【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが

輝石玲

文字の大きさ
上 下
53 / 95
まじか攫われた!?

53.こんなに好きなのはみつ兄だけだよ

しおりを挟む
 メリストに抱えられて地下牢から出て数十分くらい経ったかな。思ってたより森の中みたいで、徒歩だと町までちょっと掛かるらしい。メリスト、ずっと俺を抱えて歩いて疲れないかな。
 何度か「自分で歩けるから下ろして」って言ったけど、めちゃくちゃ睨まれて「ダメに決まってんだろ」と返されるだけだから諦めた。
 確かにメリストよりは小さいし、地下にいる間に筋力も落ちて体重も減ったと思うけど…それでも170近い俺をずっと抱えるのはしんどく無いか?


 ……なんて他人の心配をする余裕は正直無い。物理的にも精神的にも頭が痛いし、ちょっと気持ち悪い。頭を強打した痛みと急に記憶が押し寄せる感覚は目が回ってグラグラする。

「どうした?具合が悪けりゃあ眠ってていいぞ」
「いや、それは、流石、に………」

 ………だ、め…だ………………






 目が覚めたら知らない場所だった。
 体を起こして見えたのは、白い建物に青い装飾。所々に見覚えのある碇みたいなマーク。
 ここは港町の『アッサ』か。海に面した漁が盛んで貴族御用達の、この世界では珍しいリゾートビーチだ。でも、ここはなんの建物だろう。

「う、ん………」

 ベッドの端に腕を置いて眠るみつ兄。ずっとここに居てくれたのかな。でも床に座って机に突っ伏すような体制は逆に疲れそうだ。まったく、みつ兄ってば俺が見たら心配するような体制で寝て……。


 みつ兄をベッドに乗せようと被ってた毛布を捌けると、俺の体のあちこちにある包帯や湿布に気付いた。両手首と両足首の包帯と膝や肩の湿布。気になって触ってみると、やっぱり頭にも包帯を巻かれ顎にも湿布が貼られている。こんなに怪我してたっけ?
 いや、それよりもみつ兄をベッドに上げないと。

「よい…しょ」


 お、重い?見た感じみつ兄は太るどころかやつれてるし……俺が非力になっただけか。そんなに長く閉じ込められてたっけ?それとも薬の後遺症とか?なんとかベッドに上げられたけどそれだけで腕が疲れた。
 これは、鍛え直しかな……。一応怪我人だし、いつから運動していいかあとで聞いておこう。誰に聞けば分かるか知らないけど。


 とりあえず、これだけで疲れたからみつ兄の隣で寝るか。みつ兄の匂いと体温ですごく落ち着くけど……少し興奮する。体がボロボロだから何かするとかは無理だけど、今になってやっとみつ兄と再会できたと実感できた。
 やっと会えたと思ったら俺は薬で悲惨なことになってたし、そのあとはメリストを優先してたし……今になって少しずつ実感し始めた。
 でも、ちゃんと話したい。目を見て言葉を交わしたい。ハッキリと覚えてるわけじゃないけど、俺が何も分からず意識が朦朧としてた時、みつ兄の声がずっと聞こえていた気がする。幻聴かもしれないけど、それでも確かに『みつ兄の声』が救いだった。

「みつ兄、起きたらたくさん、声聞かせて…ね………」

 傷の熱に若干浮かされて、そのまま微睡んだ。





「んっ…………」

 あれ、ほとんど寝落ちてたと思うんだけど……。みつ兄の声で目が覚めたのかな。

「こうく…んっ……、はっ…、おき、っ……!おきてぇ……!」

 みつ兄?なんか苦しそうなみつ兄の声がする。起きないと…早く、目を覚まさないと……なのに、なんでか、このままでいたい。

 なんでか心地良くて気持ち良い…………

「んっ、んぅ………!」

 ………?みつ兄?




 …………っ!あ、そういうこと!?

 やけに気持ち良かったのは…俺、無意識にみつ兄にキスして舌を絡ませてたんだ!そりゃあみつ兄も窒息して嫌がる!

「ぷはっ………!はっ……こーくん、寝ながらなんて事するの………!」
「ご、ごめん……!」
「……謝ってもダメ。ここ、病院だからえっちなこと出来ないんだよ?ただでさえこう君は怪我人なんだから」

 本当に無意識とは言え何をやってるんだ俺は………。確かにここで盛ろうものなら医者のいい迷惑になりそうだ。しかもそれで傷が悪化しないとも限らない。


 ……って言うか、ここって病院だったんだ。アッサに病院なんてあったっけ?この十年の間に作られたのかな。

「みつ兄、町に来てから何があったんだ?」
「ガルさんがこの町に当てがあるって言ってこの病院に連れてきてもらったんだよ。ここの女医さん…ミレさんって人がガルさんと知り合いなんだって」

 ミレさん……って、かみつぐ主人公の一人!?確率バグヒーラーでお馴染みの毒舌クールビューティーじゃん!確かにゲームの終わりで自分の病院を持つって夢を語ってたけど…この町だったんだ!
 ミレはヒーラーでありながらデバフを高確率で敵に付与する裏方最強キャラだ。最大まで育成すると97パーセントの確率でデバフを着けるから育成に気合いが入るキャラだ。しかも金髪碧眼の美少女!


 でも、ガルさんよく頼めたな…。ミレは主人公四人の中で唯一自分を殺す判断をした人なのに…。
 昔から痛みに慣れてたミレは他人の痛みが分からない人だ。だから、操られていたとは言え人をたくさん殺して世界に傷を付けたガルさんを殺す事で贖わせるべきだと、他の三人を説得しようとしていた。

 序盤では全部が『善』と『悪』でしか判断できなかったミレ。ゲーム本編で少しずつ仲間を思う気持ちを知って行ったけど、それでもガルさんの頼みを聞くのは意外だ。
 別にミレがまだガルさんを殺すべきと考えてるわけじゃ無い。ただ、お互いに罪悪感を抱いてる描写のままゲームが終わったから………。

「…そっか。じゃあ俺が起きた事とお礼を伝えにミレさんのとこに行こうか」 
「あ、今はちょっと…ミレさんとガルさんとメリストさんが変な空気だから行かない方が……」

 ………うん、知ってた。そうだよな。
 ガルさんとメリストが結局和解したのかは定かじゃ無いけど、ミレから見れば殺そうとした相手と敵の残党だもんな。しかも冷静なミレさんなら二人がそっくりな事も気付くと思うし…。実際に本編でそっくりな双子キャラを見分けてたもんな。観察眼は本物だ。

「兄さんもガルさんにここで待つよう言われてたから、一緒に待ってよっか。その間に…メリストさんに捕まってる時に何があったのか教えてくれる?」


 ベッドで添い寝しながら、色々と噛み砕いてみつ兄に説明した。
 俺が攫われた時のことから、メリストの部下に薬を打たれた事、最初のメリストは本当に悪い人だと思ってた事、でも優しくされた事。それから内容までは言わないけどメリストの悲しい過去を知った事と、……自分からメリストを受け入れた事。

 怒られても嫌われても仕方のない事だって分かってた。俺のした事はみつ兄への裏切りのようなものだから。
 それでもみつ兄は俺をそっと抱きしめてくれた。怒りもしないで、その優しさが俺の良いところなんだと言ってくれた。
 いっそ、怒ってくれれば良かったのに。じゃないと同じことを繰り返しそうで、みつ兄以外にも受け入れて行きそうで、そうなったらみつ兄に嫌われるんじゃ無いかとずっと心配しそう。

「怒ったりしないよ。兄さんはね、こう君っていう素敵な人がいることを自慢したい。もっといろんな人にこう君のことを知ってもらいたい。……こう君が愛する一番になれたら嬉しいんだ」

 ……みつ兄のバカ。俺が他の人を受け入れて…他の人に体を許したって、こんなに好きなのはみつ兄だけなのに。でも、そんな事言っても帰ってくる言葉はなんとなく分かるし、仕方ないから飲み込んだ。

「何があっても、みつ兄が一番に決まってるでしょ」
「ほんと?ふふっ、ありがとう」

 ちょっともやもやが残ったまま、みつ兄と抱き合って眠った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!

弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。

あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。 だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。 よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。 弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。 そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。 どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。 俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。 そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。 ◎1話完結型になります

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

5人の幼馴染と俺

まいど
BL
目を覚ますと軟禁されていた。5人のヤンデレに囲われる平凡の話。一番病んでいるのは誰なのか。

処理中です...