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井戸の中の蛙は不幸でした。

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ベディが倒れて次の日になった。
大粒の汗をかきながらベッドにふしているベディ。その汗をコールは心配そうに拭う。
「ライ。ベディ、、、大丈夫?」
ライは存外素っ気なく答えた。
「大丈夫だよ。多分、今までの心労が祟ったんだと思う。安心と体の疲れが同時に起こったから、一気に爆発しちゃったんだと思う。」
「そっか。」
また、コールはベディの額を拭う。
「すごく。苦しそう。」
ライはベディを1度見て、
「ああ。」
そう言って視線を戻した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
フールが資料とにらめっこしている。
ヘルドレイドは資料の本を三冊ほど持ってきた。
「フール。大丈夫?」
「は?何でだよ。俺は別に心配されるようなことは無いぞ。」
資料から目を離さないフールの顔を掴み、ヘルドレイドは自分の方へ向けた。
「隈(くま)、できてる。昨日寝れてないでしょ。」
フールは顔を振って、手の拘束をはらう。
「別に。たまたま寝れなかっただけで、ベディが心配だったとかじゃないぞ。」
ヘルドレイドは得意げに口角を上げた。
「俺はベディなんて一言も言ってないぞ。」
「・・・うるせぇ。」
「じゃあ、寝れてないんだな。」
「はぁ、別に今に始まったことじゃない。元々!最近寝れてないだけだ。それとベディが重なっただけだよ。」
「素直になればいいじゃん。ベディのことが心配で心配でしょうがなかったって。」
「だーかーらー!!違うっての!!」
「違くないだろ。」
「違う!俺が、ベディを心配するなんて無いだろ!!」
フールが机を叩く。少し生きがい切れているようで、肩がかすかに動いていた。
ヘルドレイドは、静かにいう。
「あるんだよ。良いんだよ。心配して。お前は、人でもあるんだよ。」
「やめろ。俺は違う。ヘルドレイド、お前達とは違うんだよ。俺は、人として、、、」
「育てられてなくとも、血は流れてる。身体は同じで、心の形も同じで、脳の形も似てるんだよ。」
「・・・」
フールの肩を掴むヘルドレイド。その腕を掴むフールの手がギリギリとなる。
「フール。君はベディを見るべきだ。何で、向き合っているのに、、、手を取って、握っているのに、目を合わせない。ベディを見ない?!」
ヘルドレイドの言葉はフールを突き刺す。
「じゃあ、言わせてもらうが、お前だって俺のこと言えないだろ。」
「・・・。嗚呼。そうかもな。でも、言わなきゃ俺たちは逃げるだろ。」
ヘルドレイドの目が月光のように光る。それを見て、フールも猫のように光らせる。
「じゃあ言うが、俺らはなんだ?夢魔だろ。人の性を食い物にして、貪って捨てる。それが俺らだろ。お前だって思ってるだろ。本能的に!餌だと、思ってるだろ、、、!」
フールの言葉にベディの腕にかぶりついた自分の姿を思い出す。食欲のままに貪った自分に苛立ちが湧く。眉間に深くシワを作り、
「だとしても、、、向き合わなくちゃいけない。ベディを、見なくちゃいけない。俺はそう思う。ベディは、もう、俺たちに向き合ってるから。俺達もそうしなくちゃ、駄目だ。」
光る互いの目をぶつけ合う。
真水よりも澄んだ瞳が欲まみれた悪魔達を映しているのだ。ずっと。
見て、見て、見て、見て、見て、見て、見ているのだ。映しているのだ。
それがとても、自分たちには辛いのだ。あの澄んだ瞳に、汚れた自分が映るのが辛い。映さないように、目を塞ごうとすれば、その手が消えてしまうそうなほど清らかで美しい。傷だらけで、だからこそ綺麗で神々しささえ覚える心に触れたくなくて、目を背けてしまう。踏み込んで焼かれてしまう事が怖くて、そっと、握られた手でも振り払ってしまいたくなるほどに。
「向き合ったところでどうなる。何が変わる。俺が、ただただ化け物であることを自覚しろってのか!!」
「嗚呼、そうだ。」
「お前!」
フールがヘルドレイドの胸ぐらを掴む。
「ベディは俺達を受け入れるよ。」
「・・・
向き合うったって、どうすればいい。
俺は、向き合い方が、分からない。

ヘルドレイドの胸に頭を擦り寄せる。
その時、部屋のドアが叩かれ、ドアをへだてた向こうから女性の声がした。
「入ります。」
ドアが開くと、グレーテルと、もう一人、青緑髪のワイシャツをきた女性がたっていた。緑のリボンで結ばれたポニーテールの長い髪をなびかせながら入ってくる。
「久しぶりね。フール。」
フールは少し、ため息を吐いて、
「あぁ。久しぶり。セライラ。」
「何よ。元気がないじゃない。大丈夫?」
「別に。」
「あぁ。ベディちゃんの事?」
「まぁ。上に居るからさっさと見てきてくれよ。」
「随分衰弱してんのね。あんた。」
セライラが近づく。フールをじっと見て、ポツリも言った。
「あんた、禁術かなにかしたの??」
「はぁ?する訳ないだろ。」
「でも、なんて言うか、あんたの体に誤差みたいなのが見えるのよ。」
前髪で普段見えてない瞳を覗かせた。白い十字の瞳孔が琥珀の色彩に墨より黒い結膜がフールをより写し出した。
「誤差?」
「まぁいいわ。なにをしてようが、私には関係ないもの。」
「お前、、、」
「何よ。別に、頼まれたことを雑にやろうなんて思ってないわよ。」
「ならいいが、、、」
「ふふ。睡魔の睡魔、、、」
思いついたようで、ぼそりと言う。
「・・・これは、怒っていいやつか??」
「ご自由に。」
そう言って、部屋を出た。
(人をつまんないギャグにすんなー!!)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ベディの部屋のドアを開ける。
「あ。セライラ。おはよう。」
コールがベディのベッドの隣にすわっていた。
「ええおはよ。ライは?」
セライラに向けていた視線をベディに戻し、
「仕事。多分。ほかの。二人も。」
「貴方は?」
「僕は。遅く。まで。ない。から。」
「そう。」
セライラはそう言うと、苦しみながら唸る、ベディの額に手を乗せた。
「魔法的なものじゃないわ。ライが言ってた通りよ。」
「そう。」
「思ってたけど、みんな随分、この子にご執心なのね。女の子だからかしら?夢魔の本能的に守っちゃうとか?」
問いかけるセライラにコールは小さく言う。
「わかんない。」
「・・・」
「僕は、ベディを苦しめてるのかな。」
客に接客くする時のように流暢(りゅうちょう)に言う。セライラは驚いた。なぜなら、コールがこのように喋ることはコール本人にとってだいぶ負担になってしまうからだ。だからいつもは人単語ごとに切って話すようにしていることをセライラは知っている。
「・・・さぁ。あなた達のこの子に対する普段の振る舞いを知らないからあまり言えないけど、こうやって心配しているのを見る限り、苦しめてはないと思うわよ。」
コールはまた少し黙り込んで、
「違う。僕らが。ベディを。幸せに。しちゃ。ダメ。」
先程からコールからこぼれる言葉に戸惑いを隠せないセライラ。
「は?どういう事よ。」
「そのまま。」
淡白に答えられてしまい、頭を抱えそうになる。
「幸せって悪いことじゃないでしょ。」
「うん。でも。突然。闇が。消えれば。寝れない。」
何を言ってるからさっぱり分からず、だから、と言葉を出そうとするがコールは許さなかった。
「僕は。逆を。よく知ってる。忘れたけど。」
セライラは口を噤んた。コールの言葉の重みは軽々しく言葉だけで遮っては行けないと思った。
「セライラ。」
「何。」
「ベディ、元気に。なる?」
「なるわ。このままだったらすぐにね。」
「そう。良かった。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
井戸の中の蛙は幸せでした。
自分を苦しめるものがいなかったからです。
井戸の中の蛙は幸せでした。
命をに執拗な水があったからです。
井戸の中の蛙は幸せでした。
一人ぼっちだからです。
井戸の中の蛙は幸せでした。
くらいくらい水の中では傷がつかなかったからです。
井戸の中の蛙は幸せでした。
光る空から降る声は楽しそうでした。
井戸の中の蛙は幸せでした。
光の中から時たま落ちる石に傷つきました。
井戸の中の蛙は幸せでした。
木の枝が刺さりました。
井戸の中の蛙は幸せでした。
外に出ようと這い上がります。
井戸の中の蛙は幸せでした。
 足を滑られせて落ちてしまいました。
井戸の中の蛙は幸せでした。
手を滑らせて落ちてしまいました。
井戸の中の蛙は幸せでした。
また手を滑らせて落ちてしまいました。
井戸の中の蛙は幸せでした。
あと少しの所で足を滑らせてしまいました。
井戸の中の蛙は幸せでした。
気付きました。出ようとすればするほど傷が大きくなっていることに。
井戸の中の蛙は幸せでした。
それでも、光の先が見たかったのです。
井戸の中の蛙は幸せでした。
フラフラの手が外れて落ちてしまいました。
井戸の中の蛙は幸せでした。
蛙は空に手を伸ばしました。
井戸の中の蛙は幸せでした。
何かを掴むことがありません。
井戸の中の蛙は死んでしまいました。

本を閉じて、しなやかな指が表紙に置かれる。
ガーネットの瞳が´ ´ 私``を見る。
「君はどう思う?」
長い髪の女性が問いかける。
「何も。」
「おや。だいぶ淡白な答えだね。」
私と同じ髪型をした彼女は、見えないテーブルか何かにほうづえをつきながら答えた。真っ暗で何も無い所に私と彼女だけがいる状態で、それ以外は何があるのか分からない。
「君はいつだって淡白だ。冷酷。嘘つき。憎しみ屋。愚か者。本当に救いようがない。」
呆れるように続けた。私は睨むことも無く、ただただ彼女を見ていた。
「・・・」
「本当に。君は傲慢だ。」
「そうですか。」
「彼ら以外は本当に興味が無いんだね。ふふ、それゆえの傲慢か。執着か。面白い。」
「執着であっても、傲慢出会っても、どちらでも構わない。あの方々のおそばにいれるなら。」
噛み合ってるのかあっていないのか分からない会話が広げられる。
「くく。そこまで言われると清々しい。夢魔共の魅了はそこまで強いの?上級の魅了はここまで行くと依存ね。」
「私は、」
ケラケラ笑う女性に私は言う。
「私は、みな様の固い手が好きです。細い指先が好きです。抱き締める腕が好きです。飛び込んだ時に聞こえる鼓動が好きです。細くてたくましい足が好きです。たくましい背中が好きです。優しく微笑んでくれる口が好きです。宝石の様な瞳が好きです。硬い髪も好きです。花みたいな香りも好きです。」
「あーもうわかった。わかった。私は惚気を聞きに来たんじゃないの。」
彼女はうんざりしたように言った。ほうづえをやめ、足を組み、自分の手と手を絡めた。
「私は、いつまでだって言えますよ?大好きですから。」
私の言葉に呆れたように彼女は笑う。
「強気だねぇ。先程の依存という言葉を取り消すよ。これは狂信だ。今の君の顔、彼らが見たらどう思うだろうねぇ?」
含みのある言い方に私は睨んだ。
「おー怖い怖い。ホントに今の君が彼らが見れば、目を疑うだろねぇ。はは!見物だよ。」
「うるさい。」
彼女の声がうるさく響いた。私は苛立ちを隠せない。それがわかっているように鎌をかけてくる。
「なぁ、君はどうしてここにいるか思わないのか?」
「思う。でも、教えてくれなさそう。」
「心外!あのねぇ、私は君をいじめるためにここにいるわけじゃないんだよ?!ちゃんとした役目が、、、」
「なら、教えて。私はどうして、ベディはどうしてここにいるの。」
自分の思う限り、力一杯に睨みつける。
「ふふ。君は干渉しすぎたんだよ。」
(ようやく感情が見えてきた。やはり、執着が根源。)
「干渉?何に?」
「運命に。記憶が朧気のくせに良くもまぁ死を回避したよ。」
そう言って彼女はぱちぱちと手を叩く。
「でもね、前にも言ったけど、君は運命に干渉しすぎたんだ。ここまで出来たのは魔女以外では君が初めてだよ!私はそれが嬉しくてつい、ここに来ちゃった。てへぺろ。」
突然ふざけ始める彼女に一松の苛立ちを感じた。
(落ち着け、ベディ。そう。大丈夫。怒りという感情はほぼ無いはず。)
「つまり、今までの会話は全て雑談だったと。」
「いや、そういう訳じゃないよ。全然無駄じゃないよ。今の君には大事な事だ。前回はこうは行かなかったからね。」
「?。何を言ってるのかさっぱり分かりません。」
「そうだろうね。
でも、
過去の君が選んだ事だから。
助けたいだろ?
彼ら四体の夢魔を。」
その言葉で自分が奮い立つのがわかった。
「はい。出来るのなら。」
彼女は静かに笑う。ずっと笑みは耐えてなかったが、ふざけた笑いではなく、貫禄のあるように思えた。
「それなら良かった。条件クリア。」
彼女は立ち上がると、私の頭に手を置き、撫でた。
「何でしょうか。」
「うーん?私の御加護とやらをあげようと思って。干渉するたびにこんだけ体力消耗してちゃ、持たないでしょー?」
(まぁ。リリスの力があるからヘーキな気もするけどいちおね~一応。)
「世界に夜を招くもの。他者を憎ませ、悪戯に愛を奪う。我こそ神よりも尊き者。我が名はミルラ。絶望の魔女の名においてこの者の加護をここに宣言する!」
その言葉が終わった瞬間、私の体を無数の糸が掴んで引き戻される。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「う、ん、、、?」
腹部の辺りに重みを感じて意識が芽生える。
薄く片目を開けると、見慣れた茶髪がベディの上に乗っていた。
「フール、、、様?」
気持ちよさそうに眠っている顔が月にに照らされ、白い肌が光っているように見えた。
「目が覚めた?」
ドアの方から優しく声をかけられる。声の方を見ると、青緑色の髪の女性がどこか不機嫌そうに聞いてきた。ベディは小さく「はい」と答えると、
「そう。それは良かったわね。」
「えっと、貴方は??」
ベディがそう聞くと、カツカツとヒールの音を響かせて近づく。そばにあった椅子に座ると、
「私はセライラ。朝星の魔女。で、こいつのビジネスパートナー。」
フールを親指出さしながら、言う。月明かりでようやくぼんやりとしか見えなかった姿が見えた。片目の隠れた髪型にポニーテール。肘までまくったワイシャツにループネクタイ。紺色の膝下スカートから伸びているのは黒タイツ。先程鳴らしていた薄赤いヒール。なんというか、前日?に対じた魔女に比べたら魔女らしくない格好をしている。
「よ、よろしくお願いします。」
「あんた、よくここにいるわね。」
「え?」
「夢魔に対する恐怖心が無いからかもだけど、逃げ出すもんよ。普通。」
「こ、ここを出ても。帰る場所はありませんから。」
「ふうん。それだけ?」
「べ、ベディは、元々、殺されて、捨てられる。ゴミだったので。今、こうして生きてるだけで、、、本当に幸せなんです。」
「ふうん。なるほどね。」
なにか納得したように頷くと、フールの頭を掴んで、
「この、ヘタレバカインチキネチネチ野郎があんたにとっての救世主っわけね。ウケる。」
「・・・」
「あんたは思わないわけ?自分が勝手に救世主にしてるとか。相手の負担になるとか。思わないわけ?拾ってもらって、ただ心配かけて、働いてればいいなんて、甘い考えしてないでしょうね?笑いもしないあんたをここに置いてるのはこいつらの気まぐれ。意味なんて無いわ。」
ベディは少し考え込む。
先程の夢なのか現実なのか分からない世界で魔女と話したことと似た嫌味を言われている。なんというか、言い方が似ているだけで、言っている言葉全然違う。ただ、ベディの中ではものすごく。腹立たしく感じた。
(あの人とあった記憶を消したいな。夢ならさっさと忘れてくれればいいのに。)
眉間に深くシワを作り、目の下の筋肉が上にひきつられるのを感じる。セライラは、少し引いた。
「あんた、、、すごい顔してるよ。どうしたの?」
「いえ、別に。なんでもないですよ。」
「そ、そう?」
ベディは仕切り直すように口を開いた。
「ベディは、ご主人様達が苦しむのなら、今からでもここから出てきいますよ。」
その言葉にフールがぴくりと動いた。
「ご主人様がここに居ていいと言っても、私が悪の根源になるのならば。直ちにここから立ち去り、ご主人様の知らない所で勝手に死にます。」
ベディの腹に腕を組んで突っ伏していたフールの目が腕の中でパッチリ開いていた。
「ベディがベディでいることでご主人様が苦しむのなら、ベディは、迷わすベディであることを辞めます。それすらに興味がなくなっても、ベディは世界一の幸せ者です。コレが狂信ならそらで構いません。」
セライラはゾッとした。今、セライラの視界を閉めているのは、部屋と、月明かりと、ベッドと、幸せそうに笑った、ベディなのだ。
騎士にもに似た忠義を彼女は幸せととることが出来たのだ。
「そう。なら、好きにすれば。」
フールの頭から手を離し、立ち上がる。ドアノブに手をかけた所で動きをとめた。
「あんたの事を餌としてしか見てないわよ。彼奴ら。人間だなんて一切思ってない。その証拠にあんたのその狂気に誰も気がついてない。名前をつけたのだってわかりやすい記号をつけたかったからかもしれない。やがては食い殺されるのが目に見えてる。それでもいいの?」
ドアノブを握った手に力が入る。セライラは振り返った先のベディは、スヤスヤと寝ていた。 
セライラは力が抜けたようで、そのまま出ていった。
取り残されたフールは顔を上げ寝入ったベディの手を握った。傷だらけの小さな手は確実に自分とは違う脈を打っていて、
(暖かい。)
どうしようもなく、愛しく感じた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(なぜ、彼女は狂信といったの?)
セライラは長く続くカジノの廊下をヒールを響かせて歩く。
一歩一歩、歩く度になびく青緑の髪が少ない光に照らされて光を放つ。
(いや、そんな事はどうでもいいか。言葉なんてものはどうにでもなる。けれど、けれど!何故、母と似た魔力を感じるの?!)
セライラは混乱しながらも、カジノルームを横切っえ出ていった。発展途上で廃れた街を夜闇の中歩いてゆく。
(彼女は、ベディは!夢の中で母とあっている?いや、違う。ならば私がすぐに分かる。あっていないのに、ベディは魔力を持ってる??)
セライラは頭をぐるぐると回転させるが、一向に答えにたどり着かない。所か謎が深まってくばかり。
セライラはピタリと立ち止まって、息を大きく吸う。
(今、考える事じゃない。落ち着きなさい。)
いつの間にか着いていた大通りを歩く。
暗闇から一歩出ると人通りがあり、近代的な街が当たりを照らしている。服屋も、ガス灯も、レストランも、薬屋も立ち並ぶここはある意味夢の街なのだ。
ストリートを抜けて、また、人気のない通りに出る。
(ベディに着いて考えるなら、彼女の純粋さなのかしら?)
小さな丘を上がって洒落た店に入る。
カランコロン。
安らぎをあたえる鈴の音を鳴らしながら入った先には、亜麻色髪の少女がいた。ほそい紺のリボンをつけた少女は
「いらっしゃいませ~。」
と振り返る。入ってきた人物がセライラと気づくと嬉しそうにほころばせた。
「あ!おかえりなさい!セライラさん!」
「ただいま。」
にっこり笑って返す。
「お茶入れますから、手を洗ってきてください。」
「ハイハイ。」
店の奥に入って、洗面所に向かった。リビングに入ると、アンティークソファーに腰掛ける。大理石のテーブルにコトリと紅茶が置かれた。
「ああ、ありがとう。」
「随分お疲れですね。何かありました?」
「うーんあるようで~な~い~」
紅茶をすすり、伸びをする。先程とは違う、気の抜けた声を出す。少女はくすくす笑って、
「なんですか、それ。」
「うーん。あ、そうだそうだ。」
ひとりがけソファーに座り、自分の紅茶を飲む少女にセライラが思いつたように言う。
「あんた、前の施設のやつ以外に友達いんの?」
その言葉が刺さったのか、グッと胸を抑える。
「い、居ませんよ、、、ソレガ、ナニカ。」
「いやぁ?ちょっと、仲良くなって欲しい奴がいてね?」
少女はすこしいやな顔をして、
「何ですか?凄くやな予感がするんですが。」
セライラは笑って、
「なぁに。そんな身構えることは無いわ。」
体勢を変えて言う。
「ちょっとカジノの女の子と、仲良くなって。一人、、、あ、もと、一人ぼっちの少女なんだけどね~。あんたと同じ感じなのよ。」
「私と同じ??」
少女は首を傾げる。
「純粋なのよ。」
セライラはヒールを脱いでソファーに足を伸ばす。
「純粋すぎて、真水みたい。」
足元のクッションを抱きしめて、どこかうわごとのように言う。
「真水は、、、飲めても、その中で生き物を生活させることは出ない。」
「セライラさん?」
「あんたも、きっとそうなのよね。」
「えっと、」
「だから、苦しむんだろね。あんた達。その純粋さは、天際すらも見えてしまう。そんな無邪気が一番の悪なのかもね。」
少女は目をクリンと、させ、セライラを見つめる。
「でも、其れが´ ´ 子供``なのよね。
子供同士でないと分からない事の方が多い。
だからあの子と仲良くなって欲しいのよ。私はあの子を監視できるし、貴方は友達が増えて、一石二鳥でしょ?」
少女は眉をひそめつつも、承諾として頷く。
「一石二鳥では、無いですけど、、、分かりました。お引き受けはします。そもそも、私はセライラさんの所に居候してる身。出来ることならしますよ。」
「そう。なら良かった。」
少女は空になったティーカップを置き、皿ごと拾い上げる。
「じゃあ、私は絵の仕上げに入ってきますね。」
セライラは片手を振る。
「ええ。頑張って。詳細は後日教えるわ。
仲良くなれるといいわね。

エレイン。

頑張って。」
エレインは亜麻色の長い髪をなびかせて、振り返って楽しそうに微笑んだ。
「はい!!」
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