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過去からの招待状
5話
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club-xuanwuの元オーナー兼代表だった粟津帝斗が店を訪れたのは、その少し後のことだった。
「おはよう。差し入れを持って……来たよ……?」
いつもならフロアマネージャーである黒服をはじめ、手の空いているホストたちがすっ飛んで迎えに出てくれるというのに、今日は何故だか店内の雰囲気が異様だ。何か揉め事でもあったのかと思いながら、店のバックヤードを覗いたその時だった。
「オーナー!」
黒服らが気付くなり焦った表情で駆け寄ってきたのに、帝斗は首を傾げた。
「どうした。何かあったのか?」
以前の名残か、未だにオーナーと呼ばれることに特に違和感を感じないのは、この店のアットホームな雰囲気を体現しているようで心地よい。だが、今日は何だか皆が焦燥感で一杯のような顔付きでいるのが酷く気になった。
「実は……雪吹代表がいなくなってしまったんです……」
「いなくなった? どういうことだい?」
「それが……」
黒服の言うには、今からほんの一時間位前に慌てた様子で店を飛び出して行ってしまったとのことだった。それも、出勤して来るなり僅か数分後のことだったそうだ。
普段の彼ならば有り得ないような形相で、顔色も良くなかったという。何処へ行ったのか、何をしに行ったのかも知らされないままで、店内ではちょっとした騒ぎになっていたようだった。
帝斗はそれを聞くと、しばし腕組みをしながらだんまりを決め込む。
おそらくは思い当たる節を巡らせているのだろうかと、逸る気持ちでその様子を窺っていた黒服らは、帝斗のハッとした表情で我に返ったかのようだった。
「二、三、質問してもいいかい? このところ、冰に変わった様子は?」
「いえ、昨日までは全く普通でした。変わったことといえば――今日から龍さんが大阪にご出張で、遼二君を連れて出掛けられたので、しっかり留守を守らなきゃなって……出勤された時はいつも通りでした」
「そうか。では……僕が辞めてから何か気になるようなことがあったか? 冰は以前に拉致事件にも遭っているからね。ああいった類のことは起こっていないかい?」
そう訊きながら、だが『龍』こと氷川白夜が恋人として常に側に居る状況だ、そんな事件めいたことがあれば、すぐさま彼が対応するだろうと思える。
氷川は香港マフィアの頭領の息子である。例えその素性を知らずとも、一目見ただけで適わないと思わせるような近寄り難い風貌を備えた男でもある。そんな彼にわざわざ楯突こう者がいるとも思えない。
帝斗はまたしばし考え込んだ後、黒服に向かってこう訊いた。
「では――店の客の中で、ここ最近目に余るようなこととかはなかったかい? 例えば――冰が現役だった頃に彼を指名していた太客が、諦め切れずに通い詰めて来て困っている……とか」
「おはよう。差し入れを持って……来たよ……?」
いつもならフロアマネージャーである黒服をはじめ、手の空いているホストたちがすっ飛んで迎えに出てくれるというのに、今日は何故だか店内の雰囲気が異様だ。何か揉め事でもあったのかと思いながら、店のバックヤードを覗いたその時だった。
「オーナー!」
黒服らが気付くなり焦った表情で駆け寄ってきたのに、帝斗は首を傾げた。
「どうした。何かあったのか?」
以前の名残か、未だにオーナーと呼ばれることに特に違和感を感じないのは、この店のアットホームな雰囲気を体現しているようで心地よい。だが、今日は何だか皆が焦燥感で一杯のような顔付きでいるのが酷く気になった。
「実は……雪吹代表がいなくなってしまったんです……」
「いなくなった? どういうことだい?」
「それが……」
黒服の言うには、今からほんの一時間位前に慌てた様子で店を飛び出して行ってしまったとのことだった。それも、出勤して来るなり僅か数分後のことだったそうだ。
普段の彼ならば有り得ないような形相で、顔色も良くなかったという。何処へ行ったのか、何をしに行ったのかも知らされないままで、店内ではちょっとした騒ぎになっていたようだった。
帝斗はそれを聞くと、しばし腕組みをしながらだんまりを決め込む。
おそらくは思い当たる節を巡らせているのだろうかと、逸る気持ちでその様子を窺っていた黒服らは、帝斗のハッとした表情で我に返ったかのようだった。
「二、三、質問してもいいかい? このところ、冰に変わった様子は?」
「いえ、昨日までは全く普通でした。変わったことといえば――今日から龍さんが大阪にご出張で、遼二君を連れて出掛けられたので、しっかり留守を守らなきゃなって……出勤された時はいつも通りでした」
「そうか。では……僕が辞めてから何か気になるようなことがあったか? 冰は以前に拉致事件にも遭っているからね。ああいった類のことは起こっていないかい?」
そう訊きながら、だが『龍』こと氷川白夜が恋人として常に側に居る状況だ、そんな事件めいたことがあれば、すぐさま彼が対応するだろうと思える。
氷川は香港マフィアの頭領の息子である。例えその素性を知らずとも、一目見ただけで適わないと思わせるような近寄り難い風貌を備えた男でもある。そんな彼にわざわざ楯突こう者がいるとも思えない。
帝斗はまたしばし考え込んだ後、黒服に向かってこう訊いた。
「では――店の客の中で、ここ最近目に余るようなこととかはなかったかい? 例えば――冰が現役だった頃に彼を指名していた太客が、諦め切れずに通い詰めて来て困っている……とか」
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