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春の大陸の最奥へ!
75.許さない、許せない
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目が覚めたのは朝日が出る前。薄暗い部屋でぼんやりとしか物が見えない。それでも隣で静かな寝息を立てて眠るみつ兄はハッキリと見えた。
参ったな、今から二度寝するほど眠くも無い。結構深く眠れたからか目覚めが良い。
あ、そうだ。ゲンさんと話したいことがあるんだ。昨日は冷静に話すような空気じゃなかったから言えなかったけど、一対一でちゃんと話しておきたい。
でもこの時間にゲンさん起きてるかな。
とりあえずそっとベッドから降りて部屋を出た。ちゃんと戸締りはしたし、ゲンさんがまだ寝てたり話せない状況だった時のために紙とペンも持った。
えっと、確か受け付けの人のところにいるんだっけ?だとしたら従業員の部屋とかかな。とりあえず行ってみて、夜とは言え誰かは居るだろうからどこに居るか聞いてみよう。
宿の受け付けは交代していて、ダウナーな感じの無精髭のオッサンが立っていた。オッサンは俺に気付くと、顔を顰めて受け付けカウンターから出て俺の方に来た。
「その黒い目、アンタがゲンの知り合いか?」
「え?そ、そうですけど…」
「ふーん…、ちょっと来い」
そう言って案内されたのは窓ガラスのあるカウンター裏の部屋。窓から受け付けが見えるようになっている。
部屋の中の木の丸椅子に、オッサンと対面になるようにテーブルを挟んで座った。部屋の中には雑誌が詰まった棚や小さな冷蔵庫、おそらく仮眠用のソファーなんかが置かれている。
「あー、先に自己紹介か。オレはデイン、昼間カウンターに立ってた女みてぇな野郎…リンデンとゲンの養父だ」
「養父?」
「つってもゲンは数年前に拾ったからオレは育てて無ぇがな。ってそれはいいんだよ。それよりリンデンに何があったのかは聞いてる。まぁ、なんだ、悪かったな」
初対面の俺に困ったような顔で謝ったデインさん。ゲンさんとは短い付き合いでも『身内のしたこと』として認識してるんだろうな。
それから受け付けの人の名前はリンデンさん。一応覚えておこ……う?そう言えば『女みてぇな野郎』って言ってたけど、やっぱり男だったかあの人…。
あぁ…既に頭がこんがらがりそうだ……。
「ところでお前、ゲンに会いに来たのか?」
「話したい事があって。ゲンさん起きてますか?」
「あぁ、起きてんだろ。だが会わせられねーよ。……イジワルじゃ無ぇぞ?アイツ、一番強い薬を飲みやがったから吐い……体調悪いんだ」
言い直した意味そこまで無いな。ゲンさん、そんなに悪いんだ。
やった事は許せなくても責める気が起きなくなる。こういう展開、結構困るな。ただ悪いだけの人なら同情することなんて無いのに。まぁ、そんなん俺の勝手だけどさ。
「それなら言伝をお願いします。『着いてくるのはいいけど、近寄らないで欲しい』と」
「そりゃあまた、伝え辛ぇ伝言だな。ま、襲われればそうもなるか」
襲われたのは俺じゃなくてみつ兄だけどな。
あ、もしかしてデインさん、黒い目しか特徴聞いてない?黒い目が二人いるって知らない?
「えっと、襲われたのは俺の血縁です」
「ん?そりゃあ悪かったな。リンデンからは『ゲンが発情期のせいで黒い目の男を襲いかけた』としか聞いてなくてな。ま、でも身内が傷つけられりゃー怒るわな。だが獣人はそんな危険性がどーしても付き纏う。どんな良いヤツでも本性はただのケダモノでしか無ぇもんだ」
どんな良いやつでも、獣人の本性はケダモノ…。身に覚えはあるけども、身近に一人いるから知ってるけども!
一瞬俯いてから顔を上げると目の前の光景にビックリした。デインさんの頭に熊の耳が生えていた。しかも半人半獣になった途端に無精髭消えたし…。そう言えば獣人キャラって大体髭無いな。姿変えると消える仕組みなんだ……
驚いてじっと見つめていると、また人の姿に戻った。やっぱり髭は無い。
「人間にゃあ理解できねぇだろうが、発情期は自我なんて弱すぎて使い物にならねーからな。許せとは言えねーが、大目に見てやってくれ」
「……まぁ、発情期は仕方ないですけど、それでも俺の最愛を泣かせた事は恨み続けていいですよね?」
発情期の経験がある人間なんて、違法な薬を使ったとすぐバレるだろうからそこは何も言わない。それと同じだろうか。デインも都合が悪かったのか俺の問いに答えなかった。
まぁ、恨むも許すも被害者が…みつ兄が決める事だ。俺はただ勝手に守るだけ。それでも俺は総じて『みつ兄を傷付けるやつ』が嫌いだ。画面越しでずっと見てきた主人公のこんな姿を見たくなかったし、こんなに嫌いになりたくなかったな。
言伝は頼めたから部屋に戻ろうとすると、ちょうどリンデンさんが来た。あれ?リンデンさんに細い角が生えてる。これって鹿?リンデンさんも獣人だったんだ。
「あら、貴方は…ゲンに殺意を向けてた坊やね。もう一人の彼の側にいなくて大丈夫なの?」
「兄は今寝てるので…」
「お兄さん?兄弟だったのね。……ちょっといいかしら」
リンデンさんは俺に一番近い椅子に座った。こうやって近くに来ると結構背が高いんだな。
「ゲンは…貴方たちに着いていけなくなったわ。薬の副作用で一週間は動けなくなりそうなの。かと言ってクーターの残党を野放しにも出来ない。だから勝手なのは分かってるけど、そのクーターの残党は宿に残して欲しいのよ」
「絶対に嫌です」
「ダメよ、これは規則なの」
メリストを置いていくなんて絶対ダメ!ゲンさんを旅に同行させるのはまだ許せるけど、仲間を引き離されるなんて絶対に嫌!だって、見張ってないとメリストは何をするか分からないし、魔法生物だって秘密は絶対に知られるわけにも行かない。
リンデンさんの言うことも分からないわけじゃ無いよ?でも、俺にとってメリストは大切な人なんだ。もしまたメリストが自暴自棄になったら、なんて考えたくも無い。
「お願いですから、俺たちにもう関わらないでください!」
「……ごめんなさい、それはダメなのよ」
「そんなの知りません!ゲンさんのしたことを悪いと思うなら、俺たちに干渉するな!」
大切な人が傷付くのは、俺が傷付くよりもっと痛い!
どんな理由があってもゲンさんのした事は許せない。それと同じでメリストもクーターに属してた事は許される事はない。分かってても、俺にとってはもう大切な仲間なんだ。
「状況が分かっていないようね。私が通報すれば貴方の仲間は討伐対象になるのよ?」
「それは脅しか?もし本当にそうするつもりなら、その前に俺がお前ら全員殺してやる…!」
嫌だ、嫌だ、何も奪うな…!
ストレスが過剰に重なったせいだろうか、そこからの記憶は無い。それどころか全てがぼやけて、何も分からなくなる。
この時、俺の身に何が起きていたのかは俺も知らない。
参ったな、今から二度寝するほど眠くも無い。結構深く眠れたからか目覚めが良い。
あ、そうだ。ゲンさんと話したいことがあるんだ。昨日は冷静に話すような空気じゃなかったから言えなかったけど、一対一でちゃんと話しておきたい。
でもこの時間にゲンさん起きてるかな。
とりあえずそっとベッドから降りて部屋を出た。ちゃんと戸締りはしたし、ゲンさんがまだ寝てたり話せない状況だった時のために紙とペンも持った。
えっと、確か受け付けの人のところにいるんだっけ?だとしたら従業員の部屋とかかな。とりあえず行ってみて、夜とは言え誰かは居るだろうからどこに居るか聞いてみよう。
宿の受け付けは交代していて、ダウナーな感じの無精髭のオッサンが立っていた。オッサンは俺に気付くと、顔を顰めて受け付けカウンターから出て俺の方に来た。
「その黒い目、アンタがゲンの知り合いか?」
「え?そ、そうですけど…」
「ふーん…、ちょっと来い」
そう言って案内されたのは窓ガラスのあるカウンター裏の部屋。窓から受け付けが見えるようになっている。
部屋の中の木の丸椅子に、オッサンと対面になるようにテーブルを挟んで座った。部屋の中には雑誌が詰まった棚や小さな冷蔵庫、おそらく仮眠用のソファーなんかが置かれている。
「あー、先に自己紹介か。オレはデイン、昼間カウンターに立ってた女みてぇな野郎…リンデンとゲンの養父だ」
「養父?」
「つってもゲンは数年前に拾ったからオレは育てて無ぇがな。ってそれはいいんだよ。それよりリンデンに何があったのかは聞いてる。まぁ、なんだ、悪かったな」
初対面の俺に困ったような顔で謝ったデインさん。ゲンさんとは短い付き合いでも『身内のしたこと』として認識してるんだろうな。
それから受け付けの人の名前はリンデンさん。一応覚えておこ……う?そう言えば『女みてぇな野郎』って言ってたけど、やっぱり男だったかあの人…。
あぁ…既に頭がこんがらがりそうだ……。
「ところでお前、ゲンに会いに来たのか?」
「話したい事があって。ゲンさん起きてますか?」
「あぁ、起きてんだろ。だが会わせられねーよ。……イジワルじゃ無ぇぞ?アイツ、一番強い薬を飲みやがったから吐い……体調悪いんだ」
言い直した意味そこまで無いな。ゲンさん、そんなに悪いんだ。
やった事は許せなくても責める気が起きなくなる。こういう展開、結構困るな。ただ悪いだけの人なら同情することなんて無いのに。まぁ、そんなん俺の勝手だけどさ。
「それなら言伝をお願いします。『着いてくるのはいいけど、近寄らないで欲しい』と」
「そりゃあまた、伝え辛ぇ伝言だな。ま、襲われればそうもなるか」
襲われたのは俺じゃなくてみつ兄だけどな。
あ、もしかしてデインさん、黒い目しか特徴聞いてない?黒い目が二人いるって知らない?
「えっと、襲われたのは俺の血縁です」
「ん?そりゃあ悪かったな。リンデンからは『ゲンが発情期のせいで黒い目の男を襲いかけた』としか聞いてなくてな。ま、でも身内が傷つけられりゃー怒るわな。だが獣人はそんな危険性がどーしても付き纏う。どんな良いヤツでも本性はただのケダモノでしか無ぇもんだ」
どんな良いやつでも、獣人の本性はケダモノ…。身に覚えはあるけども、身近に一人いるから知ってるけども!
一瞬俯いてから顔を上げると目の前の光景にビックリした。デインさんの頭に熊の耳が生えていた。しかも半人半獣になった途端に無精髭消えたし…。そう言えば獣人キャラって大体髭無いな。姿変えると消える仕組みなんだ……
驚いてじっと見つめていると、また人の姿に戻った。やっぱり髭は無い。
「人間にゃあ理解できねぇだろうが、発情期は自我なんて弱すぎて使い物にならねーからな。許せとは言えねーが、大目に見てやってくれ」
「……まぁ、発情期は仕方ないですけど、それでも俺の最愛を泣かせた事は恨み続けていいですよね?」
発情期の経験がある人間なんて、違法な薬を使ったとすぐバレるだろうからそこは何も言わない。それと同じだろうか。デインも都合が悪かったのか俺の問いに答えなかった。
まぁ、恨むも許すも被害者が…みつ兄が決める事だ。俺はただ勝手に守るだけ。それでも俺は総じて『みつ兄を傷付けるやつ』が嫌いだ。画面越しでずっと見てきた主人公のこんな姿を見たくなかったし、こんなに嫌いになりたくなかったな。
言伝は頼めたから部屋に戻ろうとすると、ちょうどリンデンさんが来た。あれ?リンデンさんに細い角が生えてる。これって鹿?リンデンさんも獣人だったんだ。
「あら、貴方は…ゲンに殺意を向けてた坊やね。もう一人の彼の側にいなくて大丈夫なの?」
「兄は今寝てるので…」
「お兄さん?兄弟だったのね。……ちょっといいかしら」
リンデンさんは俺に一番近い椅子に座った。こうやって近くに来ると結構背が高いんだな。
「ゲンは…貴方たちに着いていけなくなったわ。薬の副作用で一週間は動けなくなりそうなの。かと言ってクーターの残党を野放しにも出来ない。だから勝手なのは分かってるけど、そのクーターの残党は宿に残して欲しいのよ」
「絶対に嫌です」
「ダメよ、これは規則なの」
メリストを置いていくなんて絶対ダメ!ゲンさんを旅に同行させるのはまだ許せるけど、仲間を引き離されるなんて絶対に嫌!だって、見張ってないとメリストは何をするか分からないし、魔法生物だって秘密は絶対に知られるわけにも行かない。
リンデンさんの言うことも分からないわけじゃ無いよ?でも、俺にとってメリストは大切な人なんだ。もしまたメリストが自暴自棄になったら、なんて考えたくも無い。
「お願いですから、俺たちにもう関わらないでください!」
「……ごめんなさい、それはダメなのよ」
「そんなの知りません!ゲンさんのしたことを悪いと思うなら、俺たちに干渉するな!」
大切な人が傷付くのは、俺が傷付くよりもっと痛い!
どんな理由があってもゲンさんのした事は許せない。それと同じでメリストもクーターに属してた事は許される事はない。分かってても、俺にとってはもう大切な仲間なんだ。
「状況が分かっていないようね。私が通報すれば貴方の仲間は討伐対象になるのよ?」
「それは脅しか?もし本当にそうするつもりなら、その前に俺がお前ら全員殺してやる…!」
嫌だ、嫌だ、何も奪うな…!
ストレスが過剰に重なったせいだろうか、そこからの記憶は無い。それどころか全てがぼやけて、何も分からなくなる。
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