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あなたはだぁれ?
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ベディが退院して、カジノでお祝いしていた。
そこにはよく分からないが、ガル達もいた。
なんだったら、アルやヤヨまでいた。
「なんでお前ら居んの?」
ナルーとルナーが互の腰を抱きながら、
「「主治医だから!!」」
と胸を張る。
「絶対それだけじゃない。」
フールがベディを隠すように抱きしめる。
「「ベティちゃんは、特別~」」
「遊びたいだけだろ。」
「「そんなことないよ!!」」
「常時に同時に喋るのやめろ!同じ声で気持ちわりー!!」
「「酷ぉーい!!酷いよね?ベティちゃん。」」
突然話を振られて驚きつつも、
「なんというか、、、不思議な感じですね。」
「「ベティちゃん優しい!!」」
ギューっとベティをサンドイッチにする。
その光景を遠目に、ライとアルが話していた。
「なんだあれ?」
ライが作ったデリーシャンパンをちびちび飲みつつ、カウンターで周りを見ている。
ライは隣で笑って、
「楽しそうだね。」
「呑気だな。」
「そんな事ないよ。息抜きしてるだけ。」
「そういうことじゃねーか。」
「良いじゃないか。コールとヘルドレイドは、ずっと落ち着かなかったんだから。フールなんて、物に当たって色々壊すし大変だった。」
ライは水を飲む。
「なんだか、そう聞くとお前はなんとも思ってないみたいだな。」
「そんな事ないよ。多分、俺が一番焦ってたんじゃないかな。」
「そうか?常に落ち着いてたように見えるが、、、特にフールと比べると。」
「はは、そう見えてたなら良かった。
じゃあ隠せてたみたいだね。」
目が据わっているライを見て、少し冷や汗をかいた。
「何をだ?」
「城のヤツらうっかり殺しちゃいそうだっからさ。半殺しぐらいで耐えられた。」
「一番お前が怖い気がする。」
ライは満面の笑みで
「そんな事ないよ。」
と、答える。
「君こそ、随分こたえてるみたいだね。」
「そうかもな。」
「あれ?意外と素直に認めるんだね。」
「どっかのカジノのオーナーさんみたいにヘタレてないんで。」
「はは。」
アルはテリーシャンパンを大きく飲むと、飲んだグラスのふちを見つめて、静かに言う。
「あんなに、
あんなに凄惨な場所は久しぶりだった。」
「久しぶり?」
「ああ。ガキの頃に育った戦場以来だ。」
「ふうん。奇遇だね。俺もだよ。あれぐらいの肉片になった家族を見たことがあるよ。お揃いだね。」
「嫌なお揃いだな。」
「俺も。」
そんな会話を知らぬと楽しそうにはしゃぐコールとヤヨ。
「コール!!コールはどうしてカタコトなの?!」
「忘れた。」
「そっか!忘れちゃったか~!」
「ヤヨ。元気。すごい。」
「やったぁー!」
「ヤヨ。元気。」
「うん!元気だよ~!コールは静か!!」
「うん。僕。静か。」
「静かー!」
ヘルドレイドとトルとガルが
「ヘルドレイドくん、ヘルドレイドくん
あれって、会話成り立ってるの?」
「知らない。俺に振らないで。」
「成り立っているんだろうな。当人達は。」
ガルの言葉にガックリと肩を落とすヘルドレイド。
「なんか、すごい心配。」
「しょうがないね。あれが彼の個性だ。」
ずーんと音がなりそうなほど落ち込むヘルドレイド。
ガルは一人、バルコニーに出て、夜空を眺めていた。明かりの少ないデッドシティーからは中心部から見えない満天の星空が広がる。
ガルはただただタンザナイトの瞳に映していた。
一切の曇りのない瞳で。
「皆さんとお話にならないんですか?」
ベディが話しかけてきた。
「お前こそ、主役がこんなところにいてもいいのか?」
「さぁ。こういう場は初めてで、わからなくて。」
「そうか。」
冷たい風が吹く。肌を通って、髪を通って、心に突き刺さるみたいな風邪だった。
「この風は、」
「ん?」
「なんて言うんですか?」
「さぁな。」
「そうですか。」
「ただ、もうすぐ冬になるな。この風は、そういう風だ。」
「冬?」
「冷たい季節だ。雪が降る。」
ベディは納得したように頷くと、ガルと同じように上を向いた。
「ここの星はいつ見ても綺麗です。」
「そうだな。俺もそう思うよ。」
「ガルさん。」
「なんだ?」
「ありがとうございました。」
「なんのことだ?」
「私達の救出に大分手を貸していただいたと聞きました。
こうやってゆっくり話したのは初めてですから。お礼を言いたくて。」
「そうか。俺は何もしていないぞ。それこそ、フール達が主体になっていた。」
「それでも、あそこにいた人たちを助けたのは貴方ですよ。」
「そうか。」
「ガルさん、ガルさんはどうして軍人に?」
「別に、なりたくてなったわけじゃない。それしか選択肢がなかったからだ。」
「そう、なんですか。」
「お前こそ、どうして夢魔と一緒にいる。いつか食い殺されるぞ。」
かわいた笑いを小さくすると、
「ルナーさんにも同じことを言われました。」
「だろうな。」
「正直に言うと、たまたま拾ってくださったからが極論なのかもしれませんね。」
「・・・」
「でも、今はフール様達の傍がいい。ほかの他誰でもない、フール様達の傍がいい。そう思っています。」
「随分盲目的だな。」
「そうですね。愛情を自覚できたからでしょうか。よく考えると、とっくのとうに自覚していたんだと思います。だから酔って依存した。」
「酔いは覚めたのか?」
「いいえ。もっと酔いました。もう私にはフール様達が酔ってるのか私がよってるのか分かりません。」
ガルは内心で思った。
(この少女、フール達が自分に執着しているのに気付いているのか?)
「なら早く覚ますことをすすめる。覚ましてもなお酔い続けるなら、それが本当の愛情なんじゃないか?」
「そうですね。そうします。
愛情が何かもわかりましたし。早く覚まして、私が愛情をあげる番になるんです!」
「そうか。」
「ねぇ、ガルさん。」
「なんだ?」
「私達、どこかで会いました?」
「いいや。あった記憶はないな。」
「はい。私もありません。でも、なんだか、
この会話、初めてじゃない気がするんです。」
「・・・」
「・・・」
「気の所為だな。記憶にないなら、思う執拗ない。」
「そうですね。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
うたげが終わり、片付けも終わってしまい、個々に眠りについていた。
ベディはフールの部屋のドアをノックしていた。
「良いよ。」
ドアの内から声が聞こえ、ドアを開ける。
ランプの灯りを頼りに本を読んでいたフール。
「また、、、どうしたの?」
本を閉じて、ベディを迎え入れるために片腕を広げた。
「フール、様。」
ゆっくりと、近づき、フールに抱きしめられる。
「寂しくなった?」
「はい。」
「そっか。」
胸の中で甘えて、怯えている。
「ベディ。怖い夢でも見た?」
首を横に振って、
「名前、、、」
「ん?」
「私の名前を呼んでください。」
ボソリと呟いた。
「ベディ。」
「もっと。」
「ベディ」
「もっと、」
「ベディ。ベディ、ベディ」
胸の中にいたベディが上がって、顔を埋める場所を首に変えた。フールは頭をしっかりと掴んで、唇を耳に当てながら囁くように
「ベディ。」
「もっと。」
「ベディ、怖かったね。」
「もっと。」
「ベディ、」
「貴方は、、、だぁれ?」
「・・・」
「・・・」
「ベディ。」
「もっと。」
「ベディ、もうここは夢じゃないよ。」
フールを抱きしめる腕に力が入る。
「ベディ、大丈夫。自分を忘れそうで怖かったね。」
かすれそうな小さな声で、
「どうして、、、?」
「何となく。」
当たっていたようで、質問が帰ってきた。少しあんしてして、答えれば濡れたの上目遣いがフールを見つめる。
(反則、、、ほんとにこの子は。)
「ベディ、は、」
「うん。」
「フール様達に食べられてしまうのですか?」
「は?」
いきなりの質問につい言葉が出てしまった。
「えっと、なんで?」
「ナルーさんが、言っていたので、、、」
(あいつ、、、まぁ、しょうがない。しょうがない。今回は許そう。)
「うーん。食べるって意味合いによるね。物理的に食べるのか、あるいは、、、表現として食べるのかだね。」
「表現??」
「夢魔ってどっちでも食べれちゃうから、特に考える執拗はないけどね。」
「んー?フール様は、私を食べてるんですか??」
「そうだね。ベディに触れることで食事に似た、結果が得られてるよ。ほら、いつだったか忘れたけど、皆がすごい抱きついた時あったじゃん?」
「はい。」
「あの時、みんなお腹がすいて、ベディを食べてたんだよ。」
「痛く、、、ありませんでしたよ?」
「食事が必ず痛い行為、ていうのは夢魔には通じないからね。」
「??」
ずっと首を傾げているベディ。
「まぁ、今のベディは知らなくていいことだよ。」
悲しそうに眉を潜める。
「大きくなったらその意味を嫌でも知ることになるよ。ほんとに。」
夢魔の本来の食事。それは言わずもがなの淫らで今の15歳前後であろうベディには早い話なのだ。
「いつになったら知れますか?」
好奇心なのか、単純な質問なのか、どちらにしても、ベディの質問に素直に答えられない。
「いつだろね。俺らの気分だよ。」
「むー。」
「ほら、そんなに頬を膨らませないで。食べたくなっちゃうよ。」
頬をつついてベディの機嫌をとる。
「フール様」
「何?」
「ベディを離さないで。」
一番言いたいことだった。ベディの最初の欲。初めての願い。
「・・・」
フールはベディを無言で少し苦しいくらいに抱きしめた。
「フール様?、、、ごめんなさい。ベディ、変な事を言ってしまいました。忘れて下さい。」
自分は言ってはいけない事を言ってしまったのだと思い、慌てて訂正する。
フールは少し、間を置いて、言う。
「ベディは、縛り付けられる苦しみを知らないから。怖いね。」
「・・・ごめんなさい。」
静かにフールは言う。
「ベディ、もし、本当に俺らに縛られる覚悟があるなら、本気でそうするよ。``全ての君´ ´ を縛るよ。」
ベディは沈黙して、フールの肩に腕を回す。
「はい。」
嬉しそうな声。
フールの目は大きく開かれ、動揺する。
「本当に、、、困ったベディだよ。」
「フール様達に縛られるのなら、ベディにとっては幸せの鎖ですよ。」
「困ったこと言うね。」
「そうですか?」
「うん。」
開いていた窓から風が吹き抜けて、薄いレースカーテンと本のページをめくる。
ベディを膝から下ろして、窓を閉める。
「もう、寝ようか。だいぶ眠くなってきた」
「そうですね。」
「一緒にねる?」
「はい。」
「そっか、寝よっか。、、、ん!?」
「?」
「あ、いや、別に。」
(やべ、ノリで言っちゃった。)
少し後悔しつつ、ベッドの奥に入り、掛け布団を上げ、
「ほら、おいで。」
ベディは楽しそうに入ってきて、自分の脇に頭を置く。その行動が可愛らしくてしょうがない。
「フール様、おやすみなさい。」
眠そうに瞼を擦って、明日への夢の切符をきる。
フールにはようやく一日が終わった気がした。
けれど、夜は長い。朝日が上り始めても、まだ夜。
くたびれる程長い夜に、ようやく、ようやく、ベディという夜明けを見つけた気がした。
「ベディ、今日は良い夢を。」
前髪をのけてベディの額に口付けを落とした。
「おやすみ。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
チュンチュン。
「むー。」
コールが頬を膨らまして、恨めしくフールとベディの寝顔を見ている。
目がキランとひかり、短距離走を走るように構え、
よーいドン、
聞こえないピストル音に合わせ走り出す、二人にダイブ、、、する前に、
フールが起き上がって、コールを止めた。しかも目を光らせて。
コールの体は空中で止まり、微弱な黄緑色を纏ってじたばたしている。
「流石にベディの上にダイブはやめろ。」
「むー。」
「むー。じゃない。ただでさえ傷が治りかけなのに、より負担を負わせる気か。」
「違う。」
コールの体がベッドの隣の床に置かた。
「全く。」
フールが起き、眠そうに頭を掻き毟る。
「フール。なんで。ベディ。と。寝てる。の。理由。に。よって。は。本気で。殴る。」
左手のひらに拳を当て、本気でそうしようとしているのが伺える。
(とんでもねーこと言いやがる。)
内心ハラハラしながら、
「別に、やましい理由はねーよ。昨日ベディが怖い夢、、、なのかはわかんないけど、怖がりながら俺の部屋に来た。だから、一緒に寝ようってなったらだけだ。」
「ふーん。」
手のひらを殴りつけて大きな音を出す。
「ほんと?」
コールのフールを見る目は確実に信じていないような、「とりあえず羨ましいから殴らせろ」という念がこもっていた。
「ホントホント。イッサイウソツイテナイ」
「わかった。今回。だけ。信じる。次は。殴る。」
「理不尽じゃん。」
「今回。許す。から。違う。」
「次、何がっても殴るってことだろ!!」
そんな会話をしていると、ベディが起きた。
「うぅん。フール様?コール様?おはようございます、、、ゥゥン。」
眠たそうに目を擦りながら起き上がる。そうしてコールにぶつかり、抱きつく。
「ベディ。寝ぼけてる。」
ベディの肩を叩きながら呼びかける。
「うぅん。寝ぼけてません。寝ぼけで、、、うぅん。」
「ベディ。起きて。朝。ご飯。食べよう。」
「うぅん。はい。」
ウトウトしながらフールの部屋を出てく。
「ほんとに。なんにも。してない。ね。意外。」
「おい待て、お前は俺をなんだと思ってる。」
「夢魔。クソ。上級。ネチネチ。強い。変態。」
「悪口と事実をサンドするな!!!その口調だからって気づかないとでも思ったか!!」
「ちぇ。」
「ちぇじゃねー!」
食堂ーーーーーーーーー
五人が朝食を食べている。
四人はパスタだが、ベディはジョセフに殴られた傷が内臓まで達していたせいで未だにお粥に近いものを食べていた。
「んで本当にフールは何にもしてないんだよね?」
ヘルドレイドが問いただす。
「してませんって!!するわけあるか!!」
そう言って水を飲む。
横でベディはあわあわしながらコールに抱きつかれ、ライは興味がなさそうにパスタの材料についてノートにまとめている。
「すごく信用できない。」
「なんでだよ!!仮にもなぁ、俺はお前らの上司なんだぞ!!」
「この関係性に上司もクソもあるか。」
「ちょっとはあってくれよ!!コールもお前も俺をなんだと思ってんだよ!」
「「ヘタレ。」」
「ふざけんな。」
(合ってるのがまた腹立つ!!)
「逆に聞くけど、フールはなんでそんなヘタレなの?メンタル弱いの?統制能力もリーダーシップも経営能力もあんのになんでそんなにヘタレなの?見てるこっちがイライラするくらいにヘタレなの?」
「そんなヘタレヘタレ言わなくてもいいじゃん!!」
「ネチネチウザ。」
「おい!!ゆうほどネチネチしねーよ!」
幼いんだか、大人なんだか分からないやり取り。
ベディはコールに進められるがままにご飯を食べていた。コールもまた、ベディを離し、残りのパスタを頬張っていた。
いつもの風景といえばそれまでだが、ベディにはそれが幸せに感じた。泣いて、喚いて、苦しんで。忘れた幸せにようやく気づいた気がした。
(いつも、やっていることなのに、、、こんなに胸が熱くなるなんて思ってなかった。)
残酷に優しいおとぎ話ではベディの幸せは満たせないから。不思議で奇怪で愚かな話でなくては悲しいから。
食べ終わったベディと、コールが皿洗いを始めても未だに言い争いを続けている。ライは息を大きく吸って、二人の頭を掴むと、こめかみ同士をぶつけた。
「「いっ!!!」」
「さっさと飯を食え!!」
「「はい、、、。」」
二人ともこめかみにこぶを作り、渋々言い争いをやめ食べ始める。
ライがふと思い出したように、
「あ、ベディ。」
「はい。」
「明後日あたり、妹が魔女集会から帰ってくるからあってくれないか?」
「わかりました!」
フールが
「あれ?テュミル戻ってくるの早くないか?」
「今回は二次会なしだってさ~。」
「アイツら四日も宴やって、それでも足りねーのかよ。」
「女の話は長いからじゃん??」
「四日間ぶっ通しでやってんじゃねーかよ。やべぇな。」
コールがふわぁ、と欠伸をかきながら、
「まだ。ベディ。に。会わせて。なかったんだ。」
「まぁね。ここに来てから軟禁状態も同然だったから、こないだの件もあるし、そろそろ街に行かせても良いかなって。」
「まぁな。」
フールが同意しつつも少し考え込んで、
「必ずライがそばに居ること。それが条件だ。」
「わかった。ベディ明後日辺りに準備しといて。」
ベディは嬉しそうに
「はい!」
答えて、業務へ行く。
四人になって、コールが
「いいの。」
フールに視線を向ける。それは、心配と不安が少し混ざって悲しそうに見えてしまう。
「嗚呼。いい。」
「なんで。」
フールは少しだけ、遊郭にいた頃を思い出した。
月明かりが差し込む和室。朱色に近い格子は見飽きた景色だけを無意味に透かしている。
見えない枷に絞められて、今にも退屈に殺されてしまいそうで苦しい。
誰にも連れ出されない。
どれだけ綺麗な着物に身を纏っても、内側は満たされない。腹が満たされても、心は虚しさと枷の絞まる感触がますだけ。
脳裏によぎる自由の無い生活。
「ここでベディを縛ったら、俺たちが遊郭を足抜けした理由に矛盾が出てくるからな。」
「・・・。そう。だね。でも、危険。ダメ。」
「必ず誰かついて行く。それが出来なければ、外出させない。」
「・・・」
口をつぐんで、俯いコールにフールは
「お前は優しいな。」
「優しい。訳じゃ。ない。よ。」
目を逸らしてフールの隣をすぎて部屋を出ていく。
「コールは相変わらず優しいね。ベディを拾って来た時もこの間の時もそうだけど、誰かの為にしか怒らない。そんなの、俺たちの中でコールしか出来ないよ。」
ヘルドレイドが皮肉る。
「まぁな。」
「俺もコールと同じ意見だよ。ライを信用して無いわけじゃないけど、もう少し間を空けたい。」
「うーん。そうなんだよな~。」
「フールもなんで許可出来るのさ。そりゃああんなのはやだけど、、、何も今すぐにでもやらなきゃ行けないわけじゃないだろ。」
「違う。」
「何が?」
フールはハッとしたような顔をして、視線だけでヘルドレイドを見た。
「いや、その、なんだか、いや、、、なんでもない。」
「何さ、煮え切らない。」
「なんと言うか、、、記憶にない、、、何かがある気がするんだ。」
「記憶に無い?何それ?」
「俺もよく分からん。」
「えぇー。あ、もしかして、セライラが言ってた誤差が関係してるじゃない?」
「そう、、、なのか?」
「もしかしたらの話だよ。」
そう言って、フールの分のさらも片付ける。
「ありがとう。」
「うん。、、、じゃ。」
フールに何か言おうとするも、やめ、部屋を出てく。ライと二人きりになった。
「なぁ、ヘルドレイドの事どう思う?」
「特に。ヘルドレイドだなぁって。」
「そうか。」
ドアノブに手をかけ、思い出したように言う。
「ねえ、フール。」
「ん?」
「よかっね。ベディを助けられて。」
「お、おう。」
「あの子見たくならない様にね。」
ドアを空け、閉まる直前で
「ベディを喰い殺したら、許さないから。」
そう呟いて閉められた。
一人、残ったフールは、テーブルに置いてあったグラスを見た。
それは、水と氷が光を反射しあって、作った影が美しく、優しくも暖かくもない。
それをフールは感情のままに地面に叩きつけた。
そこにはよく分からないが、ガル達もいた。
なんだったら、アルやヤヨまでいた。
「なんでお前ら居んの?」
ナルーとルナーが互の腰を抱きながら、
「「主治医だから!!」」
と胸を張る。
「絶対それだけじゃない。」
フールがベディを隠すように抱きしめる。
「「ベティちゃんは、特別~」」
「遊びたいだけだろ。」
「「そんなことないよ!!」」
「常時に同時に喋るのやめろ!同じ声で気持ちわりー!!」
「「酷ぉーい!!酷いよね?ベティちゃん。」」
突然話を振られて驚きつつも、
「なんというか、、、不思議な感じですね。」
「「ベティちゃん優しい!!」」
ギューっとベティをサンドイッチにする。
その光景を遠目に、ライとアルが話していた。
「なんだあれ?」
ライが作ったデリーシャンパンをちびちび飲みつつ、カウンターで周りを見ている。
ライは隣で笑って、
「楽しそうだね。」
「呑気だな。」
「そんな事ないよ。息抜きしてるだけ。」
「そういうことじゃねーか。」
「良いじゃないか。コールとヘルドレイドは、ずっと落ち着かなかったんだから。フールなんて、物に当たって色々壊すし大変だった。」
ライは水を飲む。
「なんだか、そう聞くとお前はなんとも思ってないみたいだな。」
「そんな事ないよ。多分、俺が一番焦ってたんじゃないかな。」
「そうか?常に落ち着いてたように見えるが、、、特にフールと比べると。」
「はは、そう見えてたなら良かった。
じゃあ隠せてたみたいだね。」
目が据わっているライを見て、少し冷や汗をかいた。
「何をだ?」
「城のヤツらうっかり殺しちゃいそうだっからさ。半殺しぐらいで耐えられた。」
「一番お前が怖い気がする。」
ライは満面の笑みで
「そんな事ないよ。」
と、答える。
「君こそ、随分こたえてるみたいだね。」
「そうかもな。」
「あれ?意外と素直に認めるんだね。」
「どっかのカジノのオーナーさんみたいにヘタレてないんで。」
「はは。」
アルはテリーシャンパンを大きく飲むと、飲んだグラスのふちを見つめて、静かに言う。
「あんなに、
あんなに凄惨な場所は久しぶりだった。」
「久しぶり?」
「ああ。ガキの頃に育った戦場以来だ。」
「ふうん。奇遇だね。俺もだよ。あれぐらいの肉片になった家族を見たことがあるよ。お揃いだね。」
「嫌なお揃いだな。」
「俺も。」
そんな会話を知らぬと楽しそうにはしゃぐコールとヤヨ。
「コール!!コールはどうしてカタコトなの?!」
「忘れた。」
「そっか!忘れちゃったか~!」
「ヤヨ。元気。すごい。」
「やったぁー!」
「ヤヨ。元気。」
「うん!元気だよ~!コールは静か!!」
「うん。僕。静か。」
「静かー!」
ヘルドレイドとトルとガルが
「ヘルドレイドくん、ヘルドレイドくん
あれって、会話成り立ってるの?」
「知らない。俺に振らないで。」
「成り立っているんだろうな。当人達は。」
ガルの言葉にガックリと肩を落とすヘルドレイド。
「なんか、すごい心配。」
「しょうがないね。あれが彼の個性だ。」
ずーんと音がなりそうなほど落ち込むヘルドレイド。
ガルは一人、バルコニーに出て、夜空を眺めていた。明かりの少ないデッドシティーからは中心部から見えない満天の星空が広がる。
ガルはただただタンザナイトの瞳に映していた。
一切の曇りのない瞳で。
「皆さんとお話にならないんですか?」
ベディが話しかけてきた。
「お前こそ、主役がこんなところにいてもいいのか?」
「さぁ。こういう場は初めてで、わからなくて。」
「そうか。」
冷たい風が吹く。肌を通って、髪を通って、心に突き刺さるみたいな風邪だった。
「この風は、」
「ん?」
「なんて言うんですか?」
「さぁな。」
「そうですか。」
「ただ、もうすぐ冬になるな。この風は、そういう風だ。」
「冬?」
「冷たい季節だ。雪が降る。」
ベディは納得したように頷くと、ガルと同じように上を向いた。
「ここの星はいつ見ても綺麗です。」
「そうだな。俺もそう思うよ。」
「ガルさん。」
「なんだ?」
「ありがとうございました。」
「なんのことだ?」
「私達の救出に大分手を貸していただいたと聞きました。
こうやってゆっくり話したのは初めてですから。お礼を言いたくて。」
「そうか。俺は何もしていないぞ。それこそ、フール達が主体になっていた。」
「それでも、あそこにいた人たちを助けたのは貴方ですよ。」
「そうか。」
「ガルさん、ガルさんはどうして軍人に?」
「別に、なりたくてなったわけじゃない。それしか選択肢がなかったからだ。」
「そう、なんですか。」
「お前こそ、どうして夢魔と一緒にいる。いつか食い殺されるぞ。」
かわいた笑いを小さくすると、
「ルナーさんにも同じことを言われました。」
「だろうな。」
「正直に言うと、たまたま拾ってくださったからが極論なのかもしれませんね。」
「・・・」
「でも、今はフール様達の傍がいい。ほかの他誰でもない、フール様達の傍がいい。そう思っています。」
「随分盲目的だな。」
「そうですね。愛情を自覚できたからでしょうか。よく考えると、とっくのとうに自覚していたんだと思います。だから酔って依存した。」
「酔いは覚めたのか?」
「いいえ。もっと酔いました。もう私にはフール様達が酔ってるのか私がよってるのか分かりません。」
ガルは内心で思った。
(この少女、フール達が自分に執着しているのに気付いているのか?)
「なら早く覚ますことをすすめる。覚ましてもなお酔い続けるなら、それが本当の愛情なんじゃないか?」
「そうですね。そうします。
愛情が何かもわかりましたし。早く覚まして、私が愛情をあげる番になるんです!」
「そうか。」
「ねぇ、ガルさん。」
「なんだ?」
「私達、どこかで会いました?」
「いいや。あった記憶はないな。」
「はい。私もありません。でも、なんだか、
この会話、初めてじゃない気がするんです。」
「・・・」
「・・・」
「気の所為だな。記憶にないなら、思う執拗ない。」
「そうですね。」
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うたげが終わり、片付けも終わってしまい、個々に眠りについていた。
ベディはフールの部屋のドアをノックしていた。
「良いよ。」
ドアの内から声が聞こえ、ドアを開ける。
ランプの灯りを頼りに本を読んでいたフール。
「また、、、どうしたの?」
本を閉じて、ベディを迎え入れるために片腕を広げた。
「フール、様。」
ゆっくりと、近づき、フールに抱きしめられる。
「寂しくなった?」
「はい。」
「そっか。」
胸の中で甘えて、怯えている。
「ベディ。怖い夢でも見た?」
首を横に振って、
「名前、、、」
「ん?」
「私の名前を呼んでください。」
ボソリと呟いた。
「ベディ。」
「もっと。」
「ベディ」
「もっと、」
「ベディ。ベディ、ベディ」
胸の中にいたベディが上がって、顔を埋める場所を首に変えた。フールは頭をしっかりと掴んで、唇を耳に当てながら囁くように
「ベディ。」
「もっと。」
「ベディ、怖かったね。」
「もっと。」
「ベディ、」
「貴方は、、、だぁれ?」
「・・・」
「・・・」
「ベディ。」
「もっと。」
「ベディ、もうここは夢じゃないよ。」
フールを抱きしめる腕に力が入る。
「ベディ、大丈夫。自分を忘れそうで怖かったね。」
かすれそうな小さな声で、
「どうして、、、?」
「何となく。」
当たっていたようで、質問が帰ってきた。少しあんしてして、答えれば濡れたの上目遣いがフールを見つめる。
(反則、、、ほんとにこの子は。)
「ベディ、は、」
「うん。」
「フール様達に食べられてしまうのですか?」
「は?」
いきなりの質問につい言葉が出てしまった。
「えっと、なんで?」
「ナルーさんが、言っていたので、、、」
(あいつ、、、まぁ、しょうがない。しょうがない。今回は許そう。)
「うーん。食べるって意味合いによるね。物理的に食べるのか、あるいは、、、表現として食べるのかだね。」
「表現??」
「夢魔ってどっちでも食べれちゃうから、特に考える執拗はないけどね。」
「んー?フール様は、私を食べてるんですか??」
「そうだね。ベディに触れることで食事に似た、結果が得られてるよ。ほら、いつだったか忘れたけど、皆がすごい抱きついた時あったじゃん?」
「はい。」
「あの時、みんなお腹がすいて、ベディを食べてたんだよ。」
「痛く、、、ありませんでしたよ?」
「食事が必ず痛い行為、ていうのは夢魔には通じないからね。」
「??」
ずっと首を傾げているベディ。
「まぁ、今のベディは知らなくていいことだよ。」
悲しそうに眉を潜める。
「大きくなったらその意味を嫌でも知ることになるよ。ほんとに。」
夢魔の本来の食事。それは言わずもがなの淫らで今の15歳前後であろうベディには早い話なのだ。
「いつになったら知れますか?」
好奇心なのか、単純な質問なのか、どちらにしても、ベディの質問に素直に答えられない。
「いつだろね。俺らの気分だよ。」
「むー。」
「ほら、そんなに頬を膨らませないで。食べたくなっちゃうよ。」
頬をつついてベディの機嫌をとる。
「フール様」
「何?」
「ベディを離さないで。」
一番言いたいことだった。ベディの最初の欲。初めての願い。
「・・・」
フールはベディを無言で少し苦しいくらいに抱きしめた。
「フール様?、、、ごめんなさい。ベディ、変な事を言ってしまいました。忘れて下さい。」
自分は言ってはいけない事を言ってしまったのだと思い、慌てて訂正する。
フールは少し、間を置いて、言う。
「ベディは、縛り付けられる苦しみを知らないから。怖いね。」
「・・・ごめんなさい。」
静かにフールは言う。
「ベディ、もし、本当に俺らに縛られる覚悟があるなら、本気でそうするよ。``全ての君´ ´ を縛るよ。」
ベディは沈黙して、フールの肩に腕を回す。
「はい。」
嬉しそうな声。
フールの目は大きく開かれ、動揺する。
「本当に、、、困ったベディだよ。」
「フール様達に縛られるのなら、ベディにとっては幸せの鎖ですよ。」
「困ったこと言うね。」
「そうですか?」
「うん。」
開いていた窓から風が吹き抜けて、薄いレースカーテンと本のページをめくる。
ベディを膝から下ろして、窓を閉める。
「もう、寝ようか。だいぶ眠くなってきた」
「そうですね。」
「一緒にねる?」
「はい。」
「そっか、寝よっか。、、、ん!?」
「?」
「あ、いや、別に。」
(やべ、ノリで言っちゃった。)
少し後悔しつつ、ベッドの奥に入り、掛け布団を上げ、
「ほら、おいで。」
ベディは楽しそうに入ってきて、自分の脇に頭を置く。その行動が可愛らしくてしょうがない。
「フール様、おやすみなさい。」
眠そうに瞼を擦って、明日への夢の切符をきる。
フールにはようやく一日が終わった気がした。
けれど、夜は長い。朝日が上り始めても、まだ夜。
くたびれる程長い夜に、ようやく、ようやく、ベディという夜明けを見つけた気がした。
「ベディ、今日は良い夢を。」
前髪をのけてベディの額に口付けを落とした。
「おやすみ。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
チュンチュン。
「むー。」
コールが頬を膨らまして、恨めしくフールとベディの寝顔を見ている。
目がキランとひかり、短距離走を走るように構え、
よーいドン、
聞こえないピストル音に合わせ走り出す、二人にダイブ、、、する前に、
フールが起き上がって、コールを止めた。しかも目を光らせて。
コールの体は空中で止まり、微弱な黄緑色を纏ってじたばたしている。
「流石にベディの上にダイブはやめろ。」
「むー。」
「むー。じゃない。ただでさえ傷が治りかけなのに、より負担を負わせる気か。」
「違う。」
コールの体がベッドの隣の床に置かた。
「全く。」
フールが起き、眠そうに頭を掻き毟る。
「フール。なんで。ベディ。と。寝てる。の。理由。に。よって。は。本気で。殴る。」
左手のひらに拳を当て、本気でそうしようとしているのが伺える。
(とんでもねーこと言いやがる。)
内心ハラハラしながら、
「別に、やましい理由はねーよ。昨日ベディが怖い夢、、、なのかはわかんないけど、怖がりながら俺の部屋に来た。だから、一緒に寝ようってなったらだけだ。」
「ふーん。」
手のひらを殴りつけて大きな音を出す。
「ほんと?」
コールのフールを見る目は確実に信じていないような、「とりあえず羨ましいから殴らせろ」という念がこもっていた。
「ホントホント。イッサイウソツイテナイ」
「わかった。今回。だけ。信じる。次は。殴る。」
「理不尽じゃん。」
「今回。許す。から。違う。」
「次、何がっても殴るってことだろ!!」
そんな会話をしていると、ベディが起きた。
「うぅん。フール様?コール様?おはようございます、、、ゥゥン。」
眠たそうに目を擦りながら起き上がる。そうしてコールにぶつかり、抱きつく。
「ベディ。寝ぼけてる。」
ベディの肩を叩きながら呼びかける。
「うぅん。寝ぼけてません。寝ぼけで、、、うぅん。」
「ベディ。起きて。朝。ご飯。食べよう。」
「うぅん。はい。」
ウトウトしながらフールの部屋を出てく。
「ほんとに。なんにも。してない。ね。意外。」
「おい待て、お前は俺をなんだと思ってる。」
「夢魔。クソ。上級。ネチネチ。強い。変態。」
「悪口と事実をサンドするな!!!その口調だからって気づかないとでも思ったか!!」
「ちぇ。」
「ちぇじゃねー!」
食堂ーーーーーーーーー
五人が朝食を食べている。
四人はパスタだが、ベディはジョセフに殴られた傷が内臓まで達していたせいで未だにお粥に近いものを食べていた。
「んで本当にフールは何にもしてないんだよね?」
ヘルドレイドが問いただす。
「してませんって!!するわけあるか!!」
そう言って水を飲む。
横でベディはあわあわしながらコールに抱きつかれ、ライは興味がなさそうにパスタの材料についてノートにまとめている。
「すごく信用できない。」
「なんでだよ!!仮にもなぁ、俺はお前らの上司なんだぞ!!」
「この関係性に上司もクソもあるか。」
「ちょっとはあってくれよ!!コールもお前も俺をなんだと思ってんだよ!」
「「ヘタレ。」」
「ふざけんな。」
(合ってるのがまた腹立つ!!)
「逆に聞くけど、フールはなんでそんなヘタレなの?メンタル弱いの?統制能力もリーダーシップも経営能力もあんのになんでそんなにヘタレなの?見てるこっちがイライラするくらいにヘタレなの?」
「そんなヘタレヘタレ言わなくてもいいじゃん!!」
「ネチネチウザ。」
「おい!!ゆうほどネチネチしねーよ!」
幼いんだか、大人なんだか分からないやり取り。
ベディはコールに進められるがままにご飯を食べていた。コールもまた、ベディを離し、残りのパスタを頬張っていた。
いつもの風景といえばそれまでだが、ベディにはそれが幸せに感じた。泣いて、喚いて、苦しんで。忘れた幸せにようやく気づいた気がした。
(いつも、やっていることなのに、、、こんなに胸が熱くなるなんて思ってなかった。)
残酷に優しいおとぎ話ではベディの幸せは満たせないから。不思議で奇怪で愚かな話でなくては悲しいから。
食べ終わったベディと、コールが皿洗いを始めても未だに言い争いを続けている。ライは息を大きく吸って、二人の頭を掴むと、こめかみ同士をぶつけた。
「「いっ!!!」」
「さっさと飯を食え!!」
「「はい、、、。」」
二人ともこめかみにこぶを作り、渋々言い争いをやめ食べ始める。
ライがふと思い出したように、
「あ、ベディ。」
「はい。」
「明後日あたり、妹が魔女集会から帰ってくるからあってくれないか?」
「わかりました!」
フールが
「あれ?テュミル戻ってくるの早くないか?」
「今回は二次会なしだってさ~。」
「アイツら四日も宴やって、それでも足りねーのかよ。」
「女の話は長いからじゃん??」
「四日間ぶっ通しでやってんじゃねーかよ。やべぇな。」
コールがふわぁ、と欠伸をかきながら、
「まだ。ベディ。に。会わせて。なかったんだ。」
「まぁね。ここに来てから軟禁状態も同然だったから、こないだの件もあるし、そろそろ街に行かせても良いかなって。」
「まぁな。」
フールが同意しつつも少し考え込んで、
「必ずライがそばに居ること。それが条件だ。」
「わかった。ベディ明後日辺りに準備しといて。」
ベディは嬉しそうに
「はい!」
答えて、業務へ行く。
四人になって、コールが
「いいの。」
フールに視線を向ける。それは、心配と不安が少し混ざって悲しそうに見えてしまう。
「嗚呼。いい。」
「なんで。」
フールは少しだけ、遊郭にいた頃を思い出した。
月明かりが差し込む和室。朱色に近い格子は見飽きた景色だけを無意味に透かしている。
見えない枷に絞められて、今にも退屈に殺されてしまいそうで苦しい。
誰にも連れ出されない。
どれだけ綺麗な着物に身を纏っても、内側は満たされない。腹が満たされても、心は虚しさと枷の絞まる感触がますだけ。
脳裏によぎる自由の無い生活。
「ここでベディを縛ったら、俺たちが遊郭を足抜けした理由に矛盾が出てくるからな。」
「・・・。そう。だね。でも、危険。ダメ。」
「必ず誰かついて行く。それが出来なければ、外出させない。」
「・・・」
口をつぐんで、俯いコールにフールは
「お前は優しいな。」
「優しい。訳じゃ。ない。よ。」
目を逸らしてフールの隣をすぎて部屋を出ていく。
「コールは相変わらず優しいね。ベディを拾って来た時もこの間の時もそうだけど、誰かの為にしか怒らない。そんなの、俺たちの中でコールしか出来ないよ。」
ヘルドレイドが皮肉る。
「まぁな。」
「俺もコールと同じ意見だよ。ライを信用して無いわけじゃないけど、もう少し間を空けたい。」
「うーん。そうなんだよな~。」
「フールもなんで許可出来るのさ。そりゃああんなのはやだけど、、、何も今すぐにでもやらなきゃ行けないわけじゃないだろ。」
「違う。」
「何が?」
フールはハッとしたような顔をして、視線だけでヘルドレイドを見た。
「いや、その、なんだか、いや、、、なんでもない。」
「何さ、煮え切らない。」
「なんと言うか、、、記憶にない、、、何かがある気がするんだ。」
「記憶に無い?何それ?」
「俺もよく分からん。」
「えぇー。あ、もしかして、セライラが言ってた誤差が関係してるじゃない?」
「そう、、、なのか?」
「もしかしたらの話だよ。」
そう言って、フールの分のさらも片付ける。
「ありがとう。」
「うん。、、、じゃ。」
フールに何か言おうとするも、やめ、部屋を出てく。ライと二人きりになった。
「なぁ、ヘルドレイドの事どう思う?」
「特に。ヘルドレイドだなぁって。」
「そうか。」
ドアノブに手をかけ、思い出したように言う。
「ねえ、フール。」
「ん?」
「よかっね。ベディを助けられて。」
「お、おう。」
「あの子見たくならない様にね。」
ドアを空け、閉まる直前で
「ベディを喰い殺したら、許さないから。」
そう呟いて閉められた。
一人、残ったフールは、テーブルに置いてあったグラスを見た。
それは、水と氷が光を反射しあって、作った影が美しく、優しくも暖かくもない。
それをフールは感情のままに地面に叩きつけた。
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