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都市伝説のララの町!
78.霧の先の大きな花畑
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まだ日が出る前に目が覚めた。流石に暗いし早いかな?なんて思ってたけど、既に起きてたのは俺だけじゃなかった。
「よぉ、随分と早起きじゃねぇか」
「メリスト、もう起きてたんだ」
起きるどころか準備まで終えて布団に座るメリスト。特に何かしてたわけじゃ無いみたいだし、ちょうど準備が終わったところなのかも。
メリストに手招かれるまま近くに行くと、そのまま胡座をかいたメリストの脚に座らされた。そしてそのまま俺の髪を櫛で整え始めた。何してるんだろう。
「お前、髪伸びて来たな」
「メリストに会ってから一度も切ってないからな。前に切ったのも、もう2ヶ月くらい前か?」
「そりゃあ長ぇわけだ。目的地に無事に着けたら切ってやるぜ」
えぇ…ぐちゃぐちゃにならない?なんて心配そうな顔をしてたら、メリストは自分の髪も自分で切ってるって言った。器用すぎると言うか、本当になんでも出来るんだなってちょっと怖くなって来た。
人に心配掛けたりデリカシーの無いことをしたりっていう性格面で完璧さが濁されてる感じだ。でもまぁ、そんなとこもメリストの良いとこだよな。
ブラッシングされた後、着替えてたら丁度ガルさんとみつ兄の順番で残りの人たちも起きた。
「二人とも早くねぇか?」
「うぅん………おはよぉございまぁ………」
起きて早々驚くガルさんと、声から半分寝てるなと分かるみつ兄。なんだろうこの感じ…あ、あれだ。修学旅行でアラームが鳴る前にみんな起き始めるやつだ。
「二人ともおはよう。ほらみつ兄、起きて」
「おきてぅよ………」
「口回って無いじゃん」
「うぅ………」
寝起きでぽやってるみつ兄の着替えを手伝いながら起こした。途中から少しずつ意識がハッキリして、全部の準備が整った頃にはしっかり目が覚めたみたいだ。
良くしてもらった(?)カノンの村の人たちには悪いけど、挨拶も無しにさっさと次の目的地に向かわないと。ララの町までの森は霧が深くてどれくらいの時間で到達できるかも分からないから。
宿泊施設を出て、村の奥にある重たい扉をスルーして、本来の森への入り口からララの町に向かった。バカみたいに重たい扉は開けるだけで時間を取られるけど、実は壁伝に歩けば人ひとり通れる通路があるんだよな。ここからまっすぐ進めば森の中。あとは方角を見失わないように目的地まで歩く。
通路を抜けて霧の深い森の中。ここからコンパスは使えない。でも、見えづらくても実は道が出来ている。
木が密集してるところはハズレで、木と木の間が開いてるとこが道。霧のせいで分かりづらいけどちゃんとルートはしっかりしてる。
「わっかりづれぇなぁー…、本当に行けんのか?」
「道なりに行けば行けるはず。ただ、気を抜いた瞬間どこから来たか分からなくなるから、気をつけて進もう」
メリストの心配ももっともだが、行く方向につま先を向けて変えないように気を付けて慎重に進むしか無い。
ガルさんの鼻も霧のせいか効かないみたいで、視覚で道を確認する他無い。今更怖くなって来たけど、ここまで来たなら引き返せない。大丈夫、大丈夫……
「こう君、大丈夫だよ。兄さんが側にいるからね」
そう言って俺の手を握るみつ兄。手から伝わる温もりのおかげで緊張が解け、感覚が一層鋭くなった。恐怖で見えなかったものが見えるようになって、自分のいる位置も大体分かった。
「…ありがとう、みつ兄。凄く心強い」
「うん、一緒に頑張ろっ」
そのまま手を繋いで少しずつ着実に進んだ。
霧のせいか体が冷えて来た。何も変わらない見えづらい景色のせいで残りの距離も分からないけど、既にみつ兄の手は凍えて震えている。低体温症になる前にたどり着けるといいんだけど…今はどこだ?
ちりん…………
え?鈴の音?この音が聞こえるってことは、もしかして………
シャンッ…………!
音が近い。やっぱりここは…………!
シャンッ…!シャンッ…!シャンッ…………!
「………着い、た」
鈴の音の方へ歩いて見えたのは、霧が急激に晴れて姿を現した花畑。それも普通じゃ無くて、ひとつひとつの花が普通より大きい。何より目を引くのは紅白の桜の大樹。遠目で見てもかなり大きいのが分かる。それも、町一つ分。
そう、ララの町はこの桜の木の中にある町だ。けど、その事はまだ言っていない。そう、三人にとってここは大きな花畑であって町には見えない。
「綺麗………」
その言葉だけ溢して動けなくなったみつ兄。
「こんな場所があったとは………」
異様な光景に驚き一歩引いたガルさん。
「ま、じか…予想以上どころじゃねぇぞ………」
体を震わせ笑うメリスト。
三人ともこの光景に見惚れて動けなくなっている。ただ、ゲームで見たことある俺すら圧倒されて動けなくなるとは思わなかった。
くるくると舞う花びら、自分たちが小さくなったんじゃ無いかと思うほど大きな花、風さえ蛍の群れのように光り輝いている。なんだっけ、こういうの。極楽浄土?あれ、俺たち死んだ?
………ってくらいには現実味が無い。いやまぁファンタジー世界に現実味も何も無いけど、それでもこの世界に慣れつつあったのにここだけ別世界のようだ。
“久方ぶりの来訪者よ。汝、来訪の目的と誠意を見せよ”
突然の突風と共に訪れた人じゃ無いなにか。薄黄色に薄く光る一糸纏わぬ無性の体、光に溶けたような白く長い髪、白目と黒目が同化した薄紅の目、ガルさんよりも大きな背丈、脳に響く声。
ーー精霊だ。
見惚れている場合じゃ無い。ここからが正念場だ。嘘を吐かず、自分たちの無害を主張する。そしてララの町に住まうことを許してもらう。正直、確実に認めてもらえる保証なんて無い。失敗すれば、良くて追い出され悪くて殺される。
怖いけど、俺たちならきっと大丈夫。そう思って行くしかない。みつ兄に見せたいものだってまだたくさんあるんだ。
緊張するけど、ここからが本番だ。
「よぉ、随分と早起きじゃねぇか」
「メリスト、もう起きてたんだ」
起きるどころか準備まで終えて布団に座るメリスト。特に何かしてたわけじゃ無いみたいだし、ちょうど準備が終わったところなのかも。
メリストに手招かれるまま近くに行くと、そのまま胡座をかいたメリストの脚に座らされた。そしてそのまま俺の髪を櫛で整え始めた。何してるんだろう。
「お前、髪伸びて来たな」
「メリストに会ってから一度も切ってないからな。前に切ったのも、もう2ヶ月くらい前か?」
「そりゃあ長ぇわけだ。目的地に無事に着けたら切ってやるぜ」
えぇ…ぐちゃぐちゃにならない?なんて心配そうな顔をしてたら、メリストは自分の髪も自分で切ってるって言った。器用すぎると言うか、本当になんでも出来るんだなってちょっと怖くなって来た。
人に心配掛けたりデリカシーの無いことをしたりっていう性格面で完璧さが濁されてる感じだ。でもまぁ、そんなとこもメリストの良いとこだよな。
ブラッシングされた後、着替えてたら丁度ガルさんとみつ兄の順番で残りの人たちも起きた。
「二人とも早くねぇか?」
「うぅん………おはよぉございまぁ………」
起きて早々驚くガルさんと、声から半分寝てるなと分かるみつ兄。なんだろうこの感じ…あ、あれだ。修学旅行でアラームが鳴る前にみんな起き始めるやつだ。
「二人ともおはよう。ほらみつ兄、起きて」
「おきてぅよ………」
「口回って無いじゃん」
「うぅ………」
寝起きでぽやってるみつ兄の着替えを手伝いながら起こした。途中から少しずつ意識がハッキリして、全部の準備が整った頃にはしっかり目が覚めたみたいだ。
良くしてもらった(?)カノンの村の人たちには悪いけど、挨拶も無しにさっさと次の目的地に向かわないと。ララの町までの森は霧が深くてどれくらいの時間で到達できるかも分からないから。
宿泊施設を出て、村の奥にある重たい扉をスルーして、本来の森への入り口からララの町に向かった。バカみたいに重たい扉は開けるだけで時間を取られるけど、実は壁伝に歩けば人ひとり通れる通路があるんだよな。ここからまっすぐ進めば森の中。あとは方角を見失わないように目的地まで歩く。
通路を抜けて霧の深い森の中。ここからコンパスは使えない。でも、見えづらくても実は道が出来ている。
木が密集してるところはハズレで、木と木の間が開いてるとこが道。霧のせいで分かりづらいけどちゃんとルートはしっかりしてる。
「わっかりづれぇなぁー…、本当に行けんのか?」
「道なりに行けば行けるはず。ただ、気を抜いた瞬間どこから来たか分からなくなるから、気をつけて進もう」
メリストの心配ももっともだが、行く方向につま先を向けて変えないように気を付けて慎重に進むしか無い。
ガルさんの鼻も霧のせいか効かないみたいで、視覚で道を確認する他無い。今更怖くなって来たけど、ここまで来たなら引き返せない。大丈夫、大丈夫……
「こう君、大丈夫だよ。兄さんが側にいるからね」
そう言って俺の手を握るみつ兄。手から伝わる温もりのおかげで緊張が解け、感覚が一層鋭くなった。恐怖で見えなかったものが見えるようになって、自分のいる位置も大体分かった。
「…ありがとう、みつ兄。凄く心強い」
「うん、一緒に頑張ろっ」
そのまま手を繋いで少しずつ着実に進んだ。
霧のせいか体が冷えて来た。何も変わらない見えづらい景色のせいで残りの距離も分からないけど、既にみつ兄の手は凍えて震えている。低体温症になる前にたどり着けるといいんだけど…今はどこだ?
ちりん…………
え?鈴の音?この音が聞こえるってことは、もしかして………
シャンッ…………!
音が近い。やっぱりここは…………!
シャンッ…!シャンッ…!シャンッ…………!
「………着い、た」
鈴の音の方へ歩いて見えたのは、霧が急激に晴れて姿を現した花畑。それも普通じゃ無くて、ひとつひとつの花が普通より大きい。何より目を引くのは紅白の桜の大樹。遠目で見てもかなり大きいのが分かる。それも、町一つ分。
そう、ララの町はこの桜の木の中にある町だ。けど、その事はまだ言っていない。そう、三人にとってここは大きな花畑であって町には見えない。
「綺麗………」
その言葉だけ溢して動けなくなったみつ兄。
「こんな場所があったとは………」
異様な光景に驚き一歩引いたガルさん。
「ま、じか…予想以上どころじゃねぇぞ………」
体を震わせ笑うメリスト。
三人ともこの光景に見惚れて動けなくなっている。ただ、ゲームで見たことある俺すら圧倒されて動けなくなるとは思わなかった。
くるくると舞う花びら、自分たちが小さくなったんじゃ無いかと思うほど大きな花、風さえ蛍の群れのように光り輝いている。なんだっけ、こういうの。極楽浄土?あれ、俺たち死んだ?
………ってくらいには現実味が無い。いやまぁファンタジー世界に現実味も何も無いけど、それでもこの世界に慣れつつあったのにここだけ別世界のようだ。
“久方ぶりの来訪者よ。汝、来訪の目的と誠意を見せよ”
突然の突風と共に訪れた人じゃ無いなにか。薄黄色に薄く光る一糸纏わぬ無性の体、光に溶けたような白く長い髪、白目と黒目が同化した薄紅の目、ガルさんよりも大きな背丈、脳に響く声。
ーー精霊だ。
見惚れている場合じゃ無い。ここからが正念場だ。嘘を吐かず、自分たちの無害を主張する。そしてララの町に住まうことを許してもらう。正直、確実に認めてもらえる保証なんて無い。失敗すれば、良くて追い出され悪くて殺される。
怖いけど、俺たちならきっと大丈夫。そう思って行くしかない。みつ兄に見せたいものだってまだたくさんあるんだ。
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