【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが

輝石玲

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都市伝説のララの町!

89.光成とヒカル

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 んっ……あれ?俺、みつ兄と寝てるはずだよな?なんだこの真っ暗な場所。体がフワフワして感覚が曖昧だ。

 でも不思議だな、真っ暗なのに俺の手は明るく見える。なんだか真っ暗じゃなくて真っ黒みたいな場所だ。
 なんでこんなとこで立ちつくしてるんだろう。


 とんとん


「誰っ!?」


 後ろから肩を叩かれて振り向いたけど、誰もいない。な、何このホラー展開…?


 つんつん


「うわぁっ!?」


 今度は背中をつんつんされた!え、やっぱり誰かいる?見えない何か…ゆ、幽霊とか……?まぁ、ゲームの世界だしいてもおかしく無いけどさ。


「ばあっ!」

「うわあぁっ!?」


 大きな声と共に後ろから抱きつかれた。い、いったい誰!?って……え、俺………?

 俺とそっくりだけど幼く笑う、血の匂いがする少年。

「こーくん、やっと会えたね!ヒカルはね、ヒカルって言うんだ!」
「ひ、ひかる…?」
「うん!ミツルくんが付けてくれた名前!」

 みつ兄が!?え、なに、どういうこと!?俺とそっくりどころか生き写しで、みつ兄がこの子に名前を付けて、俺のことを知ってる…!?



 俺が困惑してる間に『ヒカル』と名乗った少年はめっちゃ頬擦りをしてきた。悪いやつじゃ…無いんだよな?血の匂いするけど。

「こーくん♡こーくん♡」

 俺にそっくりな姿でみつ兄みたいに呼ばれるの、すっごい違和感。
 で、ここはどこ!ヒカルって誰!ヒカル…『光』?光成おれにも光流みつにいにも入ってる漢字だけど、みつ兄がそう名付けたってことなら俺たちと無関係では無いんだろうな。いやそもそも同じ姿な時点で他人事では無いか。

「えーっと、ヒカル…?」
「なぁに?」
「君は何?ここはどこ!?」
「確かに!ここどこ?」

 嘘だろ……勘弁してくれ……。二人揃って迷子?その前に出口とか道あるのか?このまま戻れないとか無いよな?

「んー…心の世界とかじゃない?たぶん」
「なんだそれ」
「だってヒカルはこーくんから出れないし。いつもヒカルが寝てるとこにこーくんが来たのかも」

 え???

「ヒカルは起きたらこーくんの体使ってるから、寝てる間のこと分かんないんだよね」
「俺は君が何を言ってるのか分かんないんだよね…」
「んー、ヒカル、説明ってニガテなんだよなぁ。言葉もこないだから少しずつ分かるようになってったし」

 俺と同じ姿だけど俺より幼く見えるのは、記憶とか知識が少ないからなのかな。起きたら俺の体使ってるって言ってるし…ん?もしかして知らないうちに体乗っ取られてた?
 待てよ?同じ姿、少ない知識、血の匂い、心の世界……いやまさかそんな漫画やアニメみたいな…ってここゲームの世界だった。異世界に来てる時点で何があり得ないとか分からないんだった。
 え、でも、そういうこと?

 ヒカルは…俺の別人格、みたいな……?

 いやいやいや流石にそんな厨二病みたいな…嘘だろ?
 え、じゃあ人を殺したり戦ったりする感覚が分かるのって、ヒカルが俺の体で人を殺してた、とか?いやいやいやまさかそんな

「ヒカル、殺人鬼ってやつらしいよ」
「まさかそんな嘘だろ…」
「ホントだよ。そうだ、記憶の…キョユウ?してみる?」

 それ、たぶん『共有』じゃないか?っていうか、記憶の共有ができるなら別人格の意味は!?
 でも、俺の意識じゃなくても俺がしたことは知らないと。俺とヒカルは同じ体なんだから、ヒカルが誰かを殺したのなら俺の手が血に染まってる。誰かを殺したことを『知らなかった』『俺じゃ無い』で済ませられない。

 俺はヒカルに頷いた。




 ……で、記憶の共有をするのになんで俺はヒカルに抱きつかれてキスして舌まで入れられてるんだ?自分の顔だからすっごく違和感っていうか、少し不快感。

 あ、でも目を閉じるとぼんやりと何か見えてきた。いろんな人を傷つける感覚、肉を裂く手の感覚、むせかえる血の匂い、目の前に広がる赤、耳をつんざく悲鳴、悲鳴も無く息絶える小さな嗚咽。
 ヒカルはこんなものを見て、感じてきたのか。……俺の代わりに。

 しばらくして唇が離れる頃には酷い疲労感があった。ヒカルのしたことを一瞬で経験したからだろうか。

「ぷはぁっ!急にごめんね?出来る限り触れないといけなかったから…」
「キスの必要は?」
「一応、口の中は体内って判定だから、一番脳に近いんだ。流石に眼球はくっつけられないでしょ?」

 な、なるほど?つまり粘膜に触れないといけなかったってことか。いや、先に言ってくれよ!めっちゃビックリした!




 でもヒカルには感謝しないとな。俺がかみつぐの世界に来てすぐ人を殺した時、流石に初めての殺人だったら酷い罪悪感と嫌悪感を感じた。ヒカルはそれを何度も経験して、それでも後悔はしなかった。
 俺はもう大切な人のために誰かを殺すことに抵抗は無い。だからこそヒカルの記憶を受け入れられるのだろう。俺に何の覚悟も無い時にこんなことを知れば、俺の心は本当に修復できないくらいに壊れてたかも知れない。




 さて、たぶんヒカルの方にも俺の記憶は行ったと思うけど…これからどうなるんだ?
 俺の体は俺のものだ。でも、ヒカルは俺のカケラで、この体はヒカルのものでもある。かと言って人格が入れ替わることを当たり前にするわけにもいかないだろう。

「ヒカル、お前はこれからどうする?」
「そりゃあ、消えたく無いからここにいるよ。こーくんもヒカルに消えて欲しく無いでしょ?」
「まぁな。なら、また会いに来る」
「うん。夢の中で待ってるね」

 そう言ってヒカルは俺の頬を撫でて額を合わせた。本当に俺のこと大好きだな。話すのはこれが初めてなのに。
 でも、満足そうにしてるならこれで良かったのかも知れない。


 正直ヒカルの存在が本当か、夢を見てるだけなのか分からない。目を覚ましたらみつ兄に確認するしか無いだろう。でも俺は本当に『ヒカル』という少年がいると思う。なんとなく、だけど。


 それじゃあ、またな。ヒカル。
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