48 / 95
まじか攫われた!?
48.謎ばかりの兄(ガレアン)
しおりを挟む
やっとアジトを突き止め、ミツルと共に乗り込んだ。事前にミツルには護身用に小さなナイフを渡しておいた。小さすぎて身を守るには難しいが、首さえ狙えればこの大きさでも十分だ。ただ、出来る限り使わせないように俺が動く。
乗り込んだ時はその場にいる奴ら全員重傷を負わせるくらい考えていた。だが、どう言うわけか俺たちは客人として案内された。メリストの指示だと言っていたが、ロクなこと考えていないだろう。そう思いながらアジトを進んだ。
一体どこに案内されてるのかは分からない。ただ、建物の間取りを把握していない以上は敵だらけの場所を無闇矢鱈に動くわけにもいかない。……が、いくらなんでもこんな地下深くは怪しさしか無ぇだろ……!
地下に降りてすぐ、鉄格子の扉を通らされた。が、鉄格子の鍵くらいなら鍛えた獣人なら壊せる。ようは俺には意味が無いってことだ。
格子扉から入って少し進むと、狼には強い匂いを感じた。この匂いは…鉄臭ぇが血とは違う。ただの錆びた鉄か。だが強い匂いはそれじゃない。ここは地下牢獄だろうか。格子窓が付いた鉄製の扉が三つ程度並んでいる。
地下牢獄でも血よりあの匂いが強いのか。なら、ここは人を捉えて拷問や殺しを行うと言うより……あいつが誰かを洗脳するための場所か?
充満した甘い性の匂い。それから…あまりにも不快な薬の匂い。トラウマは克服したと思ったが、あまりにも酷いこの匂いが発情期の誘発剤だってすぐ分かるのは忘れられてねぇ証拠だ。
この薬を使うのは…あいつか。だが、この性の匂いは…………
「ガルさん?顔を顰めてどうしたんですか?」
「……確信が無ぇから今は言わない。何も聞くな」
……言えるかよ。『お前の弟が洗脳されてる可能性が高い』なんて。
コウセイの匂いが強い。間違い無くこの地下に居るだろう。だが、この『甘い』性の匂いがコウセイのものだとしたら……合意の上で性行為したことになる。無理矢理であれば不快な匂いになるはずだ。
「ボスは一番奥の部屋だ。鍵は開いている」
ここまで案内してきた男は突き当たりすぐ右の部屋を指差した。何かあった時すぐ守れるようにミツルを俺のすぐ後ろに着いて来させて、警戒しながら近付いた。確かに匂いが強いし…かすかに声も聞こえる。
………ん?さっきまで確かに甘い匂いだったのに、ここら辺は少し違う。甘さが減って不快感がある。だが、ここに来るまで他の牢に人の気配は無かった。まさか、完全に洗脳されてる訳じゃ無い?
ドアを開けて真っ先に目に入った光景は最低なものだった。長い鎖で部屋に繋がれ、さらに椅子に拘束され、視覚と声を封じられながら性的な拷問を受けるコウセイ。耳を塞いでいないのは洗脳の時にあいつが声を使うからだろう。
牢に来た俺に気付いたあいつ…メリストは、俺の方を見るなりにやりと笑った。クソっ…身がすくむ……。でも、あれから俺だって強くなったんだ、今更メリストを恐ることなんて……!
「………よぉ、本当に来やがったんだな」
「メリスト…これ以上好きにはさせない」
謎の威圧感と謎の不快な匂い。十年前と何も変わらない。……変わらない?こいつ、四十は過ぎてるんだよな?なのに…十年前と変わらず二十代の見た目だ。
「……ん?なんだテメェ……」
「ど、退いてっ!」
メリストがミツルに気付くと同時に、ミツルは悲惨な姿で捕えられているコウセイを見つけた。俺たちを押し退けて真っ直ぐ走って駆けるミツル。ここには俺たちとメリストだけなら、ミツルに任せておけば大丈夫だろう。
「なぁ、ここを突き止めたっつーことはオレが居んのも知ってたろ?」
「分かった上で来てる。会いたくは無かったがな」
「……言いたい事は色々あるが、それより……お前のツレ、ナニモンだ?オレが介入出来ない呪いなんて初めて見たぞ」
呪術師のメリスト…だったか?やっぱりこいつも分かるのか。だが、ミツルに興味を持たれれば何をし出すか分からない。せめて注意を俺に逸らさないと。
「……あいつはお前が遊んだそこのガキの兄だ。まったく、命を懸けて弟を助けようなんざ…どっかの兄貴と違って健気ないいやつだろ?」
「はっ、怯えるしか脳の無かったテメェが一丁前に皮肉を覚えたか。……ところで、だ。オレと取り引きでもしねぇか?」
「取り引き…だと?」
とりあえず俺に注意を逸らすことは出来た、か……。だが、こいつは俺となんの取り引きをしようとしてるんだ?……あぁ、いや、なんと無く分かった。俺に異様な執着と理不尽な恨みを持つこいつのことだ。あいつを利用して俺をどうこうしようとしてるんだろう。
「はぁ……、聞くだけ聞こう」
「なぁに、簡単な事だ。ここにいるオレの部下を皆殺しにしろ。そうすれば、あのガキもガキの兄も無傷で返してやんよ」
「は……?」
そんなことに、一体何の理由が?何の意図があって俺に部下を殺させる?俺を危機に貶めたいだけ…じゃないよな。何か理由があるはずだ。ロクでも無い理由が。だが、ここで断れば今無防備な二人に危害が及ぶだろう。
「……分かった。そうすれば二人は無事に解放されるんだな?」
「あぁ。なんだったら呪い使って契約するか?」
「そうしよう」
メリストは本当に呪いの契約を交わした。これで契約を違えば呪いが命を蝕む。とりあえず二人の命は保証されたわけだが…メリスト以外が手を出さないとも限らない。さっさと言われた通り皆殺しにしねぇとな。
さっきから聞こえてくるコウセイの気が狂ったような嬌声。昔の俺も同じようなことが起きたから何が起こってるか分かる。ミツルは俺たちを睨みつけているが、コウセイを助ける…抱くために出て行けと言うことだろう。
「場所を変えるぞ」
「へーへー、じゃあ着いてこい。あぁ、心配せずともここには誰も近付けさせねぇよ」
メリストは牢獄から出ると、格子扉に呪いを仕掛けた。鍵があっても開けることが出来なくなる呪い。解けるのは術者か、術者の死のみだ。だが『無傷で返す』と契約した以上は永遠に閉じ込める事は無いだろう。
ともかく、これで第三者が二人に危害を加えることは無くなった。
地下へ続く階段がある小さくて殺風景な部屋。メリストはそこで待つから殺してこいと俺を部屋から摘み出した。仕方ない。あいつが不穏な動きを見せる前に終わらせるか。
殺しは得意だ。あいつに、メリストに嫌と言うほど殺し方を教わったから。多少の傷は付けど、重傷を負うようなヘマはしない。
……でも、何かおかしい。ここの奴らは弱すぎる。あいつの部下…なんだよな?あまりにも弱い。これじゃあモンスターだって倒せないんじゃ無いか?多勢に無勢だというのに、俺にかすり傷ひとつ付けられていない。やっぱり、何か裏があるのか?この程度あいつなら簡単に殺せるだろうに。
全て片付け終わって、メリストのいる部屋に戻った。ドアを開けようとすると、向こうから変な声が聞こえた。あいつが笑っている?ボロボロの木のドアの穴から中を覗くと、メリストは黒いモヤを放っていた。……いや、放つと言うよりは離れて解けるような……あれは、何かの呪いが解けてるのか?いや、俺の肉眼で見えるならそれは無いか。とにかく本人に聞けばいい。
ドアを開けて、あのモヤが何なのか聞こうとした。だが、メリストは……自分にナイフを向けている。まさか、自決する気か!?
「やめろっ!」
なんとか間一髪で止めることが出来た。一体こいつは何を考えているんだ?そのまま力尽くでナイフを取り上げると、メリストは驚いたような顔をした。
「なんで……止めるんだ」
「お前こそ何やってるんだ!」
こいつ…さっきと雰囲気が全然違う。無気力で目が死んでいる。メリストの部下を殺すことにどんな意味があったんだ?何が何だかさっぱりだ。
「何をも何も、部下に掛けられた呪いが解けたからさっさと死ぬんだよ」
「呪い?お前が呪われてたって言うのか?」
「クーターの頃から、あいつらにボスと呼ばれる度にオレは自由が効かなかったもんでな。オレは『ボス』であり続ける呪いを掛けられてた。まったく、人間ってのは恐ろしいなぁ?ことごとくオレから全部奪ってくんだからよぉ………」
こいつが、残虐なメリストが…泣いてんのか?涙こそ流しては無いものの、今にも泣き出しそうな顔な上に声まで震えてる。こいつが、本当に俺の知ってるメリストか……?
………俺がこいつの自決を止める確証は無かった。気を引くためとか同情を誘うためとか、そんなの関係無く死ぬ気だったのか。なら勝手に死なせておけばいい。……そう思ってるクセに、なんで俺はずっとこいつのナイフを握る手を止め続けてるんだ?
「なぁ、さっさと死なせてくれよ。なんだったらお前が昔の復讐にでも殺してくれたっていい」
「…ざけんなよ。なんで嫌いなテメェの望みを俺が叶えてやんないといけねぇんだよ。テメェが死にてぇなら、俺が死なせない」
「………」
そのままメリストはナイフを離した。すぐに俺が没収したが、メリストはそのまま喋ることも動くことも無くなった。
血の気の無いメリストの胸ぐらを掴んで地下へ連れて行った。
「おい、扉を開けろ」
「…………」
何も言わずに指示に従うメリスト。散々外道なことをしてきたクセに、急に人形みたいになると気持ち悪い。
二人のいる場所に向かうと、甘い匂いが漂いながらも物静かだった。……まぁ、何がとは言わないが終わったのだろう。薄い毛布を被り鎖に繋がれたまま眠るコウセイと、ベッドの端に座り弟の顔を覗き込むミツル。
ミツルはメリストに気付くと静かに睨んだ。
「メリストさん…でしたっけ?貴方、この子に……僕の弟に何をしたんです?」
ミツルの雰囲気がいつも以上に大人っぽいというか、冷たいというか……怒ってるんだろう。無理も無い、薬を使われて壊されているのだから。きっと、メリストにその身を汚されてしまっているだろう。一度壊れれば治すのは大変だ。ましてや『初』は二度と戻らないのだから。
冷たい眼差しを向けるミツルにメリストは何も言わず、何もしなかった。一体、こいつは何を考えてるんだ……?
乗り込んだ時はその場にいる奴ら全員重傷を負わせるくらい考えていた。だが、どう言うわけか俺たちは客人として案内された。メリストの指示だと言っていたが、ロクなこと考えていないだろう。そう思いながらアジトを進んだ。
一体どこに案内されてるのかは分からない。ただ、建物の間取りを把握していない以上は敵だらけの場所を無闇矢鱈に動くわけにもいかない。……が、いくらなんでもこんな地下深くは怪しさしか無ぇだろ……!
地下に降りてすぐ、鉄格子の扉を通らされた。が、鉄格子の鍵くらいなら鍛えた獣人なら壊せる。ようは俺には意味が無いってことだ。
格子扉から入って少し進むと、狼には強い匂いを感じた。この匂いは…鉄臭ぇが血とは違う。ただの錆びた鉄か。だが強い匂いはそれじゃない。ここは地下牢獄だろうか。格子窓が付いた鉄製の扉が三つ程度並んでいる。
地下牢獄でも血よりあの匂いが強いのか。なら、ここは人を捉えて拷問や殺しを行うと言うより……あいつが誰かを洗脳するための場所か?
充満した甘い性の匂い。それから…あまりにも不快な薬の匂い。トラウマは克服したと思ったが、あまりにも酷いこの匂いが発情期の誘発剤だってすぐ分かるのは忘れられてねぇ証拠だ。
この薬を使うのは…あいつか。だが、この性の匂いは…………
「ガルさん?顔を顰めてどうしたんですか?」
「……確信が無ぇから今は言わない。何も聞くな」
……言えるかよ。『お前の弟が洗脳されてる可能性が高い』なんて。
コウセイの匂いが強い。間違い無くこの地下に居るだろう。だが、この『甘い』性の匂いがコウセイのものだとしたら……合意の上で性行為したことになる。無理矢理であれば不快な匂いになるはずだ。
「ボスは一番奥の部屋だ。鍵は開いている」
ここまで案内してきた男は突き当たりすぐ右の部屋を指差した。何かあった時すぐ守れるようにミツルを俺のすぐ後ろに着いて来させて、警戒しながら近付いた。確かに匂いが強いし…かすかに声も聞こえる。
………ん?さっきまで確かに甘い匂いだったのに、ここら辺は少し違う。甘さが減って不快感がある。だが、ここに来るまで他の牢に人の気配は無かった。まさか、完全に洗脳されてる訳じゃ無い?
ドアを開けて真っ先に目に入った光景は最低なものだった。長い鎖で部屋に繋がれ、さらに椅子に拘束され、視覚と声を封じられながら性的な拷問を受けるコウセイ。耳を塞いでいないのは洗脳の時にあいつが声を使うからだろう。
牢に来た俺に気付いたあいつ…メリストは、俺の方を見るなりにやりと笑った。クソっ…身がすくむ……。でも、あれから俺だって強くなったんだ、今更メリストを恐ることなんて……!
「………よぉ、本当に来やがったんだな」
「メリスト…これ以上好きにはさせない」
謎の威圧感と謎の不快な匂い。十年前と何も変わらない。……変わらない?こいつ、四十は過ぎてるんだよな?なのに…十年前と変わらず二十代の見た目だ。
「……ん?なんだテメェ……」
「ど、退いてっ!」
メリストがミツルに気付くと同時に、ミツルは悲惨な姿で捕えられているコウセイを見つけた。俺たちを押し退けて真っ直ぐ走って駆けるミツル。ここには俺たちとメリストだけなら、ミツルに任せておけば大丈夫だろう。
「なぁ、ここを突き止めたっつーことはオレが居んのも知ってたろ?」
「分かった上で来てる。会いたくは無かったがな」
「……言いたい事は色々あるが、それより……お前のツレ、ナニモンだ?オレが介入出来ない呪いなんて初めて見たぞ」
呪術師のメリスト…だったか?やっぱりこいつも分かるのか。だが、ミツルに興味を持たれれば何をし出すか分からない。せめて注意を俺に逸らさないと。
「……あいつはお前が遊んだそこのガキの兄だ。まったく、命を懸けて弟を助けようなんざ…どっかの兄貴と違って健気ないいやつだろ?」
「はっ、怯えるしか脳の無かったテメェが一丁前に皮肉を覚えたか。……ところで、だ。オレと取り引きでもしねぇか?」
「取り引き…だと?」
とりあえず俺に注意を逸らすことは出来た、か……。だが、こいつは俺となんの取り引きをしようとしてるんだ?……あぁ、いや、なんと無く分かった。俺に異様な執着と理不尽な恨みを持つこいつのことだ。あいつを利用して俺をどうこうしようとしてるんだろう。
「はぁ……、聞くだけ聞こう」
「なぁに、簡単な事だ。ここにいるオレの部下を皆殺しにしろ。そうすれば、あのガキもガキの兄も無傷で返してやんよ」
「は……?」
そんなことに、一体何の理由が?何の意図があって俺に部下を殺させる?俺を危機に貶めたいだけ…じゃないよな。何か理由があるはずだ。ロクでも無い理由が。だが、ここで断れば今無防備な二人に危害が及ぶだろう。
「……分かった。そうすれば二人は無事に解放されるんだな?」
「あぁ。なんだったら呪い使って契約するか?」
「そうしよう」
メリストは本当に呪いの契約を交わした。これで契約を違えば呪いが命を蝕む。とりあえず二人の命は保証されたわけだが…メリスト以外が手を出さないとも限らない。さっさと言われた通り皆殺しにしねぇとな。
さっきから聞こえてくるコウセイの気が狂ったような嬌声。昔の俺も同じようなことが起きたから何が起こってるか分かる。ミツルは俺たちを睨みつけているが、コウセイを助ける…抱くために出て行けと言うことだろう。
「場所を変えるぞ」
「へーへー、じゃあ着いてこい。あぁ、心配せずともここには誰も近付けさせねぇよ」
メリストは牢獄から出ると、格子扉に呪いを仕掛けた。鍵があっても開けることが出来なくなる呪い。解けるのは術者か、術者の死のみだ。だが『無傷で返す』と契約した以上は永遠に閉じ込める事は無いだろう。
ともかく、これで第三者が二人に危害を加えることは無くなった。
地下へ続く階段がある小さくて殺風景な部屋。メリストはそこで待つから殺してこいと俺を部屋から摘み出した。仕方ない。あいつが不穏な動きを見せる前に終わらせるか。
殺しは得意だ。あいつに、メリストに嫌と言うほど殺し方を教わったから。多少の傷は付けど、重傷を負うようなヘマはしない。
……でも、何かおかしい。ここの奴らは弱すぎる。あいつの部下…なんだよな?あまりにも弱い。これじゃあモンスターだって倒せないんじゃ無いか?多勢に無勢だというのに、俺にかすり傷ひとつ付けられていない。やっぱり、何か裏があるのか?この程度あいつなら簡単に殺せるだろうに。
全て片付け終わって、メリストのいる部屋に戻った。ドアを開けようとすると、向こうから変な声が聞こえた。あいつが笑っている?ボロボロの木のドアの穴から中を覗くと、メリストは黒いモヤを放っていた。……いや、放つと言うよりは離れて解けるような……あれは、何かの呪いが解けてるのか?いや、俺の肉眼で見えるならそれは無いか。とにかく本人に聞けばいい。
ドアを開けて、あのモヤが何なのか聞こうとした。だが、メリストは……自分にナイフを向けている。まさか、自決する気か!?
「やめろっ!」
なんとか間一髪で止めることが出来た。一体こいつは何を考えているんだ?そのまま力尽くでナイフを取り上げると、メリストは驚いたような顔をした。
「なんで……止めるんだ」
「お前こそ何やってるんだ!」
こいつ…さっきと雰囲気が全然違う。無気力で目が死んでいる。メリストの部下を殺すことにどんな意味があったんだ?何が何だかさっぱりだ。
「何をも何も、部下に掛けられた呪いが解けたからさっさと死ぬんだよ」
「呪い?お前が呪われてたって言うのか?」
「クーターの頃から、あいつらにボスと呼ばれる度にオレは自由が効かなかったもんでな。オレは『ボス』であり続ける呪いを掛けられてた。まったく、人間ってのは恐ろしいなぁ?ことごとくオレから全部奪ってくんだからよぉ………」
こいつが、残虐なメリストが…泣いてんのか?涙こそ流しては無いものの、今にも泣き出しそうな顔な上に声まで震えてる。こいつが、本当に俺の知ってるメリストか……?
………俺がこいつの自決を止める確証は無かった。気を引くためとか同情を誘うためとか、そんなの関係無く死ぬ気だったのか。なら勝手に死なせておけばいい。……そう思ってるクセに、なんで俺はずっとこいつのナイフを握る手を止め続けてるんだ?
「なぁ、さっさと死なせてくれよ。なんだったらお前が昔の復讐にでも殺してくれたっていい」
「…ざけんなよ。なんで嫌いなテメェの望みを俺が叶えてやんないといけねぇんだよ。テメェが死にてぇなら、俺が死なせない」
「………」
そのままメリストはナイフを離した。すぐに俺が没収したが、メリストはそのまま喋ることも動くことも無くなった。
血の気の無いメリストの胸ぐらを掴んで地下へ連れて行った。
「おい、扉を開けろ」
「…………」
何も言わずに指示に従うメリスト。散々外道なことをしてきたクセに、急に人形みたいになると気持ち悪い。
二人のいる場所に向かうと、甘い匂いが漂いながらも物静かだった。……まぁ、何がとは言わないが終わったのだろう。薄い毛布を被り鎖に繋がれたまま眠るコウセイと、ベッドの端に座り弟の顔を覗き込むミツル。
ミツルはメリストに気付くと静かに睨んだ。
「メリストさん…でしたっけ?貴方、この子に……僕の弟に何をしたんです?」
ミツルの雰囲気がいつも以上に大人っぽいというか、冷たいというか……怒ってるんだろう。無理も無い、薬を使われて壊されているのだから。きっと、メリストにその身を汚されてしまっているだろう。一度壊れれば治すのは大変だ。ましてや『初』は二度と戻らないのだから。
冷たい眼差しを向けるミツルにメリストは何も言わず、何もしなかった。一体、こいつは何を考えてるんだ……?
18
お気に入りに追加
279
あなたにおすすめの小説


普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!

弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。
あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。
だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。
よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。
弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。
そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。
どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。
俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。
そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。
◎1話完結型になります



隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する
知世
BL
大輝は悩んでいた。
完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。
自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは?
自分は聖の邪魔なのでは?
ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。
幼なじみ離れをしよう、と。
一方で、聖もまた、悩んでいた。
彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。
自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。
心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。
大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。
だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。
それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。
小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました)
受けと攻め、交互に視点が変わります。
受けは現在、攻めは過去から現在の話です。
拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
宜しくお願い致します。

愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる