【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが

輝石玲

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春の大陸の最奥へ!

67.不平等な世の中(ガレアン)

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 俺たちがいた部屋に兄貴を連れて来た。話があるも嘘じゃ無いが、あの二人が妙な空気だったからなんとなく二人きりにした。まぁ、弟の方は言いたいこともあっただろうし……。

「で?話ってなんだ?」
「あぁ…あの二人の呪いのことで聞きたいことがあってな」
「なるほど、いや、その前にオレからいいか?」

 なんだ?やけに真剣な眼差しで俺の目を見て俺の両肩に手を置く兄貴。肩を掴む手の力が強く、爪が僅かに布越しで食い込むが痛みがあるほどじゃ無い。
 メリストは一度深呼吸をした。

「……お前、あいつに手ぇ出したのかよっ!?」
「………あ?」

 どんな真剣な話かと思ってみれば、は?

「何のために俺がコウセイと別室にしたと思ってんだよ!」
「知るか!」

 ギャーギャー喚く兄貴が言うには、『コウセイに手を出さない自信が無いからミツルと同室を選んだ』らしい。なのに俺が手を出したから怒ってるとか…心底どうでもいい。




 とりあえず喚く兄貴の腹に拳を一発入れて黙ら…落ち着かせた。

「痛ぇって!おい!暴力的だぞ!」
「お前が言うか。大体な…俺『が』誘われた側なんだよ」
「まじか…」

 分かりやすくショックを受けている兄貴。こいつ、まさかコウセイのこと……。だとしたら勝ち目が無いとこいつが一番分かってるだろうな。呪いが見えるのなら。

「話は戻すが、あの二人の呪いが見えるだろ?今どうなってるのか知りたい」
「はぁ?なんでまた……」
「前に他のヤツが見た時はかなり危険な状態だったんだ」

 メルト、あいつが見た時は共依存に陥っていた。片方崩れれば共倒れは確実だろうってくらいには。だが今は若干の距離を感じているようだ。ミツルに嫉妬してほしいと言ったコウセイの顔は、愉悦じゃなく不安と焦りだった。

「あいつらの呪いは異常だ。ただ、会ったばっかの時に見た独占欲みてぇなのは消えてもっと複雑化してやがるな」
「複雑化?これ以上か?」
「あぁ、なんつーか…互いのためなら本当に何でもやりかねないっつーか…全部肯定的になりつつあるっつーか……あんなのは見たことねぇから分かんねーよ。ただ共依存は確実だ」

 昔から無駄に饒舌な兄貴が言葉を迷っている。



 要約すると、共依存で危なっかしい状態ではあるが、独占欲は大して無く互いに肯定的。ただ、周りに見えるものが正常に見えない程度には二人の世界が出来上がっている。
 更には人に対するヒエラルキーが極端で、場合によっては他人を同じ種族どころか生物に見えなくなっていても不思議じゃ無い。

 ……なるほど、イカれてるな。だが思い当たる節が無いワケじゃない。
 俺ですら歩くことを躊躇する死体の道を歩くミツル、兄のために自身を酷使する事が当たり前なコウセイ。今見えてるものが全てならいいが、それ以上がある可能性も否定出来ないのが現状だ。
 異世界とやらじゃ当たり前の愛情表現なのか?愛する人のためなら汚れることも厭わずに盲目的になるのは。

「オレが入る隙なんてねぇな………」
「……兄貴、コウセイに惚れてるな?」
「なっ……!い、いや、隠しても無かったけどよ…あいつらには言うなよ。オレに好かれたところで迷惑だろうし、これ以上睨まれるのもごめんだ」

 こいつ、ここまで自己肯定感が低かったか?まぁ否定も出来ないが。
 コウセイなら兄貴に告られれば振るだろうが後味が悪くなるだろう。体だけの関係すら出来ないかもしれない。兄貴、分かりやすくあいつに欲情してるからな。一夜だけでも、なんて思っていそうではある。
 ミツルは…既に睨んでるって事だろうな。まだ信用してないだけかも知れないが、既に兄貴の気持ちを知っていて危険視してる可能性だってある。

「なーんでオレの望みってことごとく叶わねぇんだよ……」
「知るか」

 運が悪いだけじゃねぇか?俺は兄貴の過去に同情はするが、俺にした事を許したわけじゃない。慰める気も無い。
 ……が、こいつの大人しく諦める態度は気に食わない。散々非道なことをしておきながら急にしおらしいのは違和感しかない。分かってる、こいつ自身も呪われて自由が効かなかったのは聞いている。だが、変に掻き乱されてどう思えばいいのか分からない。

「なぁ…オレは生きてどう償えばいいんだ?死んだらダメなのか?人も罰も何も手に入らないなら、オレはこの世に存在しちゃダメだろうが…」
「…何も手に入らない?何を言ってるんだ?お前が今いるのはどこだ?」
「あ?船だろ?」

 そうじゃ無くてな…。こいつ、自分の恵まれてるとこに目が行かないのか?本当に何も無いんだったらここにもいないだろうが。

「んなこと聞いてんじゃねぇよ。お前、自分の居場所がありながら『何も無い』なんて言うのか?」
「居場所?オレの?」
「そうじゃ無かったらなんだ。なんでお前を対等な立場として旅に連れてってると思ってんだ」

 兄貴は俺の言葉にポカーンと口を開けた。

「対等…」

 そう小さく呟く兄貴。まさか対等だと思ってなかったのは兄貴の方か?しばらく首を傾げて何かを考えていたが、急にふらついて倒れるように椅子にドスンと座った。

「た、対等…?今オレ、お前らと『対等』なのか?」
「はぁ?じゃ無かったらなんだよ」
「オレが変なことしないように見張ってるとか、反省を行動で示さねぇといけねぇとか……」

 それも否定出来ないが、それが全てなわけ無いだろう。ただ罪を償わせたいだけなら自由なんて与えない。単独行動を許すわけ無いとなんで気付かない。

「お前が罪を償うこの場が、お前が生きていく居場所だろうが」
「そうか、そうなのか………」

 両手で顔を覆う兄貴はそのまま俯いて微動だにしなくなった。……涙の匂い、また泣いてんのか。でも、声を押し殺して泣くことが上手くなるくらいには一人で泣いてたのかもな。まぁ、気持ちは分からねぇでもないが。



 兄貴が泣き止むまで、一人で黙々と部屋の片付けをしたり尻尾の絡まりを取ったりした。
 向こうの二人も落ち着いただろうか。船が大陸に着く直前までは二人きりにしてやるか。
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