【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが

輝石玲

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春の大陸の最奥へ!

57.金の扱いが上手いメリスト

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 入院してから数日後、血液検査の結果ちゃんと薬が無くなったことが分かった。これで晴れて退院だ。治療費はみつ兄の労働力で、あとは宿泊費は全員分取られるらしい。流石は無情なミレさんと言うべきか。

 所持金が空っぽになったところでミレさんに別れを告げて病院を後にした。



「…で、金欠だけどどうやって春の大陸に行くんだ?」
「うーん…一人三千、計一万二千を稼ぐ方法……?」
「いや、旅をするならもっと必要じゃ……」

 若干キレ気味で財布を振るガルさんと、稼ぐ方法を頑張って考えるみつ兄。でも残念ながら船は『最低』三千で、さらに道中の食費と宿泊費も入るわけで……。ララの町は春の大陸の港から相当遠いし、歩きじゃなかなか着かないと思う。つまりは馬車代も入るかも。

「何言ってんだ?一日ありゃあ十万は稼げるだろ?」

 ちょっと待てメリスト、なんて?この世界の十万って、平民四人家族の一ヶ月の生活費くらいじゃ………。まさか、違法なやり口で稼ぐつもり?

「ガレアン、ガキたちは任せた」
「は?あ、おい待て兄貴!」

 メリストはガルさんに俺たちを押し付けるとすぐにどっかに行った。流石に逃げては無い…よな?え、本当にどこに何をしに行ったんだ?




 その答えは五時間後に分かった。

 少し日が落ち始めた頃に戻ってきたメリスト。結局俺たちはメリストを待つ以外の選択肢が無くて、リゾートのカフェのテラスで待っていた。

「ほい、とりあえず二十万」
「は!?」

 いや、言ってた倍額だけど!?なんかボロボロだけどどうした!?何をして来た!?それは安全なお金!?

「考えてる事が分かりやすいんだよテメェら。オレはもう足洗ったっつの」
「じゃあそれ、何してきたんだよ……」
「坑道でモンスター狩りしようとしたら採掘チームと鉢合わせて、護衛のバイトついでにモンスターの素材と汚れた魔石集めて売っぱらって来た」

 あぁ、そりゃあ合法にそれだけ稼げる訳だ!まず護衛のバイト代でしょ?それと、洞窟のモンスターはレベルが高いから高価な素材をドロップして、汚れた魔石は触ったら呪われるから超高級品。そりゃあ稼げるよ。

 ちなみに、汚れた魔石は魔法の水晶の原石だ。魔力を吸収する特性があるから魔力濃度が高い場所だと嫌な力を吸いやすい。だから本来は呪いを解いてから採らないとなんだけど…言うのもなんだがメリストは魔法生物だから呪いが効かない。むしろ魔力を回復できる。
 魔石採って自分で呪いを食べて綺麗にしてから売ったってことか。そりゃあ高額で売れるだろうな。

「余分に稼いでおいて損はねぇし、明日の船じゃ無くて明後日の船に乗って行こうぜ。もう一日稼げるうちに稼いでおきてぇし」

 あれぇ?もしかしてメリスト、相当デキるやつ?頼りになりすぎてちょっと怖いよ?




 とりあえず宿屋に泊まることになったから移動した。

 一応節約のために四人で二人部屋に泊まることになったけど、流石に大の男四人には狭いか?全員170超えどころかガルさんは190くらいあるらしいし。ちなみに身長は下からみつ兄(170ちょっと)俺(気付いたらみつ兄越してた)メリスト(180超え)ガルさん(四捨五入したら190)だ。そっち兄弟高すぎる。
 ベッドは二つしかないから添い寝確定だ。決め方は当たり前のように背の順。一番低いみつ兄と一番高いガルさんで一組、真ん中の俺とメリストで一組。メリストが嫌って訳じゃ無いけど、久しぶりにガルさんの尻尾をモフりたかった。みつ兄は…今はダメ。体温と匂いですぐに興奮するから絶対にダメ。

 それぞれ病院の時みたいにベッドに座って一息吐いた。

「ところでミツル、宿の予約の時に『ツクモ』って書いてたが、ありゃあなんだ?コウセイもオレにそう名乗ってたが……」
「あれは僕たちの苗字ですよ」
「ミョウジ?」

 あ、そう言えばゲームだと苗字じゃなくて家名って言ってたし、もしかして苗字じゃ伝わらない?

「えっと、家名みたいなやつの、平民が持つ家族の名前って言えば伝わる?」
「そんなのがあんのか?本当にお前らの故郷はオレの知らない場所みてぇだな」
「あ、そっか。ここだと平民に家の名前って無いんだ」

 みつ兄にこの事教えてなかったからビックリしてるみたいだ。本当にこのままだとみつ兄だけ世間知らずみたいになりそうだ。みつ兄にもちゃんとこの世界のこと、俺が知ってる事は教えないと………。

「じゃあお前らは、コウセイ・ツクモとミツル・ツクモなのか」
「うーん…文化の壁……。俺たちの故郷だと家名が先に来るんだよな……」
「マジかよ!?」

 そう、俺たちのフルネームは『九十九 光成』と『九十九 光流』だ。あまりにもこの世界とはかけ離れてる。でも、ここで苗字を名乗ることになるとは…。使わないと思ったからメリストに偽名として教えたんだけどな。ま、そのメリストが仲間になったし結果的に問題無いけど。

「ま、家名を偽名にすんのはオレも今日やったばっかだ」
「メリストの家名って…?」
「ソレット。メリスト・ソレットだ。ちなみに兄弟だがガレアンは家名を使えない」

 ちなみにが重すぎる。確かにガルさんの母親はメリストの婚約者で、結婚はしてないみたいだけど……。ガルさん、私生児ってことだもんな。本人が気にして無いなら俺が何か思うことでも無いけど……。

「ソレットは使いたく無いが一人だけ家名が無いのもなんか嫌だな」

 な、なんか寂しそう。ガルさんの尻尾がシュン⤵︎ってなってる。落ち込んでる大型犬にしか見えない……。

「もういっそ、みんなツクモでいいんじゃないかな………」

 そうすればみんなお揃いなのに。そう思って呟いたらメリストもガルさんも一瞬固まって慌て出した。

「バカっ、意味わかってんのか!?」
「家名は簡単に共有するようなものじゃないからな?」
「え?なんで?」

 二人とも焦って説明してきた。ようするに、家名は一族の当主とその配偶者と子供しか使えないらしい。分家は分家の家名があって、跡を継がない子供は成人すると家名を変えるとか。それだけこの世界で家名は特別なものらしい。
 つまり…家名の共有は入籍を意味するということ。そりゃあ二人とも全力で止めるわけだ。まぁ、そもそもこの世界に俺たちの戸籍無いけど。扱いは孤児だし。

「貴族の文化ってめんどくさい」
「僕、ずっと平民でいいです……」
「貴族はなぁんもいい事無ぇぞ。英才教育に仕事に政治結婚にご機嫌取りに…。金はあっても使う自由はぶっちゃけ無ぇ」

 説得力が凄いな、メリストが言うと。本当に二人の親父さんは何があったんだ、ってレベルでイカレてるみたいだし……。
 俺たちの父さん、いい人で本当に良かった。シングルで息子三人育ててたし、部活もゲームもさせてくれたし、忙しいのに面倒見良かったし、恵まれてたな……。親孝行する前に会えなくなったのが申し訳ないけどさ。




 とりあえず今日はもう休むことにした。

 みつ兄が俺以外の人と添い寝してるの、なんか嫌だけど俺も人のこと言えないし我慢しないと。

「なんだ、本命のミツルと寝れなくて不機嫌か?」
「違う。俺が最低で嫌なだけ」
「お前が?」

 静かな暗い部屋のベッドの中で、最小限の声でメリストと喋り出した。部屋は暗いのに俺が不機嫌なの見えるんだ。なんか自分だけ見られてるみたいで恥ずかしいな。

「みつ兄が俺じゃ無い人と寝てるのが嫌なのに、俺はメリストと寝るの嫌じゃ無いから」
「………お前さ、言い方ってモンがあんだろ」
「?」

 言い方、なんか悪かったかな。分かんないけどいいや。疲れてるし今日は寝よう。メリストは明日も金策するって言ってたし、睡眠の邪魔にならないように大人しく寝るか………。
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