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最悪の主人

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愛して。
愛して。愛して。
愛して。愛して。愛して。
愛して。愛して。愛して。愛して。
愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。
愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。
愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。
愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。
貴方を、あなた達を愛していますから。
愛して下さい。
キスをして。抱きしめて。甘い言葉を囁いて。頬に触れて。頭を撫でて。私の胸に触れて。肌を重ねて。吐息を合わせて。跡をつけて。私を貴方の形にして。私をあなたで塗りつぶして。閉じ込めて。あなたの愛で溺れさせて。縛りつけて。
私だけを寵愛して。
・・・。
・・・。
・・・。
憎んでいいから。
罵っていいから。
傷つけていいから。
苦しめていいから。
嘘をついていいから。
愛さなくていいから。
だから、
だから、、、
みんなを、私の悪魔を、守ってよ。
私が愛してる貴方を守って。
私が欲しいのはあなた達の愛。私が守りたいのはあなた達の命。
私がいるせいで貴方様方が苦しむのなら喜んで命を断ちますから。
喜んで苦しみますから。
頭を垂れて無様に懺悔しますから。
世界中の笑いもので構いませんから。
どうかお願いです。
守らせてくださいあなた達を。
嘘つきで、冷淡で、憎い、愚か者のあなた達を。
どうか、守らせてください。
愛してる。
ずっと、愛してる。
誰よりも、何もよりも。
あなた達を。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
とある町のとある城。
大きなレンガの城はこのあたり一の大きな城であった。下の町の子供達は絵本で読んでいるおとぎ話の城と思い、憧れている。
だが、大人達は不信を募り、恐れ、子供たちを近寄らせないように必死だった。
何故ならココ最近各地の娘があの城へ迎え入れられ誰一人帰ってきてないのだ。この町も例外ではなく、当然のように来ては娘を迎え、そして拐ういつしか、町中の娘が居なくなり、陰鬱な雰囲気に包まれた。
そして、ほかの町から時折双子も姿を消していた。
数日前にこの城の使者が目撃されていることから双子もこの城に匿われているのではないかと、噂になっていた。
そんなことは興味が無いと、城の主は晩酌をしていた。
豪華なシャンデリアの下にある長いテーブルの先に男が一人、赤い液体を飲んむ。どろりとしたそれはグラスに跡をつけながら男の胃へ流し込まれる。
「はぁ。矢張り、若い女の血がいい。」
その高貴な服装に身を包んだこの城の主の名は
ジョセフ・ジェベート・バートリエル・メンゲレ
この領地の貴族にてして、医者でもある。
世にいう、マッドサイエンティスト(狂気の科学者)である。そんなジョセフの趣味は解剖と黒魔術であった。
「はぁ。つまらない。」
ジョセフは素手でソースのついたローストビーフを掴むと、大胆に口に入れた。ついたソースを真っ白なテーブルクロスで拭き取ると、そのまま席を立ち、部屋を出て、長い廊下をすすむと隠されている小さならせん階段があり、その先の小さな扉を開けて解剖室へ入る。
「ん~ん~~♪」
花歌を歌いながら解剖台に乗っている``昨日作ったシャム双生児´ ´ を見つめる。
肩をくっつけられた二人はごめんさい、ごめんさいと謝りながら泣きじゃくっている。
だが、ジョセフにはその二人の声があまりに不愉快でしょうがなかった。あまりに煩いものだからそばにあった靴べらで双子を叩く。泣き止むどころか、さらに悲鳴をあげて怖がる双子がイライラしてしょうがない。
「うるさいなぁ!!!実験の結果が狂ったらどうしてくれるんだ!!うるさいうるさいうるさいうるさい!!!!」
鬼の形相でそう叫んだ。何度も何度も靴べらで力任せに双子を叩く。
ようやく双子が黙り込んだ。双子は互いの手を握りしめ、この地獄が終わるのを待っている。
ジョセフも落ち着いたようで、靴べらで双子を叩くのをやめ、双子の繋げた断片を見た。針を指した所から赤く腫れ上がり、誰が見ても皮膚の感染症にかかっていることがわかった。それをカルテにメモする。
それから双子の腕に注射を刺し血液をとると、それを検査機にかけた。
結果を待っていると突然ジョセフの頭に激しい頭痛がした。
「いっ!!!っ、、、ぁ」
頭を抑えながら白衣のポケットに手を入れ瓶をさぐり、瓶をだすが錠剤が入っておらず、確認のために幾度か強くするもののからの瓶は音もせずに遠心力で重さを増すだけ。
「ああああああああぁぁぁ!!!」
自分の頭をぐしゃぐしゃに掴むと、眼鏡が落ちた。また靴べらを手に持ち、たまたま目に入った双子にまた殴りつける。
「痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!なんで俺が!!なんで俺が!!」
双子は黙って耐える。痛いと叫びたいのはこちらなのに苦しいと泣きたいのはこちらなのに。ジョセフにはそんなものはどうでも良く、ただ自分のその場の頭痛が消えればいい。ある程度みたされればいい。そう思っている。だから双子は耐える。ジョセフの機嫌が良くなるまでジョセフが飽きるまで。ひたすらに耐えるしか無い。
「痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
愛して。
ベディの目が見開かれる。身体に力が入って目覚めた。自分の小さな拳は砂を握りしめていて、プルプルと震える。
体を起こして見渡せばほんの一年前までいた牢屋だった。
薄暗く、泣き声と懺悔と苦しみの声がひたすらにこだましていた。
(フール様、、、)
頭の中で顔が浮かんだ。フールを初めライ、コール、ヘルドレイド。
この四人の顔と背中がどうしても頭から離れない。
(ここに、居たくないなぁ。)
ベディの目からポロポロと涙がこぼれていた。
「フール様ァ、コール様ァ、、、ぅ、、、ライ様ァ、ヘルドレイド、様ァ、、」
どうしよう。どうしよう。とても会いたい。すごく会いたい。一時だって離れたくない。
皆に会いたい。
「帰りたい、、、」
ポツリと呟くと答えが帰ってきた。
「返してあげようか。」
優しい声。
「フローラ、どうしてここに、、、」
フローラはベディの方を見ずに言う。
「ここから返してあげようか。」
よく意味がわからず、ポカンとしてしまう。
「何?ここから出たくないの?」
ベディにジュースをかけた時のように冷たく言う。
「えっと、出たい。」
「そう。じゃあ私の作戦に協力して。上手く行けば貴方は出られる。」
フローラは鉄格子を握って何かを決意したように言う。
「私に協力して。」
ーーーーーーーーーーーーーーー
ベディとフローラは城から少し離れた別棟に向かって走っていた。
「はぁ、はぁ、早く!」
「まっ、、、て、、、」
「早くしないと見つかっちゃう!!」
フローラとベディの小さな手が繋がれ、息を切らしながら二人は別棟の扉の中へ入る。
「はぁはぁ、上手く、行った。」
フローラは肩で呼吸しながら言う。
ベディは体力の限界で言葉を返せない。代わりに頷いてヘトヘトで疲れきった足を前に進めた。
どうしてこうなったかと言うと、
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「出るって、どうするの??」
ベディが首を傾げる。フローラは得意そうに笑い、
「ここには二日事に実験の生贄が決められる。そして今、ここには貴方がいる。」
ベディは首を傾げる。
「``私´ ´ が居るとどうなるの??」
「アイツは今の貴女にご執心なの。だからその生贄は貴方に決まる。そこを狙うの。」
「看守を襲うってこと?でも、看守は、、、」
鞭を持っている。そう言いかけた時、フローラはベディの肩を掴んで大きく揺らす。
「それで、貴方が囮になるの!!」
「え?!」
フローラの囮になるという言葉に驚いた。
「良い?看守は必ず貴方を連れていこうとする。そこで!貴方が抵抗すれば両手が空く!」
ガッツポーズをしてやる気を見せるフローラに少し動揺しながらも疑問を口にする。
「でも、そんなに上手くいくのかな?看守はひとりじゃないでしょ?」
フローラはベディを見ると、
「鞭を奪うから問題ない!!」
「あるよ!!」
「ないわ!だって、看守は今弱っているもの。」
「え?」
フローラは少し重く言う。
「看守達もいい加減変な理性が働き始めてるのよ。それにずっと休みなくここを巡回しているから体力的にもそろそろ限界に近いはず。そこを狙うの。」
それでもまだ不安であった。大柄の男とにくい程に華奢な自分達では太刀打ちができないのではないか、そう思ってしまう。
「大丈夫。」
フローラは私の手を握ってそういう。
「ねぇ、フローラ。私達、一緒に出れるよね?必ず一緒に出ると、約束して!」
フローラの目にはうっすらと涙の膜が張りこぼれないように笑って
「ええ。必ず。」
「必ずね?」
「・・・。この牢屋からでたら今度は東側に小さな塔があるの。そこの茂みは格子がないからそこを通れば出られる。」
そう言っていると、高い靴の音が響いてこちらへ近づいてくる。
「来た!」
小さく叫ぶとフローラは自分達の格子の前に立った看守を睨みつける。
格子をあけて、ベディの前に立つフローラに
「どけ。」
と低い声。
「ええ。」
フローラが小さく答えて少しズレた時、ベディが抵抗する前にフローラが突進した。
不意打ちに動揺する看守たち。フローラは看守の腰元にあったリボルバーと弾丸を盗むと、
「来て!!」
そのまま走り出すベディ。
「モルモットが二匹逃げたぞー!!」
その声と共に容赦なく弾丸の嵐が降り注いだ。だが、その頃には石の階段を駆け上がっていた。二人は無傷で抜けることが出来た。
二人は部屋へ逃げ込むと家具の影に身を潜めた。
「どう?上手くいったでしょ?」
フローラが笑って言う。ベディは頬を膨らまして
「どこが!!こんなの運じゃない!!怪我がなかったのは奇跡よ!!それに盗んだのは鞭じゃなくて銃だし、危険よ!!」
慌ただしく感情を出すベディにフローラは驚いた表情を見せた。
「・・・」
「・・・何よ。」
「貴方、そんなに表情豊かだったのね。」
「そんなの今関係な、、、あっ!!」
ベディは何かに気付いたように口を抑える。そして恥ずかしそうにプルプルと震える。
「わふれへ」
「なんて?」
「忘れて!!今の私の表情!あと、情緒も!」
「ちょっと落ち着きましょう?そんなに悪いことじゃないのよ?」
震えながら顔を抑えるベディを必死に慰める。
「ホントに?」
「うん。ホントに。」
「うん。」
少し落ち着いたようで部屋の中を見渡した。どうやらダンボールや書き込み済みのカルテのような紙が散乱していた。
フローラが紙を拾い上げて何か手がかりは無いかと読み込む。カルテに書いてあったことは、
近年の双子の出生率の高さの統計とそれに関する論文。
『近年、双子の出生率が著しく増えている。それに伴いシャム双生児や奇形児等が多くなり、健康出産率が低下の一途を辿っている。より不可解に思うのが増えているのが二卵性双生児ではなく、一卵性双生児のみであることがより難解になっている。ほんの二十年前まで自然出産率が0.6%であったはずの双子の出生率が今となっては21%にまで上昇してしまっている。それでは、、、』
ここまでで読むのを辞めた。
フローラには腹立たしくてしょうがなかった。この論文がアイツの双子への関心の元になっているならふざけるんじゃない。結論の予想がつかなくても、アイツには、ジョセフには倫理がないことがよくわかった。メモ書きのように書いてあったらカルテを握り潰してクシャクシャにして引き裂いた。そしてようやく、ダンボールに入っているものと、棚に並んでいる物がなにかわかった。
「フローラ、もう、見るのやめよう。」
ベディが心配そうに言う。けれどフローラは目を逸らさない。
「これ、私の友達だった子達、、、なんだよね。」
棚一面には人間の人体の一部が所狭しと並んでいた。人の体を玩具にして、コレクションにして。ものとしか思ってないのがひしひし伝わった。
「行こう。フローラ。」
ベディがフローラの手を引く。小さく頷いて静かにドアを開けた。長い廊下を小走りした。ある程度進んでいると使用人に見つかってしまい、二人で逃げ回った。角を曲がった先の小さなドアの中に入って石階段をかけおり、重い扉を開けた。
「ああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ!!!!!」
開けた途端に高い機械音と共にけたたましい叫び声が耳をつんざく。急いで大きな台の下に隠れ、息を潜める。
「やだぁ、やだぁやだぁ!!やめてください!!ごめんさいごめんさいごめんさいごめんさい!!もう痛いのやです!!痛いのやめてください!!」
悲痛な懇願の声が痛いくらいに響く中でチェーンソーが無慈悲に回され叫びすぎて男か女か分からない声の主に入れられる。
「ああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ!!!!!」
飛び散る血飛沫。ベディの頬にその数滴つく。
(思い出した。私、お腹、切られた時、怖かったんだ。痛かったんだ。)
目の前で淡々と進む解体作業。吐くことも出来ず、生臭い匂いにただただ耐えるしか無い。
ようやく機械音が消え、ジョセフの鼻歌が聞こえ始める。
「~♪~♪~~♪」
うるさい心臓音を必死に抑えて、息を潜める。
コツ、、、コツ、、、コツ
靴を鳴らしながらメスだか糸だか何やら分からないものを取り出してなにか作業を始める。
「やめてください、、、やめて、、、もうやだぁ!!」
ああ、自分たちと同じに麻酔のない状態で手術されているんだ。ベディそう確信した。
少女だか青年だか分からない、子共は口先だけでの抵抗をした。けれどそんなのは全く持って意味をなさない。心など持たない本当の最悪な男相手に同情などは波に打たれる砂の城以上にもろく儚い。
どれほどたったであろうか。もう震えなどなくて、感覚を塞ぎたくなる時間は気が遠くなる以上に辛くて。何も考えたくなかった。
ジョセフが何かを思い出したように出ていった。
フローラとベディは少し動けなかった。ベディからズルズルと這うように体を起こした。
部屋の真ん中にある解剖台に嫌でも目がいく。
双子が腕を切り取られ切り取られた断面で繋がっている。あまりに凄惨な姿を見たくなくて、上を向けば二十人程の女性、、、いや少女が吊り下がっていた。どの少女も損傷が激しく、そして、青白い。膨らんで瞼のない眼球と目が合う。
(ああ、もう、壊れてるんだ。死体を、、、死体として見てない。)
下唇をぎゅっと噛み、蹲って震える手を無理やり引く。
「フローラ、立って。上を見ないで。」
重い扉を引いて、グイグイ引っ張って行く。
急いで降りてきた石階段を上がり、ドアの隙間から誰もいないことを確認し、また小走りで移動する。話し声が聞こえ、大きなドアに慌てて入る。開ければ長いテーブルと床まで着くテーブルクロス。フローラを連れてテーブルクロスの中に入る。ドアが開かれ、またジョセフの声が聞こえた。ただ、誰かと会話しているようでもう一人の男の声も聞こえた。
「ルーティルではもう娘も双子も取れません。」
「ふむ。ならば少し奴隷買い戻すか。いや、今あるゴミを再利用した方が良さそうだな。 」
「私もその方がよろしいかと。」
一番奥の席に座り足を組む。
「そういえば、連れ去ってきたあのゴミ、どこかで見た事がある気がするのだが、、、覚えていないか??」
「はい。恐らくですが、、4ヶ月ほど前にオークションに戻したどれいて思われます。」
「はぁ。覚えておらんな。だが、私の優しさを無下にした上に指図までしてくあのガラクタが、、、あ!思い出した!あのガラクタは俺が直々に``子宮´ ´ を取ってやったのではなかったか??あまりに血が多く出たので面白半分に食ったあのゴミ!!あれがあのガラクタか!!ならばアイツで実験しよう!そうしよう!」
激しく、そして上機嫌に言う。
普段美しい顔が醜く、そして下品に歪んでいる。
楽しそうに笑うジョセフ。大きな扉が開き、若い美しい女性が入ってきた。
「お父様!!わたくしが頼んだアレはまだですの?!」
子供のように癇癪を起こしながら入ってくる女性はズンズンとジョセフの前に行き、テーブルを叩く。
「バーバラ、少し待たないか。大丈夫今日にはで届くさ。」
「ほんとね!お父様!!」
「嗚呼、本当だとも。」
バーバラと呼ばれた女性は得意げにない椅子に座る。
「本当に待ち遠しいんだねぇ。」
「ええ!当たり前よ!!ワタクシは早くお姉様をあの針の餌食にするのが楽しみで楽しみでしょうがありませんの!!」
フローラはクララの言葉に血の気が引いた。
(今なんて??お姉様??実の姉を殺すの??)
「お前が楽しみならそれで良いよ。しかし、お前も酷い妹だねぇ。」
ジョセフの言葉にクララは首を傾げる。
「あら、どうして??」
「だって、お前のの恋人を殺した罪を実の姉にかけて隔離棟に入れてしまっているんだから。」
「あら?自分のためにありとあらゆる手を使うことを教えたのはお父様でしてよ?何より、美と好奇心の為だけにこの城を死体だらけにしている張本人はお父様でしてよ?」
ジョセフは楽しそうに笑い、
「おやおや。」
もうダメだ。こんなの狂った会話聞いていられない。
「お父様、ワタクシ、、、お父様の娘で本当にシアワセですわ!!」
腐ってる。正真正銘のクズだ。
きっとコイツらには悪意も善意もなくて、常識なんて初めから存在しなくて、そんな奴らに苛立ちと嫌悪以外に何を思えと??
しかも一人でなくて二人も、もしかしたらここの城のやつら全員なのか??この狂気の会話を聞いて、なんとも思わないのか??フィクション作品じゃないんだぞ??
「発注品を急がせろ。あと、湯浴みの用意だ。」
「はい。」
男はそのまま部屋を出ていく。
「はぁ、お父様、、、ワタクシもご一緒に入ってもよろしくて??」
「おや、今日は随分と甘えただね。」
「そうかもですわね。今日、、、アレが届くのであれば、今日はあのお邪魔なお姉様の処刑日。私とお父様の記念日になるのですのよ?」
「それはそれは、めでたいね。」
クララの髪を一束すくって口付ける。
フールがベディによくやるようなスキンシップではなく、汚らしく舐めるように口につけるのだ。
ぐちゅぐちゅ、、、口付けとは思えないような音を出してこの親子は互いを愛撫している。もう、倫理観がわからなくなってきた。

「失礼します。湯浴みの準備が出来ました。」
どれほどたったか、先程の男が入ってくると二人は腕を組んで出てゆく。
足音が全て遠くなったことを確認してテーブルの下から二人は出てきた。
「アイツ、どうすればいい。」
フローラが不意に聞いてきた。ベディは静かに手を握り、意志のある声で答える。
「どうすることも出来ない。」
ベディの答えに反論しようとするフローラを遮る
「それじゃぁ、、、」
「けれど、それは私達だけでは、、、の話。」
「・・・」
「私、、、には、フール様達がいる。」
愛して。
「フール??神かなにかなの?この最悪な状況をひっくり返せるだけ、、、強い。」
「それは、、、分からない。けれど、フール様達はとっても強くて優しいの。温かくて、慈悲深い。」
「そんなものは無いわよ。いくら魚影をおったって所詮は魚影よ。影しか見えない。もしかしたらサメやウツボかもしれないわ。海に引きずり込むようなクラーケンかも。」
廊下に出て隠れながら話す。フローラの心配そうな言葉にベディは笑った。
「それでもいいのよ。私はその海が好きだから。底に引きずり込まれるのは私だけだもの。私だけの魚だもの。」
「・・・信じていいの?」
愛して。
「・・・。分かんない。でも、助けてくれるかもしれない。」
裏の扉に着いた。フローラは扉に手をかけた。
「わかった。貴方の言いたいことは分からないけれど、それだけ信用していることはわかった。きっとあのカジノの人なんでしょ。」
「うん。あの人はフール様。他の人も大好き。」
嬉しそうに言うベディを見てフローラは少し嬉しそうにした。
「そう。ここを開けたら見える小さな塔まで走って。そこにいるはずだから。」
「?、うん。」
「開けるよ。」
「うん!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここまでが二人の見てきたこの城の狂気。
あまりにグロテスクであまりに残酷で痛々しいものばかりを目の当たりにしてきた。
吹き抜けのらせん階段をあがってゆく。重い足を一つまた一つとあがってその先にあるのはまた扉。扉を開けるたびに惨状を見ている二人は息を飲みながら軋む扉を開ける。
「もう、お迎えが来ましたのね。」
開けた先にあったのは惨状ではなく、部屋だった。壁一面を漆喰で塗られた窓の光と十ほどのロウソクの光が部屋を照らしていた。
あまりにあっけないのもに二人は力が抜けた。
「あら?お迎えではなくて、お客様?とても可愛らしいお客様ね。こちらへいらっしゃい。」
中にいた赤い豪華なドレスを来た長い黒髪の女性が手招きをする。二人はわからず言うとうりに入ってゆき、ベッドの上に座らせられる。
「何か食べます??と言っても紅茶とクッキーくらいしかないのでリクエストに答えてあげられないのだけれど。」
そう言いながらお湯を沸かし始める女性。
「あの、」
ベディが勇気を出して言う。
「あなたは誰?」
女性は振り返り、ベディ達の前に立つとドレスの裾をつまみ上げて挨拶する。
「これは失礼致しました。私はエリザベートバートリ。この城の主人の娘であり、相続権第一位の長女になります。短い時間でしょうがどうかお見知り置きを。」
丁寧な挨拶に戸惑いつつも返す。
「は、はい。わ、私はベディ。」
「フローラ。」
「おふたりとも可愛らしいお名前ね。」
エリザベートと名乗った女性は優しくほほ笑みかける。
「エリザベート、、、さん。貴方はクララと呼ばれていた女性のお姉さん?」
エリザベートは笑って
「エリザベートとそんな呼び方しないでください。エリザでいいのです。」
「・・・。」
「嗚呼、そうでしたね。クララはわたしの妹ですよ。腹違いの、ですが。」
「腹違い??」
「はい。元々父は、、、この家はほとんどが近親婚で産まれていることによって権力を守ります。それと引き換えに彼らは身体的、精神的異常が多いんです。ですが、私は特例的なんです。」
「特例的?」
フローラが問いかける。
「私の母はほかの家から嫁いできた人間なんです。だから私は彼らのような異常はない。」
お湯がわけたのを確認するとお茶っ葉の入ったポットにお湯をいれてゆく。
「きっと、私の不幸はそこから始まっているのですね。」
ポットが満タンになった。
エリザは息を吸いながら上を向いて、大きく吐く。
「あなた達はここに来るまで様々な困難、狂気と残虐行為を見てきたと思います。」
フローラとベディを抱きしめた。強く。強く。
「良く、頑張りました。本当にあなた達はすごい。だから、``今すぐにでもここから出てゆきなさい。´ ´ 」
エリザの目には涙が溜まっていた。
「・・・」
ベディはその姿を見て誰にも気付かれない強い決心をした。
フローラは力強く
「はい。必ず出ます。」
そう答えた。
が、
「ここで何をしている。」
その声で全員の背筋が凍った。
「嗚呼、酷いじゃないか、この私がわざわざ、お前の死に目に出向いてやろうと思ったのに、逃げたモルモットを匿うだなんて。」
エリザは涙を流して言う。
「ここには、``モルモットなんて居ませんよ。´ ´ そして、モルモットでも、、、ドブネズミであったとしても、貴方のようにイタズラに殺す事は許せません。」
ジョセフは持っていた杖をカン!!とならして笑う。
「ふふふ、あはははははははは!!!あぁ、確かにそうかもな!!!ならば最後の慈悲としてモルモット共に選ばせてやろ!!」
いい遊びが思いつたようで面白おかしく笑い始めた。エリザは二人を後ろに下げ、窓の方に後退りする。
「驚きました。貴方、、、慈悲なんて単語知っていましたのね。」
ジョセフは楽しそうにベディとフローラを指さす。
「おい、モルモット共。お前達に選択肢をやろう。

お前らどちからかがどちらかを殺せ。

そうするれば殺した方は
助けてやろう。」
その言葉にエリザは激怒した。
「ふざけないでください!!どちらかを殺せだなんて、、、あんまりよ!!!」
エリザのことがウザったくなったのか、ジョセフは家来に命じてエリザを無理やり部屋から出した。
エリザが無意味な抵抗と、ジョセフを虐げる言葉は何かがぶつかる音と共に途中で聞こえたくなった。
「さぁ!お前達はどうする!!」
ジョセフが楽しそうに言う。
「ごめん」
「え?」
「やっぱりあんたの願い叶えてあげらんないや。」
フローラはベディの肩を掴んで窓に投げ出そうと渾身の力を入れる。
ベディはそのまま窓の縁に叩きつけられる。
ベディはあまり抵抗しなかった。けれど、
「っ、、、ぁ」
外に投げ出されたのはフローラだった。
空中で手を伸ばすが、、、何も掴めないままベディと塔が離れていくだけ。
スローモーションの中でベディが涙ながらに微笑んでいるのが見えた。
(違う。これがしたかったんじゃ、、、ない。)
後ろにいる男にベディが殴られようとするのをただ見ていることしか出来ない。
(ほんとに、違うから。)
「ベディ!!!!」
こだまする声は誰にも届かない。
ベディは親友の無事を祈り、振り返り殴られた。
そこでベディの記憶は途絶えた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
豪華な、シャンデリアの下。
王座から伸びる赤い長いカーペットの上で、口を縛られ、腕を後ろ手に縛られままひざまづいているエリザ。
「はぁい♥お姉様♥」
王座に座る妹、クララ。
クララをきつく睨みつけながらエリザは言う。
「クララ、何故こんなことをするの?美しさを求める気持ちはわかるわ。けれど、なんの罪も無い少女達を殺すの?」
クララは王座から立ち上がり、高いヒールでエリザを踏み付ける。
「あははは!可哀想なお姉様。悲しいお姉様!そんな簡単なこともわからないだなんて可哀想ですわ。ええ、良いですとも。そんな可哀想なお姉様におしえて差し上げますわ。」
しゃがんでエリザの顎を持ち上げた。
「若い女の血は美容に宜しくてよ?」
エリザは縛られている拳を握りしめた。
「本当に、それだけの理由なの?」
「ふふ、お父様は、、、実験や人をお食べになることに興味がおアリなようですがね。」
エリザは悔しかった。ほんの少しの期待と砂粒程度の望みが消えた。罪を擦り付けられても、マッドサイエンティストでも、人殺しでも、家族だから、、、味方でいたいと思った。愛したいと思った。けれど、もう出来ない。そして、見世物として殺される。悔しい。悔しくてしょうがない。
「う、うぅ、、、、そんな事って、、、」
そして、涙で濡れた視界で前を見れば鉄の女性が笑っている。
その視線に気づいたクララは楽しそうに、
「そうだ!お姉様に言わなくちゃね!!」
自慢しようと鉄の女性に近づいて手をかける。
「これ、お姉様専用に作らせたの。名前は、アイアン・メイデン。素敵でしょ?」
中を開け、無数の長い針を見せる。
「これを、機会で繋いで自動で閉めて貰えるようにしたのよ!とっても画期的ね!」
クララの楽しそうな声だけが響いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
愛して。愛して。私を愛して。
貴方に愛されたい。
拷問室で気絶しているベディに呼びかける女性。大きく纏った黒いローブのせいで顔も背格好も曖昧だ。ただ、ベディの耳元でつぶやく。
愛して。
悲しそうに。悲痛そうに。泣きながら。
愛して。
それしか言えないようにずっと呟く。
愛して。愛して。
涙を流して、呟く。
愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。
ベディが目覚める。
痛む後頭部を押さえながら当たりを見渡す。薄暗い部屋には恐ろしい拷問器具が並んでいた。拷問、と言うよりはただただ嫐だけの道具と言う方が正しいが、ベディはこれから起こることは予想がついた。
(やっぱり、、、か。)
何処が吹っ切れたようなベディ。
重いドアが軋む音ともに開かられる。
「おや?もう起きてたのか?」
ジョセフは普段どうりに言う。
「ええ。たった今。」
「それ残念。爪でも剥いで起こしてやろうと思ったのに。」
「貴方ならやりかねないわね。」
淡白に言うベディにジョセフは首をおった。
「なぜ、そんなに冷静なんだ?もっと叫ぶと思ったのに。」
「そう?だって、助けるとは言っても、``生きて出す´ ´ なんて一言も言ってないから。」
「私の事をよくわかっていますね。」
ジョセフはムチを持って、手に慣らすために二、三度壁にうちつける。
「たった今食事をしてきたばかりですので。食事の運動に付き合っていただきたい。」
「趣味の悪い運動ね。」
「ありがとう。」
ジョセフはそう言ってベディを鞭で叩き始める。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
鞭の雨が振る中でベディ髪に付いていたフールから貰ったヘヤピンが落ちた。
(あ、これ、もう一つ、、、あったのに。どこかで落としちゃったのかな?)
鞭で体にミミズバレを作りながら落ちたヘヤピンを拾おうと手を伸ばす。
ジョセフはそれがベディにとって大切なものだとわかり、近くにあったハンマーを投げた。見事に的中しヘヤピンはぐにゃりと曲がってしまった。
それでも拾い上げ、怪我をした小鳥のように大切に胸に握りしめる。ジョセフはその行動に苛立ちベディの長い薄茶色の髪を引っ張り、ブチブチと数本の髪が抜ける音を立てながらじっとりとした壁に叩きつける。
「なんだ?その趣味の悪い髪留めは。そんな気持ち悪いものが大事か。」
ベディはフール立ちに会う前のような目でジョセフを見上げると、
「あなたの趣味よりはずっと素敵なものよ。」
刹那。硬い革靴のそこがベディの細くて小さな肩に落とされた。
「がっ!!!」
あまりの苦しさに息が漏れてしまう。
「人が!優しく!してやってんのに!!何様だ!!モルモット風情が!調子に!!乗るな!!」
蹴りながらいう。ベディはそんな言葉はどうでも良くなっいた。こんなやつの言葉より、フールやライのよく頑張っね、と励ましてくれた声。
コールやヘルドレイドの頑張ってね、の声。
そちらの方がずっと、、、。
愛して。
後ろから抱きつかれる感触。いや、本当はそんな感触はない。感覚があるんだ。現に後ろは壁だ。人がいるはずなんてない。
愛して。愛して。
この声、、、どこかで聞いたことがある。
誰だっけ??すごく聞いたことがある。
愛して。愛して。
まぁ良いか。もういいや。どうでもいいや。なんでもいいや。
本当に??
いいよ。もう、どうでも。
力の抜けた手からこぼれおちた曲がったヘヤピン。
いや、ダメだ。ダメ。諦めちゃだめだ。
ベディがヘヤピンを拾うより先にジョセフの手がヘヤピンを奪う。
(ダメ。壊しちゃだめ。)
「ダメ!!!!」
ヘヤピンをゴウゴウとたかれている暖炉に投げ入れた。
「あ、、、」
最後の心が壊れたような気がした。
ジョセフは少しスッキリしたようだった。
また頭に激痛が走り、ふらつく。
「あ、、、ああああああああぁぁぁあああああぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!」
綺麗に並べてあった拷問道具を掻き分けながら瓶棚のをあさる。
「ない、ないない、ない、ないない、ない、ない、ない、ない、ない、ない、ない!!!!どこえやった!!お前が隠したんだろ!!何処だ!何処だよ!!今すぐいえ!!!」
怒鳴り散らしながらからの瓶を突き出す。あの瓶は元から何も入っていないただの空瓶。ジョセフの求める頭痛薬などこの部屋には最初から完備されてない。それをベディは知っていた。言うだけ無駄なのこと知っていた。
鞭を捨て、鉄棒でまた殴り始める。
今度はいたぶるためではなく、感情任せに力任せに殴る。
殴る。
殴る。殴る。
殴る。殴る。殴る。
殴る。殴る。殴る。殴る。
殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。
殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。
殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。
「なんでだ!なんでだ!!なんで治まらない!!!」
息を切らし始め、だんだん殴る力がなくなってきた。それでも痛いと子供のようになくジョセフにベディは冷たく言う。

「貴方の痛みは絶対に治らない。
だって、
貴方のその痛みは``嘘´ ´ だから。」

それは、ずっと言いたかったことで、フール達と接してきたことで見抜くことができたこと。
ジョセフの頭痛の嘘。
ジョセフが持っている精神的異常は身体的なものではなくて、``頭痛があるという錯覚´ ´ そのもの。
そして、ジョセフはそれを知っていた。``認識していた。´ ´ 
叫び声で掠れるのは錯覚する余裕が無くなるから。それをベディはあのカルテだらけの部屋で読んだ。
「違う。違う!!嘘じゃない!!俺は嘘なんてついてない!!痛いのは本当だ!!」
ジョセフは痛い所でもつかれたように必死に叫び散らす。けれど、ベディはその様子を見てより確信する。
「じゃあ、、、今なぜ頭痛がしないの?」
「!!」
ベディの鋭い視線にジョセフは言いを飲んだ。
自分がゴミにした少女が確実に自分を責め立てている状況に苛立ちと虫唾が走る。あまりに屈辱的で憎悪がふつふつと沸き上がる。
親指の爪を震えながら噛む。
「私は、、、貴方ほど可哀想な人を知らない。」
ベディの言葉で沸点に達した。
「黙れぇぇええええええぇぇえええええ!!」
手に持っていた、棒でまたベディを殴り付ける。頭だろうが顔もだろうが腕だろうが腹だろうが足だろうが関係なく、力一杯殴り付ける。
「・・・ぐ・・が・・・」
それでもその程度の声しかあげない。体なんて当の前から限界に達している。髪だってずっとボサボサになって前より痣だらけになって、それでもベディの口元は小さく笑っていた。
「なんで笑ってる!!」
ジョセフの子供のように言う姿に呆れを感じながら答える。
「フール様に、、、会えたから。」
「はぁ?」
ベディの答えに戸惑う。
「コール様にも会えて、ライ様にも会えて、ヘルドレイド様にも会えたことが嬉しい。
ベディは、あのカジノにほんの数ヶ月居れただけで、きっと世界一の幸せ者だった。」
ジョセフには呆れとため息が出た。殴っていた棒を捨て、どこからか出てきた電脳ドリル。
さすがのベディも身構えた。ジョセフはベディを足で踏み倒すと、ドリルに電源を入れ、無慈悲にベディの左ふくらはぎに落とす。
「ぐっ、あああああぁぁぁ!!」
回転するドリルは残酷にベディのふくらはぎをえぐる。ベディでも、味わったことの無い激痛が体を震わせる。脂汗をかきながら足を持ってうずくまる。痛みと出血で頭がボーっとしてそのまま動かなくなってしまった。
ドリルを持ち上げ、ベディの頭に狙いを定める。
ベディの唇がかすかに動いていることに気づいた。
「ん?」
声にもならない微かな息で、必死に夢魔たちの名前を呼んでいる。
「呆れた。ここまできてもそいつらを呼ぶか。どれほど呼んだところで、助けになど来ない。お前の夢だけで終わらせておけ。」
そう冷たく言うとジョセフは、ドリルをベディの頭に突き刺した。
・・・
・・・
・・・・。
ベディの体がドリルを刺した所から光る蝶となって消えてゆく。
「確かに、夢魔らしくベディの夢で終わったら理想的だなァ。」
その聞き慣れた皮肉口調。ジョセフからしたら前日に聞いた苛立つ声。
エメラルド、、、いや、それよりももう少し浅い緑の蝶が塊ベディともう一人の形になってゆく。
「お久しぶり、、、ではありませんね。昨日ぶりです。」
相変わらずの上辺口調。
暖かい感触と、聞き慣れた大好きな声で腕の中のベディは目覚めた。茶髪の短い髪がベディの額にかかる。痛みで動くけない身体の代わりに瞼をめいいっぱい開けて、上を見る。
「あ、、、ぅ、、、」
長い睫毛。ペリドットの瞳。
「遅れて悪かった。ベディ。」
ベディの額に口付けを落とす。
「いえ、、、う、いえ!ベディは、ベディは!嬉しいです!!フールさまぁ!!」
夢じゃない。現実にフールが助けに来てくれた。今の体の痛みがそれを証明している。
「帰るぞ。ベディ。」
「はい!!」
ベディの目からポロポロと大粒の涙が出てきて、今までの苦しみが一気に流され始める。
不意にムチの先が飛んできてベディとフールに触れる直前。
《ポイントカット》
ムチがバラバラになった。
「はぁ。感動の再会はいいが、もう少し状況を考えてくれ。」
タンザナイトの呆れた瞳がフールを見る。
「そんな事言うなよ。ガル。」
濃い緑の軍服。いくつかの胸元に光バッチを見てジョセフは顔面蒼白になる。
「て、帝国軍人。」
「お初にお目に掛かる。バートリエル卿。」
ガルは鯉口に刃を入れると、自分の後ろのドアをけた。
「おいおい。こんだけの死体の城を作り出したやつがこんなヘナチョコなのか??ガッカリだぜ。」
薄紫の三つ編みが現れる。けれど、ドアから出てきた訳ではなく、元から居たように拷問器具の置いてある棚にあぐらをかいていた。
「ふぁーまだかよ、お姫様の救出大作戦は。」
欠伸をしながらいうアルに、フールは得意げに言う。
「もう終わったよ。俺の、、、俺達のお姫様はもうここにいるからな。」
アルはうざったそうに
「あーあーハイハイ。惚気は聞いてねぇよ。」
ガルか静かに
「来たぞ。」
ドアの横に立つガルが一方ドアの先が見えやすいように一歩ずれる。
その先には宝石で彩られた赤いドレスが一つ。長い黒髪が揺れ、ジョセフと同じ赤い瞳がジョセフを見据える。
「私は、お父様と妹のクララを大量殺人罪で訴えます。よって、今この場より、私がバートリー家の当主となったことをここに宣言します!!」
そう堂々と宣言する隣には、濡れたフローラがたっていた。
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