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最悪の主人
後日談
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くらい。
暗い。
食らい。
クラい。
夢が無い。夢が見れない。夢が見えない。
ここはどこ?
すごく寒いの。
頭がグラグラする。
音が聞こえない。
体痛い。ずっと痛い。
手も動かないの。
足も動かない。
左足がすごく痛い。
あれ?だんだん、痛くなくなってきた。
でも足は痛い。
手が暖かい。
頬が暖かい。
ん?なにか聞こえた。
「ィ、、、!!ディ、、!」
なんて言ってるんだろう。
何を言おうとしてるんだろう。
瞼が重いや。
「ベディ!!」
ベディ、
ベディ、
ベディ、
この名前、どこかで聞いたことある。
なんだっけ?誰だっけ?
「ベディ!!起きてくれ!!」
手が痛い、でも、暖かい。
とっても暖かい。
あれ?少し、明るい。
瞼が開く。
眩しいシャンデリアと、覗き込む四つの顔。
どれも美しくて、どれも整ってる。
「夢?」
ベディがそう言うと、四人は安心したように肩を落とした。
「夢じゃないよ。ベディ。遅くなってごめんな。」
手を握っているフール。
「フール様、じゃぁ、ホントに、ベディは、生きて、、、?」
突然体に重みがかかり、弱く抱きしめられた。
「よかった。ホントに。よかった。」
「コール、、、様。」
「ベディ、本当に生きててよかった。」
ライが頭を撫でながら泣きそうに言う。
「ホントだよ。」
ヘルドレイドは安心て、ベディの寝ているベッドに座る。
暖かい。
こんなに暖かい。
嗚呼、そうか、これが、、、、愛だ。
ベディの目に涙が溢れて、こぼれ落ちる。
「う、、、うぁぁぁ、、、ああああああああああぁぁぁん!」
年相応の子供のように声を上げて泣き始める。
痛いわけでも、苦しいわけでも、悲しい訳でもなく、
安堵と、嬉しさと、喜びで。
彼女に約束されるべき幸せの涙。
痛みと、苦しみと、絶叫の日々が一つ一つ落ちて、幸せの甘い味に変わっていく。
「うぅ、、、うああああああ、、、」
下手くそな泣き方で、泣くのだ。
そして、また笑う。
彼女はそれを繰り返していい。誰もそれを止めるものはいなのだ。
なのに、どんな因果か、それを忘れてしまった。
けれども、この四人の夢魔によって、
思い出したのだ。
取り戻したのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「この時のフール様達かっこよかったのよ!!」
楽しそうに言うベディ。
「こんな感じかしら??」
エレインは溜息をつきながら、レモンティーを口に入れる。
麗らかたる日差しの中、二人は紅茶を飲む。
「いつ聞いても、その話は痛々しいわ。」
「むー。しょうがないじゃない。」
頬を膨らませるベディにエレインは、
「それはいいのだけれど、いつもそこで終わるじゃない。」
「そうかしら?フール様達がカッコイイから良いじゃない。」
「良くないわ。私が聞きたいのはその先よ。何より、話にでてきた、ローブの女性は一体誰?」
「あれ?知らなかったかしら??」
「え?」
「本当に私はここまでしか話してないのね。」
ムッとしたエレインは
「そうよ。だからこの先を話して?」
「ええ。」
「あなたの本当の幸せの掴み方。」
「そうね。じゃあ少し続きから。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
四日以上寝ていたらしく、だいぶ体力がなくなっていた。リハビリも兼ねて帝国軍本部にある病院で半年ほど見てもらうことになり、同時に事情聴取と精密検査が行われた。
その間、フール達との面会を遮断された。
ガル達いわく、他の患者たちが恐れてしまうかららしい。
ルナーがベディの体の包帯をとって、傷の具合を見る。
「うん。もう治ったね。流石ナルー。」
「えっと、、、」
ナルーのと同じ顔で、ナルーの声で、唯一違うのか髪の色と、結んでいる髪がポニーテールか、ハーフアップであることしかない。
「あはは!混乱しちゃったね。私はルナーシャルルフェース。君の傷の具合を見てた人の妹よ。」
「あ、あぁー。よく似てますね。」
「ふふ。よく言われる。とっても嬉しいわ。」
ルナーは本当に嬉しいようで、少し顔を赤らめていた。
「あの、あそこに居た人達はどうなったんですか??」
ナルーは少し納得したように頷くと、
「最前は尽くしてるわ。どの病院も医者も私の部下も。けれど、あそこまで体をいじられてしまったら元の生活は無理ね。特に、、、あの、フローラちゃんは、1番酷い。あと三年持てばいい方ね。」
ベディの拳は布団のシーツを握り締めて震えている。
「フローラは、死んじゃうんですか??」
ナルーは息を吸う。少し止めて、力なく吐き出して、
「はい。このまま放置すれば死にます。」
「あっさり言っちゃうんですね。」
「その覚悟は必要でしょう。」
「そう、、、ですね。」
ナルーはベディの背中を摩って、
「大丈夫。必ず助けます。助ける方法が無いわけではありませんから。」
「そうなの?」
「はい。気はどうくなるでしょうけど、彼女の体にはった根を少しずつ手術でとっていけば、きっと。」
「よかった。」
ナルーがカルテを書きながら思い出したように言う。
「そうそう。その関連でいえば、元当主は、陽の光の入らない孤独の塔に幽閉されたそうよ。きっとあとの生涯人に誰にも呼ばれず呼ぶことも出来ずに死ぬのね。」
「ざまぁ見ろ。」そう言って、カルテを書き続ける。ベディも安心して、
「よかった。」
「それともうひとつ。
エリザベートバートリー、が当主になったことで、全ての少女の身元を調べ、できる限り死体を遺族に返したそうよ。生きてる双子と少女は、こっちに来たけどね。
・・・
あの城、、、まるまるお墓になったらしいわよ。」
「え?」
「死者への弔い(とむらい)の場所として、そして、身元引受け人がいない奴隷達のためのお墓にしたらしいわ。」
「そうなんですね。奴隷からすれば、お墓を立ててもらえるだけで、嬉しいですよ。」
「そうね。エリザベートバートリーも、そこに留まって死者を悼む(いたむ)ことに専念すると、言っていたわ。」
「そうですか。」
「ベディさん。」
「はい。」
カルテを書く手を止めて、真剣にベディに向き合う。
「貴方は、どうして彼らと一緒にいるの??」
「え?」
「いえ、ごめんなさい。でも、どうして夢魔と一緒にいるのかしらって。ほら、彼等は、、、``人を食い殺すから。´ ´ 」
ベディはいつだかにヘルドレイドを助けた時に、容赦なく傷口に噛みつき、血をすするヘルドレイドの姿を思い出した。
無意識的に噛まれた所を触ってしまう。
「それでも、、、私は、、、」
「心当たりがあるの?」
「・・・。だとしても、私はフール様達のお側を離れる気はありません。」
意志の籠った目にルナーは少し諦めたように笑い、
「そう。なら、絶対に貴方自身を守らないとダメよ。これは、フールさん達の、、、貴方の主人の為にも。」
「・・・。はい。」
「本当に、、、好きなのね。」
「はい。大好きです。誰よりも、何よりも」
「そう。あなたに愛されて、あの人達は幸せね。」
「そうだと、良いです。」
ルナーは立ち上がりながら、
「そうよ。」
部屋を出ていった。
一人になった個室の病室内で
不意の寂しさがベディを襲い、紛らわす為にベッドに潜り込、頭まで布団を被る。
『人を食い殺すから。』
頭の中でその言葉が響いた。
(食い殺す。フール様は私を食べる為に私を引き取ったのかな?)
フール達の姿が思い浮かぶ。
自分を全員が食べる姿を思い浮かべて、少し身震いするものの、嫌では無かった。
「ヘルドレイド様、、、私を食べるのかな?」
「なわけあるか。」
フールの声が聞こえた。厳重に閉ざされたこの病室でいるわけが無い。
「ダメだわ。私、ヘルドレイド様のことを考えすぎて幻聴が聞こえてきた。」
より身体を縮こませて、胎児のようにうずくまる。
「それは嬉しいね。でも、、、幻聴じゃないって。」
布団を行き良いよくめくれ、振り返れば逢いたくてしょうがない人の一人が居た。
「ヘルドレイド様!!」
「全く、寂しがってると思ったら、変なこと言ってるし、来てみて正解だった。」
起き上がってヘルドレイドに抱きつく。勢いに多少寄れるが、膝をついてベディを抱きしめ返す。
「寂しかった?」
「はい。」
「怖くなった?」
「、、、はい。」
「正直だね。」
「でも、おそばにいたいです。離れたくありません。」
「矛盾だね。」
「それでもいいです。」
ヘルドレイドの首筋にぐりぐり顔を埋め込むベディ。少しくすぐったくて、愛しくて、より抱き締めてしまう。
「ありがとう。」
しばらく沈黙。
数ヶ月ぶりの再会に言葉は要らなかった。互いの温度と息と鼓動が通じ合えば、それだけで数ヶ月の寂しさは埋もれていく。
「ヘルドレイド様、、、本当は、、、ずっと怖かったんです。」
ぽつぽつ零し始めた。ヘルドレイドは、静かに頷いた。
「うん。」
「``死にたくなかった。´ ´ 」
「うん。」
「意地を張っていたんです。」
「うん。」
「でも、あの人達とまた会って思ったんです。」
「うん。」
「みんながそばにいないと、苦しくてたまらないんです。」
「うん。」
「だから、だから、、、もう一度、皆様の奴隷にして下さい。」
ヘルドレイドは背中に置いていた手を頭にもってくると、優しく左右に揺らし撫でた。
「ベディ、君はずっと勘違いているね。」
「・・・」
くぅーんとか細くなく犬の様な声を出して、鼻をヘルドレイドの喉仏に擦り付ける。少しゾクッとしつつも、言葉を繋げる。
「君はもう、奴隷じゃないよ。」
「え?」
「フールがあの場で``社員´ ´ と宣言したんだ。その時からベディは奴隷じゃなくなってるよ。」
ベディを離して、しっかりと目を見る。
ヘルドレイドのイエローダイヤモンドの瞳とベディのグリーンアレキサンドライトの瞳がぶつかり合う。
「君と僕らはずっと対等だったんだ。」
「対等、、、」
「だから、君が戻ってくることを望むなら、僕らは喜んで向かい入れるよ。」
ヘルドレイドはふにゃりと笑って、頬を撫でる。
「実際、僕らは君に戻ってきて欲しいしね。」
入院着から覗く鎖骨にはフールの所有の痕がある。
(まぁ、逃げ出したとしても、もう手遅れだけどね。)
「じゃあ、また、私は、、、ベディは、カジノに戻れるんですか、、、!!」
「うん。そうだよ。望むなら。」
「邪魔にはならない?」
「なったら助けに行かないよ。この数ヶ月、ベディが居なくてみんな寂しがってる。」
「また、、、ベディは、ベディは、、、皆様、の、ヘルドレイド様たちの、愛情を、受け取っても、良いんですか?」
「もちろん。」
ベディの目から涙が溢れ出す。
ベディの額に頭をつけて、指で涙を拭いながら、
「嫌という程あげるよ。ベディの心に穴が空いていたとしても、僕らが塞いでいっぱいにしてあげる。」
「はい。」
ベディは、とっくにできていた決意を改めてする。
彼等のそばを離れない。
彼等を苦しませない。
悲しませない。
絶対に。
もう二度と。
二度と。
二度と?
二度?
``私´ ´ は、二度目?
違う、
もっと、もっと、もっと失敗した。
たくさん、失敗した。
いつ?
愛して。
黒いバラのベールから覗くのは青緑のめ。
愛して。
嘆くように言う。
愛してる。
愛おしくいう。
愛してる。愛してる。
もう二度と、離さない。
もう二度と、離さないで。
愛して。
愛してる。
あと何度繰り返せばいい。
愛して。
愛してる。
何度だって繰り返す。
愛して。
愛してる。
貴方からその言葉が帰って来るまで。
愛して。
愛してる。
何度だって言い続ける。
たとえ帰ってこなくても。
愛して。
愛してる。
ずっと。
愛してる。
永遠に、愛してる。
愛してる。
何があっても。
あなたと幸せを願うから。
愛してる。
貴方が生きる世界を望むから。
貴方達が生きる世界を必ず見つけるから。
どうか、
その日まで、、、
待っていてください。
フール様
ヘルドレイド様
コール様
ライ様
愛しています。
だから、
愛して。
暗い。
食らい。
クラい。
夢が無い。夢が見れない。夢が見えない。
ここはどこ?
すごく寒いの。
頭がグラグラする。
音が聞こえない。
体痛い。ずっと痛い。
手も動かないの。
足も動かない。
左足がすごく痛い。
あれ?だんだん、痛くなくなってきた。
でも足は痛い。
手が暖かい。
頬が暖かい。
ん?なにか聞こえた。
「ィ、、、!!ディ、、!」
なんて言ってるんだろう。
何を言おうとしてるんだろう。
瞼が重いや。
「ベディ!!」
ベディ、
ベディ、
ベディ、
この名前、どこかで聞いたことある。
なんだっけ?誰だっけ?
「ベディ!!起きてくれ!!」
手が痛い、でも、暖かい。
とっても暖かい。
あれ?少し、明るい。
瞼が開く。
眩しいシャンデリアと、覗き込む四つの顔。
どれも美しくて、どれも整ってる。
「夢?」
ベディがそう言うと、四人は安心したように肩を落とした。
「夢じゃないよ。ベディ。遅くなってごめんな。」
手を握っているフール。
「フール様、じゃぁ、ホントに、ベディは、生きて、、、?」
突然体に重みがかかり、弱く抱きしめられた。
「よかった。ホントに。よかった。」
「コール、、、様。」
「ベディ、本当に生きててよかった。」
ライが頭を撫でながら泣きそうに言う。
「ホントだよ。」
ヘルドレイドは安心て、ベディの寝ているベッドに座る。
暖かい。
こんなに暖かい。
嗚呼、そうか、これが、、、、愛だ。
ベディの目に涙が溢れて、こぼれ落ちる。
「う、、、うぁぁぁ、、、ああああああああああぁぁぁん!」
年相応の子供のように声を上げて泣き始める。
痛いわけでも、苦しいわけでも、悲しい訳でもなく、
安堵と、嬉しさと、喜びで。
彼女に約束されるべき幸せの涙。
痛みと、苦しみと、絶叫の日々が一つ一つ落ちて、幸せの甘い味に変わっていく。
「うぅ、、、うああああああ、、、」
下手くそな泣き方で、泣くのだ。
そして、また笑う。
彼女はそれを繰り返していい。誰もそれを止めるものはいなのだ。
なのに、どんな因果か、それを忘れてしまった。
けれども、この四人の夢魔によって、
思い出したのだ。
取り戻したのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「この時のフール様達かっこよかったのよ!!」
楽しそうに言うベディ。
「こんな感じかしら??」
エレインは溜息をつきながら、レモンティーを口に入れる。
麗らかたる日差しの中、二人は紅茶を飲む。
「いつ聞いても、その話は痛々しいわ。」
「むー。しょうがないじゃない。」
頬を膨らませるベディにエレインは、
「それはいいのだけれど、いつもそこで終わるじゃない。」
「そうかしら?フール様達がカッコイイから良いじゃない。」
「良くないわ。私が聞きたいのはその先よ。何より、話にでてきた、ローブの女性は一体誰?」
「あれ?知らなかったかしら??」
「え?」
「本当に私はここまでしか話してないのね。」
ムッとしたエレインは
「そうよ。だからこの先を話して?」
「ええ。」
「あなたの本当の幸せの掴み方。」
「そうね。じゃあ少し続きから。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
四日以上寝ていたらしく、だいぶ体力がなくなっていた。リハビリも兼ねて帝国軍本部にある病院で半年ほど見てもらうことになり、同時に事情聴取と精密検査が行われた。
その間、フール達との面会を遮断された。
ガル達いわく、他の患者たちが恐れてしまうかららしい。
ルナーがベディの体の包帯をとって、傷の具合を見る。
「うん。もう治ったね。流石ナルー。」
「えっと、、、」
ナルーのと同じ顔で、ナルーの声で、唯一違うのか髪の色と、結んでいる髪がポニーテールか、ハーフアップであることしかない。
「あはは!混乱しちゃったね。私はルナーシャルルフェース。君の傷の具合を見てた人の妹よ。」
「あ、あぁー。よく似てますね。」
「ふふ。よく言われる。とっても嬉しいわ。」
ルナーは本当に嬉しいようで、少し顔を赤らめていた。
「あの、あそこに居た人達はどうなったんですか??」
ナルーは少し納得したように頷くと、
「最前は尽くしてるわ。どの病院も医者も私の部下も。けれど、あそこまで体をいじられてしまったら元の生活は無理ね。特に、、、あの、フローラちゃんは、1番酷い。あと三年持てばいい方ね。」
ベディの拳は布団のシーツを握り締めて震えている。
「フローラは、死んじゃうんですか??」
ナルーは息を吸う。少し止めて、力なく吐き出して、
「はい。このまま放置すれば死にます。」
「あっさり言っちゃうんですね。」
「その覚悟は必要でしょう。」
「そう、、、ですね。」
ナルーはベディの背中を摩って、
「大丈夫。必ず助けます。助ける方法が無いわけではありませんから。」
「そうなの?」
「はい。気はどうくなるでしょうけど、彼女の体にはった根を少しずつ手術でとっていけば、きっと。」
「よかった。」
ナルーがカルテを書きながら思い出したように言う。
「そうそう。その関連でいえば、元当主は、陽の光の入らない孤独の塔に幽閉されたそうよ。きっとあとの生涯人に誰にも呼ばれず呼ぶことも出来ずに死ぬのね。」
「ざまぁ見ろ。」そう言って、カルテを書き続ける。ベディも安心して、
「よかった。」
「それともうひとつ。
エリザベートバートリー、が当主になったことで、全ての少女の身元を調べ、できる限り死体を遺族に返したそうよ。生きてる双子と少女は、こっちに来たけどね。
・・・
あの城、、、まるまるお墓になったらしいわよ。」
「え?」
「死者への弔い(とむらい)の場所として、そして、身元引受け人がいない奴隷達のためのお墓にしたらしいわ。」
「そうなんですね。奴隷からすれば、お墓を立ててもらえるだけで、嬉しいですよ。」
「そうね。エリザベートバートリーも、そこに留まって死者を悼む(いたむ)ことに専念すると、言っていたわ。」
「そうですか。」
「ベディさん。」
「はい。」
カルテを書く手を止めて、真剣にベディに向き合う。
「貴方は、どうして彼らと一緒にいるの??」
「え?」
「いえ、ごめんなさい。でも、どうして夢魔と一緒にいるのかしらって。ほら、彼等は、、、``人を食い殺すから。´ ´ 」
ベディはいつだかにヘルドレイドを助けた時に、容赦なく傷口に噛みつき、血をすするヘルドレイドの姿を思い出した。
無意識的に噛まれた所を触ってしまう。
「それでも、、、私は、、、」
「心当たりがあるの?」
「・・・。だとしても、私はフール様達のお側を離れる気はありません。」
意志の籠った目にルナーは少し諦めたように笑い、
「そう。なら、絶対に貴方自身を守らないとダメよ。これは、フールさん達の、、、貴方の主人の為にも。」
「・・・。はい。」
「本当に、、、好きなのね。」
「はい。大好きです。誰よりも、何よりも」
「そう。あなたに愛されて、あの人達は幸せね。」
「そうだと、良いです。」
ルナーは立ち上がりながら、
「そうよ。」
部屋を出ていった。
一人になった個室の病室内で
不意の寂しさがベディを襲い、紛らわす為にベッドに潜り込、頭まで布団を被る。
『人を食い殺すから。』
頭の中でその言葉が響いた。
(食い殺す。フール様は私を食べる為に私を引き取ったのかな?)
フール達の姿が思い浮かぶ。
自分を全員が食べる姿を思い浮かべて、少し身震いするものの、嫌では無かった。
「ヘルドレイド様、、、私を食べるのかな?」
「なわけあるか。」
フールの声が聞こえた。厳重に閉ざされたこの病室でいるわけが無い。
「ダメだわ。私、ヘルドレイド様のことを考えすぎて幻聴が聞こえてきた。」
より身体を縮こませて、胎児のようにうずくまる。
「それは嬉しいね。でも、、、幻聴じゃないって。」
布団を行き良いよくめくれ、振り返れば逢いたくてしょうがない人の一人が居た。
「ヘルドレイド様!!」
「全く、寂しがってると思ったら、変なこと言ってるし、来てみて正解だった。」
起き上がってヘルドレイドに抱きつく。勢いに多少寄れるが、膝をついてベディを抱きしめ返す。
「寂しかった?」
「はい。」
「怖くなった?」
「、、、はい。」
「正直だね。」
「でも、おそばにいたいです。離れたくありません。」
「矛盾だね。」
「それでもいいです。」
ヘルドレイドの首筋にぐりぐり顔を埋め込むベディ。少しくすぐったくて、愛しくて、より抱き締めてしまう。
「ありがとう。」
しばらく沈黙。
数ヶ月ぶりの再会に言葉は要らなかった。互いの温度と息と鼓動が通じ合えば、それだけで数ヶ月の寂しさは埋もれていく。
「ヘルドレイド様、、、本当は、、、ずっと怖かったんです。」
ぽつぽつ零し始めた。ヘルドレイドは、静かに頷いた。
「うん。」
「``死にたくなかった。´ ´ 」
「うん。」
「意地を張っていたんです。」
「うん。」
「でも、あの人達とまた会って思ったんです。」
「うん。」
「みんながそばにいないと、苦しくてたまらないんです。」
「うん。」
「だから、だから、、、もう一度、皆様の奴隷にして下さい。」
ヘルドレイドは背中に置いていた手を頭にもってくると、優しく左右に揺らし撫でた。
「ベディ、君はずっと勘違いているね。」
「・・・」
くぅーんとか細くなく犬の様な声を出して、鼻をヘルドレイドの喉仏に擦り付ける。少しゾクッとしつつも、言葉を繋げる。
「君はもう、奴隷じゃないよ。」
「え?」
「フールがあの場で``社員´ ´ と宣言したんだ。その時からベディは奴隷じゃなくなってるよ。」
ベディを離して、しっかりと目を見る。
ヘルドレイドのイエローダイヤモンドの瞳とベディのグリーンアレキサンドライトの瞳がぶつかり合う。
「君と僕らはずっと対等だったんだ。」
「対等、、、」
「だから、君が戻ってくることを望むなら、僕らは喜んで向かい入れるよ。」
ヘルドレイドはふにゃりと笑って、頬を撫でる。
「実際、僕らは君に戻ってきて欲しいしね。」
入院着から覗く鎖骨にはフールの所有の痕がある。
(まぁ、逃げ出したとしても、もう手遅れだけどね。)
「じゃあ、また、私は、、、ベディは、カジノに戻れるんですか、、、!!」
「うん。そうだよ。望むなら。」
「邪魔にはならない?」
「なったら助けに行かないよ。この数ヶ月、ベディが居なくてみんな寂しがってる。」
「また、、、ベディは、ベディは、、、皆様、の、ヘルドレイド様たちの、愛情を、受け取っても、良いんですか?」
「もちろん。」
ベディの目から涙が溢れ出す。
ベディの額に頭をつけて、指で涙を拭いながら、
「嫌という程あげるよ。ベディの心に穴が空いていたとしても、僕らが塞いでいっぱいにしてあげる。」
「はい。」
ベディは、とっくにできていた決意を改めてする。
彼等のそばを離れない。
彼等を苦しませない。
悲しませない。
絶対に。
もう二度と。
二度と。
二度と?
二度?
``私´ ´ は、二度目?
違う、
もっと、もっと、もっと失敗した。
たくさん、失敗した。
いつ?
愛して。
黒いバラのベールから覗くのは青緑のめ。
愛して。
嘆くように言う。
愛してる。
愛おしくいう。
愛してる。愛してる。
もう二度と、離さない。
もう二度と、離さないで。
愛して。
愛してる。
あと何度繰り返せばいい。
愛して。
愛してる。
何度だって繰り返す。
愛して。
愛してる。
貴方からその言葉が帰って来るまで。
愛して。
愛してる。
何度だって言い続ける。
たとえ帰ってこなくても。
愛して。
愛してる。
ずっと。
愛してる。
永遠に、愛してる。
愛してる。
何があっても。
あなたと幸せを願うから。
愛してる。
貴方が生きる世界を望むから。
貴方達が生きる世界を必ず見つけるから。
どうか、
その日まで、、、
待っていてください。
フール様
ヘルドレイド様
コール様
ライ様
愛しています。
だから、
愛して。
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綾月百花
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リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
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