでもない。それでも尚且つ俺を部屋に招くメリットがあんたにはあるのか?
 ふと、脳裏に浮かんだそんな想像に俺は半ば勝ち誇ったような、それでいて妙に寂しいような不可思議な気持ちにとらわれていた。
 この男に興味があるのは本当だ。この男の言うようにもう少し一緒にいたい気がするのも本当――。
 だが、だからといってこの男と自分がどうかなるのかといえば、そこのところの想像が曖昧だった。
 この男に抱かれるというにはいまいち踏み込みきれない感があるし、では抱くのかといえばそれもしっくりこない気がしてならない。
 よくよく考えればこの男だってゲイバーに自ら足を運んでいるわけだし、そういう目的を持ち合わせていたって不思議ではない。というよりは、そうでない方が不自然だろう。
 この男がいつも独りでいるのが当たり前のようになっていたからすっかり抜け落ちていたが、元を正せばソレ目的でない方がおかしいくらいだと、改めて俺はそう思った。
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