【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが

輝石玲

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春の大陸の最奥へ!

65.主人公ゲンが仲間(仮)に!?

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 ビックリするほど体が重い朝。目が覚めるとまだ五時になる前くらいだった。

「起きたか、水飲むか?」
「……飲む」

 あれ、若干喉が枯れてる。まぁ昨夜にあれだけ喘げば無理も無いか。
 水を飲みに行こうとベッドから降りた瞬間、脚に力が入らずに膝から崩れ落ちてしまった。嘘、立てない……?

「っおい!」
「が、ガルさん…立てない………」
「無理をさせ過ぎたか。はぁ…俺のせいだろうな。とりあえず船が着くまで休んでろ」

 ガルさんに横抱きで抱えられてベッドに戻してもらった。そして水をベッドまで持ってきてもらってゆっくりと飲んだ。思ったよりボロボロになったなー。

「兄貴に何か持ってないか聞いてくるから、大人しくまってろ」
「分かった、ごめん…」
「なんでお前が謝るんだよ」

 確かに、俺は乱暴された側だもんな。じゃあガルさんが悪いってことで。




 ベッドからガルさんが部屋を出るのを見送った数分後、ドアの向こうからなんだか騒がしい声が聞こえてきた。それも結構な人数?何があったんだろう。
 少し様子を見に行こうとしたらベッドから勢いよく落ちた。そうだった、立つのも難しいんだった。けど歩けないわけじゃないから、壁伝いで行ってみよう。



 ドアの前まで来ると、なにやら言い合っているんだろう声が聞こえた。けど何を言ってるかはあんまり聞き取れない。

 そっとドアを開けてみると、なんだか地獄絵図だった。
 ガルさんだけじゃ無くてみつ兄とメリストもいるけど、その目の前には…泣いてる女性とその支えになってる女性がいる。そして周りにはゲンを含めたたくさんの人たち。

「……え?何があったんだ?」
「コウセイ!大人しくしてろって言っただろ……」
「いやぁ、だって騒がしくって…」

「こ、この四人です!この人たちがこの子に乱暴をしたんです!」

 …………んぇ?どう言う状況?
 泣いてる女性の隣にいるポニーテールの女性は、俺たちを指差した。泣いてる女性に俺たちが乱暴を?どういうこと?

 えっと、状況を整理しよう!
 見に覚えのないことをしたと言われ、証言になる人がいて、周りの人たちは女性の言葉を信じていて、俺たちは捕まりそうになっている。
 つまりこれは…なんて言うんだっけ。あ、そうだ。『つつもたせ』ってやつ?いや、ただの詐欺か?

 話を聞こうと一歩踏み出したところでよたってしまった。が、なんとかみつ兄が支えてくれた。

「こう君、大丈夫?」
「ちょっと歩けないだけ。少し休めばなんとかなると思うよ」

 みつ兄はそのまま俺を抱きしめて女性の方を睨み付けた。

「バカな話だよね。僕がこう君以外を、それも女を抱くなんて絶対にあり得ないのにね」

 乱暴ってそう言う意味か。そりゃあ俺もガルさんも見覚えが無いのは当然だ。メリストも間違い無く冤罪だろうし…何が目的なんだろう、この人たち。

 状況が把握できずにいると、船の乗組員と思われるおじさんが俺たちに話し始めた。

「船で犯罪を犯した場合は即座に謹慎、次の港到着後すぐに警察に引き渡し賠償金を払う規則だからな!」

 ……あぁ、賠償金目当てか。性格悪いなぁ。



 やっぱりどの世界でも同じなのかな。性犯罪だと女性の方が信用されるのは。元の世界でも痴漢冤罪だなんだとあったけど、この世界は向こうより冤罪を証明出来ない。この世界の警察は言ってしまえば無能だ。
 でも、俺がこの立場になるとやけに怖いものだな。俺自身が言われない罪に問われることも、大切な人が貶められそうになるのも、腹が立つなぁ……

「……あの!こっちの言い分も少しは聞いたらどうです?」

 俺も少しは抵抗しないと、せっかくこれからは安全にみんなで過ごせると思ったんだから。これ以上台無しにされてたまるか。

「罪人の分際で言い訳か?」
「言い訳も何も事実ですよ。今その人、俺たち四人が乱暴をしたって言いましたよね?でも俺…女性に興味が無いんです」

 そう言って昨夜ガルさんに大量に付けられた歯型とキスマークを見せた。壁伝いで来る時に鏡台で見てビックリしたんだよなー…。まぁ、みつ兄に嫉妬して欲しいって言ったからガルさんが付けてくれたんだろうけど。

「ましてや、俺が襲う側なんて…ねぇ?ガルさん」
「お前…そういうのは人に自慢することじゃ無ぇだろ。まぁでも俺も、この距離で鼻が曲がりそうになる香水を着けるやつは絶対に無理だな」

 あぁ、なんか酸っぱい匂いがすると思ったら香水だったのか。体臭が酸っぱいのは俺もちょっと………。

「それを言うなら僕も、恋人がいる身ですし……」

 その恋人兼弟が今めっちゃ堂々と不貞を働いた宣言したのは置いといて、な……。チラリとみつ兄に目線を戻したけど、妬いてる様子も無いし…本当に心配要素しか無い。

「オレは過去の女を寝取られて孕まされてから女を性的に見れねぇし…」

 メリストの言葉にガルさんがダメージを負った。まぁ、その寝取られて孕まされた女の人がガルさんの母親だもんな。負い目に感じてるみたいだけど仕方ない。ガルさんは悪く無いんだけどな……

 まぁ、つまり俺たちは全員女性に興味が無い、と……。流石に口で言ったくらいじゃ信用はされないだろうけど…。


「……僕も、彼らは無実だと主張させてもらおう」


 ゲン……!?周りが騒ぐ中で一人大人しかったゲンが俺たちの味方をした。ずっと何かを観察してるようだったけど、何か分かったのか?

「ゲンさん!?何故です!被害者である女性の主張を無視すると言うのですか!?」
「君は何も見えていないようだね。それでよく船の犯罪を扱ってきたと堂々と言える」

 ゲンはこっちを向いてにこりと笑うと、そのまま女性の方に歩いた。これは…ゲームでの推理パート!?
 専門的な知識を持つメルトやミレと違ってゲンは記憶力と発想力がある。それを利用して事件を解決に導いたり敵の行方を追うイベントの時に見るポーズ、顎を触れるポーズをしている。

「数十分前に君が部屋に戻り、友人が襲われてるとこを見て通報すると叫んだ。すると彼らが通報を恐れて逃げた。だっけ?」
「えぇ、えぇそうよ!」
「それにしては…身だしなみを整える余裕があったようだね」

 ……確かに、被害者を名乗る彼女はフルメイクに香水まで着けている。実際に襲われた事があると分かるけど、襲われたらシャワーを浴びるか体を拭かないととても臭いしベトベトする。けど心にそんな余裕は無い。
 泣くほどショックだったなら、身だしなみを速やかに整える前に放心状態になるなり脱力したまま泣くなりあると思うんだけど…。

「そ、それは…!汚れた格好で人前に出させるなんて可哀想じゃない!だから私が整えてあげたのよ!相手の顔は覚えたし…船なんて閉鎖空間なら逃げられる事だって無いじゃない!」
「なるほど、頭の働かない人なら証拠を消してでも身だしなみを優先するのかい?それは知らなかったよ。なら、君たちの部屋を調べさせて頂こうか。汚れた衣服や部屋に入られた痕跡があるばずだ」

 あれ、ゲンってこんなに皮肉っぽいこと言うキャラだっけ?成長して闇みたいな怖いところが垣間見えるようになったんだけど…。
 そして焦り始めた女性。泣いてた方の人は涙も引っ込んでるよ。

「えぇと……」
「入られたらマズいのかい?冤罪を着せて賠償金を貰おうとした事がバレて、船の備品を盗んだこともバレるから…だろうか?」
「なっ、なんでそのことを……!あっ………」

 あっ………。口を滑らせてる……。

「……君たち、他の船でも同じように荒稼ぎをしているね?僕が把握しているだけでも三件、ここで四件目だ。過去の事件の全てが君たちと特徴が一致するからマークしていたんだ」

 その言葉を最後に彼女らは連行された。完全に俺たちとばっちりって言うか…俺たちが被害者と言うか……。



 ゲンが俺たちの方に来ると、四人の顔をじっと見てきた。

「君たち、確かに冤罪被りそうだよね」

 やかましいよ。悪人面って言いたいのか?
 ってツッコミたかったけど確かに犯罪者集団だもんな。みつ兄以外みんな罪を犯した事がある。それも軽犯罪どころじゃなく。俺は人を殺したし、ガルさんは子供を襲ってる。メリストに至っては…考えたくも無いけど存在がなぁ…魔法生物はなぁ……。

「よし、決めた。しばらく君たちに同行させてもらおう。僕の目的は今終わったし、君たちの目的地まで『君たちが危険では無い』証明のために監視させてもらうことにするよ」

 えっ、えぇ!?確かにとっても心強いけど、流石にこれ以上の人に俺とみつ兄の素性を知られるわけにはいかないし、メリストが魔法生物だってことも知られたらマズい。頭の回転が速いゲンが同行するのは嬉しいよりも不安が勝るんだよな…。何より目的地が…仕方ない、カノンの村が目的地って事にしておくか。
 拒否すれば怪しまれるから頷くしか無い。一時的にゲンが仲間になり、四人の旅は途中まで五人の旅になる事になった。
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