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宝石の涙目
あの人が好きと言った空は、、、
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黒紫髪の彼女がうずくまっている。
「ゔぅ、もうやだぁ。」
ヒクヒクしゃっくりと嗚咽を繰り返しながら泣きじゃくる。
「うぅ、、、」
喪服に身を包む彼女の背中を撫でる。
「うぅ、、、お兄ちゃん、、、うぅ」
こんな溶けた腕では彼女を慰められない。
こんな汚れた手では彼女に触れられない。
けれど、、、今は、彼女の兄のように背中を撫でるのだ。
今だけは、、、
兄の代わりに、彼女を慰めるのだ。
「触らないでよ!近寄らないでよ!!お前なんか大っ嫌い!!」
泣き崩れながら、頬を叩く。そして五、六回ほど力いっぱい殴りつけると、その場にへたりこんで、また嗚咽を鳴らす。
「うぅ、ヒック、、、うぅ、返してよォ、、、返してよォ、、、お兄ちゃんを返してよ!!
この、
悪魔!!!」
感情のままに言う。
「お前なんて、、、お前なんて、、、、いなければよかったんだ!!生まれてこないでよ!!」
淀んだ自分の目にはあまりにも愛情にあるれた人のように思えて、彼女から最愛の兄を奪ってしまった自分を殺したくてしょうがない。
「お前が、、、死ねばよったんだ、、、」
掠れるように言う。
彼女の言ってることはその通りで、当然で、しょうがないこと。
この人の兄が好きだと言ったこの丘で、夕陽に照らされながら、自分達は苦しみの夜に落ちていく。
厚い雨雲が空を覆い始めた。
「雨、、、」
呟いても、「早く帰ろう。」そう言ってくれる声はもう聞こえない。
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瞼の外が明るい。
朝だ。
眩しさにくらみながら目を開けた。眠気で気だるい体を起こして、肩から布団が落ちる。
窓からさす日差しが晴れであることを伝えている。
「晴れてる。」
ベッドからおり、窓を開けてみる。
少しひんやりとした風が吹き抜け、ベディの髪とワイシャツをなびかせる。
(また、夢。)
ノックもされずに扉が開く。
「あれ、ベディ起きてたんだ。」
ライが
「まだ寝てても良かったのに、、、」
とつぶやくと、ベディは、
「私もライ様と街へ行くの楽しみで早く目を覚ましてしまったんです!」
「嬉しいこと言うね。ベディ。」
頭を撫でて、ベディははにかむ。
「えへへ。」
「少し早いけど、朝ごはんにして、準備しようか。」
「はい!」
ベディの返事を聞いて、部屋から出ようとすると、ベディに呼び止められた。
「ライ様。」
「ん?何?」
「ライ様、、、おはようございます。」
少し悲しい顔をしたあと、満面の笑みで言った。
「うん。おはよう。ベディ。」
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「じゃあフール、行ってくるね。」
「おう。」
裏口から二人を見送るフール。
ベディは見た事ない世界にドキドキしているようで楽しそうにしていた。フールはその姿を見て、イデアの外を怖がってないようで内心ほっとしていた。
「ベディ、ライがいるからって、安心するなよ?危険はどこにでもあるし、何時でも起こりうることなんだ。」
「はい!」
「浮かれるのはいいことだが、浮かれ過ぎるのはご法度だ。わかったな?」
「はい!」
「うん。いい返事。」
そう言って、ポケットから黄色いヘアピンを二つ出して、ベディの髪につける。
「フール様、、、これって、、、」
感極まったようにフールを見る。
「あ、それ今渡すんだ。」
ライが楽しそうに言う。「まぁな。」フールが笑うと。
「アイツらが居る前で渡したほうがいいと思ったが、、、今のほうがいい。」
「そうだね。」
「んじゃ、気をつけて行ってこいよ。」
「「はい。」」
「行ってきます!フール様!」
「おう、行ってらっしゃい。」
そう言って、手を振る。
離れていく二人を見送って、中に入ると、コールとヘルドレイドが膨れつらでいた。
「あ、起きたのか?」
ヘルドレイドが
「起きたのか?じゃないよ!!起こせ!!」
「そうだ。そうだ。」
コールも続けて言う。
「じゃあ出てくれば良かったじゃん。」
「それは。ちょっと。」
「恥ずかしいー。」
「棒読みで何言ってんだ。」
フールがため息をつきつつ、食堂へ行こうとすると、
「ありがとね。フール。」
ヘルドレイドがつぶやく。
「ん?」
「ヘヤピン。」
「あぁ、まぁな。」
コールが、
「喜んで。くれた。かな?」
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ライの隣を楽しそうに歩くベディ。
「そういえば、、、ヘルドレイド様、あまり不思議な言葉を使わなくなりましたね。」
「あぁ、そうだね。ヘルドレイドもだいぶ気おつけてるからね。」
「どうして使っちゃダメなんですか?」
「うーん。大した理由は無いよ。単に出身地がバレるから。こないだより気おつけるようになったのだって客に使っちゃってバレかけたって言うのが理由だしね。」
ははっ、と笑い声を出すも、全然笑っていなかった。薄暗く、気味の悪い通りをぬけ、繁華街へ出た。
クラッカーの音がひびき、楽しい音楽が鳴り響く。
「ベディ、はぐれないように手を繋いでて。」
ライから伸ばされた手。肌の溶けた自分の手が重なり硬い、大きな手が包み込む。
引かれながら、歩く繁華街はドキドキと好奇心に溢れていて、少し現実味が無かった。
「ライ様、あれはなんですか??」
移動式の売店に陳列しているチュロスを小さく指さす。
「ん?嗚呼、あれは、チュロスだね。食べ歩けるお菓子だよ。」
「なら、あれは?」
その隣にあるお菓子やを指す。
「お菓子屋だね。グミとか飴を袋詰めで買える所だね。」
「ならなら、あのローブを被ったおば様は?」
「占いだよ。運命とか、未来とか運とか占って話を聞く所。」
通りすぎながらも、あちらこちらに視線が行き、目まぐるしく新しい反応を繰り返すベディに一つ一つ説明する。
「ライ様、あの、不思議なメイクをした方は何をしていらっしゃるんですか?」
「大道芸だね。ピエロっていう、、、サーカスとかでやってる人かな?多分。」
足を止めたライとベディにピエロはに気付いたようで、こちらに来てベディの前に煙と共に紫の花を出す。
ベディはライを見てライが頷くと、前に出された紫の花を受け取る。ピエロは奇怪に手を振ると、持ち場に戻って行った。
「よかったね。」
「はい!」
目を輝かせながら紫の花を大切そうに握る。なにか思いついたように、
「ライ様!ライ様!少し屈んでください!」
言われた通りに屈んで見ると、ライの胸がポケットに花を差し込んだ。
「えっと、、、ベディ?これは一体、、、」
「紫なので、ライ様に会うかなって、、、!」
本当に嬉しそうに言うベディに何も言えなくなるライ。
「・・・俺よりもベディの方が似合うよ。」
「いいえ!ライ様の方が似合います!宝石みたいな目と髪にとってもあいます。」
あまりに純粋に言う。
(俺たちの口説き文句がベディに移ってる。)
「ベディ、、、ありがとう。じゃあ俺のわがまま言っていい?」
「はい。」
ベディが差した花をベディの右耳に差し込む。ベディは不安になって、
「お気に召さなかったでしょうか?ごめんなさい。」
「いや、違うんだ。」
ベディの耳に唇を近づけ、
「俺のって見せつけてたいから、このまま。」
ベディは少し顔を赤らめた。
「ラ、ライ様、ベディは、、、見せつけなくても、ライ様のですよ?」
(ほんっと!この子は!!気付かぬうちに天然タラシに。)
「それでも、いや、だからこそ、見せつけてやりたいの。」
納得いかないようで、首を傾げつつも、困ったように笑い
「はい。ライ様の気が済むなら、、、」
ベディの額を撫でて、微笑む。ベディはそれを見て、もっと楽しそうに笑った。
また歩を進め始める。
「ライ様、楽しいですね!」
「うん。そうだね、、、。」
良かった。ベディの目にはこの世界が苦しみだけじゃない。
その確信がライはできてほっとした。苦しみだけが世界じゃない、悲しみばかりだけではない、喜べる美しさもある事が見えなくなって仕舞わないようにして欲しい。
ライはこころからそう思った。
そんなことは自分達でとっくのとうにやっているのに未だに思っている。
「ライ様ライ様!!あれはなんですか?」
ベディがシートに物品を並べた列を指す。
「あれは、、、フリーマーケットだね。いらなくなったものとか、、、まぁ色々売ってるところだよ。不定期でやってた気がするよ。」
「ふぅん。皆さん楽しそうですね!」
「そうだね。ヘルドレイドとか、骨董品好きだからよく来てるよ。今度ついて行ってみたら?」
「ヘルドレイド様のお部屋にあった箱とかそうなんですかね??」
金色蝶の装飾がほどこされた四足のブリキ箱を思い出す。
「うーん。あいつの部屋にあるのはだいたい骨董品だから、多分そうだよ。」
広場に出て、大衆が集まっていた。
奥の1番大きな屋敷の前に五階ほどある木の処刑台があった。そのにはギロチンとそこに首を乗せようとする白無垢の女性。
「これより、反逆貴族ベロニカ・キャサリン・ジンテーゼの処刑を行う。」
横にいる執行人がマイク越しに言う。大衆は湧き上がり、罵声と歓喜が合わさる。
ベロニカと呼ばれた女性が顔を上げ、赤い瞳を覗かせる。
大衆はおぞましいと怯えて卑下する。
ベロニカはその大衆の奥に一人の少女を見つけた。可愛らしいワンピースに身を包み、黄色い髪留めと、耳に紫の花をさして。手を繋いでいる男の手をより握りしめていた。
風が吹き抜け、ベロニカと少女の髪を揺らした。
(嗚呼、神様。なんて、、、残酷で、お優しい事を、、、。)
罵声と共にギロチンの紐が切られた。
「ベディ、み、、、ちゃ、、、、。」
ライは固まり、凝視してしまった。
棒立ちしていたベディの瞳が首を切り落とされた女性と同じ、、、赤色だったからだ。血よりも紅く、赤い。美しいその瞳は今の大衆には罵倒の矛先になってしまう。
「みゃー。」
黒猫が鳴いた。
引き戻されたライは慌ててコートを脱いでベディに被せる。
「ライ様?!何を、、、!」
ベディは動揺しながら、ライに抱き抱えられる。
影の濃い裏路地に入り、ベディを下ろす。
コートから顔を出して、ライを見上げる。
「ライ様、、、どうかいたしましたか?」
「ベディ、、、君、、、」
見上げた瞳はいつものグリーンアレキサンドライトの瞳。ライには何が何だか分からず、困惑することしか出来なかった。
「ライ様?どうかなさいましたか?」
行き場のなくなった手を握るベディ。
「いや、、、何でもない。行こっか。」
「はい!」
楽しそうに歩くベディの手を引いて、裏路地から出る。
(後でフールに聞かないと、、、)
繁華街を抜け、住宅街を抜け、小さな丘のある森に来た。
「・・・」
ベディは少し立ち止まった。
「ベディ?」
ライはバートリー家の周りにあった木々を思い出す。
「ベディ、怖い?」
ベディは黙って首を横に振った。
「とっても、、、悲しい想い出の場所。」
ライの手を離し腰に抱きつく。ベディをコートの中に入れ、森の中へ歩き出す。
「ベディ、怖い?」
少し躊躇いながらも首を縦に振る。コート越しに肩を擦りながら歩く。
「ライ様」
「何?」
「ライ様、居なくなったりしませんよね?」
「ならないよ。君がいなくならなければね。」
「・・・」
少し開けたところに出た。そこには一軒家がポツリとあった。
「ここが俺の家。」
「ライ様の?」
「うん。俺はテュミルがいるから三人みたいに住み込みじゃないんだよ。」
鍵を取り出して、鍵穴へ入れる。
「でも、私が来てから、ライ様が帰られたところはみたことがありませんよ?」
「嗚呼、それは、ちょっと仕事が立て込んだから少し泊まってたんだよ。こっちにはテュミルが居たし、急いで帰る必要も無かったからね。」
ドアを開けて入ってゆく。
「お、お邪魔します、、、。」
ベディも後に続いて入る。
何かガラスが割れる音と共に慌ただしく奥の部屋から入って来たのは黒紫の女性。長い髪を派手に広げながら転んで、顎を打った。
「テュミル、、、お前、、、」
ライが疲れたように言う。
「しょうがないじゃないお兄ちゃん!!あそこにものが置いてあるのが悪い!!」
「何がしょうがないだ。そこに物を置いて、片付けろって言っても片付けないのはお前だろ。たかが一週間家を開けたらすぐ散らかるのは何とかならないのか??」
「ゔっ!それは、、、」
「だいたい、俺は帰ってきた時ここを片付けたぞ。位置が戻ってるのはお前が使ったからだろ。あそこのだってこの間、、、」
くどくど、床から起き上がらない妹に説教をするライにベディは少し安心した。
「ライ様」
「ん?ごめんベディ。放ったらかしにて、紹介するね。」
テュミルが起き上がってスカートのホコリを払う。
ベディとテュミルが向き合い、互いに見つめ合う。
「初めまして、私はテュミル。兄からあなたのお話は聞いてるわ。お世話になってるわね。」
ライのアメジストのようなうす紫の瞳が同じで見れば見るほどよく似ている。目の下のホクロの位置でさえも同じで、少し驚きつつも、
「初めまして。私は、ベディです。お会いできて嬉しく思います。」
笑顔で挨拶するベディにテュミルは驚いたような表情を見せた。
「本当に?」
「え?」
「いや、何でもない。よろしくね。ベディちゃん。」
「はい!テュミルさん。」
二人は握手を交わして、笑い合う。
ライはその様子を見て、奥の部屋へ入っていった。
「テュミル、ベディにお茶入れてやって、俺は仕事やってシャワー浴びるから。」
「うん。ベディちゃん、こっちおいで!」
ベディをキッチンの方に呼ぶと、
「どのお茶飲みたい?」
ズラリと並んだ茶葉を見せてた。
「えっと、、、じゃあ、、、このお茶を、、、。」
オレンジの皮が入ったローズのお茶葉を手に取った。
「どうして、、、」
呟く。
「はい?」
「えっと、どうしてそれにしたの?」
「えっと、、、テュミルさんが、、、」
ベディもどうしてこのお茶を選んだかわからなかった。ただ、何となく、テュミルがオレンジの入ったお茶が好きだと聞いたことがあったような気がしたから。それだけだ。
「私が?」
「テュミルさんが好きそうだなって。」
「そっか。、、、これに合うスコーンがあるの!それも出しましょ!!」
目をキラキラさせながら用意をする。
「あ!ベディちゃんは座ってて!病み上がりなんだから!」
「いえ、そんな、私は、、、大丈夫ですよ!」
「ダメ!!ここまでこさせてるわけだし!」
「うう、でも、私は、、、テュミルさんのお手伝いがしたいです。」
なかなか引き下がらないベディに少し困惑しながらも、テュミルが折れ、三つティーカップと茶こしを持っていかせた。
スコーンと紅茶を広げダイニングテーブルで話をしている。
「えー!ライ様はそんな時期があったんですか?!」
「そうそう!その時のお兄ちゃんはねーしっかり者じゃなかったよ。どちらかと言うとドジっ子って感じだった。」
「ふふ、ドジっ子のライ様、、、想像すると、可愛いですね。」
主にライの話。他に共通点が無いのもそうだが、ベディがライの昔の話を聞きたいと言ったのでテュミルが聞かせている状態だった。
「あの~。」
シャワーを浴び終わったようで、上裸で肩にタオルをかけ濡れた髪を拭きながらドアに寄りかかっていた。
「お二人さん、、、そろそろやめていただけます?」
少し顔を赤らめて、髪を拭いていた。
「ごめんなさい!私、、、」
「いや、別にいいんだけど、部屋に入るに入りずらい。」
「ごめんなさい、、、」
ライがベディの横を通る。ライの脇腹に切り傷の痕が見え、
「ライ様、その傷、、、」
「ん?嗚呼、これは昔ちょっとね。もう痛くないから平気だよ。」
ベディの細い指先が優しくライの傷跡をなぞる。
「綺麗な肌なのに、、、」
「っ!」
背筋がゾッとする感覚に襲われついベディの手をのけてしまう。
「ごめんなさい、ライ様嫌でしたね。」
「いや、大丈夫。少しくすぐったかっただけ。」
テュミルは目の前で少女と兄がイチャついているのに耐えられず、
「お兄ちゃん、そろそろ髪を乾かしたら?というか!!!女の子しかいないのに上裸で出てくるな!!」
「はぁ、今更だろ。ベディもテュミルも俺にとっては今更だ。」
「今更!!ベディちゃん!!まさか、お兄ちゃんと、、、!!」
テュミルは顔を赤らめて、ベディとライを行き来する。「?」本気で分からない顔をしているベディを見て、ライの得意げな顔を見ると
「まさかお兄ちゃん!!まだ何も知識のない年端(としは)もゆかなき女の子をっ!!あんなことやこんな事!?きゃー!ハレンチ!」
ライはベディに耳打ちをする。
「テュミルは夢魔じゃなくて、魔女っていう部類だから、俺ら(夢魔)の詳しい生態はよくわかってないんだよ。」
「そうなんですか??」
「うん。ベディもわかってないだろうけど、多分もっとわかってない。」
きゃーきゃー叫んでいると、耳打ちで話す二人を見て、
「ちょっと!!二人で何を話しているの!?ハレンチな話はよそでやってよね?!」
ライは遊ぶように
「おっと、それは残念だ。ベディを初めて味わった時の話でもしてやろうと思ったんだけどなー。」
「な!!なななななな!!そんな事は話すことじゃありません!!」
「いやいや、自慢してやりたいくらい刺激的だったんだよ。そうだな、ベディの首筋辺りに少し噛み付いた時とか、あれは絶品だった。他には、、、」
「きゃーきゃー!!ハレンチ!兄のそんな姿知りたくなかった!!」
両手を顔に覆い泣く仕草をする。
「ライ様、、、」
さすがにテュミルが可哀想に思えてしまい、ベディが歯止めをかける。
「わかってるよ。もうやんない。」
テレビだいの下にあるドライヤーを取り出して本体に巻いていたコードを伸ばしてコンセントを探す。
「ライ様、髪を乾かすのを手伝わせてください。」
「ん、」
「もおー!またイチャついている!!ハレンチ!」
テュミルが二人を止める。ライもさすがに呆れて、
「お前な~何でもかんでもハレンチにするな。そんなんじゃないだろ。しょっちゅうやってもらってる事なんだから、別に、、、」
「しょっちゅう!!自分の兄が知らぬ間に少女をたぶらかしていたなんて!!」
「だから、、、」
「ベディちゃんっていう無知で純粋な女の子をたぶらかして、あんなことやこんな事を、、、!!」
キラキラ
頭の中でベディをベッドに押し倒し、
「ベディ、君が可愛すぎて食べてしまいたいよ。」
「だめです、ライ様、、、そんなところを触っては、、、」
「どうして?」
「それは、、、他の大人の人がダメって、、、」
ベディの髪を一救いし、口付ける。
「誰かわからない人より、僕を信じて?君に色んなことを教えてあげる。」
「ライ様、、、」
「何も恐れなくていいよ。君はただ、気持ちいいだけ。」
ベディが恥じらいながら、
「ライ様、、、!優しくして下さい。」
キラキラ
「きゃー!ハレンチ!」
念の為言っておくが、今のは全てテュミルの勝手な回想である。全くそんな事実はない。
ライは呆れて、
「ベディ、もうアイツほっといていいよ。」
「そうですね。」
あぐらをかいているライの前に立膝したベディがバスタオルで頭を拭く。
「何が、食べてしまいたいよ、だよ。夢魔の食事方法がまるでわかってない。」
「そうなんですか?」
「そうだよ。いつだかのヘルドレイドみたいに直接血とか体液を飲む方が手っ取り早いけど、接触摂取も食事に入るんだよ。」
「よく皆さんがギューってしてるアレですか?」
「そうそう。コールなんかがしょっちゅう抱きついたり、膝に乗せたりしてる理由だね。」
「ホエー」
髪を拭き終わり、ドライヤーを受け取って、スイッチを押す。ブオーと風を生み出しながらライの髪を揺らす。
(奴隷云々は置いておいたとしても、距離が近すぎるんじゃ、、、)
なんて、テュミルは思っても、それで二人が幸せそうだったので、なんとも言えない。
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銃やナイフが飾るように保管してあるライの部屋。
ライが椅子に座り、電話をかけている。
「もしもし、フール?」
『ライか、どうした??』
「あのさ、、、その、」
『何だよ。お前が言い淀むなんて、珍しいこともあったもんだな。』
「そんな事は、、、あるね。」
『だろ?で、どうしたんだよ。』
「その、ベディについてちょっと気になって。」
『ベディ?ベディがどうかしたのか?』
「ベディの、目について、フール何か知らない?」
何か納得したようで、電話の向こうでかみを漁る音が少し聞こえて、その後にフールがうんざりした声で、
『やっぱ、、、そうか。』
「やっぱって何さ。」
『いや、お前らに言おうか悩んでたって言うか、あんまり変化がないから書き間違えなのかと思ってスルーしてたんだよ。』
「??」
『ベディの目の色、``変わってるよな´ ´ 』
「うん。しかも、、、赤。」
『はは、やっぱお前見たか。』
「俺が、ベディの目の色が変わったのを見たのは、ジンテーゼ家の最後の主人が処刑された所だよ。」
『は?』
『ジンテーゼ家って言ったか?!』
「うん。ジンテーゼ家。ベディはきっと、、、」
ライの言葉をフールは遮る。
『ライ、このことは誰にも言うな。ベディはもちろん、ヘルドレイドやコールにも。』
「どうして?フールには`あの´ ジンテーゼ家とベディになんの関わりがあるか、知ってるの?ベディの目はどうして、、、ベディとあの当主のベロニカとなんの関係があるんだ!」
『ライ、、、』
「答えろよ!フール!どうして、、、どうして!!叛逆の一族の証である、赤い目を持ってるんだ!!フール!」
フールは少し沈黙して、静かに言った。
『確信が、持てない。』
「っ!確信が持てないから、何も言わなくていいって言うのかよ。」
ライの電話を持つ手が震える。
『嗚呼。知らなくていい。』
「ふざけんな!!それじゃあずっと不審に思ってろって言うのか?!」
思わず声を荒らげた。けれども電話の先のフールは冷静に答えた。
『嗚呼。』
「フール、お前、また自分で抱えればいいと思ってるだろ。これはお前だけの問題じゃ無い。俺達の、ベディとの問題なんだ!それを受け流してなぁなぁに済まして逃げるのは許さない。」
『・・・分かってる。逃げるつもりは、、、無い。』
「じゃあどうして!言わなくていいなんて言うんだよ!」
『まだ!俺には確信が無い。確信が着いたあとでも別にいいだろ。急ぐほどでもない。』
「でもっ!」
『確信も無いのにそれを言ってどうする。ただた三人を不安にさせるだけだろ。』
ライは大きく息を吸って、自身の考えを改めて、結論を出した。
「わかった。」
『悪い。』
「別に。」
『・・・』
「フール、不審と意地は組織に亀裂を産むよ。それだけは忘れないでね。」
『分かってる。』
電話を切る。疲れたようにひとりがけのソファーに座ると、ドアが開き、テュミルが入ってくる。
「あの子のことで悩んでるの?」
テュミルの言葉は先程楽しく話していた雰囲気ではなく、重々しく、冷たい。
「まぁな。別にお前には関係ない。俺たち事だ。お前は入ってくるな。」
苛立ちをぶつけるように言う。
「関係なくないわよ。お兄ちゃんの事だもん。」
「だったら尚更放っておいてくれ。お前だって分かるだろ、お前が関わっていい問題じゃない。」
「じゃあベディちゃんは関わっていいの?!」
「ベディと俺達との問題なのに当の本人が関わらないことがおかしいだろ。」
テュミルは悔しそうに顔を歪ませて、
「私は!!お兄ちゃんとベディに一緒にいて欲しくない!」
「はぁ?何言ってんだよ。」
「だって、お兄ちゃんベディちゃんと一緒にいると辛そうなんだもん!苦しむお兄ちゃんは見たくないよ!」
互いの思いがすれ違い、お互いを思って言ってるのにそれが互いにわかっていない。兄妹喧嘩なんて言うものはきっと全てがそうなんだろう。或は頭に血が上ってしまい、自分の言っている事ですらも分からなくなって、意味の無い言い合いになってしまう。それでも、数時間経てば笑ってご飯を食べる。それがこの兄妹にはふさわしい喧嘩なのだ。
「訳が分からない。」
「たとえ、今辛くなくてもあとから苦しくなる!言いきれるわ!だから、だから、、、お願い、、、あの子のそばにいないで、、、」
途中から涙を流して、涙を拭きながらになってしまった。
「その子は、、、お兄ちゃん達を苦しめる悪魔だよ、、、。」
「悪魔の俺によく言えるな。」
低く、怒りを孕んだ声にテュミルは動揺する。
「ちが、そういう意味じゃ、、、」
「悪魔の兄を持ったお前にもベディを悪魔だって言う権利はないと思うけど。」
本気で怒った。そう思った。きっとしばらく許して貰えない。いつもなら多少叱って終わるだけの言い合いが消え、表面上では許されても、今深く兄の心を傷つけたのがわかった。テュミルは顔を青くして、弁解をする。
「ち、違う!!そういう意味で言ったんじゃ、、、」
「じゃあどういう意味?」
「それは、、、」
「言えないじゃん。」
「・・・」
「何も分かってないのに人の事言うなよ。」
テュミルを退けてドアノブに手をかける。テュミルは最後の歯向かいとして叫ぶ。
「分かってないのはそっちじゃん!!バカ!!」
そんな叫びに扉は無慈悲に蓋をする。
二階からリビングへおりてきた。先程まであったベディの姿が消えている。
「ベディ?」
呼びかけるが応答は無い。
「ベディ!!」
星より強く目を光らせると、外にベディがいた。
「どうして外に?」
慌てて外へ飛び出した。
家の裏にある丘のてっぺんに一人佇んでいた。いつの間にかなっていた茜色の夕暮れに髪を照らされ、ベディの長い髪が揺れて光る。
「ベディ、ここにいたの。」
振り返る。どこか悲しそうな顔をしていて、
「どうしたの?」
「ライ様、、、とっても綺麗で。」
夕陽に目を向ける。大きく地平線へ沈みながら、夜の訪れを知らせている。
「そうだね。とっても綺麗。」
「はい。こんな凄い夕焼け、初めて見ました!」
「そう。なら良かった。俺もこの夕焼け好きだよ。」
ライも少し切なそうに言う。ベディは慰めるように元気に、
「きっと夜空もすごいんでしょね!!」
「そう、、、だね。ここの夜は星と月が凄く綺麗だよ。俺は好き。」
「そうですね!!いつか見てみたいです!」
「うん。」
「ライ様は星が好きなんですか?」
「いや、この丘から見る景色が好きなんだ。」
「この丘、、、、好きなんですか?」
「うん。好き。」
ライは疲れたように尻もちをついて、大の字に倒れると、
「はぁ~!」
「ライ様?!」
「ベディも寝てみたらー気持ちいよー。」
完全にやる気のない声で言う。ベディも横にゆっくりとライの脇に横になる。
「ふふ、確かに、、、ちょっと、、、いえ、だいぶいいですね。」
「だろ?」
少し肌寒い風が吹いて、それすらも心地よく感じてしまう。
「ライ様」
「何?」
「どうか致しました?」
「んー。今さっきテュミルと喧嘩した。」
「え?!」
「まぁ、しょうがないんだけどね。」
「はは」と乾いた笑いをしながら腕を頭の下に敷き、枕を作る。
「うーん。私は、喧嘩をした事がないので、どうしてしょうがないのか分からないですが、、、」
「別にどういうことでもないさ。ただ少し意見が食い違って、感情で話しただけだよ。」
「そうなんですか?」
「そうだよ。」
「ふふ。」
「何がおかしいのさ。」
ベディは起き上がって、ライに被さるように顔を近づける。ベディの茶髪と赤らんだ頬が夕暮れに輝いて、幻想的でライの頬にかかる髪ですらも所々光って、ライはこの景色を自分しか見れない事へ興奮した。
ベディは楽しそうに笑って、
「ライ様の新しい表情。」
「・・・。見れて嬉しい?」
「はい。ライ様はいつも笑っていらっしゃいますから。怒った顔を見れて少し嬉しいです。」
「それは良かったね。」
「テュミルさんはライ様にそんなお顔をさせられるんですね。少し羨ましいです。」
「それは、、、素直に喜べないね。」
「ふふ。でも、それがきっと家族なんだと思います。」
「・・・」
「分かりませんけどね。」
「俺も。わかんない。」
「そうなんですか?」
「うん。遊郭に入った時に一回別れたからね。だから、よくわからないよ。互いに変な成長をしすぎた。」
「それでも、ライ様もテュミルさんも互いに互いを思っているように思います。」
「・・・」
「テュミルさんは私とライ様が一緒にいるのが嫌な様に見えます。それもきっとライ様を思ってだと思います。」
「なんか言われたの?」
「いいえ。何も言われてません。私とライ様が話しているのを悲しそうに見ていたので、、、」
「はぁ、テュミルはベディの事嫌ってんのかねー。それはあんまり嬉しくないね。」
「そうかもしれません。でも、テュミルさんは私の事も心配しています。愛情深くて優しい所はライ様に似ていますよ。」
「慰め?」
「そう、なるんですかね。そう思ったので言いました。、、、きゃ!」
ベディの頭を胸に押し付け、鼓動を聞かせる。
「あんまり煽らないで。俺こう見えてもちょろいんだから。」
目を閉じてライの鼓動に耳を澄ます。
「ドキドキしてますね。」
「そう。だからあんまりからかわないで。」
「からかっていませんよ。ライ様が好きなだけです。」
ベディには見えないが、ライの頬は赤く、片手で顔を覆っていた。
「・・・。あんまり褒められ慣れてないから止めて。」
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夕食前に二人が謝り、何とかわだかまりは解けた。そのすぐ後にベディとライは家を出てカジノに戻る。
カジノ自体が定休であったために特に急ぐしつようもなかったかったが、念の為にその日のうちに帰ることをフール達に言いつけられていた。
デッドシティーまで戻って、手を繋ぎながらあるく。
「うちのカジノが特殊なんだよね。そこは。」
「そうなんですか?」
「そうだよ。普通、ガジノは年中無休で二十四時間ずっとやってるもんだからさ。」
「へ?!たしかに、、、街のカジノはずっと開いてましたね。」
「やってる事の方が少ないうちを周りは幻想的って勝手な理想を抱く。そこを上手くついた、フールは凄いよ。」
「へえ~。フール様はほんとに機転が利くんですね。」
「うーん。機転と言うより経験かな?人をよく見るヤツだから立ち回れる事の方が多いし。」
「ホエー」
カジノの裏口を開ける。
「おかえり。ベディ。ライ。」
真っ先に出迎えたのはコールだった。
「コール、ずっと待ってたのか?」
「うん。お腹。すいた。」
「おい。」
コールの言葉につい言い方が強くなってしまう。
「あったかい。ベディ。だけ。柔らかい。も。ベディ。だけ。」
ベディの細い体を愛おしそうに抱きしめて、腫れ物を扱うように触れている。ベディはよくわからずコールの頭を撫でてみる。
「えっと」
コールは嬉しそうに笑うと
「そのまま。」
と目を閉じて撫でれる。ベディの下腹の辺りに顔を埋めて、グリグリと横に動かす。その仕草がくすぐったくて、
「ッ、コール様。少しくすぐったいです。」
「わかった。」
止まって、撫でられる。ライが、
「フールは?」
「部屋。二人が出て行ってから二、三回しか出て来てないよ。」
後ろからヘルドレイドの声がして振り向く。
「そうか。」
「ライからも言ってやってよ。アイツ飯も食べずにずっと引きこもってんだよ。俺達が何度ドアをノックしても捜し物してるから入ってくるなって、入れてくれないんだ。」
「フール。今日。少し。おかしい。心配。」
コールがそういうと、ベディが慌てて
「わ、私聞いてみま、、、」
「いや。いい。俺が行く。」
ライが遮った。そのまままっすぐフールの部屋へ向かい、ノックする。
「フール。俺だ。ライだ。開けてくれ。」
応答はない。
「入るぞ。」
ドアを開ければ、本に埋もれて唸ってうずくまっているフールがいた。
「フール!!」
急いで駆け寄り肩を揺らす。すぐにフールの腕がライの肩を掴みあげる。
「ヘルドレイドが、、、」
フールの様子がおかしい事に困惑し動きを停めてしまう。
フールの瞳から一つ二つと涙がこぼれ落ちては流れて消える。
「ヘルドレイドがどうしたんだよ。」
ライの問に静かにフールは答える。
「ヘルドレイドが、、、死んだ。」
「は?」
ライは間抜けな声が出てしまった。
「フール様大丈夫でしょうか?」
ベディがソファーで頭をコールの撫でながらつぶやく。
「大丈夫。ライが。行った。から。」
「そうですね。」
ヘルドレイドが水の入ったガラスのコップを置いてベディの隣に座る。
「そうだよ。うちの医者を信じなさいってね。」
そう言ってベディに笑いかけるヘルドレイドは紛れもない本物で、彼しかいない。
彼以外に彼は存在しない。
人も悪魔も天使も神も魔女でさえも、一人しかいない。
この、
世界には。
「ゔぅ、もうやだぁ。」
ヒクヒクしゃっくりと嗚咽を繰り返しながら泣きじゃくる。
「うぅ、、、」
喪服に身を包む彼女の背中を撫でる。
「うぅ、、、お兄ちゃん、、、うぅ」
こんな溶けた腕では彼女を慰められない。
こんな汚れた手では彼女に触れられない。
けれど、、、今は、彼女の兄のように背中を撫でるのだ。
今だけは、、、
兄の代わりに、彼女を慰めるのだ。
「触らないでよ!近寄らないでよ!!お前なんか大っ嫌い!!」
泣き崩れながら、頬を叩く。そして五、六回ほど力いっぱい殴りつけると、その場にへたりこんで、また嗚咽を鳴らす。
「うぅ、ヒック、、、うぅ、返してよォ、、、返してよォ、、、お兄ちゃんを返してよ!!
この、
悪魔!!!」
感情のままに言う。
「お前なんて、、、お前なんて、、、、いなければよかったんだ!!生まれてこないでよ!!」
淀んだ自分の目にはあまりにも愛情にあるれた人のように思えて、彼女から最愛の兄を奪ってしまった自分を殺したくてしょうがない。
「お前が、、、死ねばよったんだ、、、」
掠れるように言う。
彼女の言ってることはその通りで、当然で、しょうがないこと。
この人の兄が好きだと言ったこの丘で、夕陽に照らされながら、自分達は苦しみの夜に落ちていく。
厚い雨雲が空を覆い始めた。
「雨、、、」
呟いても、「早く帰ろう。」そう言ってくれる声はもう聞こえない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
瞼の外が明るい。
朝だ。
眩しさにくらみながら目を開けた。眠気で気だるい体を起こして、肩から布団が落ちる。
窓からさす日差しが晴れであることを伝えている。
「晴れてる。」
ベッドからおり、窓を開けてみる。
少しひんやりとした風が吹き抜け、ベディの髪とワイシャツをなびかせる。
(また、夢。)
ノックもされずに扉が開く。
「あれ、ベディ起きてたんだ。」
ライが
「まだ寝てても良かったのに、、、」
とつぶやくと、ベディは、
「私もライ様と街へ行くの楽しみで早く目を覚ましてしまったんです!」
「嬉しいこと言うね。ベディ。」
頭を撫でて、ベディははにかむ。
「えへへ。」
「少し早いけど、朝ごはんにして、準備しようか。」
「はい!」
ベディの返事を聞いて、部屋から出ようとすると、ベディに呼び止められた。
「ライ様。」
「ん?何?」
「ライ様、、、おはようございます。」
少し悲しい顔をしたあと、満面の笑みで言った。
「うん。おはよう。ベディ。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「じゃあフール、行ってくるね。」
「おう。」
裏口から二人を見送るフール。
ベディは見た事ない世界にドキドキしているようで楽しそうにしていた。フールはその姿を見て、イデアの外を怖がってないようで内心ほっとしていた。
「ベディ、ライがいるからって、安心するなよ?危険はどこにでもあるし、何時でも起こりうることなんだ。」
「はい!」
「浮かれるのはいいことだが、浮かれ過ぎるのはご法度だ。わかったな?」
「はい!」
「うん。いい返事。」
そう言って、ポケットから黄色いヘアピンを二つ出して、ベディの髪につける。
「フール様、、、これって、、、」
感極まったようにフールを見る。
「あ、それ今渡すんだ。」
ライが楽しそうに言う。「まぁな。」フールが笑うと。
「アイツらが居る前で渡したほうがいいと思ったが、、、今のほうがいい。」
「そうだね。」
「んじゃ、気をつけて行ってこいよ。」
「「はい。」」
「行ってきます!フール様!」
「おう、行ってらっしゃい。」
そう言って、手を振る。
離れていく二人を見送って、中に入ると、コールとヘルドレイドが膨れつらでいた。
「あ、起きたのか?」
ヘルドレイドが
「起きたのか?じゃないよ!!起こせ!!」
「そうだ。そうだ。」
コールも続けて言う。
「じゃあ出てくれば良かったじゃん。」
「それは。ちょっと。」
「恥ずかしいー。」
「棒読みで何言ってんだ。」
フールがため息をつきつつ、食堂へ行こうとすると、
「ありがとね。フール。」
ヘルドレイドがつぶやく。
「ん?」
「ヘヤピン。」
「あぁ、まぁな。」
コールが、
「喜んで。くれた。かな?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ライの隣を楽しそうに歩くベディ。
「そういえば、、、ヘルドレイド様、あまり不思議な言葉を使わなくなりましたね。」
「あぁ、そうだね。ヘルドレイドもだいぶ気おつけてるからね。」
「どうして使っちゃダメなんですか?」
「うーん。大した理由は無いよ。単に出身地がバレるから。こないだより気おつけるようになったのだって客に使っちゃってバレかけたって言うのが理由だしね。」
ははっ、と笑い声を出すも、全然笑っていなかった。薄暗く、気味の悪い通りをぬけ、繁華街へ出た。
クラッカーの音がひびき、楽しい音楽が鳴り響く。
「ベディ、はぐれないように手を繋いでて。」
ライから伸ばされた手。肌の溶けた自分の手が重なり硬い、大きな手が包み込む。
引かれながら、歩く繁華街はドキドキと好奇心に溢れていて、少し現実味が無かった。
「ライ様、あれはなんですか??」
移動式の売店に陳列しているチュロスを小さく指さす。
「ん?嗚呼、あれは、チュロスだね。食べ歩けるお菓子だよ。」
「なら、あれは?」
その隣にあるお菓子やを指す。
「お菓子屋だね。グミとか飴を袋詰めで買える所だね。」
「ならなら、あのローブを被ったおば様は?」
「占いだよ。運命とか、未来とか運とか占って話を聞く所。」
通りすぎながらも、あちらこちらに視線が行き、目まぐるしく新しい反応を繰り返すベディに一つ一つ説明する。
「ライ様、あの、不思議なメイクをした方は何をしていらっしゃるんですか?」
「大道芸だね。ピエロっていう、、、サーカスとかでやってる人かな?多分。」
足を止めたライとベディにピエロはに気付いたようで、こちらに来てベディの前に煙と共に紫の花を出す。
ベディはライを見てライが頷くと、前に出された紫の花を受け取る。ピエロは奇怪に手を振ると、持ち場に戻って行った。
「よかったね。」
「はい!」
目を輝かせながら紫の花を大切そうに握る。なにか思いついたように、
「ライ様!ライ様!少し屈んでください!」
言われた通りに屈んで見ると、ライの胸がポケットに花を差し込んだ。
「えっと、、、ベディ?これは一体、、、」
「紫なので、ライ様に会うかなって、、、!」
本当に嬉しそうに言うベディに何も言えなくなるライ。
「・・・俺よりもベディの方が似合うよ。」
「いいえ!ライ様の方が似合います!宝石みたいな目と髪にとってもあいます。」
あまりに純粋に言う。
(俺たちの口説き文句がベディに移ってる。)
「ベディ、、、ありがとう。じゃあ俺のわがまま言っていい?」
「はい。」
ベディが差した花をベディの右耳に差し込む。ベディは不安になって、
「お気に召さなかったでしょうか?ごめんなさい。」
「いや、違うんだ。」
ベディの耳に唇を近づけ、
「俺のって見せつけてたいから、このまま。」
ベディは少し顔を赤らめた。
「ラ、ライ様、ベディは、、、見せつけなくても、ライ様のですよ?」
(ほんっと!この子は!!気付かぬうちに天然タラシに。)
「それでも、いや、だからこそ、見せつけてやりたいの。」
納得いかないようで、首を傾げつつも、困ったように笑い
「はい。ライ様の気が済むなら、、、」
ベディの額を撫でて、微笑む。ベディはそれを見て、もっと楽しそうに笑った。
また歩を進め始める。
「ライ様、楽しいですね!」
「うん。そうだね、、、。」
良かった。ベディの目にはこの世界が苦しみだけじゃない。
その確信がライはできてほっとした。苦しみだけが世界じゃない、悲しみばかりだけではない、喜べる美しさもある事が見えなくなって仕舞わないようにして欲しい。
ライはこころからそう思った。
そんなことは自分達でとっくのとうにやっているのに未だに思っている。
「ライ様ライ様!!あれはなんですか?」
ベディがシートに物品を並べた列を指す。
「あれは、、、フリーマーケットだね。いらなくなったものとか、、、まぁ色々売ってるところだよ。不定期でやってた気がするよ。」
「ふぅん。皆さん楽しそうですね!」
「そうだね。ヘルドレイドとか、骨董品好きだからよく来てるよ。今度ついて行ってみたら?」
「ヘルドレイド様のお部屋にあった箱とかそうなんですかね??」
金色蝶の装飾がほどこされた四足のブリキ箱を思い出す。
「うーん。あいつの部屋にあるのはだいたい骨董品だから、多分そうだよ。」
広場に出て、大衆が集まっていた。
奥の1番大きな屋敷の前に五階ほどある木の処刑台があった。そのにはギロチンとそこに首を乗せようとする白無垢の女性。
「これより、反逆貴族ベロニカ・キャサリン・ジンテーゼの処刑を行う。」
横にいる執行人がマイク越しに言う。大衆は湧き上がり、罵声と歓喜が合わさる。
ベロニカと呼ばれた女性が顔を上げ、赤い瞳を覗かせる。
大衆はおぞましいと怯えて卑下する。
ベロニカはその大衆の奥に一人の少女を見つけた。可愛らしいワンピースに身を包み、黄色い髪留めと、耳に紫の花をさして。手を繋いでいる男の手をより握りしめていた。
風が吹き抜け、ベロニカと少女の髪を揺らした。
(嗚呼、神様。なんて、、、残酷で、お優しい事を、、、。)
罵声と共にギロチンの紐が切られた。
「ベディ、み、、、ちゃ、、、、。」
ライは固まり、凝視してしまった。
棒立ちしていたベディの瞳が首を切り落とされた女性と同じ、、、赤色だったからだ。血よりも紅く、赤い。美しいその瞳は今の大衆には罵倒の矛先になってしまう。
「みゃー。」
黒猫が鳴いた。
引き戻されたライは慌ててコートを脱いでベディに被せる。
「ライ様?!何を、、、!」
ベディは動揺しながら、ライに抱き抱えられる。
影の濃い裏路地に入り、ベディを下ろす。
コートから顔を出して、ライを見上げる。
「ライ様、、、どうかいたしましたか?」
「ベディ、、、君、、、」
見上げた瞳はいつものグリーンアレキサンドライトの瞳。ライには何が何だか分からず、困惑することしか出来なかった。
「ライ様?どうかなさいましたか?」
行き場のなくなった手を握るベディ。
「いや、、、何でもない。行こっか。」
「はい!」
楽しそうに歩くベディの手を引いて、裏路地から出る。
(後でフールに聞かないと、、、)
繁華街を抜け、住宅街を抜け、小さな丘のある森に来た。
「・・・」
ベディは少し立ち止まった。
「ベディ?」
ライはバートリー家の周りにあった木々を思い出す。
「ベディ、怖い?」
ベディは黙って首を横に振った。
「とっても、、、悲しい想い出の場所。」
ライの手を離し腰に抱きつく。ベディをコートの中に入れ、森の中へ歩き出す。
「ベディ、怖い?」
少し躊躇いながらも首を縦に振る。コート越しに肩を擦りながら歩く。
「ライ様」
「何?」
「ライ様、居なくなったりしませんよね?」
「ならないよ。君がいなくならなければね。」
「・・・」
少し開けたところに出た。そこには一軒家がポツリとあった。
「ここが俺の家。」
「ライ様の?」
「うん。俺はテュミルがいるから三人みたいに住み込みじゃないんだよ。」
鍵を取り出して、鍵穴へ入れる。
「でも、私が来てから、ライ様が帰られたところはみたことがありませんよ?」
「嗚呼、それは、ちょっと仕事が立て込んだから少し泊まってたんだよ。こっちにはテュミルが居たし、急いで帰る必要も無かったからね。」
ドアを開けて入ってゆく。
「お、お邪魔します、、、。」
ベディも後に続いて入る。
何かガラスが割れる音と共に慌ただしく奥の部屋から入って来たのは黒紫の女性。長い髪を派手に広げながら転んで、顎を打った。
「テュミル、、、お前、、、」
ライが疲れたように言う。
「しょうがないじゃないお兄ちゃん!!あそこにものが置いてあるのが悪い!!」
「何がしょうがないだ。そこに物を置いて、片付けろって言っても片付けないのはお前だろ。たかが一週間家を開けたらすぐ散らかるのは何とかならないのか??」
「ゔっ!それは、、、」
「だいたい、俺は帰ってきた時ここを片付けたぞ。位置が戻ってるのはお前が使ったからだろ。あそこのだってこの間、、、」
くどくど、床から起き上がらない妹に説教をするライにベディは少し安心した。
「ライ様」
「ん?ごめんベディ。放ったらかしにて、紹介するね。」
テュミルが起き上がってスカートのホコリを払う。
ベディとテュミルが向き合い、互いに見つめ合う。
「初めまして、私はテュミル。兄からあなたのお話は聞いてるわ。お世話になってるわね。」
ライのアメジストのようなうす紫の瞳が同じで見れば見るほどよく似ている。目の下のホクロの位置でさえも同じで、少し驚きつつも、
「初めまして。私は、ベディです。お会いできて嬉しく思います。」
笑顔で挨拶するベディにテュミルは驚いたような表情を見せた。
「本当に?」
「え?」
「いや、何でもない。よろしくね。ベディちゃん。」
「はい!テュミルさん。」
二人は握手を交わして、笑い合う。
ライはその様子を見て、奥の部屋へ入っていった。
「テュミル、ベディにお茶入れてやって、俺は仕事やってシャワー浴びるから。」
「うん。ベディちゃん、こっちおいで!」
ベディをキッチンの方に呼ぶと、
「どのお茶飲みたい?」
ズラリと並んだ茶葉を見せてた。
「えっと、、、じゃあ、、、このお茶を、、、。」
オレンジの皮が入ったローズのお茶葉を手に取った。
「どうして、、、」
呟く。
「はい?」
「えっと、どうしてそれにしたの?」
「えっと、、、テュミルさんが、、、」
ベディもどうしてこのお茶を選んだかわからなかった。ただ、何となく、テュミルがオレンジの入ったお茶が好きだと聞いたことがあったような気がしたから。それだけだ。
「私が?」
「テュミルさんが好きそうだなって。」
「そっか。、、、これに合うスコーンがあるの!それも出しましょ!!」
目をキラキラさせながら用意をする。
「あ!ベディちゃんは座ってて!病み上がりなんだから!」
「いえ、そんな、私は、、、大丈夫ですよ!」
「ダメ!!ここまでこさせてるわけだし!」
「うう、でも、私は、、、テュミルさんのお手伝いがしたいです。」
なかなか引き下がらないベディに少し困惑しながらも、テュミルが折れ、三つティーカップと茶こしを持っていかせた。
スコーンと紅茶を広げダイニングテーブルで話をしている。
「えー!ライ様はそんな時期があったんですか?!」
「そうそう!その時のお兄ちゃんはねーしっかり者じゃなかったよ。どちらかと言うとドジっ子って感じだった。」
「ふふ、ドジっ子のライ様、、、想像すると、可愛いですね。」
主にライの話。他に共通点が無いのもそうだが、ベディがライの昔の話を聞きたいと言ったのでテュミルが聞かせている状態だった。
「あの~。」
シャワーを浴び終わったようで、上裸で肩にタオルをかけ濡れた髪を拭きながらドアに寄りかかっていた。
「お二人さん、、、そろそろやめていただけます?」
少し顔を赤らめて、髪を拭いていた。
「ごめんなさい!私、、、」
「いや、別にいいんだけど、部屋に入るに入りずらい。」
「ごめんなさい、、、」
ライがベディの横を通る。ライの脇腹に切り傷の痕が見え、
「ライ様、その傷、、、」
「ん?嗚呼、これは昔ちょっとね。もう痛くないから平気だよ。」
ベディの細い指先が優しくライの傷跡をなぞる。
「綺麗な肌なのに、、、」
「っ!」
背筋がゾッとする感覚に襲われついベディの手をのけてしまう。
「ごめんなさい、ライ様嫌でしたね。」
「いや、大丈夫。少しくすぐったかっただけ。」
テュミルは目の前で少女と兄がイチャついているのに耐えられず、
「お兄ちゃん、そろそろ髪を乾かしたら?というか!!!女の子しかいないのに上裸で出てくるな!!」
「はぁ、今更だろ。ベディもテュミルも俺にとっては今更だ。」
「今更!!ベディちゃん!!まさか、お兄ちゃんと、、、!!」
テュミルは顔を赤らめて、ベディとライを行き来する。「?」本気で分からない顔をしているベディを見て、ライの得意げな顔を見ると
「まさかお兄ちゃん!!まだ何も知識のない年端(としは)もゆかなき女の子をっ!!あんなことやこんな事!?きゃー!ハレンチ!」
ライはベディに耳打ちをする。
「テュミルは夢魔じゃなくて、魔女っていう部類だから、俺ら(夢魔)の詳しい生態はよくわかってないんだよ。」
「そうなんですか??」
「うん。ベディもわかってないだろうけど、多分もっとわかってない。」
きゃーきゃー叫んでいると、耳打ちで話す二人を見て、
「ちょっと!!二人で何を話しているの!?ハレンチな話はよそでやってよね?!」
ライは遊ぶように
「おっと、それは残念だ。ベディを初めて味わった時の話でもしてやろうと思ったんだけどなー。」
「な!!なななななな!!そんな事は話すことじゃありません!!」
「いやいや、自慢してやりたいくらい刺激的だったんだよ。そうだな、ベディの首筋辺りに少し噛み付いた時とか、あれは絶品だった。他には、、、」
「きゃーきゃー!!ハレンチ!兄のそんな姿知りたくなかった!!」
両手を顔に覆い泣く仕草をする。
「ライ様、、、」
さすがにテュミルが可哀想に思えてしまい、ベディが歯止めをかける。
「わかってるよ。もうやんない。」
テレビだいの下にあるドライヤーを取り出して本体に巻いていたコードを伸ばしてコンセントを探す。
「ライ様、髪を乾かすのを手伝わせてください。」
「ん、」
「もおー!またイチャついている!!ハレンチ!」
テュミルが二人を止める。ライもさすがに呆れて、
「お前な~何でもかんでもハレンチにするな。そんなんじゃないだろ。しょっちゅうやってもらってる事なんだから、別に、、、」
「しょっちゅう!!自分の兄が知らぬ間に少女をたぶらかしていたなんて!!」
「だから、、、」
「ベディちゃんっていう無知で純粋な女の子をたぶらかして、あんなことやこんな事を、、、!!」
キラキラ
頭の中でベディをベッドに押し倒し、
「ベディ、君が可愛すぎて食べてしまいたいよ。」
「だめです、ライ様、、、そんなところを触っては、、、」
「どうして?」
「それは、、、他の大人の人がダメって、、、」
ベディの髪を一救いし、口付ける。
「誰かわからない人より、僕を信じて?君に色んなことを教えてあげる。」
「ライ様、、、」
「何も恐れなくていいよ。君はただ、気持ちいいだけ。」
ベディが恥じらいながら、
「ライ様、、、!優しくして下さい。」
キラキラ
「きゃー!ハレンチ!」
念の為言っておくが、今のは全てテュミルの勝手な回想である。全くそんな事実はない。
ライは呆れて、
「ベディ、もうアイツほっといていいよ。」
「そうですね。」
あぐらをかいているライの前に立膝したベディがバスタオルで頭を拭く。
「何が、食べてしまいたいよ、だよ。夢魔の食事方法がまるでわかってない。」
「そうなんですか?」
「そうだよ。いつだかのヘルドレイドみたいに直接血とか体液を飲む方が手っ取り早いけど、接触摂取も食事に入るんだよ。」
「よく皆さんがギューってしてるアレですか?」
「そうそう。コールなんかがしょっちゅう抱きついたり、膝に乗せたりしてる理由だね。」
「ホエー」
髪を拭き終わり、ドライヤーを受け取って、スイッチを押す。ブオーと風を生み出しながらライの髪を揺らす。
(奴隷云々は置いておいたとしても、距離が近すぎるんじゃ、、、)
なんて、テュミルは思っても、それで二人が幸せそうだったので、なんとも言えない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
銃やナイフが飾るように保管してあるライの部屋。
ライが椅子に座り、電話をかけている。
「もしもし、フール?」
『ライか、どうした??』
「あのさ、、、その、」
『何だよ。お前が言い淀むなんて、珍しいこともあったもんだな。』
「そんな事は、、、あるね。」
『だろ?で、どうしたんだよ。』
「その、ベディについてちょっと気になって。」
『ベディ?ベディがどうかしたのか?』
「ベディの、目について、フール何か知らない?」
何か納得したようで、電話の向こうでかみを漁る音が少し聞こえて、その後にフールがうんざりした声で、
『やっぱ、、、そうか。』
「やっぱって何さ。」
『いや、お前らに言おうか悩んでたって言うか、あんまり変化がないから書き間違えなのかと思ってスルーしてたんだよ。』
「??」
『ベディの目の色、``変わってるよな´ ´ 』
「うん。しかも、、、赤。」
『はは、やっぱお前見たか。』
「俺が、ベディの目の色が変わったのを見たのは、ジンテーゼ家の最後の主人が処刑された所だよ。」
『は?』
『ジンテーゼ家って言ったか?!』
「うん。ジンテーゼ家。ベディはきっと、、、」
ライの言葉をフールは遮る。
『ライ、このことは誰にも言うな。ベディはもちろん、ヘルドレイドやコールにも。』
「どうして?フールには`あの´ ジンテーゼ家とベディになんの関わりがあるか、知ってるの?ベディの目はどうして、、、ベディとあの当主のベロニカとなんの関係があるんだ!」
『ライ、、、』
「答えろよ!フール!どうして、、、どうして!!叛逆の一族の証である、赤い目を持ってるんだ!!フール!」
フールは少し沈黙して、静かに言った。
『確信が、持てない。』
「っ!確信が持てないから、何も言わなくていいって言うのかよ。」
ライの電話を持つ手が震える。
『嗚呼。知らなくていい。』
「ふざけんな!!それじゃあずっと不審に思ってろって言うのか?!」
思わず声を荒らげた。けれども電話の先のフールは冷静に答えた。
『嗚呼。』
「フール、お前、また自分で抱えればいいと思ってるだろ。これはお前だけの問題じゃ無い。俺達の、ベディとの問題なんだ!それを受け流してなぁなぁに済まして逃げるのは許さない。」
『・・・分かってる。逃げるつもりは、、、無い。』
「じゃあどうして!言わなくていいなんて言うんだよ!」
『まだ!俺には確信が無い。確信が着いたあとでも別にいいだろ。急ぐほどでもない。』
「でもっ!」
『確信も無いのにそれを言ってどうする。ただた三人を不安にさせるだけだろ。』
ライは大きく息を吸って、自身の考えを改めて、結論を出した。
「わかった。」
『悪い。』
「別に。」
『・・・』
「フール、不審と意地は組織に亀裂を産むよ。それだけは忘れないでね。」
『分かってる。』
電話を切る。疲れたようにひとりがけのソファーに座ると、ドアが開き、テュミルが入ってくる。
「あの子のことで悩んでるの?」
テュミルの言葉は先程楽しく話していた雰囲気ではなく、重々しく、冷たい。
「まぁな。別にお前には関係ない。俺たち事だ。お前は入ってくるな。」
苛立ちをぶつけるように言う。
「関係なくないわよ。お兄ちゃんの事だもん。」
「だったら尚更放っておいてくれ。お前だって分かるだろ、お前が関わっていい問題じゃない。」
「じゃあベディちゃんは関わっていいの?!」
「ベディと俺達との問題なのに当の本人が関わらないことがおかしいだろ。」
テュミルは悔しそうに顔を歪ませて、
「私は!!お兄ちゃんとベディに一緒にいて欲しくない!」
「はぁ?何言ってんだよ。」
「だって、お兄ちゃんベディちゃんと一緒にいると辛そうなんだもん!苦しむお兄ちゃんは見たくないよ!」
互いの思いがすれ違い、お互いを思って言ってるのにそれが互いにわかっていない。兄妹喧嘩なんて言うものはきっと全てがそうなんだろう。或は頭に血が上ってしまい、自分の言っている事ですらも分からなくなって、意味の無い言い合いになってしまう。それでも、数時間経てば笑ってご飯を食べる。それがこの兄妹にはふさわしい喧嘩なのだ。
「訳が分からない。」
「たとえ、今辛くなくてもあとから苦しくなる!言いきれるわ!だから、だから、、、お願い、、、あの子のそばにいないで、、、」
途中から涙を流して、涙を拭きながらになってしまった。
「その子は、、、お兄ちゃん達を苦しめる悪魔だよ、、、。」
「悪魔の俺によく言えるな。」
低く、怒りを孕んだ声にテュミルは動揺する。
「ちが、そういう意味じゃ、、、」
「悪魔の兄を持ったお前にもベディを悪魔だって言う権利はないと思うけど。」
本気で怒った。そう思った。きっとしばらく許して貰えない。いつもなら多少叱って終わるだけの言い合いが消え、表面上では許されても、今深く兄の心を傷つけたのがわかった。テュミルは顔を青くして、弁解をする。
「ち、違う!!そういう意味で言ったんじゃ、、、」
「じゃあどういう意味?」
「それは、、、」
「言えないじゃん。」
「・・・」
「何も分かってないのに人の事言うなよ。」
テュミルを退けてドアノブに手をかける。テュミルは最後の歯向かいとして叫ぶ。
「分かってないのはそっちじゃん!!バカ!!」
そんな叫びに扉は無慈悲に蓋をする。
二階からリビングへおりてきた。先程まであったベディの姿が消えている。
「ベディ?」
呼びかけるが応答は無い。
「ベディ!!」
星より強く目を光らせると、外にベディがいた。
「どうして外に?」
慌てて外へ飛び出した。
家の裏にある丘のてっぺんに一人佇んでいた。いつの間にかなっていた茜色の夕暮れに髪を照らされ、ベディの長い髪が揺れて光る。
「ベディ、ここにいたの。」
振り返る。どこか悲しそうな顔をしていて、
「どうしたの?」
「ライ様、、、とっても綺麗で。」
夕陽に目を向ける。大きく地平線へ沈みながら、夜の訪れを知らせている。
「そうだね。とっても綺麗。」
「はい。こんな凄い夕焼け、初めて見ました!」
「そう。なら良かった。俺もこの夕焼け好きだよ。」
ライも少し切なそうに言う。ベディは慰めるように元気に、
「きっと夜空もすごいんでしょね!!」
「そう、、、だね。ここの夜は星と月が凄く綺麗だよ。俺は好き。」
「そうですね!!いつか見てみたいです!」
「うん。」
「ライ様は星が好きなんですか?」
「いや、この丘から見る景色が好きなんだ。」
「この丘、、、、好きなんですか?」
「うん。好き。」
ライは疲れたように尻もちをついて、大の字に倒れると、
「はぁ~!」
「ライ様?!」
「ベディも寝てみたらー気持ちいよー。」
完全にやる気のない声で言う。ベディも横にゆっくりとライの脇に横になる。
「ふふ、確かに、、、ちょっと、、、いえ、だいぶいいですね。」
「だろ?」
少し肌寒い風が吹いて、それすらも心地よく感じてしまう。
「ライ様」
「何?」
「どうか致しました?」
「んー。今さっきテュミルと喧嘩した。」
「え?!」
「まぁ、しょうがないんだけどね。」
「はは」と乾いた笑いをしながら腕を頭の下に敷き、枕を作る。
「うーん。私は、喧嘩をした事がないので、どうしてしょうがないのか分からないですが、、、」
「別にどういうことでもないさ。ただ少し意見が食い違って、感情で話しただけだよ。」
「そうなんですか?」
「そうだよ。」
「ふふ。」
「何がおかしいのさ。」
ベディは起き上がって、ライに被さるように顔を近づける。ベディの茶髪と赤らんだ頬が夕暮れに輝いて、幻想的でライの頬にかかる髪ですらも所々光って、ライはこの景色を自分しか見れない事へ興奮した。
ベディは楽しそうに笑って、
「ライ様の新しい表情。」
「・・・。見れて嬉しい?」
「はい。ライ様はいつも笑っていらっしゃいますから。怒った顔を見れて少し嬉しいです。」
「それは良かったね。」
「テュミルさんはライ様にそんなお顔をさせられるんですね。少し羨ましいです。」
「それは、、、素直に喜べないね。」
「ふふ。でも、それがきっと家族なんだと思います。」
「・・・」
「分かりませんけどね。」
「俺も。わかんない。」
「そうなんですか?」
「うん。遊郭に入った時に一回別れたからね。だから、よくわからないよ。互いに変な成長をしすぎた。」
「それでも、ライ様もテュミルさんも互いに互いを思っているように思います。」
「・・・」
「テュミルさんは私とライ様が一緒にいるのが嫌な様に見えます。それもきっとライ様を思ってだと思います。」
「なんか言われたの?」
「いいえ。何も言われてません。私とライ様が話しているのを悲しそうに見ていたので、、、」
「はぁ、テュミルはベディの事嫌ってんのかねー。それはあんまり嬉しくないね。」
「そうかもしれません。でも、テュミルさんは私の事も心配しています。愛情深くて優しい所はライ様に似ていますよ。」
「慰め?」
「そう、なるんですかね。そう思ったので言いました。、、、きゃ!」
ベディの頭を胸に押し付け、鼓動を聞かせる。
「あんまり煽らないで。俺こう見えてもちょろいんだから。」
目を閉じてライの鼓動に耳を澄ます。
「ドキドキしてますね。」
「そう。だからあんまりからかわないで。」
「からかっていませんよ。ライ様が好きなだけです。」
ベディには見えないが、ライの頬は赤く、片手で顔を覆っていた。
「・・・。あんまり褒められ慣れてないから止めて。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
夕食前に二人が謝り、何とかわだかまりは解けた。そのすぐ後にベディとライは家を出てカジノに戻る。
カジノ自体が定休であったために特に急ぐしつようもなかったかったが、念の為にその日のうちに帰ることをフール達に言いつけられていた。
デッドシティーまで戻って、手を繋ぎながらあるく。
「うちのカジノが特殊なんだよね。そこは。」
「そうなんですか?」
「そうだよ。普通、ガジノは年中無休で二十四時間ずっとやってるもんだからさ。」
「へ?!たしかに、、、街のカジノはずっと開いてましたね。」
「やってる事の方が少ないうちを周りは幻想的って勝手な理想を抱く。そこを上手くついた、フールは凄いよ。」
「へえ~。フール様はほんとに機転が利くんですね。」
「うーん。機転と言うより経験かな?人をよく見るヤツだから立ち回れる事の方が多いし。」
「ホエー」
カジノの裏口を開ける。
「おかえり。ベディ。ライ。」
真っ先に出迎えたのはコールだった。
「コール、ずっと待ってたのか?」
「うん。お腹。すいた。」
「おい。」
コールの言葉につい言い方が強くなってしまう。
「あったかい。ベディ。だけ。柔らかい。も。ベディ。だけ。」
ベディの細い体を愛おしそうに抱きしめて、腫れ物を扱うように触れている。ベディはよくわからずコールの頭を撫でてみる。
「えっと」
コールは嬉しそうに笑うと
「そのまま。」
と目を閉じて撫でれる。ベディの下腹の辺りに顔を埋めて、グリグリと横に動かす。その仕草がくすぐったくて、
「ッ、コール様。少しくすぐったいです。」
「わかった。」
止まって、撫でられる。ライが、
「フールは?」
「部屋。二人が出て行ってから二、三回しか出て来てないよ。」
後ろからヘルドレイドの声がして振り向く。
「そうか。」
「ライからも言ってやってよ。アイツ飯も食べずにずっと引きこもってんだよ。俺達が何度ドアをノックしても捜し物してるから入ってくるなって、入れてくれないんだ。」
「フール。今日。少し。おかしい。心配。」
コールがそういうと、ベディが慌てて
「わ、私聞いてみま、、、」
「いや。いい。俺が行く。」
ライが遮った。そのまままっすぐフールの部屋へ向かい、ノックする。
「フール。俺だ。ライだ。開けてくれ。」
応答はない。
「入るぞ。」
ドアを開ければ、本に埋もれて唸ってうずくまっているフールがいた。
「フール!!」
急いで駆け寄り肩を揺らす。すぐにフールの腕がライの肩を掴みあげる。
「ヘルドレイドが、、、」
フールの様子がおかしい事に困惑し動きを停めてしまう。
フールの瞳から一つ二つと涙がこぼれ落ちては流れて消える。
「ヘルドレイドがどうしたんだよ。」
ライの問に静かにフールは答える。
「ヘルドレイドが、、、死んだ。」
「は?」
ライは間抜けな声が出てしまった。
「フール様大丈夫でしょうか?」
ベディがソファーで頭をコールの撫でながらつぶやく。
「大丈夫。ライが。行った。から。」
「そうですね。」
ヘルドレイドが水の入ったガラスのコップを置いてベディの隣に座る。
「そうだよ。うちの医者を信じなさいってね。」
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