【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが

輝石玲

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まじか攫われた!?

52.あり得ないことばっか(メリスト)

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 ガレアンの肩でしばらく泣き続け、なんとか涙は引っ込んだ。なんで泣いてたかはオレ自身ですら知らねぇが、こいつの前で泣いた情けなさと目の前にいるのがこいつで良かった安心が混ざる。まさか、ガレアンの方から肩を貸されるとは思ってなかったぜ。

「悪ぃな、もう大丈夫だ」

 雨と泥で重い服を脱いで外で絞った。ガレアンにも同じようにさせてから中に入ってタオルを渡そうと部屋に向かったが、血と死臭が酷いな。
 ランドリールームに入ると、血の足跡がここに入っていることに気付いた。ツクモか、ガレアンが連れてたあいつの兄か。タンスを開けてみるとタオルと服が減っていた。あいつ、服着てなかったもんな。


 とりあえずタオルとオレの服、それから部下の中で一番デカかったやつの服を引っ張り出した。

「ほらよ、サイズが合うかは分からねぇが無いよりはマシだろ。隣がシャワールームだから軽く流して着替えておけ」
「あぁ、助かる」

 ……なんか、変な感じだな。勝手に敵視して勝手に傷付けた弟と普通に話してる。



 いくつか並んだシャワーブースの一つに入り、雨で冷えたはずの頭を冷水のシャワーでもう一度冷やす。……本当に現実味が無い。頭を冷やしてこの個室から出たら全部幻覚だった、なんてオチじゃねぇといいけど。
 はぁ……、オレは何十年と死を望んでいたはずだ。なのに急に命が惜しくなったのか?長年の望みと覚悟が止められたからって諦められることでもない。

 きっと、あのガキのせいだ。ツクモ……偽名だろうが、あのガキがオレなんかのことで泣きやがったり心配そうにするから、こんな惨めに生き延びる羽目になってんだ。



 整髪料のベトベトをシャワーで落として泥も落としてシャワーブースから出た。ガレアンは先に出てるみたいだが……そこにいないのを見ると全部幻覚だったんじゃないかと思う。今までも自分の力が自分に掛かることも無くはなかった。
 ……そうだ、よりによってガレアンが…オレが一番傷つけた弟がオレの死を止めるワケが無い。オレに肩を貸すわけが無い。
 なんだ、やっぱ幻か。ガキのせいでまだ救いの手があるだなんて思っちまった。



 対して髪も拭かずに服だけ着てランドリールームに戻った。そこには撒き散らされた血を片付けるガレアンがいた。

「遅いぞ……って、どうした、幽霊でも見るような目ぇして」
「い、いや……なんでも、ねぇ………」

 本当に本物か?まだ幻を見てるんじゃないか?確認するためそっとガレアンの肩に手を置いた。一瞬驚いたのか怯えたのか、体が動いていたが確かに触れることができる。幻じゃ無い。

「あ、兄貴……?」

『兄貴』?ガレアンがオレをそんなふうに呼ぶはずが無い。ならモンスターかタチの悪い野郎が化けてんのか?

「テメェ、誰だ?」
「頭打ったかとうとう記憶が消えたか?」
「……かもな。じゃねぇと、今の状況の説明がつかねぇだろ」

 そういうと(多分)ガレアンは盛大な舌打ちを鳴らしてからオレの持ってたタオルをぶん取った。そのままそのタオルをオレの頭に掛けると、力いっぱいに擦り始めた。こ、これは、髪を拭いてくれているのか?余計に現実味が無ぇぞ!?

「もっと疑心暗鬼にしてやる」
「あぁ、こりゃあ本物だな……」

 信じさせるどころか余計に負担を増やそうとしやがる……。しかも力が強すぎて頭が痛い。なんだ、オレにハゲて欲しいのか?残念だがただの生き物よりは毛も肌も強いぞ。おかげでヒゲだって剃るのが大変だ。

 ……ンなこと今はどうでもいいんだよ。それより地下に戻らねぇと。ぶっちゃけ弟の方に合わせる顔もねぇし、兄の方も分かりやすくブチギレてたからな…。だが、無理にオレの記憶を消した後遺症があってもおかしくねぇし、呪いを解くことができるのは基本的に呪った術者だけだ。オレがなんとかするしかねぇ。





 覚悟を決めて、手がみっともなく震えたまま地下牢に行った。

 ベッドで眠る弟の方と、その側で布を絞る兄の方。漁った跡はこれか。水で布を冷やして額に乗せている。服も着せているし……あの死体の山と血溜まりの中で漁れたのか?ナニモンだよ、あの兄の方。

「あの、さっきから何か?」
「え、あ、…っとだな……」
「こう君が…弟が昏睡状態なのは貴方のせいですか?」

 昏睡状態、か。要はただ寝てるだけじゃないってことだよな。

「そう……だと思う。お前が許すならそいつを診させてくれ」
「それで、意識が戻るなら」

 ゆっくり近づいてガキの様子を見た。顔の打撲跡に濡らしたタオルが乗せられ、鼻の周りは血を拭った跡が残ってる。目は開いて瞬きもしてるが視点があってないし、呼吸も浅い。傷の原因は分からねぇけど、朦朧とした意識と浅い呼吸は記憶に傷がついたからだろう。呪いを解けばオレのことを思い出すだろう。が、このままじゃ衰弱死するだろうな。
 ……こいつの命と比べる価値も無い。さっさと元に戻さねぇと。

「巻き込まれないよう離れて耳を塞いでろ」

 兄の方はオレを睨みながらも何も言わずに従った。なんともまぁ聞き分けのいいことだ。これが表社会なら普通なのか?
 まぁいい、それよりこっちだ。顔色の悪いガキの頬を撫で、僅かに反応があることを確認してから耳元で解呪の言葉を囁いた。

「……思い出せ。せめて、お前が生きることだけでも思い出すんだ」

 ゆっくりと顔を離して覗き込んだ。……!今、気のせいか?確かにオレと目が合った気が……

「……めり、す、と………?生きて、あえ、た…の、か……?」

 そう言って確かにオレを見て力無く笑うガキ。バカだろ、今死に掛けてたのはテメェなんだぞ……?



 ………って待てよ、目覚めてすぐオレが分かったのか?じゃあこいつ、オレのこと忘れてなかったのか!?じゃあなんで昏睡状態なんかに………。オレのことは忘れないで他のこと忘れてたのか?おかしいだろ……呪いそのものに抵抗する方がまだ理解できるが、ピンポイントで効かなく出来るわけがない。

「おいガキ、記憶は戻ったか?」
「……消そうとしたの、許さないからな。なんとかメリストのことは思い出せたけど……」
「それがおかしいんだっての。お前、それ以外ほとんど忘れてるような状態だったんだぞ?」

 そこまでしてオレのことばっか覚えられると、こんな状況だってのに勘違いして嬉しくなっちまいそうだ。このオレが、こうも簡単に、こんなガキに!ちょっと優しくされたくらいで………!



 …………最悪だ、色々とマズいだろ。だが今はそんな事考えてる場合じゃねぇ。オレがしたのはあくまで解呪であって回復じゃない。額の黒に近い紫のアザはかなり危険だ。兄の方が冷やしてなかったら熱をもってこの程度じゃ済まなかっただろうよ。それから、手足の錠の跡も…………


 すぐにガキを横抱きで抱えてドアの方に向かった。

「意識は戻ったがしっかりした治療が必要だ。ここらに傷を治せるような場所は無いが……とりあえず傷の洗浄をしたい」
「さっきまでの雨じゃあ川の水は使えないな」
「そうだ、ここら辺に緑のスライムっていませんか?」
「んな弱ぇのいるかよ」

 スライムの生息地は限定されてる。そうポンポン見つかるわけじゃない。だが、このままじゃガキに後遺症が残ってもおかしく無ぇ。あと、出来ることと言えば………

「メリスト、俺は大丈夫。頭がちょっと痛いくらいで見た目より何ともないから……」
「バカは口挟むな!仕方ねぇ…テメェの傷、半分貰うからな」
「え……?」

 オレにこの力があってよかった。触れた対象から最大半分の何かを奪う呪い。吸収系の呪いは普通なら道具にしか宿らねぇが…オレは魔法生物だから人間判定じゃない。道具判定でも便利なこの力が使えるならなんの問題も無ぇよ。
 ……って、オレが思っててもこいつは許さねぇのか。オレの額にアザができたと分かるなり泣きそうな顔しやがった。そこは感謝の一つでもして欲しいものだが、心配されるのも少しなら悪かねぇな。

 にしたって痛ぇな。このガキ、どこが見た目より何ともねぇだよ。



 とりあえず、見るから非力そうな兄の方のお守りをガレアンに任せて、オレがこのガキ……コウセイを治療できるとこまで運ぶことになった。歳の割に図体でけぇだけあって多少重てぇが何とかなるだろ。

 とにかく、急がねぇと………。
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