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まじか攫われた!?
49.みつ兄ごめん、俺は今は………
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少し冷たい空気を感じる。肌がピリつくような……この感じ知ってる。やと兄が本気で怒ってる時の空気だ。でも……やと兄は、火事でもう………。もしかして、遺体が見つかってないのはこの世界にいるから?
そこに、いるの………?
「貴方が弟にしたこと、僕は許しませんよ。今更反省なんて欲しくありませんし、然る罰を受けさせても怒りは収まらないでしょう」
違う、この声はみつ兄だ。いつもは可愛くてちょっと頼りない感じなのに、ものすごく真っ直ぐで冷たくて、俺ですら怖く感じる。でも…俺のために怒ってくれてるだろうみつ兄を、俺が止めないと。
「でも、怒りは収まらずとも罰は受けてもら………」
「…って、まって…みつ兄………!」
怒りを全面に出していたみつ兄は、すぐに俺の方を見て心配そうにした。そんなに心配しなくたって、ただちょっと疲れてただけなのに。
薬も切れたのか、発情して無くてもそんなに寒くない。少し肌寒いのは地下で毛布しか纏っていないからだろうな。服…ちゃんとした服に着替えたい………。
「みつ兄、俺は大丈夫。…ずっと、メリストに助けられてたんだ」
「え…?」
「みつ兄の呪いのおかげもあって、みつ兄がちゃんと初めてだったし……メリストがいなかったらもっと酷い目に遭ってた」
寒気も発情も無い、落ち着いた頭で考えてやっと分かった。メリストが俺の発情を抑えてくれてたんだ。確かに変な道具を使われたり媚薬を使われたりもした。けど…思えばあれらだって発情を抑えるためのものだ。
俺の発情が収まるのはいつも…最後まで射精した時だ。大体意識が途切れるまでされてたけど、何回も出せば発情は軽くなっていた。そして今は完全に薬は抜けてる。注射で入れられた薬も、体外に出せばいつかは切れてた。それでもメリストは追加で打たなかった。
もしかしたら、メリストは俺から薬を抜きたかったんじゃないか。そんな考えが浮かんだ。じゃなきゃ、入れられない俺にかまう理由が無い。
俺ばっかり気持ちよくされて、洗脳だってメリストに都合がいいものはされなかった。俺から触った時だって驚いてたし、最初から俺を性処理として使う気は無かったんじゃないかな。
急にメリストが俺に意味の分からない道具を使って拘束したのは…みつ兄とガルさんが、俺を助けに人が来たから、かもしれない。俺がちゃんと被害者に見えるように。
「みつ兄、ガルさん。メリストは俺を攫って薬を打ってきた人たちから俺を守ってくれただけなんだ。外に出れない以外はほとんど不自由しなかったし……」
「あの人が洗脳できる事はガルさんから聞いてる。こう君は被害者であの人は加害者、こう君が心配する価値も無い人なんだよ」
「でも……!」
みつ兄の言う事はもっともで、俺だってメリストは加害者だって思ってる。でも、心配する価値も無いなんて思わない。だって、今まで頼る人が居なかっただけの人なのに、理不尽な目に遭って全部失った人なのに、何も得られないなんてあり得たらいけないのに……!
「こう君、泣かないで。兄さんたちがいるから、もう大丈夫なんだよ」
そう言って俺を抱きしめたみつ兄。みつ兄の肩の向こうには、心すら失ったみたいなメリストがぼぅっと立っていた。
なんで…俺には愛してくれるみつ兄も助けてくれるガルさんも居るのに、なんでメリストだけずっと一人なんだ?確かにメリストのした事は許せないことだ。たくさんの人に、ガルさんにも危害を加えて世界を壊そうとした。
でも、メリストが救われたらダメな人だなんておかしい……!
「……みつ、兄」
「うん?」
「ごめん、みつ兄……!」
初めて、みつ兄より赤の他人を優先した。初めて、俺を抱きしめるみつ兄を引き離した。ごめん、みつ兄の事は誰よりも好きだけど、俺はちゃんと本当のことが知りたい。俺は、メリストが何をしたいのか知らない…!
毛布一枚を被っただけのままみつ兄から離れ、長い鎖を引きずってメリストの目の前に立った。ガルさんが俺を止めようとしたけど、一瞬動きが止まって、結局止めるのをやめた。ガルさんは何か知ってるのかな。メリストをそこまで敵対視していないみたいに見える。
勢いに任せてメリストの目の前まで来たけど、なんて言えば届くだろう。どうやって本当のことを聞き出せばいい?
「……手を出せ」
「え?わ、分かった……」
メリストに突然言われた通り手を出すと、俺に手を被せて何かを渡してきた。これは…鍵?もしかして、俺の手足に繋がれた鎖を外す鍵?試しに両手首の枷に使ってみたら、どっちもこの鍵で外すことが出来た。
このまま足首の鎖も取ろうとした時、メリストに思いっきり腕を引っ張られて頭を押さえつけられ、突然耳元で話し始めた。
「お前の名前も知らねぇけど、話を聞いてくれて、オレの事で泣いてくれて、オレを受け入れてくれてありがとう。結構嬉しかったぜ」
「メリスト…?」
「最期に会えたのがお前で良かった。これからは、オレの事なんぞ忘れてお前は愛されて生きろ」
最期?忘れて?メリスト、何を………
あれ……?メリストって、誰………?
頭が痛い、何も分からない。ここはどこで、俺は何をしてた?目の前にいる赤髪の男は誰だ?俺が手に持ってる物はなんだ?分からない、けど、行かないと……。でも、どこに?
何をすればいいかすら分からないまま、ただ赤色を目で追っていた。
あ……、ダメ、見えなくなる。見失う。失って……?い、いやだ、分からないけどヤダ。行かないで、いかないで、ひとりで………
無意識に歩き出した足は鎖で引っ張られて、盛大に顔から転んだ。い、痛い………。
転んだ俺を心配したガルさんが俺に手を差し伸べて体を起こそうとしてくれた。ガルさん…誰かに似てる?
そ、うだ。俺のバカ!早く追いかけて止めないと!
「ガルさんお願い、『あの人』を止めて!『あの人』は……死ぬ気なんだ!」
名前が思い出せない。なんでこんなに必死になってるかも分からない。でも、『助けたい』気持ちは分かる。ガルさん、お願い………!
ガルさんがお願いを聞いてくれて『あの人』を追いかけに行った後、転んだ時に打った頭の痛みがジワジワと大きくなり始めた。血は…出てない。けど、あざになってそう。少し腫れてるみたいで、触れるのも痛い。
痛みのせいか頭がグラグラして何も考えられそうに無い。そのまま俺は、意識は残ったまま倒れて動けなくなった。
そこに、いるの………?
「貴方が弟にしたこと、僕は許しませんよ。今更反省なんて欲しくありませんし、然る罰を受けさせても怒りは収まらないでしょう」
違う、この声はみつ兄だ。いつもは可愛くてちょっと頼りない感じなのに、ものすごく真っ直ぐで冷たくて、俺ですら怖く感じる。でも…俺のために怒ってくれてるだろうみつ兄を、俺が止めないと。
「でも、怒りは収まらずとも罰は受けてもら………」
「…って、まって…みつ兄………!」
怒りを全面に出していたみつ兄は、すぐに俺の方を見て心配そうにした。そんなに心配しなくたって、ただちょっと疲れてただけなのに。
薬も切れたのか、発情して無くてもそんなに寒くない。少し肌寒いのは地下で毛布しか纏っていないからだろうな。服…ちゃんとした服に着替えたい………。
「みつ兄、俺は大丈夫。…ずっと、メリストに助けられてたんだ」
「え…?」
「みつ兄の呪いのおかげもあって、みつ兄がちゃんと初めてだったし……メリストがいなかったらもっと酷い目に遭ってた」
寒気も発情も無い、落ち着いた頭で考えてやっと分かった。メリストが俺の発情を抑えてくれてたんだ。確かに変な道具を使われたり媚薬を使われたりもした。けど…思えばあれらだって発情を抑えるためのものだ。
俺の発情が収まるのはいつも…最後まで射精した時だ。大体意識が途切れるまでされてたけど、何回も出せば発情は軽くなっていた。そして今は完全に薬は抜けてる。注射で入れられた薬も、体外に出せばいつかは切れてた。それでもメリストは追加で打たなかった。
もしかしたら、メリストは俺から薬を抜きたかったんじゃないか。そんな考えが浮かんだ。じゃなきゃ、入れられない俺にかまう理由が無い。
俺ばっかり気持ちよくされて、洗脳だってメリストに都合がいいものはされなかった。俺から触った時だって驚いてたし、最初から俺を性処理として使う気は無かったんじゃないかな。
急にメリストが俺に意味の分からない道具を使って拘束したのは…みつ兄とガルさんが、俺を助けに人が来たから、かもしれない。俺がちゃんと被害者に見えるように。
「みつ兄、ガルさん。メリストは俺を攫って薬を打ってきた人たちから俺を守ってくれただけなんだ。外に出れない以外はほとんど不自由しなかったし……」
「あの人が洗脳できる事はガルさんから聞いてる。こう君は被害者であの人は加害者、こう君が心配する価値も無い人なんだよ」
「でも……!」
みつ兄の言う事はもっともで、俺だってメリストは加害者だって思ってる。でも、心配する価値も無いなんて思わない。だって、今まで頼る人が居なかっただけの人なのに、理不尽な目に遭って全部失った人なのに、何も得られないなんてあり得たらいけないのに……!
「こう君、泣かないで。兄さんたちがいるから、もう大丈夫なんだよ」
そう言って俺を抱きしめたみつ兄。みつ兄の肩の向こうには、心すら失ったみたいなメリストがぼぅっと立っていた。
なんで…俺には愛してくれるみつ兄も助けてくれるガルさんも居るのに、なんでメリストだけずっと一人なんだ?確かにメリストのした事は許せないことだ。たくさんの人に、ガルさんにも危害を加えて世界を壊そうとした。
でも、メリストが救われたらダメな人だなんておかしい……!
「……みつ、兄」
「うん?」
「ごめん、みつ兄……!」
初めて、みつ兄より赤の他人を優先した。初めて、俺を抱きしめるみつ兄を引き離した。ごめん、みつ兄の事は誰よりも好きだけど、俺はちゃんと本当のことが知りたい。俺は、メリストが何をしたいのか知らない…!
毛布一枚を被っただけのままみつ兄から離れ、長い鎖を引きずってメリストの目の前に立った。ガルさんが俺を止めようとしたけど、一瞬動きが止まって、結局止めるのをやめた。ガルさんは何か知ってるのかな。メリストをそこまで敵対視していないみたいに見える。
勢いに任せてメリストの目の前まで来たけど、なんて言えば届くだろう。どうやって本当のことを聞き出せばいい?
「……手を出せ」
「え?わ、分かった……」
メリストに突然言われた通り手を出すと、俺に手を被せて何かを渡してきた。これは…鍵?もしかして、俺の手足に繋がれた鎖を外す鍵?試しに両手首の枷に使ってみたら、どっちもこの鍵で外すことが出来た。
このまま足首の鎖も取ろうとした時、メリストに思いっきり腕を引っ張られて頭を押さえつけられ、突然耳元で話し始めた。
「お前の名前も知らねぇけど、話を聞いてくれて、オレの事で泣いてくれて、オレを受け入れてくれてありがとう。結構嬉しかったぜ」
「メリスト…?」
「最期に会えたのがお前で良かった。これからは、オレの事なんぞ忘れてお前は愛されて生きろ」
最期?忘れて?メリスト、何を………
あれ……?メリストって、誰………?
頭が痛い、何も分からない。ここはどこで、俺は何をしてた?目の前にいる赤髪の男は誰だ?俺が手に持ってる物はなんだ?分からない、けど、行かないと……。でも、どこに?
何をすればいいかすら分からないまま、ただ赤色を目で追っていた。
あ……、ダメ、見えなくなる。見失う。失って……?い、いやだ、分からないけどヤダ。行かないで、いかないで、ひとりで………
無意識に歩き出した足は鎖で引っ張られて、盛大に顔から転んだ。い、痛い………。
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そ、うだ。俺のバカ!早く追いかけて止めないと!
「ガルさんお願い、『あの人』を止めて!『あの人』は……死ぬ気なんだ!」
名前が思い出せない。なんでこんなに必死になってるかも分からない。でも、『助けたい』気持ちは分かる。ガルさん、お願い………!
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