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まじか攫われた!?
43.加害者に寄り添う方法
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メリストが豹変して間も無く、俺の体も変化を始めた。寒気と恐怖に震えた体は、いつの間にか熱を持って痙攣していた。なんで、誘発剤飲んで無いのに………!
「……は、はは、ツクモ、お前……今ので興奮したのか?」
「え………?」
「誘発剤を使わないで発情期が来るのはな………興奮した時なんだよ。オレが試したから間違いねぇし、ガレアンも同じ条件だったぜ?」
ガルさん………。ガルさんもこの薬を使われたのか?メリスト、この男…本当に狂ってる………!
ガルさんは性的な事に慎重で、責任感が強い。もしかしてそれはメリストにされた事のせい?自身が無理強いをされて痛い目を見たから、自分はそうしないように?
「この………クズ野郎…………!」
「テメェに何が分かる!兄弟なのに起こるひでぇ格差も、オレが実父にも実母にも殺された事も!テメェもガレアンも一生分かるワケが無いだろう!?」
………やっと、実感した。この世界はゲームと同じだけどそれだけじゃ無いんだ。この世界は生きてる。悪役だ敵だと言っても、その過去はあまりにも個人差があって、全てを糾弾することは出来ない。
ゲーム内でも感じた事なのに、なんで今更実感するんだ…………
「メリスト、お前は…洗脳しないと愛されないって思ってるのか……?」
「ばぁーか…、洗脳したって誰もオレを愛しやしねぇだろ。みんな、オレの力が怖いだけだ。オレは二度死んで、人間じゃ無くなったからなぁ………」
そう言ったメリストの目は黒く…反転していた。反転目は魔法生物の、フィールドモンスターやボスモンスターの特徴だ。そんな、メリストは魔法生物………?
「バカはどっちだ、このバカ………!なんで、誰も、助けてくれなかったのか…………?」
「なんでって、そりゃあオレのセリフだ。なんで危険な存在を助ける奴がいんだよ。なんで…テメェが泣くんだよ」
そんなん知らない。俺だって泣きたくて泣いてるワケじゃ無いもん。ただ、メリストが泣いてるように見えて釣られただけだ。
確かに主人公たちが魔法生物を助けるシーンは無かった。魔法生物は例外なく悪として処理されていた。こんな、こんなのってあんまりだ。どうしてメリストが救われるストーリーは用意されて無いんだよ。
これ以上、何も聞けない。聞いたらメリストの苦しみで俺が押し潰されそうだ。俺はそこまで強く無い。でも、こいつを助ける力も無ければ愛する人だってもう居る。こいつに心はあげられない。
なら誰がメリストの心の拠り所になるんだ?トラウマを植え付けられたガルさん?でも、もうそこは俺が関与していい場所じゃ無い。
頭が、目の奥がやけに熱い。
「ぴーぴー泣くんじゃねぇよ、うざってぇ。テメェだって見て分かるほど、呪われるくらいに愛されてる癖によ。この呪いのせいでどう足掻いてもテメェだけは抱けねぇの」
呪術師だから呪いが見えるのかな。みつ兄が俺に掛けてくれた呪い。俺を縛る呪い。そっか、だからメリストは俺を無理矢理抱かなかったんだ。俺はみつ兄に守られてたんだ。
「………この呪い、誰が掛けたと思う?」
「あ?知るかよ…」
「俺と同じ血の、俺の兄だよ。………なぁ、メリストはガルさんを、弟をどうしたかったんだ?愛されたかった?愛したかった?憎かった?羨ましかった?」
ダメだ、俺、この人を放って置けない。だって、ガルさんの名前を出してから、『兄弟』のワードを出す度に、ずっと泣いてるように見えるから。
「………あいつの母親を、愛してたんだ。父親が黒魔術の贄としてオレを殺して、オレの婚約者に手を出して孕ますまでは。オレが魔法生物になって生き返る頃には既にガレアンは産まれてた。そしてすぐに父親を殺したら、今度は母親が一家心中しようとオレを斬り殺したんだ。そのままオレは生き残って母親を殺した。なのに…!ガレアンはオレの婚約者の命を削って、オレとの子に注がれるはずだった愛情を受けて育っていた!それがどれだけの苦痛だったか………!」
語りながらメリストは涙を滲ませていた。きっと俺は、メリストの一番深い傷を抉っている。
でも、傷が分からないと俺もどうしていいか分からない。もし俺なんかじゃどうにも出来ない傷なら、せめて一瞬でも楽になるようこの身を受け渡すしか無いだろう。
「……苦痛、のはず、だったんだ………」
「え…………?」
苦痛のはずだった?なんで過去形に………。
「結局はオレの方が最低に成り下がる。あいつに、オレの婚約者の……あいつの母親の面影を見ては、酷く興奮していた。彼女のカケラが手に入ったと、どこまでも堕ちてた。果てなく堕ちていたことに気付いた時には遅かったんだ………」
………メリストは、自分の性に振り回されている…?それでも自分を良しとしないで否定して、だから誰にも愛されないって思ってる…の、かも知れない。
分からない。規模が違いすぎる。元の世界でもぬくぬくしていた俺には理解出来ない。俺は、どうすればいい……?
メリストの話を聞いて、結局俺は泣くことしか出来なかった。聞いてるだけでも苦しいのに、あまりにも悲痛な声が心に刺さって痛いのに、当事者のメリストはもっと苦しかった。
「本当、お前は泣き虫だよな。オレより泣いてどうすんだよ」
「お前が泣かないからだろ……!誰も、いなかったのか?話を聞いて側に居るくらいも、誰も………」
「居るワケねぇだろ」
それを当然とする言葉すらナイフみたいに刺さる。薬の熱は欲じゃなくて涙になって溢れてるのかも知れない。苦しい、苦しい、体よりも心が苦しい……。
………………。
「メリスト」
「あ?」
「喉、渇いたけど動けない」
急に話を変えた俺に驚きながらも、メリストは水を汲んでくれた。俺は今は体が自由に動かないから、頼むしか無い。
「ほらよ」
「発情して自分じゃ起きれない」
「へーへー」
メリストは水を口にたっぷり含むと、口移しでゆっくりと飲ませてくれた。大きく二口目でコップは空になり、コップをテーブルに置くともう一度口移しで俺に飲ませてくれた。
俺はそのままメリストの首から背中に手を回した。
『動けない』なんて、嘘だよ。
「っおい、なんのつもりだ」
「ねぇ、もっと」
もっと、なんて言いながら手は離さない。強請ってるのが水じゃなくてキスだって気付いたメリストは、そのまま水を飲ませる時と同じように口付けた。
「盛って……んのか?」
「体、熱くなってんの分かるだろ……。俺、お前にされるの気持ちよくて好きだから、お前のしたいようにしてよ」
面倒だうざいだと口癖のように言うメリスト。でも、その面倒を自分から受け入れてまで俺の面倒を見てくれている。
ずっと……水だけじゃ無い、わざわざ自分で夕食を持ってきてくれた時も、寒くて凍えてる時に一緒に寝てくれようとしたのも。
凶暴で怖いのがメリストで、世話焼きで優しいのもメリストで、孤独で苦しんでるのもメリストだ。
俺にできるのはそのメリストを全部受け入れるくらい。愛せないし許せないけど、それくらいは俺でもできる事…だと思う。
「……は、はは、ツクモ、お前……今ので興奮したのか?」
「え………?」
「誘発剤を使わないで発情期が来るのはな………興奮した時なんだよ。オレが試したから間違いねぇし、ガレアンも同じ条件だったぜ?」
ガルさん………。ガルさんもこの薬を使われたのか?メリスト、この男…本当に狂ってる………!
ガルさんは性的な事に慎重で、責任感が強い。もしかしてそれはメリストにされた事のせい?自身が無理強いをされて痛い目を見たから、自分はそうしないように?
「この………クズ野郎…………!」
「テメェに何が分かる!兄弟なのに起こるひでぇ格差も、オレが実父にも実母にも殺された事も!テメェもガレアンも一生分かるワケが無いだろう!?」
………やっと、実感した。この世界はゲームと同じだけどそれだけじゃ無いんだ。この世界は生きてる。悪役だ敵だと言っても、その過去はあまりにも個人差があって、全てを糾弾することは出来ない。
ゲーム内でも感じた事なのに、なんで今更実感するんだ…………
「メリスト、お前は…洗脳しないと愛されないって思ってるのか……?」
「ばぁーか…、洗脳したって誰もオレを愛しやしねぇだろ。みんな、オレの力が怖いだけだ。オレは二度死んで、人間じゃ無くなったからなぁ………」
そう言ったメリストの目は黒く…反転していた。反転目は魔法生物の、フィールドモンスターやボスモンスターの特徴だ。そんな、メリストは魔法生物………?
「バカはどっちだ、このバカ………!なんで、誰も、助けてくれなかったのか…………?」
「なんでって、そりゃあオレのセリフだ。なんで危険な存在を助ける奴がいんだよ。なんで…テメェが泣くんだよ」
そんなん知らない。俺だって泣きたくて泣いてるワケじゃ無いもん。ただ、メリストが泣いてるように見えて釣られただけだ。
確かに主人公たちが魔法生物を助けるシーンは無かった。魔法生物は例外なく悪として処理されていた。こんな、こんなのってあんまりだ。どうしてメリストが救われるストーリーは用意されて無いんだよ。
これ以上、何も聞けない。聞いたらメリストの苦しみで俺が押し潰されそうだ。俺はそこまで強く無い。でも、こいつを助ける力も無ければ愛する人だってもう居る。こいつに心はあげられない。
なら誰がメリストの心の拠り所になるんだ?トラウマを植え付けられたガルさん?でも、もうそこは俺が関与していい場所じゃ無い。
頭が、目の奥がやけに熱い。
「ぴーぴー泣くんじゃねぇよ、うざってぇ。テメェだって見て分かるほど、呪われるくらいに愛されてる癖によ。この呪いのせいでどう足掻いてもテメェだけは抱けねぇの」
呪術師だから呪いが見えるのかな。みつ兄が俺に掛けてくれた呪い。俺を縛る呪い。そっか、だからメリストは俺を無理矢理抱かなかったんだ。俺はみつ兄に守られてたんだ。
「………この呪い、誰が掛けたと思う?」
「あ?知るかよ…」
「俺と同じ血の、俺の兄だよ。………なぁ、メリストはガルさんを、弟をどうしたかったんだ?愛されたかった?愛したかった?憎かった?羨ましかった?」
ダメだ、俺、この人を放って置けない。だって、ガルさんの名前を出してから、『兄弟』のワードを出す度に、ずっと泣いてるように見えるから。
「………あいつの母親を、愛してたんだ。父親が黒魔術の贄としてオレを殺して、オレの婚約者に手を出して孕ますまでは。オレが魔法生物になって生き返る頃には既にガレアンは産まれてた。そしてすぐに父親を殺したら、今度は母親が一家心中しようとオレを斬り殺したんだ。そのままオレは生き残って母親を殺した。なのに…!ガレアンはオレの婚約者の命を削って、オレとの子に注がれるはずだった愛情を受けて育っていた!それがどれだけの苦痛だったか………!」
語りながらメリストは涙を滲ませていた。きっと俺は、メリストの一番深い傷を抉っている。
でも、傷が分からないと俺もどうしていいか分からない。もし俺なんかじゃどうにも出来ない傷なら、せめて一瞬でも楽になるようこの身を受け渡すしか無いだろう。
「……苦痛、のはず、だったんだ………」
「え…………?」
苦痛のはずだった?なんで過去形に………。
「結局はオレの方が最低に成り下がる。あいつに、オレの婚約者の……あいつの母親の面影を見ては、酷く興奮していた。彼女のカケラが手に入ったと、どこまでも堕ちてた。果てなく堕ちていたことに気付いた時には遅かったんだ………」
………メリストは、自分の性に振り回されている…?それでも自分を良しとしないで否定して、だから誰にも愛されないって思ってる…の、かも知れない。
分からない。規模が違いすぎる。元の世界でもぬくぬくしていた俺には理解出来ない。俺は、どうすればいい……?
メリストの話を聞いて、結局俺は泣くことしか出来なかった。聞いてるだけでも苦しいのに、あまりにも悲痛な声が心に刺さって痛いのに、当事者のメリストはもっと苦しかった。
「本当、お前は泣き虫だよな。オレより泣いてどうすんだよ」
「お前が泣かないからだろ……!誰も、いなかったのか?話を聞いて側に居るくらいも、誰も………」
「居るワケねぇだろ」
それを当然とする言葉すらナイフみたいに刺さる。薬の熱は欲じゃなくて涙になって溢れてるのかも知れない。苦しい、苦しい、体よりも心が苦しい……。
………………。
「メリスト」
「あ?」
「喉、渇いたけど動けない」
急に話を変えた俺に驚きながらも、メリストは水を汲んでくれた。俺は今は体が自由に動かないから、頼むしか無い。
「ほらよ」
「発情して自分じゃ起きれない」
「へーへー」
メリストは水を口にたっぷり含むと、口移しでゆっくりと飲ませてくれた。大きく二口目でコップは空になり、コップをテーブルに置くともう一度口移しで俺に飲ませてくれた。
俺はそのままメリストの首から背中に手を回した。
『動けない』なんて、嘘だよ。
「っおい、なんのつもりだ」
「ねぇ、もっと」
もっと、なんて言いながら手は離さない。強請ってるのが水じゃなくてキスだって気付いたメリストは、そのまま水を飲ませる時と同じように口付けた。
「盛って……んのか?」
「体、熱くなってんの分かるだろ……。俺、お前にされるの気持ちよくて好きだから、お前のしたいようにしてよ」
面倒だうざいだと口癖のように言うメリスト。でも、その面倒を自分から受け入れてまで俺の面倒を見てくれている。
ずっと……水だけじゃ無い、わざわざ自分で夕食を持ってきてくれた時も、寒くて凍えてる時に一緒に寝てくれようとしたのも。
凶暴で怖いのがメリストで、世話焼きで優しいのもメリストで、孤独で苦しんでるのもメリストだ。
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